しかしながら、感想や誤字の指摘をいただくと読んでくれている方がいるのだと再認識して励みになりますのでもっとよこ(ry
「はぁ!? 本物なのか、それ?」
「驚きはごもっとも。私も疑いましたが本当に驚くべきことに本人のようです」
「……まじか」
必要最低限の物しか置かれていない執務室。
椅子に座り王爾をぽんぽん押していた少女は部下の男の報告を受け、天を仰いだ。
「素直に天祐であるとおもっても良いのかの?」
少女は手を止め報告に来た男の顔を見る。
基本的に何でもそつなくこなし国の暗部にも詳しい信頼に足る男で国の宰相を任せている。
「陛下は野生のドラゴンを御せますか?」
「無理だな。人の言葉を解するほど成長した竜ならあるいは話す事もできなくはないが。何でドラゴンが出てくる?」
年相応の仕草で小首をかしげる少女は竜王国の女王である『黒鱗の竜王』ドラウディロン・オールクルス。またの名を真にして偽りの竜王。この世界に君臨する竜王の血を宿す存在だ。
「陛下でも無理なら、うーむ……」
宰相は何やら考え込んでしまい返事をしない。
ただでさえ昼間にあった出来事を酒で忘れるため残った仕事を急いで片付けている最中である。手を止めている時間がもったいない。
「おい!」
「あ、はい申し訳ありません陛下。率直に申し上げますと、亡命を申し出てきたガゼフ・ストロノーフは二人の娘と二匹のドラゴンを連れています。もう一度お聞きしますが、陛下はドラゴンを御せますか?」
「はぁ? ドラゴン……? 周辺国最強と名高い王国戦士長はテイマーだった?」
「そうだとしたらそれほどの戦力が亡命するのを王国が黙って見過ごすとは思えません。何か裏があるのか……」
王国が仕掛けた罠かもしれない。だが、目の前にぶら下げられた戦力は余りに魅力的だった。
現在竜王国は大陸中央方面から侵攻してくるビーストマンの侵略を受けている。以前は無限湧きの餌場程度の認識だったのだろう。しかし、ただ餌にされるわけにはいかぬと抵抗を初めて長くなるとビーストマン達は改めて組織だった大侵攻を仕掛けてきた。すでに3つの都市といくつもの村落が食われている。人肉食であるビーストマンに襲われた村には物資は残っても人間も家畜も命あるものは残らない。今までは大量に投じた軍事費と秘密裏に派遣されてきた法国からの支援、冒険者の投入でなんとか凌いできた。
「法国の支援が途絶えた今、本当にそれだけの戦力が亡命してくるなら是が非でも受け入れたいところだが……」
何故か今年に入ってからは法国からの支援は何もない。防衛兵力はもう限界に近い所まですり減っている。
「ちょうど頭狩り作戦の準備が進んでいます。噂に聞く能力が本物かどうか、投入してみるのも手でしょうか」
「……よし、会おう。用意を」
「承知致しました。あ、会う時はちゃんと身なりをただして今の形態でお願いしますよ?」
「形態いうな。娘だけ連れてきているという事は女日照りも長いんじゃないか? 本来の姿の方が良くないか?」
「ガゼフ・ストロノーフは独身ですよ。詳細不明の縁で養子にしたのは年若い娘二人。一人は今の形態の陛下と同じか少し上くらいでしょう。奴隷商から買ったという話もあることですし、娘と言っていますが実際のところはどうでしょうか。もしかしたらアレと同類かもしれませんね」
ドラウディロンは心底嫌そうな顔をした。噂では忠義に厚く実直そうな男と聞くが如何せん性癖というモノは分からないものである。
「やっぱ、会うの止めよう」
「何を言ってるのですか。陛下が一肌脱げば個としての戦力、旗頭としての名声、指揮下に収まるドラゴンという殲滅力まで手に入るのですよ?」
「文字通り一肌脱いで晒すことになる可能性が高いのだが?」
「何か問題でも? それで多くの国民が命を救われるのです」
宰相は一国の女王に体を売れと言い切った。
「それとも陛下の魔法でビーストマンを撃退できますかな?」
その魔法とはドラウディロンが竜王と呼ばれる元である始原の魔法の事を指す。魔力ではなく魂を源とし放つ魔法で今となっては使い手もほとんどいない。ドラウディロン自身も使えるという事は分かっているがビーストマンの大軍を撃退する規模の魔法を放とうとすれば己の魂だけではとてもじゃないが足らず国民100万の魂を磨り潰してやっとというところ。
最終手段であり国家としては自爆と変わらない。
そんなものは使えないのだ。己の体一つで光明が見いだせるなら安いものなのだろう。心情的なものは考慮するべきではない。
