オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

31 / 53
今回も主人公が主人公してる


聖王女のゴブリン王国探索

ジュゲムが去った後、さっそく探索を開始することにしたカルカ。

最初の一つはあっさりと見つかった。拠点とした客室を一歩出た真正面。調度品とし飾られている壺の口にソレは乗っていた。

ちょっとバカにされている気もしたが間違いなくコレだろう。最初の一つはサービスとでもいうつもりだろうか。水晶玉に触れると壁に映像が投影される。

 

映し出されたのは4人の人間と同数のリザードマン。それぞれが武器を構え相対するのはカルカが思わず声を上げそうになるほど濃密な死の気配を纏ったアンデッド。人間とリザードマンは見事な連携で凶悪なアンデッドに立ち向かう。種族は違っても『互いにできる事』を把握できていないとできない動きなのは見て取れる。手に汗握る激戦の末、8人は重軽症の差はあれど生き残りアンデッドを討伐してしまった。そして、互いに手を取り勝利を称えあう。

アレと同じことが国の聖騎士達ではたしてできるだろうか。あらゆる種族が共に歩む国の可能性。その一端。なるほど、考えさせられるものがあった。

 

それから3日、探索は思いの外順調だった。集めた水晶玉はすでに半分の5個。城内には恐らく無いと判断する。本当に隅々まで探した。宝物庫はおろかジュゲム本人やその子供達の部屋まで。その過程で王女とは仲良くなり、次男とは国政の話題で盛り上がり、長兄にはプロポーズされた。さすがに保留させてもらったが。

ゴブリンとは最弱で矮小な亜人種。それが通説だ。文化の程度も低く野蛮な彼らは人類とは相いれない。ハズだ。少なくともこの地ではそのような通説は通じない。

城の外に出て再認識することになる。

綺麗に舗装された道路、立ち並ぶ白亜の家屋。広場には噴水があり露店があり活気がある。

賑わい様は自国の大都市と変わらない。違いはそこに住まうのが人かゴブリンかという事だけ。

「城内で十分に理解いただけたと思っていたのですが、まだ足りませんでしたか?」

「そう、ですね。やはり百聞は一見に如かずでしょうか」

「ではレディ、オレ……こほん。私カイジャリがあ、案内しさせていたただきます」

「兄上、柄にもない言葉使ってないで……とりあえず、邪魔なので消えてください」

「ゴコウ、てめぇ!」

「いいのですか、思い人の前で粗暴にふるまって?」

「っ……そうだ。取り乱すわけにはいかねぇ」

なお、城門前に3人ともいるので兄弟のやり取りはカルカの目の前で行われている。

カルカとしては非常に複雑な気分だった。

「さて、バカな兄上は放っておいて探索を再開しましょうか。隠し場所の目星はついていますから」

カルカの手にはゴコウから渡された地図。それには城外の主要施設にマーキングされていた。

「父上の事ですからこの国を見せたかっただけでしょう。探し物云々はオマケなのでしょう。カルカ殿がおとなしくしていれば我々に各所を案内させたうえで水晶玉も開示していたでしょう。……あの父上は捻くれていますので」

「では、最初は広場を抜けた先の市ですか?」

「ええ。この時間なら民も多く、普段とは違うものがあれば容易に見つかると思います」

道中ゴコウとカルカは街の発展に伴う歴史や苦労話などで盛り上がった。少し後ろを歩くカイジャリは会話に参加したいが話の内容が高度すぎてついていけず不貞腐れた様子。

 

市に近づくにつれカルカは妙な視線に気づく。もとより異分子なのでじろじろ見られる事にはだいぶ慣れてきたがそれとは別の感情が籠った視線だ。何というか、少し距離が縮まったような、それでいて生暖かい視線とでもいおうか。

そのタネは市につくと解った。

それは一つの岩塊から削り出した彫刻だった。

それは二人の男女からなる。男が膝をつき女に花束を捧げ持つ。

それは男がゴブリンで女が人間だった。

それは2日前に城内で起きた光景が凄まじい精度で再現されていた。

台座には『愛は超越する』と銘が彫られていた。

「あんのクソオヤジ!!」

カイジャリが吠えた。

 

