オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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今回から王国編となります。

そんなに長くはならない予定(未定)


王都での出会い

王都リ・エスティーゼ。その一角に小さな孤児院がある。慈悲深い第三王女が私費を投じて保護しているものの一つだ。しかし、少し前の戦争で孤児が大量発生し受け入れ可能人数にも限界が来ていた。ここで生活している子供は30人。一方でここを管理している大人は一人しかいない。

その女性とエンリが出会ったのは偶然だった。

市場で大量の食材を抱えふらふらしていたのを見かねて助けた。そして、孤児院の現状を知ったエンリは時間を見つけては手伝いに来ている。

「エンリさんって、力持ちですよね。同じ女性とは思えないくらい」

「うぐっ」

孤児院の管理者、リアという女性に悪気は無いのだが年頃の乙女であるエンリは非常に気にしていた。

最近、ガゼフ邸の老夫婦に代わり買い物をしていると実感できてしまっていた。今もリアの倍以上の荷物を持って歩いているが特に辛くも無い。

実の所、腹筋も目に見えて割れてきているし腕を曲げれば小さくない筋肉が自己主張する。

オラサーダルクが言うには経験を経て強くなったのだという。最初は恐怖したが今では概ね受け入れることが出来ている。筋肉量の増加は少々問題だが。

「あ、つきましたよ。今日もありがとうございます」

「作るのも手伝いますよリアさん。運んでおきますから先に子供達に顔を見せてきては?」

「そう、ですね。では、お言葉に甘えて」

孤児の中には精神的に不安定でリアが側にいないと不安がる子供もいる。その子の顔が頭をよぎったのかリアは足早に子供達の所へ向かった。

「じゃ、運んじゃいますか。よいっしょっと」

リアが持っていた分と今まで持っていた分の食材。それらをまとめて持ってもまだ余裕のエンリであった。

そんなことをしているから筋肉がつくのでは? と突っ込むものはいない。

 

「あ、荷物はそちらのテーブルにお願いできますか?」

「へ? ひゃぁ!?」

孤児院を世話するのはリア一人。そうおもっていたのだが台所から声が飛んできた。驚きつつも荷物は落とさないのが流石である。

「あら、ごめんなさい。驚かすつもりは無かったのですが」

荷物を置いてみてみると同年代と思われる女性がエプロンをつけて立っていた。昼食の用意をしているのか切りかけの野菜が手元にある。

その女性は同性でも思わず息をのむほどの美貌。不躾とは理解しつつもその顔から目が離せない。

「えっと、近所の方ですか?」

「近所……、そうですね。比較的近くに住む者です」

荷物を置いてさらに観察してみる。話しながらも野菜を切る手は止まらず手際がいい。ただ、きている服は一般的なワンピースなのだが、どこか高級感が漂う。なんとなくちぐはぐ感がぬぐえない。

「普段から気にかけていたので来てみたのですが誰もおられなかったので勝手ながら昼食の準備をと思いまして」

「あ、はい」

そもそも、今日の食材ですら備蓄が無かったからリアとエンリは買い物に出ていた。今加工されていく食材は彼女が持ち込んだのだろうか?

「エンリさんも手伝ってくださいね」

「わ、わかりました」

「今クライムが水を汲みに出ていますから火の用意をお願いします」

「はい」

王都には火を起こすマジックアイテムが出回っているが孤児院に備えるほどは安くない。故に種火から作る必要がある。かまどの残り火を掘り起こし藁を置き薪をくみ上げ火を大きくする。ガゼフ邸にはマジックアイテムがあるためボタン一つで火がつくし火力の調整も思いのままだ。この作業をするのは村にいたころ以来で久しぶりだが何とかなったようだ。

「ラナー様、ただいま戻りました」

「ありがとう、クライム。エンリさんがかまどの用意をしてくれたから鍋の用意をお願いね」

「はい、畏まりました」

井戸の方から水桶を持ってきたのは若い男性。どこか幼さを残しつつも精悍な顔つき。服が隠していない部分にはバランスの良い筋肉が見え相当鍛えているのがうかがえる。そして、帯剣していた。

ラナーの違和感と護衛らしき男性。そこまで来てエンリはなんとなく察した。近所の貴族様の娘さんが気まぐれで施しへ来たのだと。辺境の村で育ち、王城でのガゼフへの風当たりを聞いているのでエンリの貴族への印象は悪い。

