オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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相変わらず遅筆で申し訳ないです
ちまちまとですが進んではいるのでご容赦を。
しかし、毎日投稿できる人はホントすごいと思う。


フォーサイトと子鬼の王

意気揚々と出発したのが5日ほど前。

途中、エ・ランテルに立ち寄り補給を済ませ大森林に踏み込んだのが4日前。

特訓の成果か出会う魔獣、亜人、異形種など色々な相手をほぼ無傷で切り抜けてここまで来た。

 

しかし―

 

「はぁ……はぁ……なんだ、こいつ……」

死の騎士なんかとは比べ物にならない強さを持ったゴブリンが目の前にいる。それこそ感じるプレッシャーはナザリックの守護者クラスだろうか。遥か高みすぎてうまく測れない。

次から次へと遭遇する強者にもはや愚痴しか出なくなってきた。

「ん? なんだ、てっきり法国の亜人狩り部隊かと思ったが違ったか。少なくともうちの哨戒部隊を蹴散らすだけの力はあるみたいだが……この程度じゃぁな」

かなり地図の位置に近づいたと思った矢先にやたらと武装のいいゴブリンの一団と遭遇、何とか撃退したと思ったらコレがいた。

全く気配無く現れたと思ったら見えない速度でアルシェに肉薄、拳の一発で戦闘不能に。手加減されたようで生きてはいるようだが当分目を覚ましそうにない。

今立っているのはヘッケランのみ。ゴブリンの周りにはイリーナとロバーデイクも転がっている。遭遇から僅か1分足らず、フォーサイトは全滅の危機を迎えていた。

ヘッケランは何とか一撃凌いだものの防御に回した右腕はへし折れ二の腕から動かない。

捕縛して尋問でもするつもりなのか殺す気は無かったらしい。もしそうでなかったら遭遇と同時に全滅していただろう。とはいえ、唯一立っているヘッケランにもすでにできることなど何もない。

「耐えたか。ま、もとより法国の者でないなら殺しはしねぇ。回れ右してとっとと帰りな。こんな森の深い所に人間の居場所は無いぞ」

このゴブリン、かなりの知能があるらしく流暢に話す。ならばとヘッケランは賭けに出ることにした。

「さる御方からこの辺りに良質な装備を作ってくれる店があると聞いた。あんたは知らないか?」

「……店? なんかの間違いじゃないか? この先にあるのは俺達の、ゴブリンの王国へ続く門だ。中には商店もあるが……人間向きじゃないぞ」

「そんなはずはない。地図に示された場所に行きこの手紙を見せろと仰せつかっている」

痛みに耐えつつアインズから預かった手紙を取り出す。封蝋にはアインズ・ウール・ゴウンの紋章が押してあった。

「ん……この紋章……え、お前人間なのにあそこの関係者なのか!? うっそだろ!?」

ゴブリンは急に取り乱し何やらスクロールを取り出した。

「『伝言』おい、くそ親父。御親友からの使いが来てるぞ。とっとと来い」

賭けに勝ったらしい、という事だけはなんとなくわかった。

 

「ふむふむ、なるほどな。4人分の装備一式オーダーメイドで揃えろと」

ゴブリンの女司祭による回復の後、連れてこられたのは地下に聳える白亜の宮殿その玉座の間。

玉座に座ったゴブリンはアインズからの手紙に目を通すとフォーサイトの4人を値踏みするように眺める。

「連携ありきとはいえ死の騎士倒したのか。中々やるな。ふむふむ、例の冒険者云々の先駆けねぇ……。確かに装備は身の丈に合ったものをつかわにゃならんな。……まあ、後輩からのおねだりだ。初回はロハでやってやろう」

ゴブリンの王ことジュゲムは何やら嬉しそうに席を立つ。

「ついて来い。工房へ行くぞ」

「えっと、店とうかがったのですが?」

「おいおい、真の冒険者候補。察しが悪いな。俺が店主だ。今回はただでやってやる、次は代金と素材を用意しろとアインズに伝えろ。ほれ、さっさとついて来い」

 

