入院中ストック増えたので投稿を再開させていただきます。
ギルドに所属する者は玉座の間でそのステータス等を確認できる。それはギルドメンバー、NPCだけではなくナザリック内に配備されている罠やアイテム扱いのゴーレムなども含む。ならば、ギルドマスターであるアインズの権限においてネムにナザリックへの所属を与えたらどうなるのか。ただ、この場合ギルドメンバーとしてではないので魔獣などと同じ扱いとする。人間をそういう扱いで登録などしたことがないので機能するかわからないが試してみる価値はあるだろう。うまくいけばこの世界の技術を情報として視ることができるかもしれない。
「よし。ネムよ、もう一度この場で私の物になると誓うのだ。それが本心からの言葉なら正式にナザリックの所属として認めよう」
「はい。よくわからないけど……」
玉座の間にある荘厳な空気と緊張からか一息入れてアインズの眼を見る。
「お姉ちゃんを助けてくれたアインズ様のお役にたちたいです! ネムにできる事なら何でもします!」
まっすぐな目で宣言されアインズの心がズキリと痛んだ。助けるも何も勘違いしていたとはいえ姉をあんな目に合わせたのはほかならぬ自分だったから。
そのことは秘しておくべきだろうか、あるいはいずれ話すべきだろうか。
この世界へ来て間もない頃、アンデッドの体に引っ張られ人間だった自分はすり減っていったと認識していた。だが、この娘を手元に置くようになってからそうではなかったことに気づく。人間を殺して何も思わなくなってもアインズの根本的な部分を作っているのは鈴木悟という人間に変わりはなかった。そして、それは決して不快ではない。
「アインズ様、どうでしたか?」
ふと意識を戻すとネムが不安そうにアインズを見ている。
「……いや、うまくいったようだな」
マスターソースの端に新たなタブが生成されそこにネムとフォーサイトメンバー、以前から庇護下に置いているメイドの名前もあった。
「タブはその他になっているな。あの4人やツアレも登録されているようだ。するとこのタブはこの世界の生物を登録した場合か。どれどれ」
早速ネムのステータスを確認してみることに。
まずは名前、年齢、所属やほぼ一桁の能力値などが並ぶ。能力値は全体的に低レベルなこの世界では妥当な所だろう。続いてレベル関係を見てみる。人間なので種族レベルは無し、職業レベルは――
「ビーストマスターLv2、ドラゴンライダーLv1か。テイマーではなく最初からマスターなあたり『生まれながらの異能』の影響が大きいとみるべきか」
ユグドラシルにおいてクラスは自分で選んで取得していく。だが、この世界では違うようだ。
「それまでにとった行動や生まれながらの適正を元に自然とクラスを取得していくのだろうか?」
モモンとして活動していた時に聞いたが魔法の素養があったから魔法詠唱者になったという話もある。素質の有無に左右されるなら思ったより幅は無いのかもしれない。
「後はこれを伸ばせるかどうか」
ジュゲムの資料によるとこの世界の一般人はほぼレベル1、それなりの冒険者や職業軍人で10前後。
しかし、街の衛兵などは5もあればいい方。同じ戦闘職だがこの差は何か。
「ネム、アンデッドは嫌いか?」
「アインズ様は大好きだよ!」
混ざりっけなしの好意を向けられてアインズは少し怯んだ。
「う、うむ。そ、そうか。今からスケルトンを何体か召喚する。ネムよ、それをお前が倒すのだ」
召喚されたのは本当にただのスケルトン。武器も装備していないただの骨だ。それが同時に5体ほど、ネムと少し距離を取り取り囲む。
衛兵と冒険者の違いは何か。訓練と実戦、その違いなのだろう。
玉座を離れ明らかに怯えているネムの側へ。スケルトンより凶悪な顔つきの魔獣は平気なのにこの怯えよう。不思議なものだ。
アインズはアイテムボックスに手を突っ込み手ごろな武器を引っ張り出す。
「武器はこれを使え。アンデッドに特攻を持つ。お前でも扱えるだろう」
