オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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エタったとおもった?
私も半分くらいあきらめていました。

が、諸々の理由で想定外のまとまった時間が取れたので何とか。




世界の行く末を決めるかもしれない一戦の結末

今度こそ静かになった闘技場にコインの落ちる音が響く。

同時に両者は地を蹴った。

「ムッ!?」

スピードでは番外席次に軍配が上がる。

コキュートスの想定より速く大鎌が迫る。

だからと言って受け損ねるわけもなく、的確にブロック。

「ムムッ!?」

「アハッ、凄い凄い! 全力なのにこの手応え!」

威力もコキュートスの想定以上。受け流し、あるいは防御しなければ確実にコキュートスの装甲を貫いてくる。

一撃のダメージは大したことはないのだろうが防御しないという選択肢は取れない。

ならばと攻勢に出るが絶妙な回避と受け流しでかすり傷程度に留めてくる。

 

十数合打ち合って互いにかすり傷。

知らず知らずのうちに会場の気温が下がりだした。

楽しくなってきてガチガチ顎を鳴らすコキュートスの呼気の影響だ。

 

「スバラシイ! 攻撃防御速度ニ技量、何レモ階層守護者ト比肩スル。先ニ謝罪サセテモラオウ。正直ニ言ッテココマデトハ期待シテイナカッタ。頭デハ強者ノ可能性ヲ理解シツツモ、ドコカ軽ンジテイタ。スマナイ。故ニ」

白銀のハルバードが消えその手に握るは至高の一振り。

「ココカラハ、全力ヲ持ッテ我ガ力ヲ刻ミ込マセテモラウ!」

彼の創造主たる武人建御雷の遺した斬神刀皇。刃渡り180㎝を超える神器級武器である。

 

「なぁ、アインズ。アレ、抜かせて大丈夫なのか?」

「た、たぶん……? 残りHPに関しては私が監視していますから大丈夫かと」

「いや、人間は真っ二つなんてことになったら即死だからな?」

「殺害は無しというルールなので……たぶん、きっと恐らく手加減すると思います」

「思いっきりテンション上がってるみたいだが大丈夫なのかねぇ……」

「特殊技能もほとんど使ってませんし手加減できているハズです。おそらく」

 

番外席次から見てもコイキュートスの手にある大太刀はヤバかった。

自然と自分の武器に目が行く。

弱い武器ではないがどこまで受けられるか。

あの武器の性能なら掠っただけでも腕が飛びかねない。必然的に先ほどと同じようなギリギリの回避は危険。的確にブロックするか受け流すしかない。

 

そう考えながらの一合目。

コキュートスは最上段に構えただ真っすぐに振り下ろす。

闘技場の床タイルが砕けるほどの凄まじい速度の踏み込み。

迫る死の予感に背筋を震わせ番外席次は神速の一太刀に反応して見せた。

闘技場にいるほとんどのしもべが目で追うことができなかったにも拘らず的確に、振り下ろされる斬神皇刀に大鎌の柄を斜めに当て受け流す。

 

「え、……あれ?」

 

タイミングも角度も完ぺきだった、ハズ。

しかし、斬神皇刀は何の抵抗もなく番外席次の大鎌を両断して見せた。

 

「っ……ああぁあああぁ……!!」

さらには斬られたことに気づくのが一瞬遅れるほどの切れ味。

番外席次の左腕が重力に引かれて持ち主を離れた。

吹き出す血は瞬く間に足元を紅く染め番外席次はたまらず膝をつく。

 

 

勝った。

と、コキュートスは判断した。

殺害が禁止されているため複数の特殊技能は切ってある。それでいてこの結果ではあるが想定をはるかに上回る強さを持っていることが分かった。身体能力だけでも階層守護者クラス、そして、あちらもなぜか使ってはいないようだが特殊技能を隠しているようだ。

嫁として迎えるのには十分な実力と言える。

嫁となる女を無暗に傷つけたくはなかったので治療しやすいように細心の注意を払って斬った。魔法で両者のHPを監視しているアインズ様がすぐに勝利宣言をしてくれるだろう。

そう考えていた。

 

 

つまり、まだ勝利宣言はされておらず、決着はついていない。

 

 

コキュートスの複眼に何かが飛んでくる。反射的に振り払い、躱しきれなかった何かが視界を紅く染め上げる。

「血、カ!?」

戦闘不能になるだけのダメージを与えたつもりだったがまだやるつもりらしい。

とっさに斬神皇刀を振りそうになるが雑な攻撃は即死させかねないため思いとどまる。

故に防御が遅れた。

 

