オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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コキュートスさん、書きにくい。
番外ちゃん、情報不足で書きにくい。



闘技場の中心で愛を叫ぶ

 

ナザリック第6階層 闘技場

 

「いや、まぁ……セッティング任せたけどな?」

普段はゴーレムが埋め尽くす観客席。

しかし、現在はナザリックにいるしもべのほとんどで埋め尽くされていた。この場に来ていないのは防衛上の理由で動かせない一部のNPCと自動ポップのモンスターくらいのものだ。広いはずの観客席が魑魅魍魎で埋まり切っていた。

 

「……加減しろ莫迦」

ジュゲムが連れてきているのは無理にでも連れて行けと食い下がった長男カイジャリとカイジャリが行くならと恐る恐るついてきたカルカ、そして今回の主役である番外席次だけである。

「アウェイ感半端ないじゃないか!?」

ジュゲムはあきれ果てアインズに食って掛かり、カイジャリは怯え震えるカルカをかばい番外席次は期待に目を輝かせていた。

「その、せっかくなので部下の慰労も兼ねてお祭り感を出そうかと……」

「見世物になる予感はしていたが想像を遥かに超えたわ。まぁ、いい。なんか殺気のこもった視線が痛いからさっさと始めるか」

アインズに食って掛かったせいでありとあらゆるしもべから殺意たっぷりの視線がジュゲムに集中した。

「ひぅっ……」

「カ、カルカ!?」

そばにいたカルカは巻き添えで気絶、下手すればショック死してもおかしくなかった。

「カイジャリ、カルカにここは刺激が強すぎる。カルカだけ送り返すか一緒に帰るか選べ」

「帰る」

「即答かよ。何しに来たんだお前たち?」

出かける前に散々食い下がったのは何だったのか。

溜息を一つ、ついて次の瞬間には二人を城まで送って戻ってきた。

「一応、ここには転移阻害があるのですが?」

「今更だろ?」

「今更ですよね……」

「ちなみに8階層やギルド武器の本物もブクマ済みだからな」

「あんたほんとに何でもありだな!?」

「戦闘力だけが勝敗を決めるわけじゃないというわけだ。俺は弱っちいがナザリックを巻き添えにするくらいはできるのさ。というわけで胃に悪いNPC共をなんとかしろ」

「本気であなたと敵対したくないですよ」

つけもしないため息を一つ。

そして、アインズは手にした杖で床を一突き。音自体は大きくないがそれだけですべてのしもべ達がアインズに向き直った。

その視線に内心気後れしつつアインズは口を開く。

「これよりジュゲムさんの部下とコキュートスによる模擬戦を行う。ルールは相手を殺さない事、それのみ。限りなく実戦に近い形となる。コキュートスは強者だが対戦者もこの世界においては上位の強者だ。戦いは激しいものになるだろう。両雄の雄姿に歓声を送るもよし、何か得られるモノがないか探すもよし、好きに今日という機会を過ごすといい。では、開始前に二人の意気込みを聞いておこうか。コキュートス!」

「ハッ! 模擬戦トイエド敗北ハアリエマセン! 必ズヤ勝利ヲ!」

「ふむ。では対戦者……ああ、すまない名前は何だったかな?」

アインズの前に進み出た番外席次は完璧な所作でカーテシーをして見せた。

「お初にお目にかかります、魔導王陛下。無礼かとは存じますが故あって名は明かせません。役職名である番外席次とお呼びください」

この辺の所作は割ときっちり教え込まれていたらしい。

ジュゲムは目を丸くして驚きを隠せないでいた。

「わかった。では、意気込みを聞かせてもらおうか」

「はい。コキュートス様、この模擬戦の後お願いがあります」

「ム? 私ニカ?」

「はい。どうか、模擬戦が終わったらあなたのお嫁さんにしてください!!」

会場の空気が凍り付いた。

コキュートスは微動だにせず、アインズの顎が外れ、ジュゲムは床に転げまわって大爆笑。

そんな空気の中、番外席次は目をキラキラさせながらトリップする。

「一目見てわかっちゃいました。私じゃ絶対に勝てないって! そして、おじ様より確実に強いって! それを理解させられた瞬間からお腹の奥がうずいて仕方がないんです! どうか! 強い貴方の子供を産ませて!!」

名乗りまではきちんと決まっていたのに一瞬で取り繕うのを止めた。

残念美少女ここに極まれり。

彼女の嗜好の前に種族は壁にならないらしい。

 

