気分転換に別の二次創作書き出したら止まらなくなった。
そして中途半端で日の目を見ないモノがPCにたまっていくのでした……
あ、この話はもう終わりが見えてるので大丈夫ですよ?
法国編2~3話、エピローグ3話で終わります。
たぶん。
厳かな空気が漂う神殿内部にカチリカチリと無機質な音が響く。
「はぁ……うまくいかないわ」
ため息の後さらに音が続く。
「相変わらず下手だな、シロクロ」
自分一人しかいない空間に突如湧いて出る別の声。
だが、元からいた少女と呼べる雰囲気の彼女は特に驚くこともない。
故に、声の主にめがけて手元にあった玩具ルビクキューを投げつけた。
「うがっ!? おい、それは投げるものじゃないぞ?」
「あれ、当たった。いつもは転移で避けるのに」
「俺とて油断くらいする。つーか、お気に入り投げるとは思わんかったわ」
ジュゲムは少女の対応に呆れつつも玩具を投げ返した。
同時に油断もあったなと自覚する。こいつにヤル気があったなら死にはせずとももっと痛い思いはしただろう。
ここ最近、同郷のアインズと会って少々気が緩んでいるのかもしれない。
「そう。それで今日は何の用かな、おじ様?」
「ん、まあ、やりたいことが一段落したから様子を見に来ただけだが」
「なるほど。いつまでオアズケ食らうのかとおもってたわ。でも会いに来てくれてうれしい。ここなら誰も来ないし大丈夫。さ、子作りしましょ、おじ様?」
「まて、ストップ。脱ぐな」
おじ様と呼ばれたジュゲムは彼がシロクロと呼んだ少女の手を取り止める。
「おじ様は服着たままのほうが好み?」
「そういう話じゃなくてな」
「それともベッドの上がいい? 私はハジメテだから優しくリードしてくれるほうが嬉しいけど……好き勝手乱暴にされても我慢するわ」
「会話しろ、会話」
ジュゲムは転移して少女から距離をとる。
少女との出会って以来いつもこうなのだ。そのせいで非常に疲れる。
「はぁ、残念。私はいつでも待ってるからね?」
ぺろりと服の裾をまくり上げ雪のように白い肌を見せつける。最近は色々とアピールの仕方が露骨になってきていた。
「お前さ、立場が立場だし人間同士で子供作った方がいいだろ? この国で異種族と姦通はどう考えてもおかしいだろが」
「大丈夫よ、あれからおじ様が相手なら問題ないって執行部のお墨付きはもらったから!」
「マジかよ……あの老い耄れどもとうとう狂ったか」
「もとより正気かどうかもあやしいけどね」
そう言って少女はケラケラ笑い、ジュゲムは大きくため息をついた。
スレイン法国。600年前に現れた強力なプレイヤーによって作られた人間種のみの国家である。この国は人類の守り手として長年異種族狩りを続けている。そのお陰で近隣の人間種の国家は保たれていたといっても過言ではない。
少女とジュゲムがいるのはそんな国の最奥。今は神として祀られているプレイヤーの遺産がしまい込まれている宝物庫の前である。
少女の仕事はここへ無断で近づく輩を排除すること。
そして、それが可能なだけの実力を持つ。
見た目は十代半ばだろうか。長い髪は左右で違い白銀と漆黒。瞳もそれぞれ左右で漆黒と白銀。今はまだ幼さが残っているが成長すればかなり美人になるだろう。
色々と特殊な立場故に名前は秘されていてジュゲムも本名で呼ぶことはない。
その特殊な立場というのがスレイン法国特殊部隊漆黒聖典の番外席次というものである。
そして、その戦闘力は法国最強。敗北はただ一度のみ。純粋な戦闘力ならジュゲムの長男カイジャリより上だろう。
ただ、少々性格に難があり、自分より強い男であれば性格器量美醜、さらには種族も問わず結婚してもいいと公言していた。目下のターゲットはジュゲムでありジュゲムの前では残念美少女と化す。
「だって、おじ様はプレイヤーでカミサマ達と同格でさらには人間の味方もしている。何より、私より強い」
いうなり少女は地を蹴った。すさまじい身体能力で距離を詰めるとジュゲムに抱き着く。
すりすり。
「今の機動に反応できなかった俺がお前より強いってことはないだろに」
突き放そうにもジュゲムは腕力でも劣る。
彼女は遠慮なく頬擦りを続けた。
「でも、私に唯一土をつけたのはおじ様じゃない」
「とっさの判断だったが……判断ミスだな、あれは」
しばらく前、ジュゲムは法国の秘宝『傾城傾国』を奪った。成り行きで所持者と帯同する部隊も始末してある。それの影響を知らべに法国へ忍び込んだ時に彼女と、漆黒聖典番外席次と出会った。
