忘れていたとか書く気が無くなったとかではなく、何の前触れもなくPCが逝きました
バックアップはきちんとしてあったため被害は少なかったのですが心臓に悪い……
「ふう……。しばらく動きたくないな」
ガゼフはゴブリンの残存兵が森へ逃げていくのを見送りつつ胡坐をかいて座り込んだ。
横には副長が大の字なって転がっている。見ればどの隊員も似たような有様で。
そもそも無傷な者はいないのだ。
「すまないが動けるものは散ってしまった馬を連れ戻してきてくれ。そろい次第王都へ帰還する」
「強行軍ですね」
しばらく動きたくないほど消耗していたがそうもできない理由ができた。
「何を言うか。副長、お前のせいだぞ? 命令無視なんぞやらかして戻ってくるから休憩する暇もなくなってしまった。戻ったら全員に酒でも奢れ。もちろん、無制限だ」
「はは、それはまいりましたね。戦士長共々借金地獄ですか」
「笑えんな。あれらのポーション、かなりの代物だぞ。あの若さでアレほどのモノを扱うとは底の知れない商人だ。ただ者ではあるまい」
まじめな話いくらになるのか。払うとは言ったがちょっとした頭痛の種だ。
「戦士長、馬が戻ったようです。すぐ出立しますか?」
「無論だ。今から飛ばせば追いつけるだろう」
聞けばろくに旅装備もなかったらしい。エ・ランテルとの距離は荷馬車でも1日程度、鍛えられた軍馬を駆ればその半分だろうか。
女子供を連れていることも考えると問題なく追いつけるはずだ。
「スレイン法国の連中はどうだ?」
「見事に全滅ですね。……戦士長、一つ私見を述べてもよろしいでしょうか?」
「かまわんが?」
「我々護衛を任された者は戦場を遠くから見る機会がありました。それ故に気づいた違和感です。ゴブリン達の狙いはスレイン法国の兵。我々は漁夫の利に利用され、尚且つ……生かされた」
ゴブリンの攻撃には害意はあったが殺意はなかった。自分たちは反撃で壊滅させられたというのに。重傷を負ったものはとどめを刺されるどころか見向きもされなかった。
「敵司令官を暗殺したゴブリンが奇襲に徹すれば我々もスレイン法国の兵同様骸をさらすことになっていたでしょう。だが、そうはならなかった。何者かの意図があったとしか思えません」
「何者かの意図、か。ゴブリンにスレイン法国の兵を皆殺しにさせ、我々を助ける。もしそうだとしてあれだけの数のゴブリンに殺されることも含めた命令をだれが出せる?」
「何者かはおいておくとして命令に関しては召喚の魔法や召喚を可能とするマジックアイテムが存在すると聞きます。召喚された者なら命令には絶対服従ではないでしょうか?」
「それこそ無茶だろう。そんなことができる者はただ者ではな―」
ただ者ではない。ほんの少し前に同じ言葉を口にした。一瞬追うべき商人の顔が頭をよぎる。
「いや、無いか」
ガゼフは自分の考えを即座に否定した。あまりにも突飛すぎると思った。
「とりあえず、物証になりそうなものだけ回収しておけ。魔法だのなんだのは専門外だ。魔術師協会にでも協力を依頼しよう」
ぽつりと水滴が服を濡らす。
「最悪だな。雨が降り出すぞ……」
日が傾きかけてきた時間でもあり空に広がる雲はどうもいやな気分にさせてくる。
「激しくならんうちに合流できればいいが」
エ・ランテルの方角には重苦しい雲が立ち込めていた。
一方その頃ジュゲム達一行はというとまだ村からさほど離れていない場所にいた。
賢い軍馬は常に後方、本来の乗り手のいる方を気にしてまともに走ってくれなかったのだ。
「仕方がない。雲行きが怪しいから今日はここで休むか」
馬を止めるジュゲム。そこは草原のど真ん中であり雨宿りできるものなどない。ついでに、テントなども持ってきていない。
「雨の中、野宿ですか?」
「風邪引きたいなら止めないが……?」
「でも、何もないですよ?」
「今から用意するぞ」
ジュゲムの手首が見えなくなった。これまでに何度か見た動作。ただの村娘であるエンリから見て不可解なゴブリンとしか言えないジュゲムの一番不気味な行動。もしかして、ジュゲムはゴブリンの中でも高位の魔法詠唱者なのではないか?そんな気すらする。
エンリがじっと手元を見つめているのを横目で見つつジュゲムは目的のモノを取り出した。
手のひらサイズのログハウス。その模型に見える。
「グリーンシークレットハウスの現地改造版だ」
ジュゲムはそれを投げた。転がった模型は草に紛れて見えなくなり次の瞬間見ていられないほどの光を放つ。恐る恐る目を開けると家が建っていた。太い丸太で組まれた2階建てのログハウス。手の平サイズの模型が寸分たがわず大きくなったかのようで。
「えっ? えぇ……?」