「っ、硬っい!!」

そもそも片手で振るう武器では無い上に出血で力も入らない。

番外席次の一撃はコキュートスの胸部甲殻に傷をつけるにとどまった。

即座に距離を取り体勢を整えようと試みるがどう考えても出血量が多すぎた。

それでも挑戦的な笑みを浮かべる。

まだ動ける。ここで終わるのはつまらない。

スカートに大鎌を当て引き裂きできた布切れを口と残った腕で無理やり切断個所を縛り付ける。

完全に止血できたわけではないが楽しい時間を引き延ばすことはできそうだ。

にらみ合いで時間を浪費するのはもったいない。

番外席次は猛然と斬りかかった。

 

「クッ……!」

番外席次の攻撃は先ほどより威力が落ちている。

しかし、それを受けるコキュートスの動きも精彩を欠いていた。

殺害は禁止。そのルールがコキュートスの動きを縛る。

番外席次はそれに気づいているので完全に防御を捨てている。

そんな猛攻撃をいなしつつ致命傷にしないようにもう一撃入れる。それはコキュートスの技量をもってしても簡単ではない。

 

悩んだ挙句、コキュートスは狙いを足に定めた。

細心の注意を払い番外席次の機動、その起点となる足を突きで地面に縫い付ける。

太い血管を避けることも必要でなかなか狙えるタイミングはやって来ない。

 

さらに打ち合うこと十数合、疲労のせいか番外席次の攻撃速度が落ちた。

「フンッ!!」

番外席次の斬撃を切り払いカウンター気味に突きを繰り出す。

 

「!?」

突きを出し切り腕が伸び切る。その刹那、斬神皇刀が静止したその瞬間を見切っていたかのように僅か半歩だけ体をずらした番外席次がその刀身を渾身の力で踏み抜いた。

 

並大抵の者ならこの時点で武器を取り落とすか、そうならずとも体勢を崩すだろう。

しかし、コキュートスは達人だ。即座に反応し大太刀を引き戻す。

狙いがあからさま過ぎたことに番外席次は気づいていた。

自分の視野が狭くなっていたことに後悔しつつ、突きの速度に合わせて刀身を踏みつけるたその技量に内心で称賛を送る。

 

そして、違和感を覚えた。

 

とっさに引いた刀身がやたらと重い。

コキュートスの複眼に零距離にいる番外席次が映った。

 

二つの影が交差し、僅かな時間の後、コキュートスの腕の一本が重い音を立てて闘技場の床に落ちた。

「ふふふ、コキュートス様。これでお揃いですね」

 

会場が騒めいた。

 

 

「なあ、アインズ。俺にはほっとんど見えなかったんだが説明してくれ」

相変わらずポテチを齧りながらのジュゲムに呆れつつもアインズは正直に答えた。

「私もわかりませんでした。誰か詳細を説明してくれ」

「はい、アインズ様」

応じたのはデミウルゴス。

「殺害禁止というルールからコキュートスの狙いはかなり絞られてしまいました。そして、狙ったのは足首あたりでしょうか」

「うむ、そのあたりは何となくわかっていたな」

「失礼いたしました。彼女はコキュートスの突きを見切り刀身を踏みつけた。通常なら体勢を崩すか武器を取り落とすでしょうがコキュートスはそうではありません。次の行動に移るため即座に武器を引き戻しました」

アインズとジュゲムが頷き、続きを促す。

「彼女はその刀身に乗っていたのです。引き戻した刀身をカタパルト代わりにし自分の瞬発力を水増しした。おそらくですが一瞬だけ、コキュートスの反応速度を上回り、速度も乗った攻撃はコキュートスの防御も貫いた。その結果がこれでしょう」

「おー、なるほど。わかりやすい解説だ。デミウルゴス感謝するぞ」

「ありがとうございます」

 

「んじゃ、アインズ。そろそろ終了の宣言してやれ。あいつらまだ続ける気だぞ」

言われて視線を闘技場に戻すと二人が互いの血をまき散らしながら切り結んでいた。

慌てて魔法で二人の体力を探る。

コキュートスはだいぶ減っているもののまだ余裕がある。一方番外席次の体力はレッドゾーン通り越して気合いと根性で立っているような残量だった。

「双方武器を下ろせ! 此度の模擬戦、勝者はコキュートスとする。ペストーニャ、すぐに二人の治療を……急げ!」

アインズの宣言で止まった途端、番外席次はぱたりと倒れた。

「た、ただちに! ……わん」

 