「……ジュゲムさん?」

収集つかなくなりそうな会場の空気を何とかすべくアインズは立ち直り、笑い転げているジュゲムに詰め寄った。

「いやー、もう、シロクロ予想以上で面白すぎる。やべーわ一生分笑ったかもしれん」

「あの子何なのですか!?」

「んー、強い相手の子供を産み残すべしって育てられて来たせいで色々歪んだ哀れな娘だよ。実は直前まで俺にモーションかけてきていたんでな。見事に矛先が変わって、いやはや笑うしかない」

「さては、最初からそれが目的でしたね!?」

「知らんな。恋愛は個人の自由だろ? ホレ、放置してないでコキュートスに助け舟出してやれ。蟲人の感情なんて読み取りにくいがアレは誰がどう見ても大混乱だろ」

言われてみてみればどこか遠いところを見つめたままピクリとも動かないコキュートス。

しかし、まともな恋愛経験のないアインズにしてみたらなんと声をかけていいものかもわからない。

「ダメ、ですか……?」

どこまで天然でどこまで演技なのか、番外席次はコキュートスを絶妙な上目遣いで見つめる。一般男性ならこれで心動かされていただろう。

実際、中身は一般男性であるアインズも無い心臓がドキドキした。

 

それから数秒、番外席次の問いには答えずようやく再起動したコキュートスはアインズに向き直った。

「アインズ様、オ願イガアリマス」

「ふむ、急だが今言い出すということは彼女に関すること、ということかな?」

「ハイ。以前カラ考エテオリマシタ。リザードマンノ集落ヲ管理スルヨウニニナリ次代ヲ繋グトイウ事ニツイテヲ。コノ世界ニ強者ハホトンド居ナイ。シカシ、零デハナク我ラニ抗イエル者ガ居ル事モ解ッテオリマス。ソレラト対峙シ万ガ一ガ起キ命ヲ落トス事ニナッタ時ヲ考エルト、子ヲ生ミ次代ヲ育ムトイウ事ハ理ニ適ッテオリマス」

「考えたくはないが未知の何かによって復活を阻止される可能性も存在する。考えたくはないがな」

「復活ガ叶ウニシテモナザリックノ戦力拡充ノ為ニ強キ血ハ繋グベキカト。シカシ、私ノ番トナリエル同種族ハナザリックニ存在セズ諦メテオリマシタ」

コキュートスはそこで言葉を切り観客席の一角に視線を向ける。

その先にいたのは臨月間近のルプスレギナとその夫となったロバーデイク。

少し前、せっかくだからとアインズの言で二人の挙式が執り行われた。

ルプスレギナの相手は人間だがアインズが認め祝福した時点でしもべ全てに受け入れられ立場も認められる事に。割と盛大な式になった。

「……諦メテオリマシタガ、アインズ様ニモ祝福サレタ奇跡ノ実例ガ現レマシタ。セバスノ例モアリマス。ナラバ、私ニモ……限リ無ク零ニ近イ可能性デアレド種ヲ繋グ機会ガ訪レルナラ受ケ入レテミタイト考エマス」

「つまり、彼女の事を受け入れたいと」

「無論、模擬戦デノ実力次第デハ断ル事ニナリマスガ」

「二人が互いを受け入れるなら私が口をはさむことは何もない。その結果新たな命が生まれるなら祝福しよう」

流石に種族差が大きすぎるんじゃないかなと内心思うアインズであったが鍛え上げられた演技力でおくびにも出さない。

「オオ、アリガトウゴザイマス。デハ、マズハ勝利ヲ」

コキュートスはアインズに深々と一礼すると番外席次に向き直った。

「待タセタナ。我ハ武人故、言葉デハナク武デモッテシカ語レヌ。落トスノハ楽デハナイゾ」

「それは私も願ってもない事。さぁ、語り合いましょう! お互いが納得できるまで!」

「よろしい、私が投げたコインが落ちた時を開始の合図とする。両者構えよ!」

アインズの声が響きそれぞれが武器を手に。

コキュートスはハルバードを、番外席次は身の丈ほどある大鎌を。

闘技場はピリピリとした緊張感に包まれ静まり返った。

 

――ぱりぽり――

 

「自重してください」

ポテチ片手に観戦モードだったジュゲムを引っ叩き黙らせるとアインズはコインを投げた。

 

 




戦闘シーンが納得いかず試行錯誤中。

無駄に長くなってしまったので手前で切って一旦投稿します。
そのせいでかなり短めに。

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