「エンリさん、次はこれを―」

命令も出し慣れているようだ。

色々と思うところはあるがとりあえず悪い人ではなさそうなので素直に従い料理を進めていく。普段の昼食なら小さく硬いパンと具の無いスープくらいだがこの女性が食材を持ち込んだため今日はスープにたっぷりの野菜と塩漬け肉まで入っている。子供達が喜びそうだとエンリはうれしくなった。

「エンリさん、もうすぐできますから子供達と食堂の準備をお願いできますか?」

「はい、ラナーさん」

ごく自然に名前を呼びつつ食堂へ向かう。匂いが孤児院内に漂い始めたので子供達も食堂に集まり出しているはずだ。ただ、今日は夢中になりすぎて裏庭から動いていないかもしれない。何しろ今日はネムとその『自称臣下』が来ているから。ネムもいつの間にそんなに偉くなったのやら。

ふと、足が止まった。

先ほどまで一緒にいた推定貴族の娘さん、ラナーという女性に名乗った記憶が無かった。ラナーも名乗ったわけではないが護衛の男性が何度も名前を呼んでいたので自分も自然にそう呼んでいたが。どこかで会ったことがあるのだろうか?

とりあえず、リアさんに聞いてみることにして食堂へ。案の定空っぽだったのでそのまま裏庭へ向かう。

「あ、こら、髭は引っ張らないでほしいでござる」

裏庭に出ると真っ先に目に入る巨体にはこれでもかと子供達がくっついていた。

 

不可思議な文様を持った毛皮は今でこそ子供達が抱き着けるほどふわふわだが敵対者へは針のように硬くなるらしい。深い知啓を秘めた瞳と伸縮自在の尾を持つ強大な魔獣ハムスケ。元の名を『森の賢王』。たった一体で広大なトブの大森林南部を縄張りとし支配していたため間接的にカルネ村の守護者となっていた存在。そんな存在がネムを姫と呼び付き従っている。

最初にあった時は何の冗談かと思ったが。

曰く、『姫には危ない所を救ってもらったでござる』と。

ネムが『お友達』の所へ行ってくると言って何日も帰って来ないことは以前からあったが今回は長すぎた。問い詰めてみたら父と母が恋しくなってお墓参りに行ってきたという。キーリストランの背に乗って村へ着いてみれば強大な何者かに縄張りを奪われボロボロになって逃げてきたハムスケが隠れ潜んでいた。それを見かねたネムはジュゲムからもらった水薬を与えて治療したらしい。ただ、手持ちはすぐに無くなったので森へ入り少しずつ薬草を集め治療を続けたため時間がかかったとか。黙って王都を出たことに反省もしていたようなので養父も許しガゼフ邸に居候が一体増えた。

 

「みんな、もうすぐご飯ができるよ。手を洗って食堂へ向かって」

「はーい!」

「エンリおねーちゃん、ありがと!」

「ごはん! ごはん! ごっはん!!」

「ハムスケ、ごくろーさま。ハムスケの分はすぐに持ってくるから!」

「ふう、子供の相手は疲れるでござる……」

子供達とネムがあっという間に駆け去り遊び相手をしていたハムスケは心底疲れた様子で四肢を投げ出しベロンと伸びた。

「でも、子供達すごく喜んでいました」

「そなた、人間のくせにすごいでござるな。某には30人もの子供を毎日相手にするなんて無理でござるよ」

「あはは、好きでやっている事なので問題ないですよ。それに、最近はエンリさんやネムちゃん、ハムスケさんも来てくれるのでだいぶ楽させてもらっています」

「姫も楽しそうなので某もうれしいでござるよ」

ゆらゆらとハムスケの尻尾が揺れている。うれしいとこうなるらしい。

「最近ちょっと姫の周りで色々あったでござるからなぁ……同種の同世代と遊ぶことで気が休まるといいのでござるが」

何やら遠くを見てぼやくハムスケ。色々あったというが、ネムの話だとハムスケと出会ったのはつい先日のはずだ。何かがおかしい。

「リアさーん、おねーちゃーん! 早くきて!」

食堂の方からネムの声が聞こえる。ハムスケを問いただしたいが時間は無い様だ。それに、貴族の女性に全部押し付けるわけにもいかない。

「あ、そうだ。リアさん、ラナーさんっていう女性が手伝ってくれているんでした。早く行きましょう」

「えっ……ラナー、様、が……?」

「はい。名乗ったわけじゃないですけど、護衛の男性がそう何度か」

 

