オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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そこまででもないと思うけど、一応グロ注意で




戦場に咲く紅い花

そいつは全身からこれでもかと殺気を迸らせ抜身の聖剣を手にまっすぐ向かってくる。

「我らが! 正義の下に!!」

バザー目指して突っ込んでくるのは聖騎士団長レメディオス。阻止しようと武器を構えたバフォルクを歯牙にもかけず一刀のもとに切り捨ててなおその勢いは衰えない。

「死ねぇ!!!」

バザーは迎え撃つため剣に手を伸ばす。そして何もつかめなかった。

愛剣『砂の射手』はネムとのやり取りで砕けてしまった。盾もほぼ残骸となっておりあの剣を受ける能力は無い。

とっさに身をかわそうとするが初動の遅れは致命的で。

 

「まって!」

バザーの前にネムが飛び出した。

「「「「なっ!?」」」」

バザーもレメディオスもアインズも見えざるネムの護衛も声に出して驚いた。

「どけっ、邪魔だ!」

憎きバフォルクの前にいられると邪魔なのだ。バフォルクは何故か武器を持っておらず好機なのだ。この機を逃すわけにはいかない。故に強制的に退去してもらう。

ネムを排除すべく無造作に振られた剣は身長差からかネムの側頭部に吸い込まれた。

当てたのは剣の刃の無い腹の部分。一応殺すつもりは無かったのかネムの頭部が切断されることは無かったが鈍い音が響き軽いネムの身体が吹っ飛ぶ。

レメディオスはもうそちらを見ていない。一方で目の前のバフォルクは吹き飛んだネムを目で追いレメディオスを見ていない。あとは無防備なその首をはねるだけ。

彼我の距離はもう無い。

「死――ぐぁっ……がぼはぁ……!?」

肺から空気が押し出される。目の前にいたバフォルクは消えていた。

否、レメディオスの顔が地面に埋まっていたのだ。超重量のナニカに押しつぶされるように叩きつけられた。前歯は砕けひしゃげた鼻からはとめどなく血が流れ出る。

「……レメディオス殿。今の行為は我が魔導国への宣戦布告ととらえるがいいかね?」

異常を察して駆けつけた副団長グスターボはその光景を見て大体察してしまった。

「何、を! ふざけた事っを!」

側頭部から血の流し意識を失っているネム、それを助け起こしポーションを口に含ませようとしているネイア、空気が凍り付くかのような静かな怒りを湛える魔導王、地に伏しドラゴンの脚の下でもがく聖騎士団長レメディオス。

団長が暴走し、最悪の手をうったのか。

「陛下! 怪我は何とか大丈夫そうです!」

ネイアの言葉で少しだけ空気が動いた。だが最悪な状況は何も変わらない。選択を間違えればその瞬間魔導国、この凶悪な力を持ったアンデッドが敵になる。

だが、グスターボでは判断を下せない。背中を嫌な汗が流れ落ちた。

「レメディオス殿が答えないのならば他の者でもよいが?」

魔導王の声に応える者はいない。

重苦しい沈黙が場を支配する。

 

「魔導王陛下、我が国にそのような意思は当然ありません」

沈黙を破った声の主は聖騎士団員に付き添われ現れた。

彼は解放軍が欲していた人物。王家の血を引く人物だった。捕虜から得た情報では確実性は無かったのだが杞憂に終わりなんとか救出に成功したところだ。

「魔導王陛下、こちらは聖王国王家の血を引いておられる王兄、カスポンド様です」

魔導王が突然現れた人物に警戒した様子だったのでグスターボはすぐに紹介した。

「なるほど、して、どうするおつもりか?」

王兄カスポンドはドラゴンに警戒しつつもその脚の下で藻掻くレメディオスの側へ。護衛の聖騎士も慌てて移動しドラゴンとの間に。ドラゴンからは聖騎士であっても体の震えを律しきれない殺気を向けられる。

