オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

9 / 53
あとがきの一方その頃シリーズ拡大版が何と本編に!


小鬼一家の話

 

王都への街道を荷馬車が進む。

都市長が用意してくれた馬車はかなり立派なものだった。

本来は一頭引きだが今は無理やり三頭で引かせている。

そう、王国戦士団に借りた馬だ。エ・ランテルに置いておくわけにもいかずこうなることに。馬たちは窮屈そうだったがネムがお願いすると素直に従った。

 

「そういえば昨日はどこに行っていたんですか?」

ただ、馬車に揺られるだけでは暇なのだ。

むろん、聞いても素直に答えてくれるとは思えなかったが。

問いかけてみたのはダメ元だった。

「んー、端的に言えば家に戻っていた」

正直な所あまり戻りたくはなかったのだが緊急の知らせだった。

 

 

ジュゲムは『自由と不自由』を使い住処に戻ってきた。

薄暗い巨大な地下空間。今は消えているが昼間なら空中に浮いているマジックアイテムが太陽の代わりを担う。一段高い所にある巨大な城、城下町はシンメトリー。外縁には多様な作物が育つ畑に家畜の小屋まで存在する。

地下とは思えないほど広大な空間、そこに並ぶ白亜の町並みは圧巻であった。

ここはトブの大森林の地下深くにあるゴブリンの王国。建国から今まで王は唯一一人。

地上に住むゴブリンはほとんど王国の存在を知らない。知っているのは一握りの族長クラスのみである。

また、この地下王国に住まうゴブリンはほぼ半数が知能の高いホブゴブリンやハイゴブリンという上位種であり時々地上のゴブリンと取換子を行うことで地上ゴブリンのコントロールをしている。

 

見上げるような大きさの城門から入る。煌びやかな光あふれるそこにいたのはすべて上位種ゴブリン。彼らはジュゲムに気づくと臣下の礼を取る。

ジュゲムはそれらに手を上げて答えつつ奥へ。

そんな中臣下の礼を取ることなく近づいてくるゴブリンが3体。

ジュゲムは身構えた。だが、それ以上の反応もできないまま殴られた。

「この、糞親父! 毎回毎回言ってんだろ、置手紙じゃなくてちゃんと言えって!」

床に伸びているジュゲムに追撃のストンプ。

カエルがつぶれたような声が聞こえたが止まらない。

「しかも、その手紙すら隠しやがって! 相変わらず何考えてるのかわらん!」

踏む。これでもかと踏む。

「お兄様、そこらでお止めになってください」

ゴブリン基準ではかなりの美貌を持つ雌ゴブリンが割って入る。

「続きは私が」

止める気はないらしい。優雅にスカートをつまみあげつつ容赦なく踏む。

「姉上も兄上もずるいです。私ものけ者は癪ですので参加します」

3人目も混ざる。周辺のゴブリンが止めに入る様子もない。

生温かい目で見守っている。

「あのなぁ、我が子よ。いい加減にしないとそろそろ死ぬぞ?」

ジュゲムが威厳たっぷりな声で。

「主に俺が」

訂正。威厳なんてなかった。

 

「やれやれだ」

ジュゲムはお手製治癒のポーションを飲み干すと一息ついた。

場所は巨大な城の玉座。壇の下には先ほどの3体が膝をついている。

「おかえりなさいませ、父上」

「いつもの歓迎は無くていいんだが」

「何を仰いますかお父様。大切な家族のスキンシップではありませんか」

「過剰だろ」

「ならそうならない様にしていただきたいのですが?」

「わかった、俺が悪かった」

「よろしい」

いつものやり取りである。年々激しくなっている気がするが。

ジュゲムはため息とともに3人の子供達を見る。

長兄カイジャリ。母は気まぐれで抱いた側室の一人だったが成長した後その能力はジュゲムをはるかに上回ることが分かった。ギルド拠点の中枢と同じような機能を持つこの玉座でレベルを測ると85。前衛系のガチ構成でクラスを取得しており単純な戦闘力だけならジュゲムが束になってもかなわない。