それは一言でいえばペロペロキャンディというやつだった。ただ、食べるには少々大きい。カラフルな持ち手があり長さは50cmほど、先端についているキャンディ部分は30cmほどもある。ちなみに装備分類は斧。ユグドラシルであったハロウィンイベントのアイテムであり初心者も参加できるよう装備制限等は一切ない上にアンデッド特攻といかなる相手でも最低1ダメージ通すという魔法付与がついている。なおこの魔法付与は無効化スキルも貫通するのだが如何せん攻撃力が低すぎてちょっとレベル差があると1ダメージしか与えられない。そんなアイテムを用いてそこかしこにあふれかえったアンデッドMobを倒すとドロップするアイテムを集めて云々というイベントだったのだが専用武器の見た目がコレだったせいで獲得アイテムは豪華だったがイマイチ不評だった気がする。
「これでがつん、ですか?」
「そうだ。腰骨を狙って全力で振ってみろ」
ネムは恐る恐る言われたとおりにしてみた。相手は動かないのでうまく当たったがスケルトンは少し揺れただけだった。2、3度繰り返してみるがスケルトンの骨盤には小さな皹が走った程度。
「……特攻武器でもこれほどか」
一応ネムのレベルは3あるはずだが想定以上に威力が出ない。スケルトン自体はそれくらいでも倒せるはずなのだが。
「えーい!」
慣れないながらも真剣に武器を振るうネム。5分ほど続けてようやく一体目のスケルトンが崩れ落ちる。一方でネムは汗だく、肩で大きく息をしていた。
「パワーレベリングが可能かどうか調べてみたかったが……」
スケルトンがアインズの支配下にある以上命がけの戦闘にはなり得ないが、敵を倒すという行為はただの訓練より効果があると思った。だが、これではあまりにも進捗が遅そうだ。
「もう少し上のものを召喚してみるか? しかし、倒せないと意味がないか」
2体目が消滅したころアインズの下に『伝言』が届く。
「ネム、一旦中止だ。夕食には遅い時間になってしまったが食事としよう」
「はーい!」
アインズは食事という言葉に目を輝かせるネムに苦笑しつつ食堂へ向かった。
元の世界との味気ない食事、もとい栄養補給とは違い料理長が腕を振るった料理の数々はとてつもない多幸感と強力なバフを齎す。とにかくおいしいのだ。
アンデッドになり諦めていた事をこうして享受できるのは何と幸せな事か。
「やはり食事は良いものだ」
配下のほとんどが飲食不要のアイテムや特性を備えている。
「休暇も必要だが食事に睡眠も無効化して怠るべきではない、な。その辺もこの先変えていくべきか」
一般メイドなどは休暇の話を持ち出すと情緒不安定になるほどだ。ナザリックに所属する者はワーカーホリックすぎる気がする。
それに比べて目の前にいる人間はというと時間も深夜だったせいか満腹になると眠気が来たらしい。きちんとデザートまで平らげると椅子に座ったままうとうとし始めた。
「実験は朝になってからになるか。アルベド、ネムをいつもの部屋に。その後は……身支度を整えて部屋に来い」
アルベドの翼がピンと伸びた。たまにはこういう不意打ちもアリだろう。どうせベッドの上では主導権奪われまくりだし。
「は、はい! 直ちに!」
喜びを隠そうともせずスキップでもしそうな勢いでアルベドはネムを抱きかかえていった。
「ああはいったものの……起きられるかな、明日」
一人残されたアインズの呟きは虚空に消えた。
翌朝、昨夜アルベドとハッスルしすぎて案の定いつもの時間に起きられなかったアインズは昼前になってネムにあてがわれている部屋を訪れた。
場所は9階層至高の41人の部屋が並ぶ区画。ギルドメンバーの最大数が100人だったためたくさんあるが大半が埋まることなくそのままになっていた。
その一室の再利用である。
「ネム、私だ。入るぞ」
墳墓の支配者たる者、ノックはしない。そういう事になっている。
本心では逆なのだがアインズ当番のメイドがいる以上支配者ロールは必須である。
そして、自ら扉を開けることもしない。扉を開けるはメイドのお仕事だ。
扉が開かれると中では半裸のネムが着替え中でした。