「聖騎士団団長、レメディオス・カストディオ。王家に連なるものとして告げる。他国の要人に手を出す暴挙誠に許し難い。今この時を持って聖騎士団団長を解任、同時に国家反逆罪とし国外追放とする。二度と聖王国の地を踏むことは許さん」

「な、なにを、バカなことを! 聖騎士を罷免できるのは聖王女だけだ! カルカ様だけだ!」

レメディオスはキーリストランの脚の下で声を上げる。

それは本来なら正しい。聖騎士は代々の聖王に忠誠を捧げ叙任される。

だが今は。

「だが、カルカはもういない……。ならば王家に連なるものとして私は義務を果たさねばならない。国難に皆で立ち向かわねばならない時にお前の軽率な行動は害悪でしかない。救援にはるばる異国の地にまで来てくれた王の民をあわや殺害しかけたのだぞ? この瞬間魔導王陛下と敵対して我が国にとってどれほどの益がある? お前の頭にはそれすらわからないほどの脳みそしか入っていないのか?」

怒りと絶望とをないまぜにした表情に歪むレメディオスを放置し王兄カスポンドはアインズに向き直った。

「このように、この者は我が国の民ではなくなりました。よって、処分は如何様にでも」

「なるほど。理解した。キーリストラン、『次』が来たぞ。好きにしていい」

「ぎぁ……や、やめ、ろ!」

ミシミシと響くのは骨が重圧に耐えかねてあげる悲鳴。上半身を押しつぶされていくレメディオスは必死に藻掻くがキーリストランの拘束を抜けることはできない。

「ネムに剣を向けるような暴挙、一度は許すが二度は無い」

魔導王の言葉は処刑宣告だった。

「本来なら慈悲を与えるべきではないがお前の立場を鑑みここで終わらせる」

ナザリックにおいて死とは慈悲である。それこそ永遠に苦痛を味合わせてもいいが脳筋猪武者とはいえ一国の軍事力のトップである。一応の立場はあったため慈悲は与えられる。

 

ゆっくりと圧力が増す。ネムが傷つけられて怒り心頭のキーリストランはアインズの許可が出たことで気兼ねなくこの人間を殺すことに決めた。ただ、簡単には殺さない。自分が何に手を出したのか、十分に後悔するだけの時間を与えるつもりだった。それ故にゆっくり、細心の注意を払って足に力をこめる。

 

周囲の聖騎士達の一部は剣に手をかける。だが、グスターボがその手を押さえ阻止する。そして、目を伏せると無言で首を横に振る。

あきらめろ、と。

謎のゴブリンに連れ去られた聖王女カルカの生存が絶望視される中、王兄の地位は暫定的にだが最上位となる。その判断に思うところはあるが口を挟むことは立場上できない。

それに、今この場で魔導王の決定に異を唱えるのは得策ではない。

理詰めで動くグスターボには、それが苦渋の選択ではあったが諦めるという選択肢しかなかった。

「……っ……はっ……が……」

重圧が増しレメディオスはもう意味のある言葉を発しない。必死に抵抗していた手足ももはや無意味に痙攣するだけになった。

ほんの少し前まで聖王国の希望とされていた元聖騎士団長に対する公開処刑。

たしかに猪武者で頭が足りず団長の地位にはかなり物足りなかった人物だった。だが、聖騎士としての腕前は他の追従を許さぬほど。他国の、しかも超重要人物に手を上げるという蛮行も己が正義に従い亜人の王を討とうとした時に、ネムが亜人の王をかばうように飛び出したが故の事故とも見えた。確かに、団長の技量ならネムへの攻撃を止めることもできたハズではあるが……。

 

「団長!」

この公開処刑に納得できなかったあるいはあきらめきれなかった聖騎士団員の内3人が剣を抜き、他の団員の制止を振り切るとキーリストランに切りかかる。

だが、強固な鱗にあっさり弾かれ傷一つ付けられない。

「団長を! 放せ!! 悪魔とやりあうのに団長の力抜きじゃ不安なんです!」

たしかに、個の戦力としては聖王国最高峰だ。それが欠けるのは彼にとっては不安でしかない。故にドラゴンニ相対する恐怖で顔を引きつらせつつも彼は踏み出した。

 