次の瞬間リアは光になった。

 

「えっ、はや!?」

身体能力が上がったと実感してきたエンリでも追いつけないほどの速さ。

エンリも慌てて後を追った。

 

調理場には華麗にスライディング土下座を決めたリアと困惑した様子のラナーがいた。クライムは配膳に行ったのかここにはいない。

「ラ、ららラナー様、お手を煩わせる事になり申し訳ありません!」

「リアさん、以前から何度も言っていますがここにいる時はそんなに畏まらないでほしいのですが」

「む、無理ですよ! 畏れ多い!」

王都に住まう貴族の娘にここまでの反応を見せるだろうか? ちょっと行きすぎな気がするがそれ以外の選択肢がぱっと思いつかない。

リアとラナーのやり取りが堂々巡りになり出したのでエンリは素直に聞いてみることにした。

「ラナーさんって、どこの家の方なのですか?」

「ヴァイセルフ家の末席におりますわ」

「へー、ヴァイセルフ家。……ええ? ……それって王様の家系じゃ……?」

養父が王家に仕えているのだ。貴族社会に疎いエンリでもそれくらいは知っている。

それ故にフリーズした。

「はい。ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。それが私の名前です」

そういえば、養父が時々名前を口にしていた事を思い出す。しかし、普通、第三王女が孤児院の調理場で包丁を振るっている姿なぞ想像できない。リアの困惑ぶりも理解できる。

「えっと、王女様がどうしてここに?」

「この孤児院の設立に私が直接関わったからですよ。それ以来時々お城を抜け出して遊びに来るんです」

「そんな無茶苦茶な……」

王位継承権は第3位とはいえ、第三王女がたった一人の護衛だけ連れて王都の外れにある孤児院に遊びに来るなぞどう考えてもおかしい。

リアは相変わらず顔を上げようとしないしエンリはどうしていいかわからず動けない。

ラナーはラナーでここまでの反応をされると考えておらずほほ笑みの仮面をかぶったまま静観する。

「おねーちゃん、まだー? みんな待ってるよ」

調理場に飛び込んできたのはネム。調理場にいる人物を眺め首をかしげる。

「あれ、ラナーおねーちゃんも来てたんだ。こんにちは」

「はい、こんにちは。ネムさんもお元気そうで。けれど、その……良かったのかしら?」

「へ、何が? ……あっ」

ネムとラナーのやり取り、ネムの反応。そこまで来てようやくエンリが再起動する。

「ネム、王女様と知り合いなの?」

「し、知らない!」

「じゃあ、何よ今の挨拶は!」

「しらないしらないから!」

「どう見ても嘘でしょ!」

唐突に始まった姉妹のやり取り。頭脳明晰なラナーは即座にどうすればいいかを選び出す。

「ネムさん、潮時ですね。お話してしまいましょう」

そう言ってラナーはエンリの方に向き直る。

「エンリさん、何を隠そう私はネムさんの『お友達』なのです」

『お友達』それはネムがガゼフ邸を空ける際口にする宿泊先だ。お礼の一つも言わねばと聞き出そうにもネムは口を割らず、蒼の薔薇の双子にお願いしても見つけ出すことが出来なかった『お友達』。

なるほど、王都中を探しても見つからないわけである。まさか、王城の中に遊びに行っているとは思わない。双子も最初から除外していただろう。誰だって王女と一般市民がお友達になるなんて考えもしない。

「えっと、どうして?」

「以前ここへ来る途中、迷子になりオロオロしていたネムさんをクライムが偶然見つけて、ですね」

当然でっち上げである。

面識があるのはネムがナザリックに来ている事への偽装工作にラナーを利用しているため。

アインズの指示で偽装工作を任されたデミウルゴスが白羽の矢を立てた。ラナーはデミウルゴスやアルベドが一目置く知啓の持ち主。何か不測の事態が起きてもうまくやるだろうと。

ネムが姉の追及をかわし続ければそれでよく、ダメなら名乗り出る。王女が相手なら姉も強くは出ないはずだ。

もとよりラナーはとあることを条件にナザリックに全面協力している。裏切りの心配も無い。

「で、でもでも……ラナーおねーちゃんも街に出てきたことは秘密にしたかったから二人だけの秘密にしようって……」

一瞬ヒヤッとしたがネムは必死に設定を出す。本当は姉に嘘をつき続けたくはないが、エンリがあの夜の事を思い出すきっかけになってしまいそうなナザリックとの縁を知られるわけにはいかない。