工房、そこは玉座の間より広い部屋だった。巨大な炉を備える鍛冶設備、色とりどりの薬品が並ぶ薬棚、理解不能な文字が並ぶ魔法陣が描かれた区画もあれば何に使うのか想像もつかない巨大な金属の構造物までとにかくごちゃごちゃとしていた。

「さて、武器防具装飾品全て出せ。それら全て素材の足しにする。出来上がりはそれぞれ付加効果付きに仕上げるぞ」

「付加効果ってまさか魔法の武具にするつもりなのか!?」

思わず驚きの声を上げるヘッケラン。魔法の武具はそれこそ目玉が飛び出るほど高い。

「当たり前だろう? それくらいのレベルからは必須だぞ。ちなみに、あとで模擬戦させて結果次第で何をエンチャントするか考える。リソースに余裕があればおまけがつくやもしれんがな。あ、服の下に何か着込んでるならそっちの物陰で脱げ。どのみち採寸するから下着以外全部剥ぐがな」

「ちょっと、さすがにそれは!」

「んじゃ、女共にやらせよう。それなら文句あるまい?」

「うぐ、それなら……まぁ……」

同性だと言われても相手はゴブリン。少々抵抗はあるが装備の採寸は必須事項だというのは理解できる。イリーナもしぶしぶ受け入れることになる。

 

「この剣、相当に無理させてきたな」

ジュゲムの手にはヘッケランが使ってきた愛剣。女性陣は採寸されているのでヘッケランの武器から調べていく事になった。

「何しろ相手が相手だったものでね。誤魔化しながらの整備しかできていないのは分かっていたさ」

「死の騎士相手によく持たせたものだ。……ならこいつは使い心地が変わらないように全く同じバランスに仕上げてやる」

「そ、そんなことができるのか!?」

武器を変えれば当然重さもバランスも取り回しも変わってくる。そのはずなのだがこのゴブリンは何でもない事のように同じバランスで剣を作るという。

「『精密解析』っと」

ジュゲムは他の武装も手に取り魔法を使って解析していく。

なお、この魔法を使えば服を脱がせてまでの採寸も必要ない。そもそも魔法の武具という者は着用者の体格に合わせて変化するものだ。強弱はあれど魔法の武具にする以上採寸の手間というものは無いはずなのだが初めて魔法の武具を手にすることになるヘッケラン達は気づいていない。結局のところジュゲムが遊んでいるだけだった。

「よし、解析終了。完成は4日後だ。精鋭と模擬戦を済ませた後は国内を好きに散策してかまわない。後で許可証をゴコウに、息子に発行させる。暇にはならんだろう」

 

地下ゆえか広さこそそこまでは無いが勝手知ったる帝都のそれより整然と並んだ建築物に一部の隙も無くタイルの敷かれた道路、王城を中心とした完全なシンメトリーに作られたこの都市はとてもじゃないがただのゴブリンが作り上げた物とは思えなかった。

そもそも地下なのに頭上に浮かぶ珠から太陽光とほとんど変わりない光が降り注ぐ。どれ程の魔法が行使されているのか想像もできない。

見て回れば見て回るほど王を名乗るゴブリンがあのアインズ・ウール・ゴウンと同格と納得させられる要素しか見つからなかった。

「ほれ、お客人。地下の畑で採れた野菜だよ。食べてみな」

都市の外縁部では農耕も行われていて収穫にいそしんでいたゴブリンの一体が収穫物を差し出してくる。

「王子も食べてみてください。いい出来ですよ」

「では遠慮なく。うん、やはりトメェトは採れたてに限りますね」

案内役のゴブリン、王子であるゴコウがかぶりつくのは血のように真っ赤な実。フォーサイトの面々も覚悟を決めて口にしてみるとほのかな酸味となんとも言えない甘みが口いっぱいに広がった。

「うめぇ、こんな野菜食べたことがないな」

「ええ。少々癖はありますがさっぱりとしていくらでも食べられそうです」

「地上に出荷すればいい商材になりそう」

「菜食主義者にはきっと売れそうね」

「死の王との交易が始まればそれもありなのですが……父はこの地を公にするつもりはないようで地上に出回ることは無いでしょう。この国は自給自足100%で成り立っていますし交易の必要性もあまりないのです」

