スパイさんと拷問員さん。   作:ブリキの玩具

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第5話

「落ち着きました?」

 

マスーが私の顔を覗き込みながら尋ねる。

 

「うぅ…。恥ずかしいところを見せてしまって面目ない…。」

 

マスーは私の様子がもとに戻ったことを確認すると、「よしっ」と独り言を言う

 

「アリスさんの部屋に連れていきますね!」

 

「は?」

 

今コイツ、何を言ったんだ?私の部屋に連れて行く?

 

「ですから、アリスさんの部屋に連れて行くって…。」

 

「…私の部屋があるのか?」

 

マスーは私のその言葉を聞き、不思議そうな顔をする。

 

「そりゃもちろん。じゃなきゃアリスさん、どこで寝るんですか?」

 

私はそれを聞き、「ほ、捕虜らしく牢屋で…。」

それを聞くとマスーは驚き、声を上げる。

 

「ダメですよ、そんなの!ちゃんとベッドで寝ないと疲れ、とれませんよ?」

 

「…あ、ああ。そうか…。」

 

「そうです!」

 

そう言うとマスーは私の手を取り、ズンズンと廊下を歩いて行く。

 

「あ、手…。」

 

いきなり手を握られて私は少しドキッとした。それによって漏れた声はマスーには聞き取れなかったらしく、此方を振り返りもしなかった。

…ハッ!私は今何を!?なぜこんなやつにドキッとしなければいけないのだ!

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

マスーは暫く歩くと、人るの扉の前で立ち止まる。

 

「ここですね」

 

マスーは懐から鍵の束を出すと、その中から何本かを鍵穴に誘うと試みる。4、5本目にしてやっと正解が来たのか、鍵はすんなりと鍵穴に吸い込まれていき、カチャリと鍵が開いたことを証明する音がなった。

マスーは自分から部屋に入ると、「どうぞ。」と言って、私に部屋に入るように促す。

マスーは部屋の中の廊下…というのも変だが、これしか言いようがない。その廊下にいくつかある襖等を無視して、突き当たりにある襖をスッと開ける。

 

「どうですか?趣味にそぐわなかったらもう少し家具とか考えますけど…。」

 

部屋の中は私のイメージしていたものとはかけ離れた、和室のような内装だった。

床には畳、壁には押入れ、床の間、帝国内の旅館のように障子で区切られた先にある窓、そしてその窓からは、幾多の植物があるにも関わらず均衡が取れた美しい庭。どれをとっても私の故郷を思い出させるのには十分すぎる部屋だった。

家具は、座卓の前に座椅子が一つ。収納家具として、和箪笥、茶箪笥、水屋もあった。

 

「凄い…!」

 

私は思わず感嘆の声を漏らしていた。

 

「気に入ってもらえたようでよかったです。ここがあなた方の国ではなんていうかはわかりませんが、此方で言うならリビングです。」

 

マスーは私の横を通り過ぎ、「他も教えますね。」と言い、今来た廊下を戻る。

マスーは意外にもすぐ止まり、私の方へと振り向く。その左側には横に伸びた空間があった。

 

「ここが、キッチンですね。」

 

そこには、機能に長けたキッチンとIHコンロ等の最新型のものや、冷蔵庫や電子レンジ、炊飯器等、料理には欠かせないものが色々とあった。

 

「…こんなに揃えるものなのか。」

 

私はボソッと呟いた。

 

「?次、行きますよ」

 

私が何を言ったのかわからなかったのか、不思議そうにしながらも部屋の紹介を続けていくマスー。

 

「ここはトイレです。まあ、特に説明はないですね」

 

トイレは、まあ、トイレだった。取り立てて説明するようなこともない洋式のトイレに温座になっていてをシュレット付き。今までが凄すぎたので、ここは特に何も感じなかった。

 

「それでこの隣が洗面所と脱衣所です。」

 

「綺麗だな。」

 

洗面所は一人部屋のはずなのに意味もなく洗面台が2つ付いていた。やけに最新型の洗濯機と乾燥機が設置してあったのは言うまでもないだろう。

 

「それで、ここがお風呂です。」

 

マスーが曇りガラスが貼られている扉を開けながら言う。

風呂場はとても広かった。それはもう、声が出ないほどの大きさだった。

そして更に驚いたことがある。それはこの国に風呂があるということだ。あることにはあると聞いたことがあるが、あまり主流ではない上に重きを置かないと聞いていたからだ。

しかしここには立派な浴槽があった。見た感じ、檜を使っているらしい。また床も同じものが使われていた。

 

「あの、つかぬことを聞くが、床は腐ったりだとか、ぬめりが出たりしたらどうすればいいんだ?」

 

私が尋ねるとマスーはキョトンとした顔をするが、すぐに納得したかのように話を始める。

 

「ああ、それなら心配いらないですよ。この木材、防水加工も防カビ加工もされてるので、そういったことはないと思います。」

 

「あ、ああ。そうか。」

 

私は予想外の返答に戸惑いを隠せなかった。この国でこんなに風呂の技術が発達しているとは思わなかった。

 

「この国は風呂文化だったか?」

 

「いや、違いますよ。ただタツミさんが帝国の温泉?が好きみたいで、それでこの施設にも風呂の文化がかなりはいってきたんですよ。だから他ではあまり見ませんね。」

 

そうか、タツミ殿が…か。昔は我らが帝国とこの国も交流が深かったと言われているし、そのときに温泉のことを知ったのだろう。

 

「これでこの部屋のことは全て説明し終えましたよ。」

 

マスーが私を振り向きながら言う。

 

「何か不満なところとか疑問に感じたこととかありました?」

 

「不満などあるわけない。こんな素晴らしい部屋を用意していただけるなんて思ってもいなかった。ありがとう。」

 

私は素直にマスーに対して頭を下げる。

 

「い、いや、なんだか照れますね。ボクがこの部屋を作ったわけじゃないんですから、頭上げてください。」

 

私はその言葉を聞き、頭を上げる。

 

「じゃあ、これから此処があなたのお部屋です。よい生活を願っております。」

 

マスーは性格に似つかわしくなく、恭しくお辞儀をした。

私はその光景をみてクスリと笑みがこぼれた。




こんな感じで序盤は終わりですかね。
まあ、別に話が全く変わるというわけでもないんですが、仮に区切りを付けるなら此処かなって。

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