転移から数瞬で行われた大鎌での奇襲。ジュゲムはそれに反応できなかったが予め『自由と不自由』に設定しておいた自動転移、一定速度以上の物が接近すると座標をずらすというそれで回避、2撃目が来る前に捕まえると奇襲してきた相手を床の中に転送した。
「嘘、動けない……」
奇襲してきた少女は首から上だけ床から出ている状態。床を押しのけて移動させたためぴっちりはまり込んで動けないだけだが、床の中に直接転送すればほかの物質と混ざり合い彼女は即死していたはずだった。
「あぶねー、なんかやばそうなもん隠してるかもと警戒してきて正解だったな。どれどれ、ちょっと失礼」
ジュゲムは動けない少女の額に触れると鑑定魔法を行使する。
そして、その表情を曇らせた。
「お前さん、竜王との協定違反じゃね?」
「ええ。そうね」
「うわ、めんどくさ……。しかも法国の最大戦力ってか。相当なレベルまでなってるじゃないか」
「そんなことより! あなた、強いのね! 私と結婚して子作りしましょ!」
「俺のレベルは……まぁ、100だが強いかどうかは……? ……なんて言った?」
「子作りしましょ!」
「……」
「出してくれたら今すぐにでも!」
「どこの馬鹿だ、こんな残念な奴に育て上げたバカは……」
「強い血を残すべしって教わったわ。だからボーダーは私に敗北を刻むこと。今の今まで誰もなしえなかったのよ?」
「ハハハ、そいつは光栄だな。辞退するわ」
「え、嫌よ。拒否権はなし。こんな機会逃す手はないわ」
「……」
「思い出すと最悪な出会い方だったな」
「あら、酷い」
「ええぃ、いい加減離れろ」
やっぱり腕力ではどうにもならないので転移で再び距離をとる。
支えがいなくなった彼女は派手に顔から床に落ちた。
「……おじ様のいじわる」
うつむいた少女は泣き真似を。
ジュゲムはしばらく無視していたが盛大に溜息をつくと折れた。
「はぁ……まとわりつかないなら一緒に来てもいいぞ」
「やった!」
言ったそばからジュゲムに抱き着く。
ジュゲムの身長が低いせいで後ろから抱き着き頭の上に顎を乗せるのがちょうどよいらしい。
思いっきりまとわりつかれているがもはや何を言っても無駄だと悟ったジュゲムはそのまま歩き出した。番外席次の彼女はニコニコ上機嫌で引きずられたままだった。
「おい、耄碌じじい。コレの返品に来たぞ」
「これはこれはジュゲム王」
そこは法国の中枢にある執務室の一つ。
非常に簡素な作りで必要最低限の物しか置かれていない。
それもそのはず、清貧を旨とする法国では出世に伴い給金が減る。法国を動かすのは権力にこだわらない真の愛国者のみ。
部屋の主はそんな国のトップ。最高神官長の地位に就くものだ。
ジュゲムは簡素なソファーにどかりと座り込むと顎で対面に座るように促す。
「少しお待ちを。飲み物を用意しますゆえ」
部屋に秘書らしき者もいないので用意するのも最高神官長手ずからだ。
「安物のコーヒーは竜王国で堪能させられたから少しくらいグレード上げてくれよ」
「ふむ、では秘蔵の茶葉を出しましょう。薄給ゆえ量がありませんがこういう時にこそ使うべきでしょうな」
「あ、私の分も」
番外席次の彼女はジュゲムの隣に座り相変わらずべったり張り付いている。
その様子を見た最高神官長は小さくため息をこぼしつつも3人分の茶を用意するのであった。
「して、今日のご用向きは返品とのことでしたが」
「俺との子作りを許可したってどういうことだ?」
「……それは、その……執行部全員に対して24時間寝る間も惜しんでずっと張り付き説得という名の脅迫を続けられ……貴方様が許可されるならばという条件で折れるものが続出、過半数で可決されました」
ジト目で番外席次を見るジュゲム。彼女は視線をそらした。
「実際のところ貴方様は人間種ではありませんが神にも等しいぷれいやーであられる。血の格に関しては問題ありません。それにあのツァインドルクス=ヴァイシオンとも交流を持っておられる。その娘の存在に関しての保険にもなりましょう」
「ツアーに関してはとりなしてやるが……返品だ。いらん」
「おじ様、ひどい」
「返品承りました」
「二人してひどい」
番外席次は離れまいといっそうジュゲムの腕にしがみついた。全力で。
「まて、腕を折る気か!? 加減しろ馬鹿!」
ジュゲムの腕がみしみしと鳴った。
「さて、本題に入ろうか」
「ええ。……やはり彼女に関してはついでだったのですね?」
「まぁな」
なお、番外席次はジュゲム謹製の魔獣用拘束ロープで簀巻きにされ転がされている。
ナザリックにいる魔獣でも通用する強度を誇るこのロープはさすがの番外席次でも切れないでいた。猿轡も噛まされ会談の邪魔にはならない。