ゴコウによる人口調整は完璧で食料の生産量や家畜の育成なども完璧に管理されている。

人口調整の下生まれるゴブリンは年に10人程度で彼らは生まれた瞬間から着く職業も決められそれに向けての教育が施され手厚い保護の中成長していくのだ。

「生まれた瞬間からすべてが決まるのか……」

「まぁ、自由を生きるあなた方人間の感覚だと思うところはあるでしょうが管理しなければゴブリンという種は際限なく増えるのです。無暗に増えて森からあふれ出し近隣の人間を襲いそれが切っ掛けで冒険者から反撃を受け壊滅する部族。そんなものをいくつも見てくれば厳重に管理した方がよほど生産的です。まあ、この形に持っていくまでにかなりの時間と資源の損失を要しましたがね」

そんなことを何でもないように語るこのゴブリンも遥か高みの存在だと感じ取れる。

改めて自分達がとてつもない幸運によって生き永らえていたことを実感するフォーサイトだった。

 

―4日後

綺麗に並べられた完成品を前に4人は息をのむ。

「さて、一つ一つ説明していこうか。まず、軽戦士のお前さんから。右用が切れ味強化、左用がパリングしやすいように剛性強化のエンチャがしてある。素材はオリハルコンをメイン素材におまけでヒヒイロカネを少々といった感じだな。右用なら死の騎士の装甲くらいぶった切れるぞ。ほれ、もってみ」

作る前にジュゲムが言ったように手にした剣は使い込んだ以前の品と全く変わりないと言っていいほど手に馴染む。素材が全く違うというのにどういったわけか重さもバランスもそのままだった。それでいて剣から漂う秘められた力はひしひしと伝わってくる。

「おおよそレベル40後半から50くらいまでは使っていけるように設計したから大事にしてやればかなり長い事使っていけるはずだ。具体的にいうと死ぬまでそれ一本で問題ないと思うぞ。ただし、普段の整備は今まで通りでいいが、2年に一度は俺の所で調整を受けろ」

「待ってくれ。本当に、こんな武器がタダでいいのか?」

「素材の備蓄から考えたら大した問題じゃない。あと軽鎧と服の下に着こむことができるチェインシャツだな。鎧には常時回復、シャツには日に1回だけ第6位階までの魔法を無効化できるエンチャ付きだ」

国宝級の性能にちょっとくらっと来た。

恐る恐る全身装備を整えると何でもできるような力が湧いてきた気がする。

「後でもう一度うちの精鋭とやってみろ。装備のありがたみが実感できると思うぞ」

この4日間何度か実戦さながらの戦闘訓練をすることになったゴブリン王国軍の精鋭達。ゴブリンとは思えない能力と連携で攻撃してくる彼らは此方も長年培った連携でもって抗い勝利することができた相手。今なら圧倒できるような気がする。

「次、クレリックのお前。お前さん達のパーティー構成だと少し前衛への負担が大きいだろ。そこで、クレリックが安心して前衛に出れるように防御重視の構成にしてみた。胸当てには常時回復、籠手には腕力強化、メイスには補助魔法の全体化、タワーシールドは鎧二重強化のエンチャだ。少々重いが今のお前さんなら問題ないはずだ」

確かにこれなら前衛1、後衛3の構成でヘッケランにかかっていた負担が解消できるだろう。少々のダメージを無視して前衛に行けるのはかなり戦略が広がるといっても過言ではない。補助魔法も1回の魔力消費が大きくなるが味方全員に一回で付与できるのはかなりのアドバンテージを生むだろう。

「次、レンジャー。弓には命中強化と装甲貫通のエンチャだ。その辺に転がってるフルプレートでは紙と同じだぞ。後はチェインシャツとアミュレットに隠密強化、イヤリングに罠発見強化のエンチャだな」

