オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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言い訳させてください。

5月の半ばに投稿したつもりでいました。

途中保存ボタン押してたみたいです。
はい、ドジっ子です。好きなようにののしってください。

ののしりタイムが終われば続きをどうぞ、最終話となります


エピローグC

 

 

目を開ける。

 

視界に入るのは見慣れた天井。とても広く天井の高い部屋。

手を上に伸ばす。畑仕事でできたゴツゴツはすでになく、すらっと伸びた細い指。

ずっとずっと変わらない。

起き上がる。視界一面に広がる竜鱗。

さらに大きく強くなった相棒。

今では竜王の一角として認められたオラサーダルク。歳を重ねたことで風格が増している。

 

一方私は変わっていない。

ソレを自覚したのは妹があの国に嫁いで行ってしまった頃か。

実際変わってしまったのはいつだったのだろう?

王国に悪魔が降り立ったあの夜か、あるいは竜王国からビーストマンを追い出すことに躍起になっていたあたりか。

あるいは、あの人と出会った時からか。

今となってはもうわからない。

少なくとも今の私は人間ではなくなってしまっている。

年も取らず、魔法も使わず浮遊するモノは人間ではない。

一人遺されたことに絶望して喉を突いても平然としていたモノは人間ではない。

 

もう、慣れた。

 

 

 

「おはようございます、エンリ様」

「おはよう、アイさん」

「お食事の用意ができました」

「ありがとう、すぐに行くわ」

 

 

彼女は竜の女神に仕える侍女。

変化しない自分に居場所がないように思えて引きこもった先は竜王国の端にある険しい山の上の神殿跡地。

詣でる人もいなくなり崩壊を待つだけだったハズの神殿は私が入った途端、建築されたばかりのような今の姿に変化した。

オラサーダルクも入れるような広さだといいなと考えていたそのままに。

そんな変化は麓の村にすぐ知れて、やってきた人達は驚き、そして、私を竜の女神として祀り上げてしまった。

正直、人との縁を切るためにここへ来たのでやめてほしかったが。

 

そんな村の人達が交代でお世話に来る。

神殿の場所が普通の人には往復も命がけな場所にあるため1年ごとに住み込みで。

最初の一人は神殿の外にテントで寝泊まりしようとしたのでさすがに止めて部屋を用意した経緯もある。

今の彼女も厳選な抽選で選ばれた名誉な立場なのだとか。

来たばかりのころは恐れ多いとか言って目も合わせてくれなかったけれど……。

 

「む、もう朝か。良い匂いだ」

「おはよう、オラサーダルク。待たせると悪いわ、早くいきましょう」

「ああ。あの世話人の腕は5指に入る。冷めてはもったいない」

すると竜の姿は消え人間の姿に。

例の指輪の力である。時間制限は相変わらずのため食事の時くらいにしか使わないが一つ気になることが。

この数十年、ほんのわずかではあるが見た目が変わっているのだ。

少しずつ、ずっと見ている私だからこそ気づく程度の違いなのだけど。

そう、確実に年を取っている。衰えているというわけではなく力は滾っている雰囲気ではあるけれど。

一方、私は変わらないのに。ずるい。

 

頼み込んでそうしてもらった質素ながらもバランスが考えられた食事を3人で済ませると3人それぞれの日課を始める。

侍女の彼女は神殿の掃除。

オラサーダルクは食材等生活用品の空輸か狩りに。

私は実のところ仕事がないので己と向き合う時間。

 

『ゴッデス』

私にとっては女神とは種族のようなものらしい。

信仰心が集まりれべるが上がったことでそうなったらしい。

意味が分からないけれど、同時に人間ではなくなったことを理解していた自分もいた。

最初は混乱したし、正直なところ今も受け入れるのが精いっぱいだけど昔オラサーダルクが言っていた己と向き合うことを実践している。

何ができて何ができないのか。

いくつか挙げてみる。

 

後光えふぇくと。

背後が光って見える、らしい。

私には認識できないのでよくわからないがオラサーダルク曰く光が強いと顔もまともに見れないほどなのだとか。

女神に相応しく神々しいぞと笑い転げていた。

 

浮遊。

『飛行』の魔法も使わず宙に浮く。高さや時間は無制限。ただ、これに関しては普段は意識して使わず両の足で歩いている。農家で育った私にとって大地に足がついていないという事に対して違和感があるから。

 

女神の癒し。

他者の怪我や病気を治療できる。回数制限があり今は一日10回まで。

以前、交代要員の侍女が神殿に向かう途中滑落、瀕死の重傷を負ったけど一瞬で完治した。

それからというもの麓の村で重症者が出ると治療しに向かっている。色々試させてもらった結果、風邪や食当たり等軽いものから命に係わる血の病までなんでも快癒できた。ただし、死んでしまった人を生き返らせることはできないみたい。

 

女神の加護。

私がいるだけで近くの人は力が湧いてくる、らしい。これも私には認識できない。侍女曰く重いものが持てたり疲れにくくなったりするとか。あとは軽い怪我もすぐ治るそうだ。

 

女神の威光。

加護とは逆に敵対者を脱力させるらしい。一度も敵対者に会ったことがないので効果のほどはわからない。理解する機会はなくていいと思う。

 