「この国の未来。どうするか決めたか?」
「……本当に、提示された選択肢しかないのでしょうか?」
「ない。存在しないから選べるように提示した。理由込みで説明してやっただろう?」
「ですが……」
「一つ、アインズ・ウール・ゴウン魔導国と敵対し戦争状態になり滅ぼされる。現在から何も行動しないならいずれそうなるだろう。そうなったら……まぁ、根絶やしだろうな。『傾城傾国』をあいつの部下に使った件もある。徹底的に殺されるだろう。正直これはお勧めしない」
ジュゲムは何度目かの訪問の時スライドまで使って魔導国の戦力や現状を伝えた。それを見た執行部の者たちは一様に絶望したものだ。
「二つ、異種族との融和を受け入れ魔導国に下る。人間の順応性は高い。事実、首都エ・ランテルや荒廃しつくした旧聖王国領ではうまくいき始めている。王家断絶で大荒れの王国でも遺棄された土地と民の受け入れが始まった。まだまだ粗削りで国家としては危ういが設立からの時間を考えれば十分及第点だろう。会談の場の繋ぎくらい受け持ってやる。お前たちがちゃんと国民を一つに纏め国のすべてを差し出せば死人は出ないだろう」
この選択肢もスレイン法国という国の在り方を考えれば難しい。
「三つ、表向きは敵国として存続し裏では魔導国の不適合者を受け入れる受け皿となる。まあ、これは二つ目の派生みたいなものだがな。この先魔導国内でも融和を受け入れられないやつが出るだろう。そいつらを手引きして法国に取り込み定期的に行う戦争で使い捨てる。魔導国は恐怖政治なんて言われる芽を消せるし法国は人間種のみの国として存続できる。実質的にはこれも属国みたいなものだが表向きは今までの在り方を通せる」
ジュゲムが法国執行部に提示した選択肢はこの三つ。
竜王国と魔導国はジュゲムが間に入ったことで友好条約を締結し交易も行う隣国となった。
評議国ともおそらく何事もなく友好条約か不可侵条約が結ばれるだろう。
そうなると残す近隣国は法国のみとなる。
魔導国の目が法国に向いた時、敵対行動をとったと見なされれば強制的に一つ目の選択肢を選ばされる事になる。
もうあまり時間は残されていなかった。
「現状、執行部の意見は二分されています」
「ほう、どれとどれだ?」
「選択肢2と3です。融和を受け入れてでも生き延びることを優先すべきと唱えるものとわれらが神の示した道は貫くべきだと説くものとがちょうど半数に」
「ふむ、お前さんはどっちなんだ?」
最高神官長はすぐには答えず紅茶に手を付ける。
「私は後者を。今はよい国に見えますが将来的にはどうなるかわからない。何かを切っ掛けに生者を敵と見なすかもしれません。魔導王はアンデッド、生者とは見る世界にも考えにも大きな隔たりがある。これはぷれいやーであっても変わらないはず。万が一が起きた時、それが役に立たなくても抵抗勢力となる起点は残しておくべきでしょう」
「なるほどな。基本的なとこをかんちがいしてるが……いっても理解できまい」
ぷれいやーは神でも超越者でもなくそれこそただの人間なのだが。
多少種族に引っ張られる所はあるが根本的なところは変わらない。
それに、セーフティを作っておく予定もあるので万が一は起きない……ハズだ。
「しかし、いつまでも意見が割れたままじゃどうにもならんだろ。残された時間はあまりないぞ?」
「……それは、理解しておりますが……」
「こいつは投票権ないよな? 参考までに聞いてみようか。シロクロ、お前はどっちがいい?」
「ムム、むむむゥ」
猿轡がはまったままだった。
話を振ったジュゲムはばつが悪そうに彼女の拘束を解く。
「私は断然一つ目!」
即座に再拘束された。
「聞いた俺が馬鹿だった。というか、こいつの扱いどうにかしないと喧嘩売ってなし崩しで法国が滅びそうだな……」
「このまま拘束したままというわけには参りません。……こんな娘でも我が国の最高戦力ですので」
「うーむ、一つショック療法を試してみるか」
「ショック療法、ですか」
「死にかけるまで痛めつけられれば牙をむこうとは思わなくなるんじゃないだろうか?」
「……まさか」
「模擬戦という形で魔導国の幹部にぶつけよう。コキュートスならいい感じに心を折ってくれそうだ。それに、俺より強いやつがいると知ればそっちにモーションかけるだろう」
「……後半が目的なのでは?」
「知らんな。善は急げだ。今から行くか。んで、帰ってきたらこいつにも議決権やってくれ。一つ目の選択肢以外を選ぶようになってるだろうから」
神官長は床で芋虫のようになっている彼女を見た。
本当にそんなにうまくいくだろうか?