後衛攻撃力の強化とパーティーの眼や耳となる斥候能力の強化。未知を求める冒険者にはなくてはならない強化といえるだろう。

「最後に魔法詠唱者の嬢ちゃんだが……とりま、杖持ってみな」

アルシェは言われるがままに完成品の杖に手を伸ばす。そして、そのまま持ち上げようとしてつんのめりしたたかに額をぶつけることになった。

「―お、重い」

「んー、だろうなぁ……。嬢ちゃん、お前さん。レベルのわりに魔力低いのな」

ドキリと心臓が高鳴る。それは死の騎士との死闘を続けていたさなかに気づいた違和感。他の3人が能力的にも技術的にも本人以外も実感できるほど伸びていたにもかかわらず自分は新たな魔法の習得こそできたものの根本的な魔力はほとんど伸びていない。

「その杖はな他の3人と同じくらいのレベル25……難度でいえば75あれば持てるはずなんだがお前さんの魔力はそこに到達していない」

「ちょっと待ってくれ、難度75って本当か?」

「初日に精密解析掛けたからな間違いないぞ。お前さん達は蒼の薔薇だっけか、アダマンタイト級の奴らと並ぶかそれ以上の実力があるぞ。まぁ、あのチーム一人だけ別格だから実際にやりあう事は避けた方がいいが」

「それより! ……私だけ新しい武器が使えない?」

珍しく大きな声を上げるアルシェが漂わせるのは悲壮感か。魔力が伸び悩んでいたことに一番自分が焦りを感じていたからこそ。

「この世界の人間はざっと2種類に分かれる。一つ、晩成型。ほとんどがこれでレベルが上がる機会にも恵まれず実感する間もなく消えていく。もう一つが早成型。それなりに名の通っているやつ、お前さん達や冒険者やっているようなやつらもこっちだ。晩成型より成長が早いため総じて低レベルなこの世界でも頭角を現しやすい。そして、能力の伸びが止まる前に引退するか死ぬ。嬢ちゃんは天才とか言われてなかったか? 年齢のわりに優れたものを持っているとか?」

アルシェはまさにその通りだった。年齢のわりに高い能力を見出されあのフールーダに弟子入りしたほどだ。

「嬢ちゃんは極端なタイプだな。俺もここまで才能限界が早いやつは見たことがない。そこでだ、この薬品の実験体になってくれるなら――あ」

アルシェは隠し通していたが焦り切羽詰まっていた。このままでは自分がチームの足を引っ張る事になる。ただでさえ装備に使うべき金を家に送り無駄にしていたのだ。

真なる冒険者を目指すチームのお荷物にはなりたくない。その一心があった。

ジュゲムがどこからともなく取り出した薬の小瓶。

アルシェはその小瓶をひったくると栓を開け口をつける。

「あ、ちょ!? ばかやろう!! 飲み薬じゃねぇぞ!」

焦るジュゲムが小瓶を奪い返す。が、薬液の半分近くがすでに無く。

「これはな! 風呂桶一杯に一滴くらいの濃さで使うもんなんだよ! 原液を飲んだら死ぬぞ!」

アルシェは体を引き裂くような激痛に蹲る。効果は劇的だった。得体のしれないモノが体の中を駆け巡り破壊しようとしている。

「あーあ、どうしてくれるんだこの薬品、もう手に入らないモノだぞ……。大損害もいい所だ」

ジュゲムの取り出した薬はユグドラシルのガチャ産のアイテム。武器の限界突破した強化を可能にする超レアアイテム。アイテムのランクは神器級。ガチャに数十万を投じたジュゲムですら入手できたのはこの一瓶のみ。あまりの絞りっぷりに存在を疑ったほどだった記憶がある。