エンリの頭はついていけずぽかんと立ち尽くす。妹の方は幼さゆえの適応力か素直に驚き大はしゃぎである。
「ほれ、降り出す前に中に入れ」
「あ、はい」
朝から色々ありすぎて思考力は低下の一途。考えることを放棄したエンリは言われるがままに中へ。
中は見た目以上に広く、そして混沌としていた。
加工した木が積んである一角もあれば怪しげな薬品と装置が並ぶ場所もある。別の場所には鉱石の山や鍛冶の設備に並んでキッチンもある。
床には羊皮紙や何かの破片、果ては明らかにナマモノっぽい切れ端が散乱し怪しげな匂いを放っていた。
「ここは俺の旅先で使う工房だ。散らかってるが気にすんな。ベッドは2階だ。一つしかないから二人で使え。その前に飯でも食うか?」
朝食以来何も食べていないが食欲はなかったが。
「食べる! おなかペコペコ!」
ネムは欲求に忠実だった。
「……軽くでいいです」
「ん、少し待て。嫌いな物とか食べれない物はないか?」
「大丈夫です」
「私もなんでも食べれるよ!」
「はは、好き嫌いがないのはいいことだな」
ジュゲムはキッチンにある鉄の箱を開ける。中には目も見張るような色とりどりの食材が詰まっていた。そこからいくつか取り出し慣れた手つきで調理していく。
ログハウス内にとてもおいしそうな匂いが満ちていった。
初めて感じる匂い。自然と口内にたまった唾液を飲み下す。
ネムは期待感からか目を爛々と輝かせている。
外では雨が降り出し屋根を激しく叩く。その音に紛れて多数の馬が駆ける音も聞こえたがどうでもいいくらいにエンリはその料理に心を奪われていた。
「お子様もいるから甘口にしておいた。熱いからゆっくり食え」
無理やりスペースを作られたテーブルの上、深めの器に盛られたのは茶色いドロッとしたスープ。大き目に切られた数種類の野菜と角切りにされた何かの肉らしきものが入っている。
「カレーっていう料理だ。本当はコメという食材と一緒に食べるんだがこの辺では作ってなくてな。代わりにパンを焼いているからでき次第出してやる」
ごくりと喉が鳴った。木彫りの匙でカレーとやらを掬う。
一口食べて頭が真っ白になった。衝撃だった。
母の手料理はおいしかった。だが、これは次元が違う。食欲がないと思っていたがそんなものは吹き飛んだ。二人は無我夢中で手を動かす。
「服に飛ばすと取れなくなるぞ……って、聞いてないな」
ジュゲムは二人の様子に苦笑しつつ窯からパンを取り出す。
「ほれ、パンも浸して食べてみろ」
ちょんちょんと浸してパクリ。
「――――っ!」
二人の声にならない悲鳴が上がった。
「あ、あれ、ここ……どこ?」
エンリは体を起こす。白いシーツの海に埋まっていた。隣には抱き着くようにネムが眠っている。二人が寝ていたのは4、5人同時に寝てもまだ余りそうな巨大なベッド。固すぎず柔らかすぎずそれでいて体を包み込むような寝心地。
何でここにいるのか記憶を整理していく。
至高の食べ物を満喫しお腹がいっぱいになり同時に疲れからか眠気に襲われた。
思い出せるのはそこまででベッドへ至る記憶は無い。
「顔洗お……」
ネムを起こさないようにそろりとベッドを抜け出す。
起き抜けでボーっとしたまま下のフロアへ。キッチンには水瓶があるだろうと無意識に向かう。
「あ、起きたか」
「おはようございます。顔を洗いたいのですが水瓶はありますか?」
「水瓶はないがほれ、そこの金属の棒をひねれば水が出る。一日の使用量に制限があるから出しっぱなしにはするなよ。んで、染み抜きしておいた服はテーブルの上。顔洗ったらさっさと服着ろ」
「……え?」
服を着ろ、である。服を着替えろではなく。
エンリはゆっくりと下に視線を移す。絶賛成長中の双丘が自己主張していた。
「街についたらお前達の服を買わねばな。さすがに俺の倉庫にも女物は……ちょっとくらいしかないな。あ、でもサイズが合わんか」
「いっ……」
寝ぼけていたとはいえ―
「いやーーーーーー!?」
全裸というあられもない姿に悲鳴を上げるのは無理からぬことだった。
「安心しろ。俺がなんだか忘れたのか?」
ジュゲムは指輪を外す。ゴブリンの姿に戻りエンリに近づいてくる。
エンリは両肩を抱きへたり込んでいた。混乱してジュゲムから身を隠すことも離れることもできない。そんなエンリの顎を捉え正面から見据える。
「この通りのゴブリンだ。種族の違う人間の小娘に欲情してどうする?」
エンリはされるがままで。
にやりと笑うジュゲムはエンリを軽く突き倒した。エンリは一瞬の躊躇の後、胸元をかばっていた腕を下す。
これには逆にジュゲムの方が困ったように顔をしかめた。
「お前なぁ……少しくらい抵抗してみせたらどうだ?」