アインズは全力で扉を閉めた。メイドの仕事だとか関係なかった。
「す、すまない。タイミングが悪かった!」
数秒して中から扉が開かれる。
「ごめんなさい、アインズ様。昨日夜更かししちゃったから起きられなくって」
慌てていたのか髪はボサボサ、以前血まみれの服の代わりに着せたメイド服のボタンも掛け違えている。ちなみにドジっ子メイド用にと耐水の魔法が掛けてあったためネムが着てもサイズが変わる。なお発案者はエロバードマン。
「整えてやりなさい」
「はい」
メイドにネムを任せたものの少女の着替えをまじまじと見るわけにもいかずアインズは背を向ける。
「きゃ! ネムさん、放してください!」
「むぅ、おっきいね」
「んっ……ネムさんだってすぐに大きくなりますよ」
「そっか、お姉ちゃんもお母さんも大きいから大丈夫だよね」
そんなやり取りからも極力意識を反らしつつ今日行う実験をもう一度思い浮かべる。
ネムと会った日、アウラの命令を振り切ってネムと戯れていた6階層の魔獣達は元々アウラの支配下にあった。そうではないキーリストラン達も自らの意思でネムに従っていると言っていた。実際、マスターソースを確認するとネムの従魔は空欄になっている。
では、そこら辺にいる魔獣をネムの意思でテイムできるのか。それを試してみようと思った。ターゲットはトブの大森林南部を支配する伝説の魔獣『森の賢王』。
トブの大森林のどこかにジュゲムを王とするゴブリンの国があるためリザードマンの村周辺を除き手つかずとなっている。そこで森の地上部分を支配しているという3体の魔物を支配し間接的に管理しようというのが今後の構想だ。手始めに人間の冒険者から賢王と呼ばれている、それなりに知性を持っていそうな魔獣から。
ネムの実験もできて一石二鳥である。
「アインズ様、お待たせいたしました」
「うむ。では、今日の実験に付き合ってもらうぞ」
「はい、アインズ様!」
深い森の中、ソレは目を覚ました。
鋭敏な感覚は嫌な感じのする何かが徐々に近づいていることを感じ取る。さらに感覚を研ぎ澄まし情報を得る。数は3、二足歩行、大人の人間サイズが1、小柄なものが2。
通り過ぎるだけではなく間違いなくその歩みは自分の巣穴を目指している。
性懲りもなく人間の冒険者とかいう者たちが来たのだろうか。
何にせよ迎え撃たねばならない。これもでもずっとそうしてきたしこれからもずっとそうするために。
「あ、アインズ様。やっと気づいたみたいです。動き出しましたよ」
「そうか、こっちの魔獣だからあまり期待はしていなかったが……ちょうど広い場所に出るな。そこで待つとしよう」
そういって振り返る視線の先には肩で息をしているネムの姿が。
「ネムも限界のようだな」
森の外縁部は慣れていたがここまで深く踏み込んだことは無く、体格も小さく歩幅も狭いネムにとってはかなりきつい行軍だったらしい。
アインズはひょいとネムを抱えると肩に座らせる。
続いて驚きと羨望の眼差しでネムを見ていたアウラも同じように。
「ひゃぁ!? アインズ様、こっこれはその……!」
「こらこら、あまり安定が良くないから動くな。嫌だったか?」
「そんなわけありません! ただ、その、えっと……」
何やら顔を赤らめごにょごにょと言いよどむアウラに首を傾げつつもアインズはそのまま広場まで進む。
「さて、ネムよ。やることは分かっているな?」
「はい。もりのけんおーと仲良くなるんですね?」
「その通りだ。だが、私達は見ているだけだ。お前一人の力で事を成さねばならない。少々危険だが……できるな?」
「頑張ります!」
「よし、その意気だ。ちょうど相手も来たようだな」
森の賢王らしき影が広場の反対側に現れるとアインズとアウラはネムを残し下がる。
前情報では白銀の毛皮を持つ四足獣らしいがどのような姿をしているのか楽しみにしつつ相手の出方を待った。
「某の縄張りを騒がせているのはそなたらでござるな?」
木々の陰から姿を現した大きな影。
白銀の毛皮にうっすらと発光する文様を浮かべ蛇のように長くしなる尻尾をくねらせるその姿にネムは驚き目を見開いた。