「バカで融通もきかなくて器じゃないと常々思ってたけど、一応上司で生死を共にしてきた人なんだよ!」

2番手の聖騎士の叫びに、それに続くまで行動に移せなかったが何人かの聖騎士が頷いた。

 

「団長! 一目見た時から惚れていました! 好きです! 愛しています! 生き延びてこの戦争が終わったら結婚してください!」

聖騎士達に今までで一番大きな動揺が走った。3人目の正気を疑う声も上がった。

 

三者三様の思いを口にしつつ再び剣を振るうがキーリストランを動かすには至らない。

キーリストランにしてみれば煩わしいので始末したいがアインズが何も言わないので放置する。許可されているのは足の下で藻掻くコレだけだ。

「ふむ、たった3人か。思っていた以上に人望の無い者が聖騎士団長を務めていたのだな。半数以上が助命を請えば考えもしたがその価値も無いようだ」

魔導王の失望ともとれる言葉を聞いたグスターボは愕然とした。まさか、試されていたのか、と。

「そろそろ慈悲を与えてやれ」

選択を間違えた。

仕方がないと諦めるのではなく彼らのように団員の多くが抗っていれば――

 

ぐしゃり、と。

 

頭蓋と上半身が重圧に耐えきれず、爆ぜた。

 

 

地面には聖騎士団長だった人間の残骸、赤いしみ。散見する灰褐色の破片は残念な頭の中身だろう。磨き上げられた鎧も重量にプレスされ一枚の板になり果てる。当然その中身は真っ赤なペースト状となって飛び散った。

なまじ下半身が無傷な分不気味なオブジェとなっていた。

ほどなくして周囲に濃密な血の匂いと内臓の内容物が放つ異臭が混ざり吐き気を催す臭いが漂う。

 

「さて、バザー。ネムを任せる。予定通りに行動し成し遂げよ」

聖騎士団長レメディオスの処刑があまりにあっさりと遂行されてほとんどの聖騎士が受け入れられず棒立ちになる中、アインズは何もなかったかのようにバザーに向き直った。

「は、はい!」

流石のバザーもあっけに取られていたのだがそれどころではないと思い至り姿勢を正す。

「その際手ぶらではやりにくいだろう。これをもっていけ」

何もない空間から引き抜かれ、差し出されたのは恐らくミスリル製であろう一振りの剣。一目見ただけで特級品であることがわかる。破損してしまった『砂の射手』とも桁が違う。

「後これもだ」

続けざまに出てきたのは胴鎧。こちらもミスリルを加工してできたと思われるその鎧は当然のごとく魔法の力を帯びていた。剣と同様元の装備『亀の甲羅』とはやはり桁が違う。

沈んでいた聖騎士達も思わず見入ってしまうほどの品々。

ネイアだけは本当にたくさん持ち歩いていたんだと別方向で驚いていた。

「今はとりあえず貸し出しという事にしておく。ちゃんと使ってお前自ら使用感を報告せよ」

それはつまり、必ず生きて帰って来いという激励だった。

少なくとも周囲にいた者はみなそう聞き取った。

なお、アインズは

(ネイアちゃん、なかなか使ってくれないからなぁ……、予定とは違うけどルーン武器を目立たせるチャンスだ!)

