東方魂探録   作:アイレス

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無名の墓

人里には墓地がある

墓石もあるそれなりに立派なものだ

 

そこには一つだけ不思議な墓がある

ある日突然現れた不思議な墓だ

その墓石には何も書かれていない

だが、

誰にも動かすことは出来ず

放置され、やがて身元の分からぬ者の墓となった

 

 

 

 

 

とある新月の晩

影陽は、永遠亭の外にいた

少し、寝付けず、夜中の散歩に出て居たのだ

 

誰もいない漆黒の竹林を影陽は歩く

 

寝付けない理由は何となくわかっている

 

命日だ

 

自分のではない今となっては遥か昔

実の両親の命日だ

義妹を救って死んでしまった両親の

 

あの日を境に私は変わってしまったのだろう

 

今となっても、そう思える

 

 

傭兵という職業に就き、人を殺し、金を得て、昨日までは仲間だった者を殺し

誰かの命令で人を殺す

そこに正義などない

そこで正義という言葉は幻想と知った

 

義妹さえ自分の前から姿を消し、帰国すると殺されかけて世界移動

初めて信頼できる者を、親友と永琳と会った

また、死にかけながら生き延び

己の魂の姉と会う

 

氷を操る友人ができた

義娘のような存在ができた

鬼と仲良くなった

輝夜という義娘ができた

永琳と再会し共に逃げた

竹林でてゐと会った

そのうちに妹紅も転がり込んでいつの間にか義娘に

鈴仙が来て、永遠亭が開かれた

義妹との再会

 

義妹もいて、嫁もいて、義娘達がいて、実の娘がいて

 

自分は、なんと幸せなのだろう

 

多くの人を殺し続けたのに

任務で幼い子さえも殺したのに

 

 

気が付くと、竹林を抜けていた

 

「・・・らしくもない」

 

引き返そうとして、香ばしい匂いが鼻を突いた

 

あたりを見渡すと、遠くに人里に近いところに屋台が出て居た

夜中に、人里の外で店を開けている時点で妖怪の店とわかったが、少し酔いたい気分の影陽だった

その屋台に足を向けた

 

「まだやっているかい?」

 

「いらっしゃいませ、まだやってま・・・・影陽さん!?」

 

「おや、ミスティアだったかな?君の店だたのか」

 

店をやっていたのは以前あった夜雀のミスティアだった

 

「どうしたんですか?こんな時間に」

 

「寝付けなくてな、いつもなら晩酌でもするんだが・・・そういう気分でもなくてな。散歩に来たら、たまたま店を見つけたんで来ただけだ」

 

「そうだったんですか」

 

「なにか、おすすめを頼むよ」

 

「えっと・・・ヤツメウナギでも?」

 

「そういえば、そんなことを言っていた気がするな、それで頼む」

 

「分かりました」

 

ミスティアは、なかなかの手さばきで、ヤツメウナギをさばいて串に刺し、焼き始める

 

「酒も何かあるかな?」

 

「今なら、雀酒がありますよ」

 

「ほう・・・それをもらおう」

 

「私にも同じものをもらえるかしら?」

 

突然、影陽の背後にスキマが開き紫が出てくる

 

「や・・八雲紫!?」

 

「なんか用か?紫」

 

「なんでも、でも、あの日は明日でしょう?少し・・・ね?」

 

「ミスティア、同じものを」

 

「は、はい!」

 

ミスティアは同じものをすぐに用意する

それなりに紫は恐れられているらしい

 

「ミスティア、これから話すことは他言無用だ」

 

「は・・はい・・・」

 

「そうね、私たちの核心に触れるからね」

 

「ひぃぃ・・・」

 

 

ミスティアには悪いことをしたが・・・

紫ではなく、メリーと話せたのは、いいことだ

その夜明けまえ、二人はミスティアに多額の金を払い出ていった

 

その日、人里の共同墓地

その端に、小さな、何も刻まれていない無名の墓が人知れず建てられた


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