オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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とうとう14巻出ちゃいましたね。
落ち着いて読む時間がなく、通販の箱すらまだ開封できていません orz

読了して子鬼の調停者と齟齬が出ても二次創作だしそんなもんだよねーで流してくださいね



養父×骨 骨×竜王

帝国軍陣地内にて。

「うっそだろ……あのレベル差を覆した!?」

思わず素に戻って驚いたのはその戦闘を見ていたアインズだ。

ユグドラシルにおいてレベル差10あれば勝ち目はない。

それが常識である。今回殺害不可の命令を出していたため子山羊は本来の戦闘力を発揮できていないのだがそれでも覆るはずのないレベル差だ。

「傾城傾国は支配するアイテム、何か知られていないバフがかかったとしても子山羊の防御を貫通できるようなものではないだろうし……となるとあの短剣か?」

「その通り、いい切れ味だろ?」

「やはりそうですか。おそらく防御、耐性無視攻撃の付与でしょうか」

「まだあるぞ。クリティカル判定時に防御力低下と全属性耐性低下を付与する。付与率は500%持続1分」

「500!? って、ジュゲムさん……まさかとは思いますが」

「ああ、あのナイフ俺が失くした神器級武器なんだわ。どんなものでもこれ一本で加工できるようにじゃぶじゃぶと現金とクリスタルとかした結果完成した割と奇跡的なバランスでできた名剣だぞ。まあ、さすがにあの状況でクリティカル引くとは思わなかったが。デメリットとしては武器自体の攻撃力はそこらの店売り短剣と変わらないという事、効果のでかいクリティカルにはマイナス補正があるからスペック的には1%以下。普通はひかんだろ」

いつの間にか隣にいて自慢げに語るジュゲムに起きもしない頭痛を覚えた。

ユグドラシルでもめったに見ることのできない大怪獣決戦に先ほどまでの気分も吹き飛び観戦モードだったわけだがさすがに倒されることまでは想定外である。

エンリの落下攻撃がクリティカル判定となり子山羊に防御力低下と全耐性低下が付与されそこへ特大の属性攻撃がぶち込まれそれもまた内臓への直接攻撃という事でクリティカル判定された結果がこうなったのだろう。

「確か、ドラゴンライダー系統のスキルに騎竜へのバフもあっただろ。オラサーダルクの攻撃にはその辺も働いているかもな。いやー面白いものが見れた」

けらけらと笑いながら歩み去ろうとするジュゲムを見送り自分もナザリックへ帰還しようと『転移門』を開く。

「あ、そうそう――」

背を向けたままジュゲムが声をかける。

「力の誇示は必要だろうが、やりすぎるなよ。この世界はお前さんが考えている以上に脆い。……派手な八つ当たりはいかがなものか」

「……そうですね、気を付けます」

「あと、ネムの事よろしく頼むわ。ばつが悪いから俺は会う気がないからな」

言いたい事だけ言ってジュゲムの姿が消える。そんなジュゲムを見送りアインズは気持ちを切り替える。

 

背後に気配。大怪獣決戦に集中していたせいか気づくのがかなり遅れた。

元より殺害不可、干渉不可を命令してある以上配下の者が彼を止めることは無い。

周辺にいた帝国兵も激昂するアインズに恐れをなして散逸した。

ここにいるのはアインズと姿を隠し護衛についているハンゾウが一人。そのハンゾウも相手が敵対行為を取らない限り姿を見せることは無い。

「アインズ・ウール・ゴウン魔導王殿とお見受けする。私は王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。一つ伺いたいことがありここへ来た」

「確かに私がアインズ・ウール・ゴウンだが、王国戦士長たる者が敵地奥深くへ単身何用かな?」

「先ほど黒き魔獣を動かした娘がいたはず。その娘をどうするおつもりか、お聞かせ願いたい」

ガゼフの口から飛び出したのは此度の戦の事ではなかった。

「……ふむ、なぜかな?」

「あの娘は私の娘。私は友人に請われて養父として責任を持つと誓った。その娘が敵国の陣に姿を見せれば気にならないわけがないだろう」

ここへ来たガゼフは国宝の剣レイザーエッジを鞘に収めたまま。今はまだ敵対していないという意思表示なのだろう。だが、返答次第では命を賭してでもネムを取り戻す。

そんな決意が見て取れた。

「そうだな。いう通りだ。だが、ここで話す事でもあるまい。その気があるならついてくるといい。その覚悟が本物ならば、な」

本当は試すようなことをいう必要がないという事も見て取れていた。単身敵陣に乗り込んできただけでも余りあるだろう。これはただの建前だ。

アインズは開いたままの『転移門』をくぐる。

アインズが姿を消した後、ガゼフも躊躇することなくその後を追った。

 