長女コナー。王位継承権なるものがあるなら一位となるだろうか。一応本妻の娘である。

彼女自身は信仰系魔法詠唱者であり回復及び支援魔法を得意とする。レベルは60。ちなみに信仰する神は父親である。それでなぜ信仰系魔法が使えるのかはかなりの年月が経った今でも謎である。

次男ゴコウ。国王が国の運営を放棄しているため実質的に国を取り仕切っているのが彼となる。彼自身はレンジャー、アーチャー系、必要に迫られた内政系クラスを修めている。レベルは62。

次の子供が生まれたなら魔力系魔法詠唱者に育てようと企んでいたが今のところ4人目が生まれる気配はない。

「で、わざわざ『伝言』のスクロールまで使って呼び戻したということは面倒ごとなんだな?」

「はい。今朝森に武装集団が侵入したと報告を受け戦力の調査及び非戦闘民の避難誘導の為、兵を少数派遣しました」

こういう仕事はゴコウの領分だ。良くも悪くも脳筋気味のカイジャリには向かない。

判断力も悪くなく兵を率いる力もある。強いて言えば、教育方針が肉体的にどこまで強くなれるかだったため仕方がないのかもしれない。頭を使う事は二の次だった。

「結果、後詰の一人を残して全滅しました。敵勢力はおそらく法国の者なのですが定期的に行われております間引きにしては戦力過剰な気配がしました」

法国は増えすぎる亜人を間引くつもりで定期的に兵を派遣してくる。だが、ゴコウに言わせればそれすらも計算の内に人口を統制している。増え過ぎず力を持ちすぎず適度なバランスを保て。それが偉大なる父の命令であった。

だが、今回はどうもおかしい。偵察にはレンジャークラスを持ったゴブリンで構成された部隊が行う。森での隠密行動においてはそれなりに高い能力を持つ。それらが一方的に発見され攻撃されなす術もなく壊滅した。今まではこんなことは無かった。

「過剰な戦力、ね……」

「奴ら地上の民を根絶やしにするつもりでしょうか?」

「それはして欲しくないんだがな……地上の森に指導者的存在がいないと気づいたら地下まで探索し始めるかもしれないな。ここにたどり着く可能性はないと思うが……目障りだな」

ジュゲムが好き勝手できる世界。それは人間種の数も亜人種の数もバランスが取れている今くらいぬるい世界がいい。この世界に来てから種族間のバランスを大きく損なう戦いにも間接的に介入してきた。六大神と言い伝えられるユグドラシルプレイヤー、後に現れ八欲王と恐れられるプレイヤー達とも間接的に関与したこともある。

どうにもならなかった時子供達と優秀な部下を率いて邪神、暴走したNPCの討伐に表立って動いたこともある。まさかそれが今も伝説となって残っているとは思わなかったが。

しかも、本名で。

今も世界の安寧を望む上位者達とつながりを持ち100年毎に現れるプレイヤーを探している。今回もそろそろだなと思い動いているのだった。

「では、倒しますか?」

もし、地上のゴブリンを根絶やしにするつもりの戦力投入なら阻止したい。だが、そうでなかった場合直接介入は避けたいところではある。

だが、今回は動くことにした。

「カイジャリ」

「なんだい、親父」

「コナー」

「はい、お父様」

「ゴコウ」

「何なりと」

「宝物庫を開放する。最大戦力で当たるぞ」

子供達もさすがに息を呑んだ。父がそれほどの相手と見据えている。それはよっぽどのことなのだろう。

 

 

