スパイさんと拷問員さん。   作:ブリキの玩具

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2話

目が覚めると、私はベッドに寝かされていた。ふかふかの毛布に真っ白なシーツ、そして隣にお爺さん…。

 

「やっと目が覚めたかの。」

 

隣の爺さんは、妙に痩せ細っていて肌に鱗のようにシワができていた。もっとも特徴的なのは、鼻の下から2つの束となり左右に分かれた長い髭と、頭のてっぺんから地につきそうな程、後ろに細く伸びた髪の毛だろう。

警戒を強め、痛みを押し込み、無理に上半身を飛び上がらせた。

「ああ、そう無理に起きなさんな。体に障る。何かするなら、寝てるときにそこそこ拘束するじゃろ。」

 

まあ、確かにそうだ。爺さんの忠告通り、もう一度ベッドに横になった。毛布を掴もうと手を伸ばそうとしたが、先にお爺さんが毛布をかけてくれた。

 

「すまない。えーっと…」

「タツミじゃ。」

「すまない。タツミさん。」

「こういう時は、ありがとう、じゃ。」

「あ、ありがとう。タツミさん。」

「ふぉっふぉっふぉっ。いいんじゃよ。しかし、ウチの【ヘスネ】が悪い事をしたな。すまなかった。」

 

ヘスネ?誰だそいつ。

 

「おや、聞いとらんのか?」

 

なっ!?こいつまで!私の心を…!そんなに顔に出やすいのか。

 

「おぬし、ちょっと顔に出過ぎじゃのう…。本当にスパイかの…。それにしても、ヘスネは挨拶すらしとらんのか。」

 

タツミがブツブツと何かを言い終わると、突如天井を見上げた。

 

「ヘスネ!いるんじゃろ?ちゃんと挨拶くらいしなさい!」

 

タツミがそういうと、驚くことに本当に何者かが現れた!…部屋のドアを開けて。

 

「…どうも。」

 

部屋のドアを開けたのは、黒く細長い何かだった。タツミさんの話を流れを読み解くと、この黒く細長い何かがヘスネらしい。

 

「ヘスネ。アリスさんに謝りなさい。」

「…すみませんでした。」

「へ?なにがだ?」

「…あれ、気づいてない?」

「だから何が?」

「私、貴女、噛んだ。貴女、気絶。」

 

噛まれた…?そういえば、起きてから首の後ろが少し痒いな。無意識に首の後ろに手をやる。

 

「痛かった?ごめん。」

「いや、大丈夫だ、心配するな。私とてスパイだ。このくらいの痛み、大したことない。しかし、何故お前に噛まれると気絶するのだ?」

「私、歯の裏、一つ、毒針ある。」

「毒っ!?やはり殺そうと…!」

「あ…違う。そんなに強くない。凄く弱い。殺すなんて、怖いこと、できない。」

「あ、ああ。そうか。」

 

ヘスネとの会話中、一番気になることが起きた。

声が妙に高い…。身長からして子供ということはないだろうに、妙に高い声をしている。

もしや…。

 

「おい、ヘスネ!」

 

私が声をあげて近付くと、ヘスネはビクッと体を震わせた。

 

「え、なんでこっちにくる?やめ、怖い…。」

 

手で顔を防ぐヘスネを無視し、前に伸びた真っ黒な髪を上に上げた。

 

「…お前、女の子か。」

 

顔を見た瞬間、私は一瞬思考停止した。

顔が衝撃的だったのだ。いい意味で。

ヘスネの顔はどこをどうみても綺麗で、可愛らしかった。美しいわけではない、可愛かったのだ。身長などから考えられる年に合わない、純粋で綺麗な瞳。それが何よりも特徴的だった。

ヘスネの瞳には宝石のような輝きがあった。その黒い目は、まるでブラックオパールのようだった。少しでも気を抜くと、その美しさに吸い込まれてまともに動けなくなりそうな位だった。

 

「えとえと、ごめんなさい!」

「いや、別に謝る必要などない。…綺麗だ。」

 

あ、思わず口に出てしまった…。聞こえてないといいんだけど。

 

「わひゃあ!?」

 

聞こえてたみたいだ…。

 

「ホッホッ。仲がいいみたいじゃの。それより、他の者にも挨拶させんといかん。着いてきてくれるかの。アリス殿。」

 

「わかった。行こう。」

 

タツミが開けたドアから私も部屋を出た。

去り際にヘスネの様子を見たが、髪の上からでもわかるくらい、顔が真っ赤だった。

…かわいい。

 

ハッ!?私は今何を…?




タツミ=龍(タツ) ミは適当
ヘスネ=蛇+スネーク

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