「ここは……?」

門をくぐった先は贅の限りが尽くされた部屋だった。

自分が仕える王の私室に招かれたことはあったが比べる気すらわかなくなるほどの違いがある。この部屋一つを見るだけでアインズ・ウール・ゴウンという王がとてつもない存在であるとまざまざと見せつけられる気がした。

「私の私室だよ。ここ以外では部下が見張っているのでね。座りたまえ、何か飲むかね?」

ガゼフはちらりと背後を確認する。今しがた抜けてきた門はもうない。退路も最早無く孤立無援。それでも為すべきことを為さねばならない。

「あいにくと職務中ゆえ酒以外がありがたい」

「では果実水を用意しよう。いつまでも立っていないでソファーにかけて待っていたまえ」

死の王は妙に手慣れた様子で部屋に備え付けられた金属の箱を開けると果実水を取り出し精緻な造りのグラスに注ぐ。しかし、なぜアンデッドの部屋にそのようなものがあるのだろうか。アンデッドが飲食をするなどと聞いた事がなかった。

「ストロノーフ殿、何故アンデッドの部屋にそんなものが、と顔に出ているぞ」

「っ……」

「疑問は当然だな」

死の王の手にはグラスが二つ。

「答えはこう、だ」

次の瞬間、目の前には黒髪の青年がいた。ローブも先ほどとは違う装飾の無い落ち着いたものに変わっている。

「この人間の姿もアンデッドの姿も共にアインズ・ウール・ゴウン。ネムの義父たる君とは腹を割って話すべきだろうからね。秘密の一つを明かしてみた。さ、座りたまえ」

「申し訳ないが、武装は王から託された物。外すわけにはいかないのをご理解いただきたい」

「かまわないとも。さて、何から話そうか。まずはネムと私の出会いからかな?」

ガゼフは緊張感からかひどい喉の渇きを覚えていた。そもそも戦場を全力で駆け抜けてここにいるのだ。疲労自体は装備が無効化してくれるが喉の渇きなどはどうしようもない。

一瞬迷ったものの注がれた果実水を一口飲んだ。

そして息をのむ。

「これ、は……」

とてつもなく美味かった。

「これを飲ませた人間は皆一様に同じ反応をするな」

アインズは面白そうに笑うと自分も同じものを一口飲む。どう見ても実際に飲んでいて今の姿が幻術ではないことを物語る。

「まぁ、実際うまいと思うがね」

「ネムとはいつ?」

「例の悪魔が王都を襲った夜の事だった。私は方々に部下を放って今の世を探っていた。というのも私は最近目覚めたばかりでな。まずは情報収集を、というわけだ。そんな折に起きた王都の襲撃。部下は姿を隠し状況を見守っていた。その中で奇妙な光景を見つけたのだ。倉庫に囚われた人間を守るように戦う3匹のドラゴン。周囲には撤退してきたであろう悪魔の集団。中には全身鎧の冒険者モモンに手傷を負わされた首魁の側近レベルの者もいたのだろう。数と強敵にドラゴン達は徐々に押され、その背後では囚われていた人間達が恐慌状態に陥る。それでもたった二人、ドラゴン達に声援を送り続ける者達がいた。そして、ドラゴンもそれに応えるように奮戦していた」

「それがネムとエンリ……」

エンリはヤルダバオトが撤退した直後に姿をくらました。それはネムとキーリストランの危機を察しての事だったのだろう。

「そうだ。だが、背後を守りながらの戦いは数の暴力に押されドラゴンも一体、また一体と倒れた。最後の一体は満身創痍になりながらも悪魔の波状攻撃から二人を守り続けた。その姿にな、私は種族を超えた新たな可能性というモノを見たのだよ」

「種族を超えた、可能性」

「私が国を興した暁にはいかなる種族も平等な国にしようと思っている。人間もアンデッドも亜人も異形種も私の元では須らく平等であり幸福を享受すべきだと。むろん幸福の形は種族それぞれであり簡単な国づくりではないことも理解している。だからこそ、見つけた可能性をつぶしたくなかった私は即座に追加の部下を派遣しその場にいる悪魔の掃討を命じた」