「完全装備できたものの……なんだこの状況は?」

森が開けたちょっとした広場にて互いに殺気を振りまき相対するそれら。

一つは探していた法国の一団と思わしき人間達。

もう一つはありゃ相手出来ん無理だと断言できるだけの力を持ったナニカ。戦闘になったら最強装備状態のカイジャリでも数分もつかどうか。

完全不可視化のアイテムで隠れ潜んではいるものの状況を測りかねた。

法国の一団も明らかに普通の人間の装備から逸脱している。ほぼ伝説級のアイテム群。

もっとも目を引くのは隊長らしき男が持つみすぼらしい槍。

数百年前の記憶に間違いがなければ危険なんて言葉では言い表せない代物だった。

 

「――使え」

それがどういう意味を持つのか人間達にわずかな動揺が走る。だが、すぐに行動に移される。

「おい、マジか……」

ジュゲムの視線の先には白銀の服を着こんだ老婆が。いわゆるチャイナドレスと呼ばれるそれが一際輝く。

「傾城傾国、だと……?」

思わずあり得ないと認めたくないくらいの状況だ。ワールドアイテム200の内自分が持つものも含めて3つが一同に会している。

寒気がするような状況だったが逆にチャンスかもしれない、そう思うことにする。

傾城傾国から黄金の龍が飛び出しナニカに殺到する。

ナニカもそれを察したのか一直線に老婆を目指す。一瞬で隊長らしき男が弾き飛ばされた。

「集団全種族捕縛」

ナニカから放たれた魔法が老婆を守るようにしていた兵士達を拘束する。ほとんどが抵抗に失敗し地面に転がる。

老婆まであと数歩。しかし届かず、黄金の龍が絡みつく。

「ぎぃいいいい!」

思わず耳をふさぎたくなるような絶叫。

ナニカは最後の力を振り絞り手元に槍を作り出す。そして、投擲。

拘束魔法の抵抗に成功した巨漢が老婆の前に躍り出て鏡のような大盾を構える。

だが無意味。盾と鎧ごと貫通、老婆にまで到達する。

ナニカは完全に動きを止めた。

「すぐに治療を!」

「ダメです! 魔法が効きません!」

彼らの意識は瀕死の老婆に向いていて本来なら怠るはずのない周囲への警戒も疎かに。

躊躇は一瞬。ジュゲムは鎖を握りしめた。

「お前らは城へ戻れ」

いうなり父の姿が消える。

間違いなく『自由と不自由』による転移。

 

「なにか呪いのようなものに阻害されているようです。このままでは―」

あまりにも唐突に地面が消えた。

「なっ!?」

抗いようのない浮遊感。支えるものが無くなり空中で体勢を立て直すことなどできない。

老婆を中心に半径5m綺麗な円形に地面が消失した。下を見ると底が見えない。壁は磨き上げられたようにつるつるで足掛かりにもならない。

魔法詠唱者がとっさに集団飛行の魔法を使い滞空する。一安心と思ったら頭上に見えていた外の光が消えた。反射的に見あげる。誰かが息を呑んだ。

「バカな……」

それはちょうどこの場から消失したのと同じサイズの岩塊。消失した地面が頭上から恐ろしい勢いで降ってきた。

 

「ふう、うまくいったな」

ジュゲムの足元には瀕死の老婆が。

『自由と不自由』その転移は無制限。質量もこれに含まれない。地面に立っている、つまり地面に触れているジュゲムが指示すれば指定範囲内の地面をその数m上に転送することも可能。今回の場合、老婆を中心に半径5m、深さ100mがその範囲。