「いずれはお話ししようと思っていましたが私との縁でネムさんやエンリさんに累が及ばないとも言えなかったので隠しておくことに。あ、二人の秘密とは言いましたが私以外だと護衛のクライムが知っています」

怒られると思っているのかネムは不安げにエンリをみる。

言いたいことはあったが王女様相手にあまり文句を言うわけにもいかない。だから一言だけに決めた。

「王女様、どうか父にも説明をお願いできますか?」

「ええ。すべてお話しておきますね」

「では、私からは何も」

「ふふふ。ネムさん、いいお姉さんですね?」

「でしょー?」

「ささ、子供達が待っていますからご飯の用意を終わらせてしまいましょう。リアさん、立ってくださいよ」

相変わらずリアは土下座モードのままで。

「エンリさんもリアさんも、ここにいる時の私はただのラナーです。そんなに畏まらないでくださいね?」

そりゃ無理だろうと思わなくもないが普通に接するネムの手前気にしないことにした。大きな成長を経て気も大きくなったのかもしれない。

「うぅ……なんでエンリさんは平気なんですか……? 王女様ですよ? 王族ですよ? 孤児院を建てて私を雇っていただいた御方にそんなふうに接するなんてむりですよぉ」

「無理でも今はしゃきっと立ってください。待ちきれなくなった子供達が来ちゃいますよ? ネム、リアさんと先に行って他の皆をもう少し我慢させておいて」

「はーい。リアさん、いくよー!」

「あ、あ、あ、ネムちゃん!? すごく力持ち!?」

リアはネムに容赦なく引きずられていった。レベルが上がって身体能力が上がった結果である。

残ったエンリは小さくため息をつくと改めて配膳の準備に取り掛かった。ラナーもそれに倣うがそのラナーからの視線が妙に気になる。

「何か、私の顔についていますか?」

「いえ。ただ、竜の女神と呼ばれる女性がどんな方か、気にはなっていたもので」

思わず手が止まる。

「魔皇ヤルダバオトと名乗る悪魔が王都を襲った時、光り輝く衣を纏った女性がドラゴンを駆り多くの兵士を救って回った話は有名です。そして、帝国との戦争の時も。アインズ・ウール・ゴウン魔導国の介入で地獄と化した戦場にもかの女性は現れ強大な魔物を討伐せしめた。助けられた兵士達は誰もその顔を覚えていなかったけれど、彼らはその行いを崇め小さな宗教の体を為してきているのです」

「なぜ、私だと?」

「あら、やっぱりエンリさんだったのですね」

一瞬の間。にこやかにほほ笑むラナーの顔を見てカマをかけられたことに気づく。

「おおよその予想はしていました。貴女が王都に現れた時期、同時に上がったドラゴンの目撃証言とその分布等から。後は、クライムとは別に身辺警護をお願いしているブレインさんから戦士長宅の庭にちょうどいい修行相手がいるとも」

そういえば最近ブレインが新しい働き口を見つけたと言っていた。オラサーダルクに相手を頼み技のキレが上がってきたとも。

人類最高峰の頭脳を持つラナーにしてみれば割り出すのは実に簡単だった。今後の為に縁をと思っていたところに今回の遭遇である。ナザリックからの命令は渡りに船だったのだ。

「別に吹聴するつもりじゃありませんよ? ただ、お会い出来たら一つだけお願いをしておこうと思っていました」

「お願い、ですか?」

「はい。将来私が危機に陥った時、助け出していただきたいのです。これはただの保身。政変のごたごたで命を落としたくは無いですから。少しでも強い味方を得ようと動いていますが限界があります。身近に置けば隠すこともできません。ですので、万が一私の危機を察知できたならぜひとも助けに来ていただけませんか? 私とクライムを」

クライムの名が出た途端、空気が変わった。

否とは言えない空気。

これが王族の威光なのだろうか。その割には妙な寒気もするが。

 

雰囲気にのまれたエンリはただ、頷いて応えた。

 

「ふふふ……」

エンリはラナーに何を見たのか、鍋を持つと足早に食堂へ向かった。

残った王女は怪しく微笑む。

「計画は順調、ああ、バルブロお兄様。早く事を起こしてくださらないのかしら? おぜん立ては十分に済んでいるはずなのだけど……」

 