「本気なのですか?」
「以前、武人気質の幹部に俺の息子達をぶつけたことがある。あれはお互いにいい刺激になったようだ。その延長という形でこいつの正体を隠したうえで俺の駒としてぶつける。殺すのは無しという条件だけ付けて」
そこまで言ってジュゲムは簀巻きになったままの彼女に振り向く。
「やるか?」
「むう!!」
猿轡がかかったままだがどこからどう見てもイエスの返事だった。
「先に言っとくがお前じゃ勝てない相手だぞ?」
「むう!」
目をキラキラさせて彼女はやる気を表明した。
「と、まぁ、本人はやる気だしちょっと借りるぞ。……一応今回はアポとっとくか」
善は急げとジュゲムは即行動。『伝言』をアインズにつなぐ。
「あー、俺だ。今いいな?」
『あ、はい、構いませんが。今度はどうしたんです?』
「前にコキュートスと俺のガキとぶつけたろ? 今回は別の駒を用意してみたから場を用意してくれ」
『その駒も純こっちの世界産なんですか?』
「ああ、そうだぞ。単純な戦闘力ならカイジャリより上のはずだ。コキュートス相手でもそれなりに食らいつくハズだ」
『ふむ、わかりました。あの試合はコキュートスにとってもいい経験になったようでしたのでその挑戦、受けましょう。場所は6階層の闘技場で時間はあー、すぐは難しいので明日正午でいかがですか?』
「それでいい。じゃあ頼んだぞ」
あっさり決まってしまった国の今後を左右するイベントに最高神官長はただただ困惑するしかなかった。
「ん、どうした狐につままれたような顔して」
「いえ、あまりに話が早く済んでしまったので少々困惑しているだけです……」
「俺らのやり取りって大胆あんなもんだぞ。気にするな。ハゲるぞ」
「……確かに気にしていたらストレスで毛根が死滅しそうです。気にしないことにします。では、後はお任せしても?」
「おう、任された。じゃ、とりあえずシロクロ連れて行くぞ。どれくらいやれるか息子とやらせてみるのとツアーに顔見せもしておかないとな」
番外席次の拘束を解除しにかかるジュゲムに向かって最高神官長は深々と頭を下げた。
「どうか、その子をよろしくお願いします」
「よし、シロクロ。俺の城へ飛ぶぞ」
「つまり、おじ様にお持ち帰りされて子作りなのね!」
ジュゲムはもう一度番外席次を縛り上げた。最高神官長も手伝った。
ところ変わってナザリック第9階層アインズの執務室。
アインズに呼び出されたコキュートスはジュゲムの申し出を聞くと明らかにうきうきしていた。
「オオ、手合ワセノ機会ガコレホド早ク巡ッテクルトハ」
「今度は別の者らしいがそちらが終わればジュゲムさんの息子にも再戦を申し込んでみるといい。ルールは何でもあり、殺害だけは無しだ。治療可能なダメージなら問題ないということだ」
「カイジャリ殿ノ時ト同ジデスナ。承知イタシマシタ」
「レベル的にはジュゲムさんの息子より上らしい。では、今から通常の業務は部下に任せてコンディションを整えよ。明日に備えておけ」
「ハッ、タダチニ引継ギヲ行イマス」
一礼して去っていくうきうきコキュートス。
アインズもまた部下の成長の一端を垣間見れてうきうきしていた。
「はっ、いかんいかん。会場の準備を……どうせなら主だった者全員参加にしておこう。観戦するだけでも得るモノがあるかもしれないし、息抜きも必要だな。いや、どうせ息抜きに集めるなら参加枠をもっと広げてしまおうか。闘技場を会場にするなら観客数の上限は余裕あるし、ゴーレムばかり並べるのも盛り上がりに欠けそうだ」
あーでもないこうでもうないと悩みつつ、アインズは休憩も忘れて企画に没頭するのだった。
見直しているつもりでもぬけがある誤字。
修正指摘いつもありがとうございます。
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