当然これはアインズの作り話だ。ガゼフを丸め込むための方便であり表向きの、もしかしたら今後プロパガンダの一部として使われるかもしれないシナリオ。

デミウルゴスが5分で用意してくれた。

「だが、それでもすでに遅くドラゴンは力尽きネムもエンリ嬢も悪魔に囚われ、重傷を負い同胞を殺した腹いせにと凌辱されていた」

「っ……」

「あれは私の判断ミスだったと思う。部下を動かすより先に自分が率先して動いていればそこまで事態が悪化することは無かっただろう。部下から悪魔の掃討が済んだ事とそこにいた人間の状態を聞かされてすぐさま転移したわけだが私はその時アンデッドの姿。エンリ嬢は恐慌状態に陥りとっさに魔法で眠らせるしかなかった。一方でネムは……生来のものか『生まれながらの異能』によるものか私に助けを求めてきた。姿形でいうならば悪魔より忌避感を持ちそうなものだがあの娘は私の眼が優しそうだから大丈夫、そう思ったらしい」

その後二人は治療され心的外傷が大きかったエンリには記憶を消す魔法を施し、ドラゴン達を復活させガゼフ邸に送らせた。

「私に会う事がトリガーになりエンリ嬢に施した記憶操作が解けてしまう可能性があったため、私はネムに継続して接触を試みた。そして、この出会いに感謝したよ。あの娘の持つ可能性は私の覇道に欠かせない存在であると」

アインズが取り出したアイテムを操作すると空中にナザリック内で生活するネムの姿が投影される。実はアインズがこっそりと撮りためていたものだ。

気分は娘の成長を撮り貯める父親。

第6階層で魔獣と戯れる姿、第9階層で犬の頭部をもつ異形のメイドと掃除をしている姿、訓練所で死の騎士と武器を交えるリザードマン達を応援する光景などなど、コレクションは尽きないが全部流すと一日でも終わらないので端折る。

「ガゼフ・ストロノーフ。ネムの養父である貴殿に改めて頼みたい。ネムを私の手元に置くことを許してほしい」

アインズは立ち上がるとガゼフに頭を下げた。角度はほぼ90度、リアルで培われた見事な礼。ただし、ナザリックの部下が見たら発狂間違いなし。

ガゼフもそんなことをされるとは思っておらず驚きを隠せない。

「もちろん、ネムの安全は保障するし必要な教育も施すつもりだ。彼女にはありのままに健やかに育ってほしい。そのためにも最高の環境を提供したい」

「ゴウン殿、頭を上げてくれ。許可も何もネムがどこにいたいのか決めるのはネム自身だ」

映像の中のネムは非常に生き生きとしていて楽しそうで。

これなら大丈夫だろうと思わせる姿がそこにあった。

「こちらこそ娘を、ネムをお願いしたい。これから王国は激変するのだろう? 私一人ではネムたちを守り切れるかわからない。一つだけ条件を付けるなら娘たちを悲しませないでほしい、それだけだ」

「もちろんだ。アインズ・ウール・ゴウンの名において誓おう」

その言葉を聞きガゼフが利き手を差し出し一瞬戸惑いつつもアインズが応じる。

武人が利き手を預けるのだから相当の覚悟がいるだろう。しかも、こうして会話しているとはいえアインズはアンデッドなのだ。

だからこそアインズはガゼフの在り様に羨望を感じた。

「さて、ここらで暇乞いをしたい。私は王に仕える身。あまり離れているわけにもいかない」

「了解した。『転移門』」

アインズが魔法を展開する。ここへ来た時と同じ闇色の扉。

「それをくぐれば王国軍の陣地のほど近い場所だ。それとこれを」

アインズが手渡したのは連絡用のマジックアイテム。

「3か月に一度、ガゼフ殿の都合に合わせて報告会を開こう。これはその時用に渡しておく。何度でも使用可能な『伝言』の魔法が込められている」

「ありがたく」

それだけ言うとガゼフは転移門をくぐった。

「本当はもっと色々聞きたいって顔していたな」

これから王国が、民がどうなるのか。国王や王家の者はどうなるのか。

だが、それらの思いを封じてガゼフは義父としてここへ来た。

その覚悟は本当にすごいと思った。

「保護者気分はあったけど……」

素直に、真似できるモノではないと認めるほかなかった。

 

「終わったかー?」

「うわぁ!?」

やり遂げた余韻に浸る間もなく、そいつが現れる時はいつも突然で。

「ジュゲムさん! 心臓に悪いですよ!」

「嘘つけ、無いだろアンデッドが」

「もののたとえですよ! というか、本当にえげつないな『自由と不自由』は……」

魔法による部屋の封鎖も防諜魔法も無視してジュゲムはどこにでも現れる。ワールドアイテム同士は干渉しあって効果が表れないのが普通だが『自由と不自由』効果は基本的に使用者に作用する。そのためアインズ自身が所有するワールドアイテムを使用しても『自由と不自由』の発動を阻害することはできない。つまるところ、ジュゲムの侵入を阻害する手段は存在しないことになる。