 

その部屋には甘ったるい不思議な匂いが満ちていた。

中央にあるキングサイズのベッドの上には裸の男女が数名。

甘ったるい匂いと情事の残り香、そして、濃厚な血の匂い。常人なら呼吸も辛いだろう。

「流石は強力なマジックアイテムだ。値は張ったが効果に間違いは無いな」

よくよく見ればベッドの上で動いているのは男一人。ともにベッドの上にいる3人の女性はピクリとも動かない。

ある者は自らの指をで己が眼球を抉り出し息絶えていた。

ある者はナイフで腹を真一文に切り開き臓物を溢れさせていた。

ある者は四肢があり得ない方向に折れ曲がり、その顔は殴打に晴れ上がり原形をとどめていなかった。

「この力に抗える者はいない。死を命じても受け入れる。……父上。早く決断してくださればこれを使う必要も無かったのですぞ……。くくく……」

凶悪なマジックアイテムの力に酔いしれる男の名はバルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ。この国の第一王子である。

王位継承権は第一位。このまま父王が退位を決めればこの国の王となる。はずだった。

だが、近頃雲行きが怪しい。きっかけは帝国との戦争、その敗戦。アインズ・ウール・ゴウンなる魔法詠唱者が介入し、たった一発の魔法で王国軍を壊滅させたらしい。バルブロ自身は次代の王の安全のためという建前で後方配置だったため見てはいない。だが、目の当たりにした父王は大きなショックを受け何やらふさぎ込んでいる。

このままでは魔導国に降るなどと言い出しかねない。そんなことになれば王位はどうなるのか。属国ですめばいいが王家断絶の可能性も大いにある。

それは避けなければならない。そう決めたバルブロは水面下で行動を開始した。

 

計画は思っていたよりスムーズに進んだ。途中、頭のいい妹を巻き込めたのが大きいかもしれない。頭はいいが愚かな妹は下民出の兵士への降嫁を許すことを条件に従った。

ラナーの計画に基づき王派閥と第二王子派閥の人員を罠にはめ削ることに成功している。今や王城内はそのほぼすべてがバルブロの手の者になっている。

そこへこのマジックアイテムが手に入った。後は決行のタイミングだ。

スムーズな王位継承のためのシナリオも出来上がっている。

「おい、死体を片付けておけ」

メイドを呼び出し命じる。メイドは無残な死体を見ても無表情に顔色一つ変えることなく掃除を始める。完全にバルブロの支配下にあるのだ。

 

このマジックアイテムは『支配の邪眼』という物。裏で繋がりのある犯罪組織である八本指が入手した物を、足元を見られた感はあるが高値で買い取った。この国の王になれば金に関しては問題なくなるので先行投資と割り切ることに。

『支配の邪眼』は禍々しい単眼をモチーフにした首飾り型のアイテムで名前の通り対象を魅了し支配下に置くことが出来る。片っ端から試した結果、支配に抵抗したのは王国戦士長ガゼフ・ストロノーフと妹の護衛として取り立てられたブレイン・アングラウスだけだ。

この支配効果は永続でそれこそどんな命令にも応じるようになる。ベッドに転がっている死体は殴り殺せと命じたのと、自殺せよと命じてみた結果だ。

命令の効果は大きく、『命じられるまで支配されていないフリをしろ』という命令もきちんと遂行されているため王城の中で気づくものはいない。知っているのは妹だけだがお付きの兵士を支配下においているため何も言わないだろう。

最早バルブロに逆らえる者はいなかった。

 

「などと盛り上がっている頃かと思います。早ければ2、3日中に。遅くとも今週中には決行するかと」

深夜、この日は月も出ておらずとある部屋のバルコニーにいる二人をうかがい知ることはできない。

「わかりました。では、こちらも動く準備をしておきます。……ところで、彼の支配は解除しなくてもよいのですか?」

互いの顔を見えないが二人は会話を続ける。

「もちろんこのままでかまいません。お兄様が変な気を起こしてくれれば大歓迎です」

「……つくづく変わっている。ですが、貴女の働きは評価に値する。主もお喜びになるでしょう。では、事が起きたら連絡を」

「はい、影に潜む悪魔を介して、ですね」

そして、彼女は一人になった。

 




寒いです
しかし、暑いよりマシなので筆が進みます
まぁ、それでもこのペースなのですが

やる気だせ! って喝いれてくれてもいいのですよ?

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