「正直あそこまで食い下がるとは思わなかったな、シロクロのやつ。コキュートスとも相性よさそうだし……アレ、用意しとくか。あー、デミデミ」

「なんでしょうか?」

ジュゲムとデミウルゴス、割とビジネスパートナー的な所がありアインズに次いで親しい間柄と言えるだろう。それゆえにこの呼び方である。

「俺は作るものがあるから一旦城の工房に戻る。アインズはコキュートスの所にいっちまったしシロクロはしばらく預かってくれと伝言を頼むわ」

「わかりました。お伝えしておきます。……後学のためにお聞きしたいのですがいったい何を?」

「子供が欲しいと言っていたから可能性を繋ぐためのアイテム、だな。お前さんも相手がいるなら用意してやるぞ」

「残念ながら今のところいませんのでコキュートス達を見守ろうと思います」

「まあ、いつでも言ってくれ。ぶっちゃけデータ取りもしたいからな」

そう言い残してジュゲムは消えた。

「異種族同士で種を繋ぐ可能性……、ナザリックの今後の為にもやはり協力しておくべきでしょうね」

デミウルゴスは一人呟くとアインズの方へ足を向けた。

 

 

―数日後 

「おじ様なら何とかしてくれるでしょ!?」

ナザリック第9階層、今は客室として使われているロイヤルスイートの一室にて。

番外席次が会いたがっているとアインズから伝言を受けたジュゲムは部屋を訪れるなり押し倒されていた。

「俺は未来猫型ロボットじゃねーぞ?」

「なにそれ? ともかく! このままじゃコキュートス様のっ子供を孕めないの!」

「あまり、聞きたくない内容だが一応聞くしかないんだろうな」

「ぜひ聞いて。怪我が治ったあとすぐにコキュートス様と意気投合して子作りしようとしたの!」

「あー、やっぱりなにもいうな。何が悲しくて他人の性事情を聴かにゃならんのだ」

「いや、言う。私この体格でしょ? コキュートス様のコキュートス様は大きすぎてどれだけほぐしても絶対無理! ってなったのよ! そもそも形が凶悪過ぎて入れられたらさすがに裂けちゃうわ!」

「わかった、わかったからとりあえず離れろ」

正直なところジュゲムの想定通りだった。

人型ならまだしも蟲人とはそもそも無理だろうと。

デミウルゴスに言った通り種族差を何とかするアイテムを作って持ってきてある。

 

ジュゲムは床に正座して期待に満ちた目を向けてくる番外席次に一つの指輪を投げ渡した。

「一定の時間だけ種族レベルを隔離して人間種に変身できる指輪だ。前作ったのより手間暇素材をぶち込んだから一日6時間まで変身可能。効果時間使いきったら24時間かけてチャージする。その間は使えない」

「なにそれ、凄い!」

「いくつか注意事項があるから聞け。その一、種族レベルを失うから弱体化する。お互い力加減には注意しろ。その二、効果時間を使い切った瞬間、元に戻る。最中だったらひどいことになるだろうから熱中するにしてもほどほどにな」

想像してしまったのか番外席次は真っ蒼になって頷いた。

「その三、これが一番厄介なのだが極低確率で爆発する」

「……は?」

「決してリア充爆発しろとか願ったわけじゃないぞ? 大きなメリットをつけるには釣り合うくらいのデメリットを付与する必要があるんだ。それがアイテム制作での基本ルール。

効果時間を伸ばしたらうまく釣り合うデメリットが無くてな。爆発範囲は半径5mほど威力はそれほど高くないからお前達ならちょっと焦げる程度で済むだろう。だが、いつ爆発するかは全くわからん。つけた瞬間かもしれないし、二人でまったりしている時間かもしれないし、真っ最中かもしれん。……まあ、試しに息子につけさせてみたが数日つけはずしさせて起爆は一回だけだ。安心しろとは言えんが普通は引かないだろう」