「それで、さっき別れたばかりで何の用ですか?」

「いや、な。前に言ってたろ? この世界の重要人物に会わせるって。お前さん今暇そうだったからついでにと思い立ったわけだ」

「暇というわけでもないのですが……まあ、でもかまいませんよ」

「よし、じゃあ抵抗するなよ。飛ぶぞ」

ジュゲムの腕には例の鎖が。次の瞬間アインズの視界が暗転した。

「おーい、チビ羽。遊びに来たぞ」

この場所はどこかの洞窟のようだった。ただ、天井は高く奥行きも恐ろしく広い。

「その名で呼ばれるのは久しぶりだね。いい加減にやめて欲しいのだけど?」

ジュゲムに答える声はすぐ側から聞こえた。洞窟内に灯は無いが暗視能力を持つアインズにはその声主が見えていた。

巨大な、ネムと共いるフロストドラゴンよりさらに巨大なドラゴン。

「竜帝の翼の下でぴゃーぴゃー鳴いていた時からお前さんを知っているんだ、俺の中ではいつまでたってもチビ羽でいいんだよ。あきらめろ」

「はぁ……リグリッドといいジュゲムといい何でこんなのしか周りにいないのか」

「ため息なんてつくと幸せが逃げるぞ。っと、お前さんとのおしゃべりは楽しいが本題に入ろうか。アインズ、このドラゴンがツァインドルクス=ヴァイシオン。アーグランド評議国の永久評議員の一体である白金の竜王だ」

「アーグランド評議国の白金の竜王……以前もらったテキストに書かれていた世界最強の存在……」

「そちらの明らかに危険な匂いがするアンデッドは誰かな? ジュゲム、こんな場所に連れてきていいモノじゃないと思うんだ。排除していいかい?」

「チビ羽、目が腐ったか? いつものオタカラに対する嗅覚はどうした? 目の前にいるのが何者かわからないくらいぼけたか?」

剣呑な空気を纏うドラゴンに対しジュゲムはあいも変わらず飄々としている。

「……まさか、100年の揺り返しであらわれたぷれいやー、か?」

「気づくの遅いぞ。本当にボケたのか。まぁ、いい紹介しよう。今回の被害者……もとい来訪者モモ……じゃない、アインズ・ウール・ゴウンだ。アレの持ち主と同じくギルドマスターだぞ」

「ぎるどますたー……」

竜の眼がアインズを品定めするように向けられる。

アインズの方はジュゲムの渡したテキストから存在だけは把握していた。さすがにいきなり目の前に連れていかれるとは思っていなかったが事前知識がある程度あるため何とか動揺せずにすんでいた。

「とりあえず、いきなり襲い掛かってくるアンデッドではない事だけは把握したよ。それで、何用かな?」

「今回は顔合わせだけのつもりだぞ。まあ、お互い言いたいことを言っておくのはアリだ」

「なるほど。アンデッド故表情は読み取れないけど、彼も寝耳に水な出会いだったわけだ。では、最初に言っておくべきは一つだけだね。ぷれいやーはこの世界に干渉しないでほしい。君たちの力はこの世界に良い影響を及ぼさない。ぎるど拠点ごとこちらに来てしまったのならその中で静かにしていてほしいね」

ツアーの言い方にアインズはちょっとカチンときた。場合によっては敵対、戦闘になる可能性も頭の端におきつつ言葉を選ぶ。

「申し訳ないが手遅れだ。私は国を興し世界を支配すると決めた。私の支配下ではすべての種族が平等に幸福を享受できる国となる。むろん、先は長いが幸いなことに寿命は無いのでね。腰を据えて気長にやろうと思っている」

「国民全部アンデッドにしてしまうとかじゃないだろうね?」

「そんな国に何の意味がある?」

「王がアンデッドなら意味も出てくるのではないかな? それこそ永遠に続く王国だ」

「くだらない。もう少し理知的な話ができる相手かと思っていたが買いかぶりだったようだ」

「アンデッドは生者の敵、それが共通認識だと思っていたのだけど?」

「私と……敵対したい、と?」

骨と竜王の醸し出す空気が険悪なモノを帯び始める。それを眺めつつ子鬼はため息とともに肩をすくめた。

こんなつもりじゃなかったのだが、と。

「はい、そこまで。ストーップ。OK?」

こいつらがこの距離で戦闘を始めたら巻き込まれるので開戦前に割って入る。

が、にらみ合う二人は割り込んだジュゲムなど眼中になかった。

ジュゲムはアインズを見、ツアーを見もう一度大きなため息をつき、姿を消した。

 