「はぁ……お前の言うとおりだ。この体一つで国が救えるなら安いものだな」
「ええ、その通りですので精一杯媚びてください。では、謁見のセッティングをしてきます。あ、手元の書類も片付けておいてくださいね。もちろん、謁見があるので終わるまで禁酒です」
「お前は鬼か」
宰相が出ていき一人残されたドラウディロンはこの後己が身に降りかかるであろう不幸を呪った。
王都を脱出して10日、ガゼフ達一行は竜王国の首都へたどり着いていた。
途中、エ・ランテルへの寄り道や補給、人目につかないルートを選択したせいでオラサーダルク曰く想定より時間がかかってしまった、らしい。
なお、一番ぐったりしているのはガゼフである。
乗る場所がないからとオラサーダルクの手に捕まれたままの宙づり長期間飛行は割と怖かった。
頭では安全だと理解できてはいても足の下に大地が無いというのは不安で仕方が無い。小休止の度に固い大地があることに密かに感謝したほどである。
ただ、ドラゴン達のおかげで旅は平和そのものだった。カルネ村跡に泊まった初日以外毎晩野宿だったが獣も魔獣もドラゴンの気配を察知して近寄ろうとはしない。人が踏み込もうとしない街道から離れた場所にキャンプをはれば見つかることもなかった。
飛行距離の都合でカッツェ平野の外縁部でキャンプしたこともあったがドラゴンの威圧はアンデッドにも効くらしく襲われることもなく。
実際は裏で何やら小柄な集団が暗躍していたのだが彼らは気づかず、とにかく安全な旅であった。
そして、目的地も見えてくる。
「みえてきたねー」
「ああ。さすがはドラゴンの翼だな……これほど早く着くとは思わなかった」
ガゼフとしては20~30日程度を想定していたが、オラサーダルク曰く寄り道と人間に見つからないルート選択をしてコレである。ドラゴンの飛行能力とは恐ろしい。
「キーリが頑張ってくれたおかげだね?」
ネムはそういいつつ背に乗ったままキーリストランの首を撫でた。
今は姿を隠してはいない。戦力として売り込む為、ネムとエンリはそれぞれ騎乗している。
また、城門までまだ距離があるが住民を怖がらせたりしないように徒歩で進む。
とはいえ、ドラゴンを引き連れている時点で驚かせないというのは無理な気もしたが。
やはりというかなんというか、ドラゴンは遠くからでも目立つ。
地上に降りて移動を始めて数分、城門前と城壁の上に多くの兵士が配置された。発見と同時に警戒態勢に入ったようだ。
「じゃあ、オラサーダルクとキーリストランはここで待機していて」
「うむ、いつでも呼べ。どこにいても、何が障害になろうともすぐに駆け付ける」
「キーリも待っててね」
「ええ、ネムも何かあったらすぐに呼ぶのよ?」
「大丈夫、ハムスケをいつでも出せるようにしてあるから」
「そうなのだけど……」
至高の御方から派遣された護衛もいつも通りついているので問題はない。それは分かってはいるのだが、レメディオスの一件以来不安はぬぐえない。
「では、いこうか」
「はい」
「はーい」
「と、止まれ! な、何者か?!」
門から5mほどの所で兵士に囲まれた。後方のドラゴンが気になるのか槍を構える全員が及び腰だったが、それでも職務は遂行するらしい。
「私はリ・エスティーゼ王国から来た者だ。故あって家族と共に亡命を願い出たい」
ガゼフの言葉を聞いて兵士達に動揺が走る。
「おい、あれって……?」
「あ、お前も見た記憶があるか? 何年か前にあった交流使節団の護衛時に見たぞ。確か周辺国最強の剣士と謳われる男だったはず」
「聞いた事があるな、ガゼフ・ストロノーフだったか。しかし、本人か?」
「王の側近で常に王宮にいると聞いたぞ? それが亡命?」
「それより後ろのドラゴンは何なんだ? 背中にあの子供達を乗せていたようだが……」
「ガゼフが力でねじ伏せ使役しているのか? 周辺国最強なら可能なのか? わからん。とにかく宮殿に使いを出せ。返事が返ってくるまでは現状維持だ」
何やら小声でやり取りした兵士達。話がまとまったのか一人の兵士が進み出る。肩に他とは違う徽章をつけているところをみるに隊長格だろうか。
「後ろのドラゴンはなんだ?」
「友であり護衛だ。暴れたりはしないから安心してほしい」
「し、支配下にあるのか?」
「私の支配下にはないが武器を向けない限り敵対はしない」
「そうか。今この国はビーストマンの大侵攻で危機的状況にある。それを理解した上でここまで来た理由はなんだ?」