「……ええ……これ、ハムスターじゃないか……」
アインズから見れば巨大化した見知った愛玩動物に過ぎず。
「それに、ござるってなんだ、ござるって……」
そこはかとなく漂うハズレ臭にアインズは肩を落とした。
「それにしても変な組み合わせでござるな。人間の幼子に闇妖精の子供に危険そうなアンデッドとは。しかも、人間の幼子が前衛でござるか?」
「えっと、あなたがもりのけんおーさん?」
「そうでござる。某がトブの大森林の南側を縄張りにするモノ。そんな某に何の用でござるか? 返答次第ではいかして返すわけにはいかないでござるが……」
目の前にいるのは全く武装もしていない非力な人間の子供。何のためにここにいるのか測りかねた。ここまで彼女を連れてきたであろうアンデッドと闇妖精は距離を置き見ているだけで特に動こうともしない。本当によくわからない。
「今日はあなたを……えっと、テイム? しに来ました!」
「テイム、でござるか?」
言葉は通じるが意味が分からなかった。人間の言うテイムとはつまり、森の賢王と恐れられる自分を力ずくで支配下に置くということ。ほんのりと魔法の気配を纏う服を着ているが武器すら帯びずそのあまりに貧弱な体で何をするというのか。
「では、ネムよ。お前の力を見せてやれ」
「はい、アインズ様!」
幼子はアンデッドの声に応えると無警戒に、無防備に近づいてきた。本来なら伸縮自在の尻尾で一撃いれるべきなのだろうがなぜかそんな気が湧いてこない。何をしでかすのか、少しだけ興味が湧き森の賢王も少し前に進み出る。
そして、彼我の距離はほんの3mほどに。森の賢王が腕を伸ばせばネムの体を引き裂くことのできる距離。そんな距離まで怖がりもせずに近づいたネムはおもむろに服の袖をまくり上げ―
力こぶを作って見せた。
後方で闇妖精が噴出し笑い。アンデッドはどこからともなく水晶玉を取り出し『録画、録画の準備だ!』と騒ぐ。
森の賢王はどう反応するべきか全くわからず小首をかしげた。
「……何のつもりでござるか?」
「アインズ様がお前の力を見せてやれって。村でもまだ力仕事はさせてもらえなかったから全然ないけど……足りない?」
「足りる、足りないという話なのでござろうか……?」
ちらりと幼子の後ろを見るが相変わらずアンデッドも闇妖精も動くつもりはないらしい。
本当に何がしたいのか訳が分からなかった。
「お主はテイムの意味を分かっているでござるか?」
人間が使うテイムという言葉の意味を教えてやる。つまり、力ずくで相手を従える事だと。
「へー、そうなんだ」
「へー、って……。武器も持たず戦う力もなさそうなお主にテイムは無理でござるよ。おとなしく家に帰るでござるって……どこへ行くでござるか?」
ネムは困惑する森の賢王に背を向けアインズの下へ。
「アインズ様! テイムには武器がいるそうです。昨日の斧、お借り出来ますか?」
「うむ、いいだろう。持っていけ」
昨日の斧、つまりはハロウィンイベントのペロペロキャンディであるそれを借り受けネムは再び森の賢王の前に。
「武器です!」
ネムが掲げるそれは森の賢王が知る武器の形状ではなかった。
「その……武器?で結局どうするでござる?」
「さあ?」
お互い首を傾げ困惑する。
「前はスケルトンにこうやってえいやーって」
ぶんぶんと素振りするネム。どう見ても武器に振り回されているようにしか見えず、しまいには木の根に足を取られふらつく始末。
「明らかに不慣れなことやってるとあぶないでござるよ?」
こけそうなネムを森の賢王の尻尾が支える。
「ありがとー」
「どういたしましてでござる。……んん?」
自分のとった行動が理解できず森の賢王の顔が疑問符で埋まる。
「やさしいね。ねえねえ、ネムはまだ頭がよくないからテイムっていうのがよくわからないの。だから、お友達みんなと同じようにお願いするね?」
ネムの小さい手が森の賢王の毛皮に触れる。
「あなたもネムのお友達になってくれる?」
「いいでござるよ」
即答。答えると同時に理解する。目の前にいるか弱い人間が仕えるべき主であると。