カルカは生い立ちもあって近くに男の影が近づくことも無かった。カストディオ姉妹との仲もあり同性愛者疑惑がいつも囁かれていたほどだった。それ故に、告白された事も初めてなら花束と共に愛を語られたのもカイジャリが初めてだった。

そのせいもあってかその言葉には紛れもなくドキドキしたし、正直うれしかった。お互いに人間だったら、あるいはお互いにゴブリンだったらすぐさま応じていたかもしれない。

石造にはその時のうれしいような悲しいようななんとも言えない表情も如実に再現されていた。

「父上も飲まず食わず何やっているのかと思えばこれの制作ですか……相変わらずの手腕ですね。あの熱意を他にも生かしてくれれば私も楽になるのですが」

呆れるゴコウをよそにカルカは吸い寄せられるように石像に近づく。近くで見れば見るほどその出来栄えは素晴らしいものだとわかる。これを1日で仕上げるとかどう考えてもおかしい。

ふと見ると花束の彫刻その中に水晶玉が収められている。もはや隠す気があるのか分からなくなってきた。

「ありましたか。では次に行きましょう。このペースでいけば明日にはすべてそろえる事もできるでしょう」

「ありがとうございます、ゴコウさん」

「いえ、貴女に協力する方が今後の為になるのでそうしているだけですよ。私は益が無ければ動きませんので」

この国を治める、というより管理するゴコウにとって異物の排除は危急の問題である。それが父の思惑であれ知った事ではないのである。

カルカという異物を穏便に排除するためならどんな協力だってする。

 

その後兵舎と商工会議所を見て回ったあたりで頭上の『ジンコウタイヨウ』が徐々に暗くなり出した。本物の太陽と同じ周期で光と熱を放つとんでもないマジックアイテムだ。それのおかげでこの場所は地下にも関わらず規則正しい生活が営まれている。

日が落ちれば仕事を終わりそれぞれの家に帰っていく。

「今日はこのあたりで切り上げましょう。残りの探索は明日ということで」

客室に戻ったカルカは早速水晶玉を取り出し映像を確かめることに。

一つ目は少女が竜に乗り資材運搬をする姿。

二つ目は闇妖精の姉弟がライトブルーの装甲を持つ異形と何やら楽しそうに会話しているシーン。

三つ目は恐らく帝国の文官が書類片手に眼鏡をかけた悪魔と言葉を交わしているシーン。

もちろん今までの映像全てを鵜呑みにするつもりはないが心惹かれるものはある。

見せても大丈夫なシーンだけを保存したにしてもそれらに演技らしいものはなかった。

本当に魔導王は種を超えた共存を目指しているように思える。

本当に魔導王本人と会うことが出来るなら色々話をしてみたいと思えるほどにカルカはアインズ・ウール・ゴウン魔導王に興味を持った。

 

翌日、白亜の都市を取り囲むように存在する広大な畑で一つ、穀物を保存しておく巨大なサイロで一つ回収し目的の物を全て集めきった。早速映像を確認しそのまま玉座に足を運ぶ。

「ジュゲムさん、集めてきましたわ」

「はえーよ。ゴコウが全力サポートしやがったか……」

「はい。使えるモノは何を使っても良いと」

「確かに、な。それで、中身も見たか?」

「はい。映像全てを鵜呑みにするわけではありませんが非常に興味を持ちました。聖王国の未来の為にもアインズ・ウール・ゴウン様と会わせていただきたいです」

相手はアンデッド。命ある者すべての敵だ。恐怖が無いかといえば嘘になる。

だが、今はそれより興味が勝った。

本当に魔導王が提唱する世界が実現するなら、聖王国だけでなくこの大陸に生きる者全てにとって幸福な世界となるかもしれない。そんな考えをもつ王と、同じ立場の者として会って話をしてみたい。