「それが理由だ。傭兵をするのに事欠かいないだろう? 家族の住む地を守るために剣を取り稼ぎを得る。私は剣を振ることしかできないのでな」
ガゼフとしては言葉通り傭兵として国に雇われるか、あるいは冒険者として登録してみるのもアリかと思っていた。まず何よりも生活するための金が要る。
ガゼフ自身は無一文で国を出てきたので竜王国への道中はエンリとネムが持っていたジュゲム資金から出ている。そのため早急に稼ぎが欲しい。
ジュゲム資金も有限のため娘達もアルバイトなりで稼ぐと言ってくれてはいる。
しかし、ガゼフとしてはもっと自分達の為に時間を使ってほしいのだ。こんな状況で贅沢言っていられないのは理解しているがそこは線を引いておきたいと考えている。
「なるほど。よほど腕に自信があると見える。……一手、御指南頂きたい。どうだ?」
「受けて立ちたいところだがこの身一つで逃げてきたのだ、残念ながら武器の持ち合わせが―どうした、ネム?」
ネムがガゼフの腕を引く。
「はい、おとーさん。家の倉庫にあった剣だよ」
ネムがポーチから剣を引っ張り出した。明らかにポーチに入る大きさではないその剣はどう控えめに見てもただの剣ではなく、倉庫にいれてあった記憶もない一振りだった。
「……持ち出せていたのならもう少し早く渡してくれたらうれしかったな」
ガゼフは苦笑しつつ差し出された剣を握った。初めて握ったはずの剣だが握り具合も剣の重心もガゼフ専用に調整されていたかの如くしっくりくる。魔法の力はないが刃の色合いを見るに鉄剣でもなくミスリルの輝きともまた違う。少なくとも自分が貸与されていた国宝と並んでいてもおかしくないランクの品だった。
出所は『どちら』だろうなどと考えつつガゼフは剣を構える。入国後の事を考えて力をアピールしておくいい機会だと思った。
相手の隊長も同じく剣を抜き構える。
「隊長、お待ちください! 案内の者が来ております!」
「む……そうか。仕方がない。こちらから申し出ておいて申し訳ないのだがまたいずれという事で」
「わかりました」
隊長はそれなりにできる相手だと思えたので少々肩透かしを食らった気分だったが力をアピールする機会は他にもあるだろう。
「その者が案内しますので」
兵士が進み出て先導を開始する。ガゼフ達はそのまま首都内に踏み込んだ。
「なんだか……元気がないね」
「……そのようだな」
ネムでもわかるほど住民の纏う空気は重かった。国力の大半を兵力に注ぎ込まねばならず、それであっても今回の大侵攻には抗い切れていない。徐々に奪われる領土とすり減る防衛兵力、兵力抽出による働き手の減少も重なりもはや諦めている民も少なくないのだ。
そして、ここは首都である。首都ですらこのありさまなのだ。前線に近い都市はもっとひどい。
「酷いだろ? 男はほとんど兵士になるから生産力もどんどん落ちてる。首都に詰める衛兵が言うのも難だが……この国はもう持たない」
「……それほどか」
「それほど切羽詰まってるさ。傭兵希望とはいえ、わざわざこの国を選ぶ必要は無かったんじゃないか? 家族がいるならなおさらだと思うがね。さて、ここからは別の者が案内する」
案内された先は王城の門だった。役所的な所へ連れていかれるものと思っていたのだが。
はて、と首をかしげるガゼフの視界に手招きをする男が映る。
城門脇の通用門前にはどこか冷ややかな笑みを浮かべる文官らしき男が待ち受けていた。
「どうぞ、こちらへ。娘さん方も一緒でかまいません」
その男は有無も言わせないまま城内へガゼフ達を誘導していく。
「さて、一つだけ聞いておきます。本物という認識で間違いないですね?」
「何にについて本物か問うているのでしょう?」
ドラゴンか、あるいはすでにガゼフ・ストロノーフであると看破されているのか。
「失礼。リ・エスティーゼ王国のガゼフ・ストロノーフ様で間違いないですね?」
「……残念ながら証明するものは持ち合わせていないが」
「流石に五宝物は持ち出せませんか。残念だ」
「あれらは借り受けていたものだ、国を捨てる者が持ち出していいはずがない」
「それもそうですね。あわよくばと考えてしまいました」
それきり会話は無くガゼフ達3人は男の後ろに続く。
そのまま案内された先には荘厳な扉が。
ガゼフとしては見慣れた類のモノであるがエンリは目に見えて動揺した。その様子を見たネムも少し遅れて驚いた、フリをした。内心ではナザリック内の物と比べてしまい小さいなぁとか考えながら。