やろうと思えば大陸ごと、なんてことも可能かもしれない。さすがに試したことは無いのだが。

それを実行し2度転移を行使。老婆の側へ飛び老婆を掴みそれごと元の場所へ。

「さて、どうしたものか」

ジュゲムは傾城傾国の効果は知っていた。支配可能な対象は1のみだが種族耐性無視の支配。ユグドラシルにおいても他のプレイヤーですら支配し操ることもできたらしい。

だが、効果は知っていても効果が解除される条件は知らなかった。

それ故に老婆もまとめて殺すことができなかった。

使用者を殺した時点で効果が途切れるとしたら色々とまずい。

老婆に支配されたナニカは探し求めていたプレイヤーにつながる存在だろう。

だが、こういう下手をしたら敵対と勘違いされかねない状況での不幸な遭遇は避けたい。

悩んでいると老婆が震える手を伸ばす。その先には動きを止めているナニカ。

命令を出そうとしている。それに気づいたからには迷っている暇などなかった。

即座に老婆の息の根を止めた。

ナニカに対して警戒する。もし、使役者を殺した瞬間仇と認識され、敵対されたら殺される。『自由と不自由』は装備しているが間に合うかどうか。

キリキリと胃が痛む緊張感。ナニカは動かない。

「あー、綱渡りはいやだいやだ」

傾城傾国の効果は使用者の生死にかかわらない。支配対象が死んでも効果が続く可能性もある。

だが、支配対象は1のみという特性を考えればナニカの支配状態を解除するのは簡単だった。傾城傾国をもう一度使い他の対象を支配すればいい。

問題はタイミングと傾城傾国の装備制限。

女性のみ装備可能という点。だからって老婆に着せるのはどうかと思うが。

はて、だれに着せるかなんてことを考えつつ傾城傾国を老婆から剥ぎ取る。

もう一つの気になるモノが地面の下に埋まっているがこの場に長くとどまるのは得策ではないと判断し『自由と不自由』を発動させた。

 

「あれだ、俺が悪かった。まさか種族にまで制限がかかっているとは思わなかった。さすが糞運営だな」

ジュゲムは城に戻るなりコナーに傾城傾国を渡して着替えてくるように指示を出した。

で、玉座で待っていたのだが。

「これは何かの罰ゲームかと思いましたわ」

肩まで傾城傾国を通すが手を離すとすとんと抜け落ちる。信仰する神でもある偉大なる父からの命令に背きたくはなかった。自室からここまで無理やり着てきた。途中何度もすっぽ抜け肌をさらすことになったが。

ゴブリンは人間とは違う美的感覚を持つが、羞恥心もちゃんと持ち合わせていた。

娘は少し涙目で。予想外とはいえ罪悪感がすごい。

コナーを『自由と不自由』で彼女の部屋に放り込むとすぐに玉座に戻る。

「もう目隠し外していいぞ」

「……別に俺らに見られても困らんだろうに」

「そこはほら乙女心というやつですよ、兄上」

「残念ながら俺にはピンとこないんだ、弟よ」

「何事も経験です。兄上なら引く手数多でしょう。とっかえひっかえ抱いたところで嫌がる者などおりますまい」

ゴコウの視線が一瞬だけジュゲムに向かう。ジュゲムは兄弟のやり取りを面白そうにうかがっている。

「それに何より、明らかに異質な力を持って生まれた我々との間に生まれた者がどうなるのか非常に興味があります。そういうことですので兄上。何事も経験です」

ゴコウの言う異質な力。一言でいえばこの世界基準をはるかに上回る力。森で遭遇したナニカには敵わないが並ぶ者など皆無といえよう。その原因となったのはユグドラシルプレイヤーであったジュゲムなのだろう。元々はただの電子データ、アバターであったにもかかわらず何らかの特質が遺伝した。らしい。

