オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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更新止まっていた分2回分まとめて


エ・ランテルにて その1

城塞都市エ・ランテル。

国境線に最も近いこの都市はリ・エスティーゼ王国における重要拠点の一つ。王家直轄地でありその名の通り強固な城塞に守られた都市である。

その都市に入るための検問所にジュゲム達は姿を見せていた。

時刻は夕方、都市の外で仕事を終えた冒険者や暗くなる前に駆け込んできた旅商人やらで大渋滞である。そんな中でジュゲム達は注目されていた。

原因は3人が乗っている馬だ。一目見て軍馬であろう馬に乗るあきらかに寒村の村娘風の二人となんともとらえどころのない男の組み合わせ。目を引くのは当然であった。

本人らは気にしていない様子だが。

「……長い。日が暮れるぞ」

「なんというか、間が悪かったとしか」

「宿が空いていればいいが……下手するとボロ宿しか空いていないなんてことになりかねん」

「じゃあ、また魔法の家に泊まります?」

「いや、街中じゃ展開できるような場所がないだろう。隠蔽魔法は見えなくするだけで触れば気づかれる。ま、使うなら町の外だな。これだけ目立った以上引き返すのも悪目立ちするだろうが」

「あ、ほら、あと3組ですよ」

「お姉ちゃん、まだー? 眠いよぉ」

背中に顔をうずめるようにしてぐずりだす妹と人間形態なのに演技もなくイライラを隠そうとしないジュゲム。エンリはうんざり気分にさせられた。

そこからさらに待つこと十数分、ようやく順番が回ってくる。

「ようこそエ・ランテルへ。足税はそちらへ」

足税、つまりは通行税である。大きな金額ではないが基本的に通る度に払うことになる。

エンリに手持ちはないので必然的にジュゲムに頼ることに。

「あ、しまった交易通貨持ってないな」

「え?」

「は?」

ジュゲムのやってしまった的呟きにエンリ、城門の兵士が声を上げる。

どうやって通るつもりだったのか。兵士は怪訝そうに、エンリはおろおろと。

「金は持っていないが代わりにこれがある。通してほしい」

ジュゲムが差し出したのは村でガゼフが書いた紹介状だ。

「確かに王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ様のサインが書かれているが、これが本物だという証拠は?」

「〈道具鑑定〉が使える魔法詠唱者ぐらい常駐しているだろ? さっさと仕事してくれ」

それから別室に移動させられ待たされることさらに30分ほど、ネムはすでにエンリの膝の上で寝息を立てていた。ジュゲムはというと細工用の刃物で何やら作り始めた。

「時間があるといつも何か作っていますね」

ジュゲムの手が止まる。

「そうだな。作り出すという行為は俺の全てであり目的でありこのために生きているようなものだ。『ザ・クリエイター』なんて呼ばれたこともあったな。もう、相当昔だが」

どこか懐かしむような目。作業が再開される。

「長生き、なのですか?」

「……そうだな、亜人種にも寿命はあったと思ったんだが。運営が最後の最後に設定をいじったのか転移の影響かしらんがこうして生きている。生きているということは新しいものを作り出せる。そのためならば何でもしよう」

相変わらず何のことだかさっぱりだった。ただ、嘘をついているようにも見えない。

「間接的なPKもしたし人間の国を滅ぼしたこともある。後に英雄と呼ばれた者に武具を与えたこともある。その英雄にとどめを刺したこともある。すべてはこの世界をちょうどいいバランスで保つため。その状態が俺にとって都合がいい。ならばどんな手でも使おう。……よし、これでいいか。エンリ、適合するかはめて確かめてくれ」