「爆発した後この指輪はどうなるの?」

「どうもならん。壊れもしないから安心しろ」

「これで、コキュートス様の子供を産める……」

「あくまで着用者の種族を人間にするだけだ。妊娠するかどうかは運次第だろう。……って、きいちゃいねぇ」

番外席次は指輪を抱きしめて一人トリップしていた。

「はぁ……。もう一つ用があるからとりあえず聞け」

ジュゲムは指輪を取り上げた。

とてつもなく不満そうな顔をされたが気にせず続けることに。

「法国のじじいから催促が来ている。手紙の一つでも用意しろ。そもそもお前をここへ連れてきた理由を思い出せ」

「へ? おじ様より強い人を探しに。法国なんてもうどうでもいいんだけど? さっさと滅ぼしちゃえば? 何なら私が殲滅に向かうけど?」

元法国最高機密の少女はあっさりと法国を見放す。

これにはジュゲムも軽い頭痛を覚えた。

「……はぁ、わかった。お前はもう法国と関わるな。とりあえず、そのまま伝えておく」

「ええ、そうする。だから、指輪」

媚びるような笑顔で催促する番外席次。

ジュゲムはあきらめて指輪を投げ渡した。

「じゃあ、早速! コキュートス様、今参ります!」

空中でキャッチするとそのまま部屋の扉を蹴破るように飛び出していく少女。

「……ま、幸せそうだから好きにさせておくか。報告するにはちと気の重い内容だが」

一人ぼやいたジュゲムも『自由と不自由』を起動し姿を消した。

 

―法国 最高神官長執務室

「と、言うわけだ」

「……中々帰ってこないので何が起きていたのか考えない日はありませんでしたが」

「今頃楽しく子作り真っ最中だろうさ。手を出せば馬に蹴られるではすまないからな。あきらめる方向で国を動かせ。少なくとも徹底抗戦を選べばシロクロが首脳部を消しに来るぞ」

それが慈悲だとでも言ってきそうで。

「そうですな、今日の議会で三つ目の方策に意見を統一させます。魔導王へ書状を届ける役はお願いしても?」

「それくらいはかまわん。では、明日もう一度来る」

「ありがとうございます」

ジュゲムが居なくなると一人残された最高神官長は天を仰ぐ。

「滅ぼされないために、人類の存続のために、今は泥でもなんでも啜ろう。しかし、いずれは……」

その言葉は誰に聞かれることもなく虚空に消えた。

 

その後、スレイン法国は魔導国に対して宣戦を布告。

5万の兵を派兵しカッツェ平野で開戦す。

対する魔導国は10万近いスケルトンで応じ戦いは凄惨なものとなった。

結果は両者戦闘不能多数で撤退、初戦は引き分けとなる。

だが、この戦争による法国の雄姿は周辺国に広がり魔導国の支配を拒む者達の旗印となった。

これにより反魔導国を謳う人間勢力はスレイン法国に集結、長きにわたる人間対異形種の戦いに身を投じていくことになる。

それが仕組まれたモノと気づくこともなく。

 

 

 

「とりあえずこれで当面の間は情勢も落ち着くだろう。魔導国はしばらく内政に力を注ぐし大陸中央方面はツアーが抑える。商人共はすぐに金の臭いにつられて転ぶだろうしやっと暇ができる。国も息子とその嫁に任せても大丈夫そうだし引きこもろう。最近創作に割く時間が減ってストレスだったんだよなぁ……」

自国の城の執務室。

ジュゲムは一人呟きつつ筆を走らせる。

「ふむ、こんなもんか。置手紙良し、王爾良し、王冠良し、保管庫の鍵良し、在庫確認良し。食料に水も完備。ま、なくなればアインズにたかればいいか」

 

小鬼の王は満足げに頷くと一瞬で姿を消した。

 

内に灯るは創作へのインスピレーション。

変わり始めた世界への好奇心という薪をくべ燃え上がる。

 

「さぁて、今度はどこで何を作ろうか」

 

かつては『ザ・クリエイター』と呼ばれた小鬼の手が止まることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『愛しの息子へ。この国はお前にやる。弟妹と嫁と力を合わせて何とかしろ。俺は旅に出る。探しても絶対に捕まってやらないから無駄なことに労力は割くなよ?』

 

 

 

執務室のごみ箱から出てきた紙を握りつぶしジュゲムの長男カイジャリはわなわなと怒りに震えていた。

隣にはあきれはてため息をつくゴコウとコナー、そしてカイジャリの嫁である元聖王女カルカの姿も。

 

「あんの、クソ親父!!」

 

新たな王の絶叫がこだました。

 

 

 




なんか打ち切りエンドっぽくなってしまいましたが法国編は情報不足で書きにくくて断念することに。

くがねちゃん続き早く。


さておき、本編は今回が最終話となりキャラ別エピローグを追加でいくつかという形で小鬼の調停者は終わらせたいと思います。
今しばらくお待ちください。

最後になりましたが度重なる誤字修正ありがとうございます。
残りのエピソードも目を光らせておいていただけるとありがたいです。


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