「わかった、約束通り連れて行ってやる。その後も……もう好きにしろ。本当の所は会談後すぐにでも連れ戻しておきたいがな」

カルカの目が止めても無駄と物語る。

ジュゲムはため息をつきつつ自由と不自由を装着した。

「では、聖王女。お手をこちらに」

「その、どうやって行くのですか?」

「ん? いや、普通に転移するけど?」

「て、転移魔法?」

言われてみればジュゲムが普通に現れた事がなかった。いつでも気がついたらそこにいた。

この国もとんでもないの一言だが、その王もとんでもない存在だと改めることになる。

 

「ついたぞ。お、いい所に。よ、デミウルゴス。アインズいるか?」

詠唱無しで転移魔法を実行され驚くのもつかの間、転移先の光景を見て息をのむ。

自国の城が陳腐に見えてしまうほど贅を尽くされた空間。この世にこのような場所があってよいのかと考えてしまうほどの場所。そこがアインズ・ウール・ゴウン魔導王の居城。

言葉が出てこない。

「これはこれは、ジュゲム殿。アインズ様に何用ですかな?」

「後ろのツレと会わせたいんだが案内してくれ」

「わかりました、といいたいところなのですが間が悪いと申しましょうか。アインズ様はご不在です」

ジュゲムと話している独特な尻尾を持つ、恐らく悪魔である男がチラリとカルカに視線を送る。その瞬間、心臓を握られたかのような重圧に襲われた。

ここにいたら死ぬ。それはもう、確実に。

「不在か。どこへ行ったんだ?」

「それが……このような書置きがありまして」

「何々……見分を広げてくるから探さないように、か。これ、命令になってるんだな」

「はい。我々としてはアインズ様をお探ししたいのは山々なのですが」

「なるほどな。というわけだ、カルカ。日を改めるぞ」

反応がない。ジュゲムが振り返るとカルカは立ったまま白目をむき気絶していた。

「……デミちゃん。いじめてやるなよ」

「失礼。理由はどうあれこの第9階層にただの人間を招き入れる事には抵抗がありまして」

「ま、しゃーないか。茶番に付き合わせて悪かったな。例のブツは後で倉庫に転送しておく」

「ありがとうございます。これで牧場経営もやりやすくなります」

「収穫数に余裕が出来たらまた少し融通してくれや。スクロールの材料はいくらあっても困らないからな」

「ええ、お約束しましょう。それにしても、貴方が理解のある方で良かった」

「言葉だけの友好よりギブアンドテイクの方が信用できるだろ?」

「ええ、その通りですね。では、私はこれで。任地へ戻らねばなりません」

「時間取らせて悪かったな。さて、帰るか」

ジュゲムは気絶しているカルカを肩に担ぐと来た時と同じように姿を消した。

 

 

本当ならナザリックが組んだシナリオにおいてカルカはヤルダバオト(偽)に武器として使い潰され、最期は国民の心を折るべく晒し物にされる予定だった。

しかし、ジュゲムが過去の契約をたてに口を挟んだことでその運命は免れた。

さらには大きな転機が。

あろうことか今まで全く女っ気のなかった長兄が見初めたのだ。

爆笑した。それはもう大爆笑した。喉が枯れるほど爆笑してその衝撃的な光景を彫像にまでした。

そうなってしまえば、親としてできうることはしてやりたい。種族を超えた奇跡の行きつく先を見てみたい。まぁ、ダメだったら長兄が不甲斐ないだけなのでその時はその時だ。

「すまんな、カルカ。俺も子を想う親だったらしい。どうか馬鹿の相手をしてやってくれ」

 

その後、カルカはジュゲムから聖王国が滅ぼされたと虚偽の情報を与えられ失意のどん底に叩き込まれることになる。

何とかカルカを立ち直らせようと奮闘するカイジャリの努力が実るかどうか今のところ不明であった。

 




この話を書いた流れというか勢いでゴブリン×カルカという誰得な裏話が出来上がったがそっと封印しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。