「うげげ、残り10回分ってところか……」

一応一瓶で100回分ではあるのだが今までに使用した分も含めアルシェは50回分ほど飲んだことになりそうだ。

「ど、どうにかならないのか!?」

「昔部下に一滴飲ませたことがある。そいつは5分しないうちに爆散して死んだよ」

「な……」

アルシェの背中かが異様に膨らむ。そして、ばちゅんと水音を立て弾けた。

獣じみた悲鳴を上げアルシェが床を転がりまわる。ロバーデイクが回復魔法をかけるが全く効果がない。

「今のでショック死した方が楽だったろうに。もうどうにもならんぞ。俺も不用意だったとはいえ自業自得だ。見ているのがつらいならとどめを刺してやれ」

服の内側でいたるところが融け落ちているのかアルシェの服は見る間に赤く染まっていく。

「――! っ……」

声を上げようと口を開けるがその口から舌だった何かがどろりと融け落ち床を汚す。

「本当にどうにもならないの!? 神様みたいな存在なのにどうにかできるアイテムなんか持ってないの!?」

「あのなぁ、そんな都合よく何でも願いが叶うようなアイテムもっている……訳が……あー、あるわ」

「あるなら早く!」

「アレなら何とかなるとは思うが……よし、お前ら祈れ。アインズに連絡を入れる。あいつが『全員無事に返してほしい』といえばとっておきを使ってやる。ただし、それ以外の回答なら見捨てる。さて、お前らの言う死の神に祈ってみろ」

目を掛けられはしたが自分達と同じ強さの者はまだまだいるのだ。代わりは他にいるからと切り捨てられる可能性は非常に高い。

アルシェの眼球が赤黒く濁り飛び出さんばかりに膨らむ。

「対価に何を求められてもいい! すぐに連絡を取ってくれ!」

眼球が弾け飛んだ。いまだに息があるのが信じられないほど。

ジュゲムはため息を一つ。そして、『伝言』を繋ぐ。

『あー、俺だ。今大丈夫か?』

『ジュゲムさん、ああ、ちょうど様子を聞こうと思っていたところでした。送り込んだ4人組の武器作っていただけましたか?』

『そろえたがちょっとトラブルが起きた。あの4人全員五体満足で返した方がいいか?』

『何が起きたんですか……。そうですね、今後の戦略の要員として考えていますので可能なら無事に返してほしいですね。何かやらかしたんですか? ある程度の損害賠償なら応じますが……?』

『あー、要するに必要なんだな。わかった、無事に返す。今回の事はロハでやってやるつもりだったからコレに関しても対価はいらん。だが、次からは素材と金を用意しろ』

『え、タダでいいんですか? なんか怖いなぁ』

『後輩のおねだりだ、初回限定サービスだよ。んじゃ、急ぎだから詳しくはこいつらから聞け』

一方的に『伝言』を切るとジュゲムは盛大にため息を一つ。

「あーあ、お前らの勝ちだ。大損害だ、大損だ。あーちくしょう!」

「じゃ、じゃぁアルシェは助かるのか!?」

ヘッケランの腕の中にいるアルシェはもはやヒューヒューとか細い息を残すのみ。

誰がどう見ても普通はもう手遅れ、助からない。

「確実じゃない。だが、お星様にできる願い事の中に完全復活なんてのもあった。しかしながら、それじゃちょっと弱そうだな。さて、ギャンブルのお時間だ。覚悟を決めろ?」

ジュゲムの指に新たな指輪がはまる。

「流れ星の指輪よ、願いを聞き届けやがれ! この娘に進化に耐えられるだけの力と肉体をくれてやれ!」

それは超位魔法を3回だけ使用制限なしノーコストで使えるという超レアアイテム。

アインズも持ってはいるがボーナス全部溶かしてようやく1個手に入れたようなシロモノ。

ジュゲムの指にある指輪はすでに一度使われた物。残る『二個』の星が強い光を放った。

 

 

―ナザリック内 アインズの私室

「ええ……まさかその願いで2回分消費したんですか……?」

「ああ、そのまさかだよ! ご丁寧にも『力』と『肉体』で2回消費しやがったんだよ! タダでやってやるとは言ったがさすがにここまでの損害は考えてなかったぜ」

「それは、まぁ、何というか。とりあえずこちらをどうぞ」

アインズの手によってジュゲムのグラスが満たされる。

「バーにある一番いいお酒です。飲み切ってかまいませんから」

ジュゲムはすでにぐでんぐでんに酔っていた。

アインズからグラスをひったくると一息に飲み干す。

「流れ星の指輪2回分でこの接待か。安いな」

「大抵の対価は用意できると思っていましたが、申し訳ありません。想定を超えていました」

「俺も想定してなかったよ、ホントに。あー、指輪も残り少なくなっちまったな……半分しか残ってねぇ」

「は?」

「アレが10個出るまでガチャ回したんだよ。その時現金なかったもんだからガチャ期間内に速攻で絵を一枚描いて売った。デッサンも狂った雑でロクでもない絵だったがどこぞの企業のエントランスに飾られているらしいぞ?」