手元に飛んできたのは指輪だった。細かい文字が刻まれているようだが何の文字だかわからない。そもそもエンリは文字が読めないのだが。

「きれいな指輪ですね」

銀色のリングだが材質は不明。素人目に見てもただの銀とは思えないほど不思議な光を放っている。

「毒無効、麻痺無効、精神作用系無効、行動阻害系無効、第三位階までの攻撃魔法抵抗、レベル20までの低位物理攻撃無効、常時再生、即死無効が込めてある」

エンリには何かの呪文のように聞こえた。

「風呂の時も外さず身に着けておけ。ネム用は今夜にでも彫っておく」

「ただの指輪じゃないんですよね? 本当にもらっていいんですか?」

「お前用に作ったからお前さんにしか効果はない。ただのお守りと思っておけばいい」

サイズはエンリの指には大きすぎたが通した時点でちょうどいいサイズに変化する。

「……ぴったりになりました……」

魔法はホント何でもありだと思った。そして、そんなマジックアイテムをポンポン作り出すこのゴブリンはもはや言葉では言い表せないような伝説級の者なのではないだろうか。

「お待たせしました」

長い時間待たせた後、戻ってきた兵士は先ほどとは雰囲気を一変させていた。

「まずこちらをお返しさせていただきます」

ジュゲムにガゼフの紹介状を差し出す。

「続いてこちらを」

地図とタグのついた鍵だった。鍵は意匠が凝らされておりそこら辺の民家の鍵というわけではないらしい。

「地図は今宵の宿の場所、鍵はご用意させていただいた部屋のものです。それに伴いエ・ランテル都市長パナソレイ・グルーゼ・デイル・レッテンマイア様から言伝をお預かりしております」

鑑定魔法により紹介状が本物と分かった以上いらぬ嫌疑をかけたという失点を城門の兵士達は取り戻そうとした。そして、直接都市長パナソレイに紹介状を見せに行った。時間がかかったのはそういうわけだったらしい。

「戦士長から話は聞いている。無事で何よりだ。色々聞きたいことがあるので屋敷に来てもらいたい。今日は遅いので宿を用意させる、と」

「承知した。ではそうさせてもらおう」

兵士に見送られ3人は街へ出た。ちなみにネムはジュゲムにおんぶされている。

「待たされたが見返りはあったな。地図から見るにいい宿だぞ」

地図のさす場所はエ・ランテルが誇る三重城壁の一番内側の区画。行政の中心であり富裕層が多く住まう場所。そこにある宿は当然格式も高くなる。

ちょっとは覚悟していたつもりだったが宿につきエンリは言葉を失った。

格式が高いとかそんなレベルではなく。エ・ランテル最高クラスの宿。

「お待ちしておりました。パナソレイ様から伺っております。どうぞこちらへ」

受付で鍵を見せるとすぐさま部屋に案内された。

「お食事はいかがなされますか?」

「寝ている連れもいることですので部屋にお願いします」

「わかりました。すぐ用意させますので部屋でおくつろぎくださいませ」

部屋に案内してくれたんは胸のバッジを見る限り支配人らしい。VIP待遇である。

宿の雰囲気もすごかったが室内もやっぱりすごかった。

部屋の広さこそログハウスの寝室に劣るが家具や壁、天井に至るまで華美な装飾が施されていた。

「こ、ここ一泊いくらするんでしょうか?」

エンリは正直落ち着かなかった。ネムをベッドに寝かせた後はどこかに座るでもなくうろうろ。

「ん? 他の客のやり取りをちらっと見たが金貨5枚くらいじゃないか?」

「金貨5枚……」

ちなみに、一般人が一日に稼ぐ給金は銀貨一枚程度とされる。銅貨10枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚の価値を持つといえばどれ程の宿泊費か想像できるだろうか。

なお、駆け出し冒険者がよく利用する宿は相部屋で銅貨5枚とも言われる。

農村で暮らしてきたエンリにとってはまさに天上の地であった。

 

しばらくして食事も運ばれてくるがこれに関しては例のカレーなる食べ物のインパクトが強すぎたせいか比較的落ち着いて食べられた。匂いにつられて飛び起きたネムも同様である。

 

「ああ、そうだ二人ともちょっと出かけてくるから二人とも宿にいるように」

夕食が片付けられた後唐突にそういうジュゲムは人化の指輪を外していた。

さらに見慣れない物を身に着けている。見た目は金色と銀色の鎖。それは絡み合うようにしてジュゲムの腕に巻き付いている。そして、それを強固にするためか鍵穴のない南京錠で固定されている。そんな目立つ恰好でどこへ行こうというのか。

「これが気になるか? こいつは移動手段であり俺が持つ数少ない攻撃手段の一つだ。非常に便利なものだぞ」

ジュゲムは鎖を玩ぶ。

 

ユグドラシルにはワールドアイテムと呼ばれるモノがあった。全部で200あったそれは強力無比な力を持ち強大なギルド同士が奪い合っていた。これもその一つ。ユグドラシル最終日にジュゲムが手に入れた物。