「でも、抵抗しても……かなわないですし……」
「……さよか。すまん、からかってお前が慌てるところを見てやろうと思っただけだ。よそ見しておいてやるから服持って二階で着替えてこい。体を拭きたいなら桶に水をためて持っていけばいい。タオルはベッドルームのキャビネットに入っている。その間に朝食を用意しておいてやる」
さっさと行けとばかりに二人の服が投げつけられる。エンリはそれを抱きしめるようにつかむと二階にダッシュした。
それを見送ったジュゲムは小さくぼやく。
「……あっぶね……」
頭を振ると昨夜から一人で取り組んではいるが遅々として進まない作業を再開する。
「3人で使うから少し片付けようと思ったが……」
断言しよう。まったくと言っていいほど様子は変わっていない。
自分ではどこに何があるのか把握しているのだから問題はないのだが、最低限の足の踏み場しかないのも事実であり……。
片付けようと努力した。が、努力したような気になっていただけのようだった。
「先ほどはお騒がせしました」
「おさわがせしました?」
着替えて降りてきたエンリは頭を下げた。ネムもよくわかってないが姉に倣う。
「で、昨日のことは思い出したか?」
「それがあんまり」
「ほー、じゃあ教えてやろう。よーく聞け」
いじわるそうな表情を浮かべるジュゲム。あまり聞きたくないがそうもいかない。
「飯食った後疲れと満足感からかお前さんは糸が切れたように崩れ落ちた。その時にカレーの器に突っ伏した形になった。カレーに使っている素材の一つが服につくと色が落ちなくなるからすぐに洗う必要があった。寝巻にでも着替えてその服を渡せと言ったら寝ぼけたお前はあろうことかその場で脱いで渡してきた。まあ、あれだ、汚されてそのままというわけにもいかんからお前さんの体の……まぁ、色々と後始末はした。あきらめてくれ。一通り終わったあとは、ネムにベッドまで誘導させた。そんなところだ」
予想以上にひどかった。隅々まで見られたと知ってエンリは耳まで真っ赤になった。
そんな恥ずかしさも焼きたてのパンと刻み野菜のスープを前にして吹き飛んでしまう。
昨日といい今朝といい、生まれて初めて食べるとんでもなくおいしいものはまさに暴力だった。
好きなだけ使ってもいいといわれたので覚悟を決めてパンにジャムを塗りたくる。
ジャムなんて嗜好品は行商人が年に1、2回村に持ち込むくらいでこんな贅沢な使い方などもったいなくてできない。口の中に広がる甘酸っぱい果実の風味。
かなり幸せな気分だった。
「さて、腹も膨れたところで聞いてくれ。今日の予定だ」
「このままエ・ランテルに向かうのでは?」
「外を見ろ」
窓の外はまだ雨が降り続いていた。
「見ての通り雨だ。雨の日は外に出ない。以上」
「出ちゃダメなの?」
「出たければ出てもいいが家から5m以内にいろ。この家には高レベルの隠蔽魔法がかかっていてその範囲内なら外から中は見えない。人間の野伏やそこらの動物なんかじゃまず認識できないぞ。ああ、ネム。外に行くなら馬にこれを与えておいてくれ。飼葉はさすがになかったがそれならたぶん食べるだろう」
「はーい!」
ネムが受け取ったのはオレンジ色の野菜。初めて見る。
「じゃあ、お前さんは片付け手伝ってくれないか?」
混沌とした室内。今座っているテーブルも色々なモノで埋まっていたのだがそれらを部屋の隅に下ろすことによって食事をとるスペースを確保している。
「俺的にはこれで片付いているんだが……エンリは嫌だろう?」
別に家主がそれでいいと思っているのなら我慢しようと思っていたが気を使わせているらしい。相変わらずこのゴブリンはよくわからない。
「じゃあ、指示くださいね?」
しかしながらやると決まったなら徹底的に、だ。
結局のところ、途中昼食を挟みほぼ一日かけての大掃除になった。
「今日も雨か……」
さらに翌日降り続く雨は一向に止む気配を見せない。
「雨だし今日も動かない!」
ジュゲムはそう宣言すると作業台の上で何かやり始めた。
集中力は高く、声をかけても生返事しか返ってこない。ちなみに指輪は外している。
その方がうまくいくらしい。
エンリは手持無沙汰だった。普段なら農作業や繕い物などやることはいっぱいあったから。
大掃除は昨日済ませてしまいログハウス内はものすごく広くなった。
キッチンの片付けも終わらせてしまったので本当にやることがない。ネムはネムで外につないである馬と戯れている。
暇だった。
生まれて初めて暇な本当に何もすることがない時間。
エンリは2階の窓際に椅子を置き、ぼーっと外を眺めていた。
こんなことをしていていいのだろうか?