あそこと比べてはいけない。
「さて、着きました。陛下がお待ちです」
「お、お義父さん。陛下、って……」
「……」
目に見えて委縮するエンリを前にガゼフは案内の文官を見やる。
男はただ中へいざなうのみ。
「すべて私が対応する。二人は黙っていなさい」
頷く二人。呼吸を整え3人は玉座の間へ入っていく。
正面に見える玉座に座るのはネムと同世代と思われる少女が座っていた。
跪き言葉を待つ。
「あら、思っていたより普通ね。てっきり帝国の武王みたいなのが来るかと思っていたけど」
「陛下、ガゼフ・ストロノーフ殿をお連れしました」
「本物? 正直普通過ぎるけど」
「本人曰く、証明の手段はないそうですが……この真偽のほどは実際の働きで分かるかと」
「ふぅん、そう。私はドラウディロン・オールクルス。滅びの危機に瀕している国の女王よ」
ネムと同じくらいと思われる少女は女王と名乗った。
エンリとネムは驚きガゼフはやはりと納得した。竜王の名前くらいはガゼフでも聞き及んでいる。
「私はガゼフ・ストロノーフ。元はリ・エスティーゼ王国に忠誠を捧げておりましたが故あって祖国を追われました。私にできることはただ剣を振るう事のみ。どうか、この国で私の武を役立てていただきたい」
「この国は少しでも戦力を欲しているの。だから、貴方の事情にも出自にも触れないわ。……近く少数精鋭による頭狩り作戦が発動される。貴方もそれに参加してまずは己の力量を示すこと。それが十分に出来たなら相応のご褒美はあげるから頑張って」
ご褒美という言葉と共に足を組み替える。見た目年齢相応の健康的な脚がドレススカートの下からさらされた。
これをこの国唯一のアダマンタイト級冒険者チームに向けてやると、そのリーダーの男の目が釘付けになる。
冒険者チーム『クリスタル・ティア』のリーダー、セラブレイト。
『ホーリーロード』という職につく彼は強さもチームとしての信頼性も兼ね備えていたが極度のロリコンだった。愛でることが出来ればよいと考える紳士タイプではなく、性的な接触を求める危ない方。その性癖故御しやすいのだが、最終的にこの身を差し出す事になりかねず非常に悩ましい。
さて、この男はどちらだろうかと試してみた。
結果、怪訝な顔をされた。ついでに、口にしてもいいのかという葛藤が見て取れる。
はて、と内心首を傾げた。これは情報が間違っているのではないか、と。
その後は『頭狩り作戦』の拠点への案内や仮宿と当面の生活費の提供等宰相から話させて謁見は滞りなく終わった。
「おい」
ガゼフ達が出て行くとドラウディロンは宰相を睨みつけた。
「何でしょう? この後酒におぼれる予定の陛下と違い私は忙しいのですが」
「アレのどこがロリコンだ。正真正銘の堅物ではないか!」
「そのようですね。陛下で縛り付けることが出来れば楽だったのですが……はぁ、他の手を考えねば。単純に金銭でしょうか。ドラゴン達の餌代も国で持つことにしてあとは娘たちの養育費などで縛るのが適当かと」
「最初から知っていたのではあるまいな?」
それならば脚見せパフォーマンスは不要だった。あれはアレで割と恥ずかしい。
だが、宰相は素知らぬ顔で。
「そんなわけないじゃないですか。そうだったら扱いが楽で助かるなとは思っていましたが。あれこれ手を回して縛る理由を作るより陛下一人がその身を捧げるだけで事が済むならその方が楽です。私はやらねばならない仕事が非常に多いので」
実際現在の竜王国はこの男の手腕で生き延びているといっても過言ではない。それほどまでの男だからこそ自分の本性も知らせている。
「そうだ、陛下。ガゼフ・ストロノーフを縛る鎖の候補として娘達を利用しましょう。同世代の小娘として今の形態で近づいてください。妹の方ならセラブレイトを相手にするより気が楽でしょう?」
ロリコンの相手をするのも嫌だが子供のふりをし続けるのもわりと苦痛なのだが。
しかし、現在進行形で生きたまま喰われるという苦痛を味わっている民のそれとは比べるまでも無い。
「わかった、それとなく近づいてみる」
「よろしくお願いしますよ。では、私はこれで」
宰相が去り玉座にはドラウディロンが一人。
「ガゼフ・ストロノーフと支配下の竜がどれくらい役にたってくれるか……」
地位はあれど力を持たない女王はビーストマンの侵攻を抑え込めるほどならば良いと祈るしかなかった。
現状、エンディングまでの構想は出来上がっていますのであとは文字に起こすだけ。
まあ、それが一番難しいのですが。