とか考えていた。そもそも、アベリオン丘陵地帯にいる悪魔はデミウルゴスの部下。まぁ、死ぬような目に、もしくはかなり痛い目に会うだろうが生きて帰ってくることは決定している。アインズの中では生きて帰って来いという激励にはなり得ない。

 

当然のごとく魔法の鎧であるため着用に問題は無い。軽く剣も振ってみる。派手な装飾も無く質実剛健なその剣の刀身にはなにやら魔化された文字が刻まれている。そして『砂の射手』と比べると少々短く、軽い。取り回しに問題は無いが慣れるまでには少し時間を要するだろう。

 

「装備は問題なさそうだな。では行ってこい」

「はっ、必ず戻ります!」

バザーは深々と一礼すると気絶したままのネムをそっと抱き上げると部下に指示を出し移動を開始した。

それをどうしようかと悩みつつ見送るのはアインズにネムの護衛をと頼まれたネイアだった。短い間ではあったがネイアはネムの事が気になっていた。その立場の事もあるが何よりも妹が出来たみたいでうれしかった。聖騎士団に所属する自分はここで見送るのが正しい。ただ、魔導王の言葉もあり、ネムの事が心配でありついていきたいのも事実。

ただ、この聖騎士団長が処刑されてしまった状況で聖騎士団を離れる許可など出るわけがない。

ネイアは頭を振ると気持ちを切り替えた。そもそもの任務は魔導王のそばに仕える事だ。

アレに命ぜられたこととはいえ命令自体はまだ生きている。

無残につぶされた聖騎士団長だったものを、塵を見るような目でネイアは見ていた。今までのネイアに対する仕打ちとネムへの所業、それらが相まって騎士団長としてのレメディオスへの忠誠などはまったくなくなっていた。

ただでさえキツい目つきがさらに険しくなっていた。

 

その後、解放軍は王兄カスポンドの名の下にグスターボを暫定聖騎士団長とし再編を図る。

また、民兵として連れてきた元捕虜達の休息も必要であり改めてこの小都市を新たな拠点と定めるのだった。

 

「なるほど、時が来るまでここで待てばいいのだな」

宿泊用にと案内された一室、その窓際でつぶやくアインズの手にはデミウルゴスがネムに与えた対亜人マニュアルが。

ネムを送り出す前にネムのポーチから『保護者権限』機能をつかい抜き取ったものだ。本来倉庫系アイテムは使用者本人しか出し入れ出来ないのだが制作者はわざわざ機能をつけ足していた。

ともあれ、そうして抜き取った小冊子を一読しアインズはアベリオン丘陵の方角を眺める。

デミウルゴスは『出会う可能性がある18種族』に関する情報を与えた。それはその情報を用いてアベリオン丘陵に住む主だった18種族を制圧し支配下に置けという意味も含む。

というようにネムは理解している。

デミウルゴス様の言うとおりにする→魔導国の民が増える→アインズ様が喜ぶという図式が成り立ったようだ。ナザリックの知恵者が総力を挙げて取り組むネムへの英才教育の賜物だろうか。

とりあえず、増援にアウラを送り込んだのであとはネムと二人に任せておけば亜人は問題ない。

一方でヤルダバオト率いる悪魔の軍勢に関する情報はごく一部を除きこの小冊子には書かれていない。

つまり、対峙することがないので必要がない。裏を返せば悪魔は魔導王の名声を高めるためにこちらに進軍してくるという事なのだろう。

あくまでアインズの予想ではあった。

が、概ね計画はその通りであり亜人の情報しか書かれていない小冊子から正解を選び抜けるアインズは自身が悩んでいるほど無能ではないのだが……。

知らぬは本人ばかりなり、という事らしい。

 

間もなくしてデミウルゴス配下のドッペルゲンガーがアインズを訪ねてきた。

訪問の理由は『侵攻の際に生かしてかしておくべき人間』をアインズに選んでもらうため。

ただ、レメディオスの事件の事もありアインズの中で聖王国の人間に対しての評価は著しく低くなっている。

故にアインズは投げやりに告げた。

 

「私が必要とする者はいないようだ。かまわん、好きなだけ間引け」

 

この瞬間、聖王国の運命は決した。

 

 




レメディオス聖騎士団長殉職。
後任はグスターボさんが暫定的に就任。
きっと胃に穴をあけることに。

ついでに聖王国滅亡フラグが成立しました。

あ、原作キャラ死亡のタグいるかなこれ?

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