「俺は……惹かれる雌にあったことがないんだ。そういうお前はどうなんだ?」

「次代を残すのは上に立つものとしての義務ですのでそれなりに」

「なん、だと?」

弟に先を越されていた兄愕然。

そして続く父の言葉。

「ちなみに、城に勤める雌の半数はゴコウのお手付きだぞ」

「な……」

城勤めで生殖能力のある雌はおよそ300人。その半数と関係を持っているという。

兄は絶句した。

「ですが、これまで一人も身籠った者はおりません。雄として少々きついものがあります」

「ふん、つまり種無しということか」

「兄上、口にしてよい事と悪いことぐらい考えていただきたい。脳みそまで筋肉になったわけではないでしょう?」

「あん? やる気か? お前こそもう少し言葉を選んだらどうだ?」

二人の間に火花が散る。

「男3人で一体何の話をしているのですか?」

一触即発の空気を動かしたのは玉座に戻ってきたコナー。

「何の話かって? ゴコウが子作りに盛んでカイジャリはまだお子様だったという話だ。そのゴコウもあまりの命中率の低さに雄としての自信を無くしかけているんだと」

「おい、糞親父そういう言い方はないだろ!?」

「そうです! いらぬ誤解を招きます!」

「ああ、そのてのお話でしたのね」

これだから雄というのはと表情に出ていた。だが、言っておかねばならないことに気づき表情を改める。

「ゴコウ、私達にはきっと子供が生まれないわ」

「……なぜです?」

「少なくとも私は成長が止まった時から一度もシルシが来なくなったから」

シルシとは人間でいうところの月経だ。それがないということはつまり―

ジュゲムの子供達の異常な点。成体と呼べる年齢に達してから老化が止まった。この世界に来てから変わらないジュゲムのように。

「ですが、お兄様。そのお年で未経験というのもアレですし、一度ぐらい使ってみるのもよろしいかと」

コナーの視線はちらりとカイジャリの下半身に。

「……ご立派なものをお持ちのようですが、使わなければ宝の持ち腐れというもの」

「だーっ、余計なお世話だ! そういうコナーこそどうなんだよ!」

「昔の事でもう相手には先立たれましたけど何人かは。つまり、お兄様だけですわ」

「コナー……お前もか……」

子供達のやり取りを眺めつつ、思考の海に沈む。

本当になぜ自分に寿命は無いのだろうか。過去人間種のプレイヤーは現地の人間とほぼ変わらない年月で老い寿命を迎えたと聞く。亜人種も人間より長命な種が多いが寿命はある。

寿命を無くす事などそれこそ200の力ぐらい必要になるかもしれない

「……200、か」

ユグドラシルに200種あったとされるワールドアイテム。だが、サービス終了に至っても未発見とされるものがあった。糞運営の事だから名前だけでデータが入っていないだとか取得条件が厳しすぎて実質入手不可能なものだとか噂はあった。

「ん? そういえば―」

ワールドアイテムではないが、取得条件が厳しすぎるものを持っていたことを思い出した。

何故忘れていたか答えは簡単、何の効果もないガラクタだったから。

ジュゲムは記憶を掘り起こしつつアイテムボックスに手を突っ込む。

それはある日唐突に運営からきたメールに添付されていた。

 

何やら様子のおかしい父の様子を見守る子供達。その視線が気になるがジュゲムは作業を続ける。

 

メールの内容を要約すると『よくもまあ、こんな遊び方をしてくれました。貴方はすごい! 敬意を表し貴方専用のアイテムを贈呈させていただきます。これからもユグドラシルをお楽しみください』

アイテムを取り出してみるとちゃちな造りの勲章だった。金の星形。それ以外言い表しようのない形。

アイテム名『極めし者の印―創造―』。アイテムランク神器級、効果なし。プレイヤー名、ジュゲム・ジュゲーム専用。

読むのが嫌になるくらい長ったらしいフレーバーテキストこそあったものの本当に何の効果のない勲章アイテム。作ることが好きでライフワーク故、完成品にはあまり興味がない。作った物をほいほい他人に渡すのもそのせいだ。

そのためすぐに興味を無くしアイテムボックスの奥に入れっぱなしになっていた。

取り出そうと思い立ったのは気になることがあったから。この世界に来てから一部の魔法やアイテムの効果が変質していた。手持ちのほぼすべてのアイテムに鑑定魔法をかけたつもりだったがこれには使っていないのを思い出したのだ。

 