げらげらと笑うジュゲムだがアインズの記憶が正しければとんでもない額が動いた絵だった気がする。

それこそ、ニュースになるほどの。あるところにお金はあるんだなとボーナスを溶かした自分と比べてしまったのを覚えていた。

そんなアインズからはいくら使ったのか、怖くて聞くことはできなかった。

「あー、もう、わかりましたよ! ナザリックの威信にかけておもてなしさせていただきますよ!」

その後ジュゲムは数日ナザリックに滞在し贅の限りを尽くしたもてなしを受ける事となった。

 

―ナザリック内 第6階層 フォーサイトのログハウス

さて、流れ星の指輪は超位魔法2回分と引き換えに完璧にジュゲムの願いをかなえた。

具体的に言うと神器級のアイテムによる効果だったためそれが扱えるだけの能力の付与。レベルにして70、武器を昇華させるための薬品を生身に入れたため別のナニカになりかかっていたところを引き留めるために不老不死化。種族は人間のままだがもはや別物である。

鏡の前で新しく仕立ててもらった装備品を身につける。チェインシャツは4人共通、冒険服は自前、右手にはロッド。魔法威力強化のエンチャント付き。羽織るマントには『飛行』に使う魔力半減効果。

続いて黒いリボンでできたチョーカーを首に。なんでも能力を半分以下に制限する呪いが籠っているらしい。ジュゲムが追加でくれたアイテムだったがこれをつけても体の違和感がすごい。元々の感覚と劇的に伸びた魔力と身体能力の感覚が乖離したままの状態は危険だという事で制限を掛けつつ慣らしてく事になった。

最後に指には魔力隠しの指輪。これが無いと自分の姿を鏡で見ることもできない。

『生まれながらの異能』が見せる自らの魔法位階。それは途中を一気にすっ飛ばし最高位である第十位階に到達していた。不思議なもので目を閉じて意識を内側に沈めれば聞いた事も無いような高位の魔法が浮かび上がってくる。それら全てを使いこなすには時間がかかるだろうがこれから先自分には時間はたっぷりあるらしい。

「よし」

今からアインズの前で今回の冒険の報告をするのだ、気合が入る。

ざっとまとめた報告書はすでに提出してあるし、ジュゲムがナザリックに入り浸り色々話してはいるみたいだがやはり直に話を聞きたいらしい。

アルシェが自室を出ると仲間達が待っていた。

「―おまたせ」

「そろったな。さて、行くか!」

「まだ時間には余裕があるから大丈夫よ」

「なに、少し早いくらいがいいのでは? 魔導国の冒険者フォーサイト、最初の冒険譚を心待ちになさっているようですし」

仲間達と歩きつつもアルシェはジュゲムと話したことを思いめぐらせる。

『お前さんは不老不死になっちまった。それはつまり何百年たとうとお前さんはそのままという事だ。周りだけ先に死んでいく。家族も仲間も寿命がある奴らはことごとく老いて先に逝く。その事を頭の隅に置いておけ。まぁ、異形種しかいないナザリックに身を置くならあんまり変わらんだろうがあそこもずっとそのままにはならんだろう』

不老不死。多くの人間が望むものだが計らずともなってしまったこの身はいまいち実感がわかない。訂正。ジュゲムが確認のためと首を切り落とし心臓を抉り抜いたので不死に関しては嫌というほど思い知った。不死でも痛いものは痛い。

これからどうなるのか今はまだわからない。仲間との冒険がいつまで続くかも。

「アルシェ! おいていくぞ!」

リーダーから声がかかる。見れば仲間達はすでに転送魔法陣で待っていた。

アルシェは色々と考え込んでいたことなどとりあえず置いといて走り出すのだった。

 




アルシェは好きなキャラで長生きしてほしいのでこうなりました。
4人ともじゃないところがミソです。
不老不死って意外に弊害多いけど気にしない、気にしない。

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