東方魂探録   作:アイレス

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幻想の外3

諏訪大社を参拝し、いよいよこの世界での影陽の生まれた町へ向かう

 

しかし時間は有限だ

諏訪を後にした後、すでに日は暮れ

夜が訪れる

 

二人は偶然取れた夜行列車に乗り次の目的地を目指す

 

夜の闇の中を列車は月明かりに照らされ進む

 

「しかし、こんな夜行列車が残っているとは思わなかったな」

 

「だいぶ古いようだし・・・でも、もう無くなるみたいよ」

 

「古き良き夜行列車も時間を重視する現代には不要か・・・そのうちこの列車も幻想となるのかね」

 

「・・・紫はスペルカードで使ってなかったかしら?」

 

「あれはもっと古いやつだ・・・まあ、私も使うが・・・爆発する列車とか」

 

「・・・もっと恐ろしいのが近くにいたわ・・・・」

 

少し、たわいのない会話が続く

あまりしゃべらない影陽が少し、よくしゃべっていることに永琳は疑問だったが

 

「影陽、少し寝る?」

 

夜も更けてくる

列車は止まらず動き続け、ガタゴトと静かになった二人だけの空間に響く

 

「いや、今日は起きて居たい・・・少し・・いや、不安なんだ・・・恥ずかしいことにな・・・」

 

「なぜ?」

 

「たぶん紫の作った起点は・・・山の方にある神社だろう・・・この世界ではないが・・・その道の途中で親が死んだ、そして、義妹もその神社の近くで消えた。私も・・・あの世界から消える時、その場所で私は・・・」

 

永琳はゆっくりと影陽を抱きしめた

影陽は涙を静かに流していた

そのまま、自分の出来事を話し続けていた

いつもひょうひょうとして、冷静な影陽

でも、心の奥に大きな闇を抱えていたのだろう

誰にも言わず

一人で抱え込んでいたのかもしれない

影陽は、そのまま、永琳のされるがままだった

 

 

 

ああ、自分はどうしてしまったのだろう?

とっくに、あの時の感情からは逃れられたと思っていたのに

この世界ではないのに、あの世界での出来事であるのに、あの場所へ向かう事

そのことを自分は恐れている

まだ、人間だったころの出来事のきっかけがあの場所が引き金だったせいだろうか?

それとも・・・家族をあそこで皆なくしたからか

ああ・・・永琳の前で情けない

涙が出てくる

話したくないことも、なぜか不思議とポロポロとこぼれ出てくる

なのに・・・

言葉が止まらないのだ

 

永琳が優しく抱きしめてくる

いつもなら、抱き返すか、押し返すかするところだろう

だが、何もできない

ただ、永琳のされるがまま抱きしめられていた

少し安心感が出てくる

そのまま、私はゆっくりと眠りに落ちていった

 

 

 

 

ふと目が覚めると、私は永琳に抱きしめられたまま横になっていた

あのまま、二人とも寝てしまったのだろう

それにしても・・・

なんだかスッキリした気分だ

 

放送が入る

もうすぐ乗り換えの駅だ

永琳を起こさねば・・・

振り返って影陽は永琳の顔を見つめてしまう

 

・・・永琳は・・・こんなにも美しかっただろう?

元々から美人だとは思っていたが・・・

なぜだろう・・・?

 

そんなことを思ってしまったが頭を振ってそんな考えを頭の奥へ追いやった

そして、永琳を起こす

 

「永琳、朝だ。起きろ」

 

その声は、いつも以上に、優しく愛情のこもった声だった

 

 

 

 

 

 

 

列車を乗り換え、影陽のいた町の最寄り駅から二人は歩いていた

駅から目的の神社まで、かなりの距離はあるが二人にとってそんなに遠いわけでもない距離だ

 

影陽は不思議な感覚を味わっていた

そこは、自分のいた町だ

時代的にはかなり未来の話だが

どこか懐かしい気分だ

 

そんな町を永琳と手をつないで歩いている

だからだろうか?

 

二人の間に会話はなく淡々と足を進める

やがて町から離れ、道は山を登る

そして、ある地点で影陽は立ち止まった

 

「影陽・・・?」

 

「ここだ、親が落ちて死んだのは・・・ここではないが・・な」

 

「・・・・・」

 

永琳は静かに手を合わせた

ここでなくとも、この世界でなくとも、影陽の親に感謝したかった

 

 

 

そこからしばらく歩いて目的の神社へたどり着く

 

「・・・なんだか・・・博麗神社に似ている?」

 

「かもな・・・もしかしたら・・・ここもモデルの一つにしているのかもしれないな」

 

お参りをすませ、そこを後にする

そして・・・残すは最後の、外の世界の博麗神社だ

もう、遠慮はいらない

ここに人の目はないのだ

二人は一気に博麗神社へ移動した

 

 

 

「お帰りなさい、兄さん、義姉さん。どうだったかしら?二人っきりの旅行は?」

 

紫が神社で待機していた

 

「いい旅だったよ」

 

「ええ、仲も深まったわ」

 

「それはよかったわ。みんな少し心配していたのよ。なんだか息はあっているのだけれどどこか違和感があるみたいな感じのことをみんな口にしていたから」

 

「そうか・・・」

 

みんなの気遣いだったのか

それは悪いことをした・・・

 

「さあ、帰りましょう。皆の待つ幻想郷へ」

 

スキマが開かれる

三人はゆっくりとスキマの中へ消えていった


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