邪魔者が消えたことにより一触即発の状態。何かきっかけがあれば爆発しそうな空気の中、ソレは唐突に現れた。

「がぼっ……!? ゴボっ!?」

「水!? 何が!?」

現れたのは洞窟内を埋め尽くすだけの水。ツアーはしこたま水を飲み溺れかけ、アインズは流れる水にもみくちゃにされあちこちの壁に叩きつけられ、ダメージこそ受けないものの前後不覚に陥った。

ここはツアーの巣穴であり当然入り口もある。洞窟内を満たした水もそのほとんどが入り口から流れ出て数十秒ほどでアインズも立てる程度の水量になってしまった。

「一体何が……? ゲホゲホ……」

「頭冷えたかー、バカ二人」

「……ジュゲムさん、自由と不自由ってそんなこともできるのですか?」

「質量とか関係ないからな。やろうと思えば大陸もひっくり返せるかもしれん。やらんが。後は……そうだな『しっぱいてれぽーたー』という必殺技もあるぞ。って、そんな話はどうでもいい。今後の事を考えてとりあえず会わせてみたけれど失敗だなコレ。つーか、ちび羽。お前もう少し柔軟性があると思っていたがコレか。アインズもアインズで事前情報与えてたのにこうなるか。事を構えるべきでない相手だってのは重々承知のはずだろ?」

「そもそもアポなしで連れてくる君がどうかとおもうのだけど?」

「いつもの事だろ?」

「「……ああ、いつもの事だった」」

ジュゲムと付き合ううえでそこは共通認識だったらしい。骨と竜王の声が重なり互いを見やる。何か通じるものがあったのか闘争の空気ではなくなりジュゲムは一安心。

「ところで『しっぱいてれぽーたー』って、もしかして……?」

「ああ、壁の中に直葬するやつ。他の物質と混ざれば強大な竜王も死者の王もそれまでだ。なお、直接転送できないワールドアイテム持ちには壁の方を送り付けるから逃げられないぞー」

「……」

そのセリフはつまりアインズもツアーも不意打ちで殺せる宣言に他ならない。

「いつだったか、どこぞの子竜が人の工房で遊んで機材を壊したことがあってな。お仕置きに手足だけ床に埋めてやった事があったな」

ツアーはすっとそっぽを向いた。

部分的に埋め込むことも可能。万が一首から下を壁の中に閉じ込められた場合アンデッドにとってそれははたして死なのか否か。生身だったら死ねそうではあるが。

「そんな警戒せんでも敵対しないだろ、お前さんとは。最初に言った通りアンデッドの国を作るとか言い出さない限り俺は味方だよ。むしろ心配なのはツアーの方か」

「大丈夫、あの恐怖は忘れられない。わかった、わかったよ。ちゃんと冷静に見守っていくとするよ。差し当たって評議会にキミの国との不可侵条約を提案しよう。その後国作りがうまくいくなら友好通商条約とかに発展させていこう。とりあえず、それでいいかな?」

よほど嫌な思い出なのかツアーはひたすらに早口になった。

「よし、これで一番めんどくさい国が静観を決めたわけだ。アインズ、あとはお前さん次第ということで俺も傍観者モードになるぞ」

「なんというか……少々強引なやり口ですね。でも、まあ、これからは任されました。うまくやっていきますよ。白金の竜王も見ていてくれ」

 

この突発的な会談を境にアインズは決意を新たにし部下任せではない魔導国の設立に向けて動き出すのであった。

 

 

 

 




・ガゼフ・ストロノーフ
エンリとネムを養育していくという責任と決意からこの時点で姉妹>王国となっている。
無論王国が占める割合もでかいが、もし、王国と姉妹が天秤に乗っしまった時かれは悩み抜いた末に姉妹を選ぶことになるだろう。
義父であれ親とはそういうものである。

・ツァインドルクス=ヴァイシオン
言わずと知れたツアーさん。
本作では生まれた時からジュゲムと知己である。
子竜の時、ジュゲムの工房を破壊し逆鱗に触れ、手足を強制転送により床と同化させその室内に水をゆっくりと流し込まれるという目に会った。手足はピクリとも動かず徐々に増す水嵩は間もなく限界まで上に伸ばした口元に迫る。大泣きして謝った。
ソレはとてつもない恐怖としてツアーの心に残っている。

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