目が覚めると、私はベッドに寝かされていた。ふかふかの毛布に真っ白なシーツ、そして隣にお爺さん…。
「やっと目が覚めたかの。」
隣の爺さんは、妙に痩せ細っていて肌に鱗のようにシワができていた。もっとも特徴的なのは、鼻の下から2つの束となり左右に分かれた長い髭と、頭のてっぺんから地につきそうな程、後ろに細く伸びた髪の毛だろう。
警戒を強め、痛みを押し込み、無理に上半身を飛び上がらせた。
「ああ、そう無理に起きなさんな。体に障る。何かするなら、寝てるときにそこそこ拘束するじゃろ。」
まあ、確かにそうだ。爺さんの忠告通り、もう一度ベッドに横になった。毛布を掴もうと手を伸ばそうとしたが、先にお爺さんが毛布をかけてくれた。
「すまない。えーっと…」
「タツミじゃ。」
「すまない。タツミさん。」
「こういう時は、ありがとう、じゃ。」
「あ、ありがとう。タツミさん。」
「ふぉっふぉっふぉっ。いいんじゃよ。しかし、ウチの【ヘスネ】が悪い事をしたな。すまなかった。」
ヘスネ?誰だそいつ。
「おや、聞いとらんのか?」
なっ!?こいつまで!私の心を…!そんなに顔に出やすいのか。
「おぬし、ちょっと顔に出過ぎじゃのう…。本当にスパイかの…。それにしても、ヘスネは挨拶すらしとらんのか。」
タツミがブツブツと何かを言い終わると、突如天井を見上げた。
「ヘスネ!いるんじゃろ?ちゃんと挨拶くらいしなさい!」
タツミがそういうと、驚くことに本当に何者かが現れた!…部屋のドアを開けて。
「…どうも。」
部屋のドアを開けたのは、黒く細長い何かだった。タツミさんの話を流れを読み解くと、この黒く細長い何かがヘスネらしい。
「ヘスネ。アリスさんに謝りなさい。」
「…すみませんでした。」
「へ?なにがだ?」
「…あれ、気づいてない?」
「だから何が?」
「私、貴女、噛んだ。貴女、気絶。」
噛まれた…?そういえば、起きてから首の後ろが少し痒いな。無意識に首の後ろに手をやる。
「痛かった?ごめん。」
「いや、大丈夫だ、心配するな。私とてスパイだ。このくらいの痛み、大したことない。しかし、何故お前に噛まれると気絶するのだ?」
「私、歯の裏、一つ、毒針ある。」
「毒っ!?やはり殺そうと…!」
「あ…違う。そんなに強くない。凄く弱い。殺すなんて、怖いこと、できない。」
「あ、ああ。そうか。」
ヘスネとの会話中、一番気になることが起きた。
声が妙に高い…。身長からして子供ということはないだろうに、妙に高い声をしている。
もしや…。
「おい、ヘスネ!」
私が声をあげて近付くと、ヘスネはビクッと体を震わせた。
「え、なんでこっちにくる?やめ、怖い…。」
手で顔を防ぐヘスネを無視し、前に伸びた真っ黒な髪を上に上げた。
「…お前、女の子か。」
顔を見た瞬間、私は一瞬思考停止した。
顔が衝撃的だったのだ。いい意味で。
ヘスネの顔はどこをどうみても綺麗で、可愛らしかった。美しいわけではない、可愛かったのだ。身長などから考えられる年に合わない、純粋で綺麗な瞳。それが何よりも特徴的だった。
ヘスネの瞳には宝石のような輝きがあった。その黒い目は、まるでブラックオパールのようだった。少しでも気を抜くと、その美しさに吸い込まれてまともに動けなくなりそうな位だった。
「えとえと、ごめんなさい!」
「いや、別に謝る必要などない。…綺麗だ。」
あ、思わず口に出てしまった…。聞こえてないといいんだけど。
「わひゃあ!?」
聞こえてたみたいだ…。
「ホッホッ。仲がいいみたいじゃの。それより、他の者にも挨拶させんといかん。着いてきてくれるかの。アリス殿。」
「わかった。行こう。」
タツミが開けたドアから私も部屋を出た。
去り際にヘスネの様子を見たが、髪の上からでもわかるくらい、顔が真っ赤だった。
…かわいい。
ハッ!?私は今何を…?
タツミ=龍(タツ) ミは適当
ヘスネ=蛇+スネーク