名を『自由と不自由』という。

正直なところユグドラシルではワールドアイテムの中で不遇とされていた。

効果としては妨害無効、距離質量無制限の転移。また、移動先の目標として地名だけでなく人物やアイテムも設定可能。

転移するだけなら第三位階にも『次元の移動』という魔法がある。これには距離の制限があり術者本人にしか効果はない。上の位階になると『転移』『転移門』などもある。

それぞれ同時に行使可能な対象数に制限があったり距離制限があったりする。

『自由と不自由』にはそれがない。また妨害も意味をなさない。では、なぜ不遇とされていたのか。ユグドラシルにおいて転移系魔法はコンソールから移動先の座標を設定する、視界内なら目標地点にマーカーを移動させる等ひと手間必要だった。それは制限のなくなったワールドアイテムであってもコンソールを介してひと手間かかるのは同じだった。

一瞬の判断が命取りになる戦闘ではそんなことをしている暇はなく、戦闘時でないならば通常の魔法で事足りる。

さらに装備者は左右の腕どちらかの自由を奪われる。デメリット効果にすると能力値20%低下及び装備個所にある他の装備品の効果無効。左腕なら左腕の籠手や指輪の効果全て、たとえ課金して装備枠を増やしていても無効化される。

だが、この世界に移動した時点で『自由と不自由』は変質していた。

そもそもコンソールなんてものがないのだから。ひと手間はかからない。

タイムラグ無し、回数、距離、質量すべて無制限。思ったところに飛べる。又聞きでもいい。それが正式名称なら人名地名、アイテム名その側に即転移可能。対象が秘匿されていようとも、別のアイテムによって隔絶した空間にあろうとも関係はない。

デメリットである能力値低下も元から低レベルの生物しか存在しないこの世界においてユグドラシルプレイヤーが使う限り、あってないようなものである。

 

「何時になるかわからんから先に寝ておけ。朝までには帰る」

それだけ言い残してジュゲムの姿は消えた。

帰ってくるといった以上戻ってくるのだろうけど。

「どこに行くかくらい教えてくれても……」

正直あのゴブリンが簡単に死ぬとは思えない。想像もつかないようなマジックアイテムの数々、本当に長い年月を生きてきたという雰囲気。

だが、気になるし心配もするのだ。

小さなため息とともにベッドに腰掛ける。

「お姉ちゃん、この後どうするの?」

村にいた頃ならそろそろ寝る時間だった。ただ、今は夕食後間もないわけで。

『食べた後すぐに寝たら牛になる』

そんな言葉が頭をよぎった。村を出てからまともに運動していない。さらには生まれて初めて食べる美味しい料理の数々。

まずい。色々とまずい。農村育ちのさえない村娘でも乙女なのだ。

そう、余分なお肉はいらない。いらないったらいらない。

「ネム、ちょっと散歩しよっか」

「うん!」

ジュゲムには部屋にいろと言われたが大通りを少し歩くくらいなら大丈夫だろう。

念のため城門で渡された宿の地図を持ち、宿の受付に散歩に行く旨を連れが探しに来たら伝えてほしいと知らせておく。

そうしてエンリとネムは夜の街に繰り出した。

とはいえエンリにお金の持ち合わせはないためぶらぶらと歩くだけである。

見るものすべてに興味津々で立ち止まるネムから離れないように気を使いながら散策する。

「お姉ちゃん、これすごいよ!」

キャッキャとはしゃぐ妹を見て懐かしい気分になった。

「ん?」

そう、懐かしい気分になった。つまりこの街に来たことがある。幼いころから何度か両親と共に。目的は森で採れた薬草を知り合いの薬師の家に卸すために。

「ンフィーレア……」

何で今の今まで忘れていたのか。村が滅びた事を知らせて、頼ってもいい家を忘れていた。

食い入るように地図を見る。朧げな記憶を引っ張り出し概ねの位置を割り出すとエンリは妹の手を引き走り出した。

 

 

 




一方その頃アインズ様
安宿の一室で軽くなったサイフの中身に大きなため息を一つ。
道中の討伐報酬は明日、護衛任務の報酬も色々あって請求できる状態ではなかった。
さて、どうしたものか……




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