ジュゲムには目的があると聞いた。けど、学のない自分ではそれが人探しであるということしかわからなかった。
その一方で雨だから動かないと言ってしまうほど軽い目的なのだろうか?
自分達の事を身の振り方が決まるまで面倒を見てくれると言われた。
それはいつまでなのか、あるいはどういった状況になるまでなのか。
街に出て二人で暮らしていけるようになるまでというのなら職を探さないといけない。けれど、生まれてから農作業しかしたことがない自分にできる仕事があるのだろうか?
同世代の女性と比べれば腕力はあるだろうが街で生活するにあたってそれが役に立つ場面は想像できない。
必要な生活費は二人分、半ば物々交換で経済が成り立っていた村とは違い貨幣を稼がないといけない。技術もない、力もない、縁もない。
体を売るという選択肢。
フラッシュバックする村での恐怖。
覆いかぶさる男。
体を引き裂かれる苦痛。
首にかかる指、足を伝う粘液の感触。
出そうになった悲鳴を飲み下し震えを止めるため両肩を抱きしめる。
ひとしきり呼吸を落ち着かせ窓枠に体を委ねる。なんだかどっと疲れが出た。何もしていないのに。何もしないということがこれほど苦痛だということも初めて知った。
「あれ……そういえば今朝……」
からかうだけのつもりだったと彼は言ったが。
今のようにはならなかった。むしろ―
「えっ? ええっ?」
身を任せてしまおうと思った。
何か気づいてはいけないことに気づきそうな気がする。
立ち上がりせわしなく室内を歩く。2、3周歩き元の場所に。
「ない。それはない」
正しい結論にたどり着けた。ため息とともにまた窓枠に体を委ねる。
ふと、視界の端に一台の幌馬車が見えた。雨の中だというのにかなりのスピードで馬を走らせている。一頭引きの馬車にもかかわらず大人数が載っているのか馬の体表から見えるほどの湯気が上がっている。馬はきつそうだが御者がスピードを抑える気配はない。
そのスピードゆえ馬車はあっという間に隠蔽されたログハウスの前を通り過ぎる。
なんとなく目で追っていく。荷台の一番後ろには遠目に、そして素人のエンリが見てもすごそうな黒鉄の全身鎧を着た人物が乗っていた。
「冒険者の人、かな?」
どこへ向かっているのだろう?
この先には滅びた村しかないというのに。
村と冒険者。そのキーワードに何か引っかかるものを感じたが出てこない。出てこないということはその程度の事なのだろう。エンリはそう結論付けた。
廃墟となった村の前で一人の少年が力なく膝をついて慟哭していた。
叩きつけるような雨の中、一人の少女の名前を叫びつつ。
その声はいつまでも止まらない。
少し離れた場所、少年と村の廃墟を一望できる位置には別の6人。
5人は雨除けのフード付きコート姿だが一人だけ違う。
漆黒の全身鎧を雨に曝していた。
一方その頃アインズ様
冒険者になった!
初めてのミッションを受けた!
しかし、失敗してしまった!
アインズ様のテンションが少し下がった!
一方その頃森の賢王
領域を侵す者がいないので今まで通りくっちゃね生活。
モモン騎乗フラグが立たなかったため代わりに毛皮剥ぎフラグが立ったようだ……