女神の裁き。

敵対者に天罰を与える、らしい。敵対者には会いたいとも思わないのでこれも効果のほどは不明。

 

信仰の鎧。闇属性に大弱点、それ以外の属性にある程度の耐性、ほとんどの状態異常も無効化し、常時再生を得る。

燃える火に手を突っ込んでみたけどほとんど痛みもなく火傷もしなかった。チリチリとわずかに焦げた部分も数秒で治癒。人間辞めすぎている部分である。

あと、これに付随して私は全てを思い出した。王都での惨劇からの欠けた記憶。すれ違いからひどい目にあい、思い出すべきではないからと魔法で蓋をされた記憶。そのことをオラサーダルクに話すと苦虫を嚙み潰したような顔をされた。しばらくは夢に見たけど今は大丈夫。

 

そして、不老不死。

死なない。胸に手を当てると確かに鼓動している。不死者とはいえアンデッドとはまた違うらしい。

養父の死を看取り、年老いた妹の訃報を聞き、まったく変わらない自分に絶望して後を追おうと何度も試した。

なんでも切れるあの人の短剣で喉や心臓を刺し貫いたり、崖から飛び降りてみたり毒草を飲み込んでみたりもした。どの方法も多少の出血があった程度。今も私はこうして生きている。

なお、そのあとオラサーダルクに見つかって三日三晩お説教を受けた。

そのおかげで私は、変わらないなりに生きていくことにした。

 

ふと気づくと部屋に差し込む日の光が赤く染まっている。

もう夕方になってしまった。歳をとると時間の経過が早く感じるというが不老不死でもそうなってしまうのだろうか?

いつも通りの夕食を済ませ、贅沢にもお湯が沸き続けるお風呂に入り、いつもと何ら変わりない一日が終わろうとしていた。

 

 

そろそろ寝る時間となった頃、異変に気づいたのはオラサーダルクだった。

急に体を起こしめちゃくちゃ警戒している。

 

「夜分に恐れ入ります。その、どうしてもお会いしたいという方が……」

来客を告げに来た彼女も寝る前だったのだろう。寝巻にケープを羽織った姿で申し訳なさそうに現れた。その表情は困惑に染まっている。

 

「夜遅くに申し訳ない。ただ、噂を聞いてからいてもたってもいられず山を駆け上ってきてしまった」

謝罪と共に頭を下げるのは白銀の鎧を着た蟲人。異形種や亜人種を見ること自体はあの国のおかげで珍しくない。だけど、この世のものとは思えぬ装備はそうそう見るものではない。

それこそ、私が着るあの服と近い品だろうと見て取れる。

 

「神が、女神がこの世に実在すると聞いた。願いをかなえる力を持つならば、どうか、私を元居た場所に帰してほしい……」

不安と恐怖が混ざった、そして切実な願い。

オラサーダルクが警戒する、おそらくあの国の首脳部と同等の力を持つ異形種。

そんな彼は今にもショック死しそうなほど何かに怯えている。

「どのような噂を聞いてここへ来たのかはわかりませんが……私には願いをかなえるような力はありません。せいぜい小さな癒しや加護を付与する程度」

 

息を呑み、明らかな落胆。

 

「けれど、協力しないというわけではありません。元居た場所、遠い遠い場所なのでしょうか? しかし、そこへたどり着く手段には心当たりがあります」

時々近くに来ている痕跡はあるけどその姿をとらえることは一度もできていないあの人。

どこにでも現れ消える神出鬼没なあの人ならあるいは。

「……あいつか。しかし、見つかるか?」

「あら、昔してくれた約束は覚えてないの?」

「翼ならここにある。人間の足なら踏破できぬ地に逃げても追いかけてやろう、だったか?」

結局私があきらめてしまっていたから果たされていなかった約束。

だけど、今ここに大きな変化の予兆が現れた。

ちょうど100年前のあの時のように。

「そう、それ。探しに行きましょう。近くに来ている痕跡はあるけど面と向かって言いたいことが積もりに積もっているわ。利用するようで申し訳ないですがこれもいい機会よ」

「わかった、そこの蟲人もそれでいいな?」

「あ、ああ。協力してもらえるのか?」

よほど絶望していたのだろうか、わかりにくい蟲人の表情も手に取るように分かる。

希望に沿えるかどうかは正直未知数。でも、何も知らず、何もできなかった昔よりは可能性も上がっているだろう。時間もそれこそ無限にある。

目の前にいる蟲人さんには有限なので急ぐ必要はあるだろうけど。

「私はエンリ。姓はもうありません。こちらはオラサーダルク」

「私は……」

蟲人は一瞬考え込む素振りを見せた。

 

そして

 

「たっち・みーと呼んでください」

 

 

 




というわけで終わらせました。
最新刊出る前にと考えていたので少々雑な感が否めませんが、最新刊読んで矛盾だらけになって悶えるよりはいいだろうという判断です。

職がや生活環境が変わったりで書き物に取れる時間が減ったのも大きいかもしれません。それでも何とかエピローグを書き上げることができたのは読者様の評価と感想、誤字修正などのおかげです。

ホントに長い間お付き合いいただきありがとうございました。

さて、最後なので書いちゃう。

感想と評価、よろしくお願いします!!

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