「父上、それは?」

「もとはゴミアイテムだな。 効果は……今から鑑定しようと思う」

『極めし者の印―創造―』と同時にスクロールを取り出す。

封じられている魔法は『道具上位鑑定』。

軽い気持ちで魔法を発動させる。そして、息を呑んだ。

本当に原因がこれだったのだから。長ったらしいフレーバーテキストがそのままアイテムの効果になっていた。

その長ったらしいフレーバーテキストも要約すると一行で終わる。

『創ることを極めた者を讃える印。彼の一族はその栄光を永遠のものとするだろう』

テキストは数十行あるが重要なのは何度読み返してもここだけだ。

もはや笑うしかなかった。

鑑定した情報が頭の中に流れ込んでくる。

つまるところ所有者の不老不死化。不老は年齢だけでなく肉体が最良であった時の状態を維持する。子供達の場合成熟し大人になったあたりで固定されたという事。

不死化はHPがゼロになる攻撃の無効。ダメージは受けるがHP全損は無い。効果範囲を一族とし子供にまでその影響を及ぼす。

「最初の100年、悩み苦しんだ答えがこれか!」

もはや笑うしかなかった。

散々笑ったあとふと思った。

「これ捨てたら死ぬのか?」

手の上でちゃちな勲章を玩びつつ―

「お願いですから試すとか言わないでくださいね!?」

息子ら三人に詰め寄られアイテムボックスの奥深くにしまい込んだ。

 

 

さて、と前置きしてコナーは傾城傾国を父に返す。

「ちなみに部屋で侍女にも着せてみましたが結果は同じでした。お父様がおっしゃっていたように種族的な制限があるとだと思います」

「そうか、続きは外で試すとしよう。あてもあるからな」

「今回は同行者がいるのですか?」

「滅んだ村の生き残りが二人。人間だ」

「非常食に?」

「食うか、バカ。カイジャリはもう少し脳みそを鍛えろ。どこ行くにしても子連れ、女連れの方が警戒されにくいからちょうどいいんだよ。なんならお前らも来るか?」

「そうしたいのは山々なのですがどこかの放蕩王が国の事を顧みずフラフラしているので私が城を空けることは国の崩壊に近づく要因となります。どこかの放蕩王がもう少し国民ことを考えてくれるとありがたいのですが」

「考えた末お前に任せているのだぞ?」

「ええ、いやというほど理解しています。ただの皮肉です」

「私は外に興味ありませんわ。お兄様もこれから気になる雌探しに忙しくなるでしょうから、いつも通りお父様お一人でどうぞ」

「おい、コナー俺が行かない理由が何でそれになる!?」

「ほら、ムキになって」

ギャーギャー騒ぎ出す子供達をジュゲムは楽しそうに見つめていた。

 

 

のんびり街道を北上するジュゲム一行。

「家に戻っていたって、それだけですか?」

「そうだぞ。家族のコミュニケーションは大事……悪い」

「……いえ」

ついつい地雷を踏んだ。エンリは思いつめた顔でうつむいてしまい重い空気をまとう。

さて、何としてこの状況を打開するか。ちょっと強引にいってみることにした。

片手で手綱を握り残りでうつむくエンリを抱き寄せる。驚き硬直しているがそのままに。

「まあ、あれだ。面倒を見てやると言った以上少しくらい甘えてもいいぞ。子供はそうあるべきだ。お前さんは色々と思い詰めすぎだ。……一応言っとくが俺はゴブリンだからできることに限界はあるがな」

エンリはされるがままに嗚咽をこぼす。ネムを前に姉としてしっかりしなければと張りつめてしんどかったのだろう。しばらく背中を撫でてやると寝息を立て始めた。

 

姉妹とも寝てしまったのでジュゲムは一人黙々と馬車を走らせる事にした。

 

 




一方その頃アインズ様
とかげっくすと遭遇、童貞なのに子を持つ親の気持ちを知るという快挙を成し遂げる

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。