離れた所でアンデッドと闇妖精が『ちょろいなー』とか言っているが聞こえない。
「よかった。ところで、あなたの本当のお名前なんていうの?」
「む、名前でござるか? ずっと一人で生きてきた故人間が呼ぶ森の賢王が某のことでござるが……」
「じゃあ、あたらしい名前をあげる! さっきあなたを見たアインズ様が『はむすたぁじゃないか』っていってたの。きっとあなたの本質を見抜いた言葉だと思うの。そこからとってあなたはハムスケね!」
「うむ、いい名前でござるな。それがしはこれからハムスケと名乗り姫と大殿に仕えるでござるよ」
「なんだその、姫と大殿というのは?」
「びびっときたでござる。仕える主君は雌なら姫と呼ぶべきと。そして、貴方は姫の保護者なのであろう? ならば大殿でござる」
「……まあ、好きにせよ。ネムよ、初めてテイムを成功させた気分はどうだ?」
「まだ、テイムというのがよくわからないけど……お友達が増えてうれしいです!」
ネムは早速ハムスケの前脚に抱き着きもふもふの毛皮に顔をうずめている。
「ならば今回の実験は成功だな。では次だ。アウラ、ネムとハムスケを伴い残りの巨人と魔蛇を訪ねよ。ハムスケ同様ネムの配下に収まるなら良し、効果が及ばぬならナザリックに下るよう説得しろ。説得の方法は任せる」
「アインズ様はどうなさるのですか?」
「私は玉座の間に戻りネムの変化を確認してくる。ハムスケの能力値も気になるからな。その後はお前たち二人の凱旋を楽しみに待つとしよう」
「わかりました! 必ずやり遂げて見せます!」
「みせます!」
それぞれの騎獣に跨り森の奥へ消えていく二人を見送りアインズは一人ナザリックへもどりその足で玉座の間へ向かう。
早速マスターソースを開き確認作業へ。
「お、ちゃんとネムの所持魔獣にハムスケが入っているな。レベルも上がっているな。ん? ウォリアーレベル1、だと? まさか斧持たせたからか!?」
「こうして数字で見れるのは新しいな。こっちの人間を拠点に登録するなんてそういえばやってなかったな」
「そうですね。わかりやすいのですが結果を見る限りこの世界の者には選択権がないようだ。得た経験そのままに職業レベルを取得していくとなるともっと計画的に実験を続けなくては」
「お前さん、ネムをどこまで強化するつもりだ? まさか100まで?」
「いや、さすがにそこまでは無理でしょう。って、さりげなく不法侵入しないで下さいとアレほど……」
「いちいちアポ取るのがめんどくさいから構わんだろ」
「はぁ、喰えない人だ」
ここはナザリックの最深部だが目の前のゴブリンには関係ない。かのワールドアイテムの前に踏み込めない場所なんてないのだから。
「ところで、ジュゲムさん。今日は何の御用ですか?」
「俺の国の上を強大なアンデッドが闊歩していると報告を受けてな。何をしているのか気になって近くで見てた。そしたら発表会に挑む我が子を見守る父親気分に浸っている骸骨魔王を見かけたわけだ」
「いたんですか?! けどどうやってアウラの探知をすりぬけたのですか?」
録画の準備だとか焦っていた自分を見られて一瞬羞恥心で心が揺らいだがそこはアンデッド、すぐに鎮静化した。そんなアインズをにやにやと眺めつつジュゲムは答える。
「いや、気づかれていたと思うぞ? 雑魚である現地ゴブリンの群が周辺にいて様子を窺っていたことは。だが、支配下の魔獣も見張ってるし無視しても問題ないと判断したんじゃないか?」
さらに、トブの大森林にいるゴブリンには余計な接触をしないよう伝えてあった。それゆえか群れの中に一匹だけ特殊なゴブリンが混ざっていても気づかなかったのか。
「はぁ、盗み見ていたのは不問にしましょう。ですが、ホントにアポ取ってくださいよ。NPCにはあまりよく思われていないのですから」
「善処する。たぶん。それよりも、だ。もう少し現地のサンプル欲しくないか? 6階層に置いてるワーカー4人以外にも何人か。おススメがあるんだがどうだ?」
「ワーカーの事も何で知っているんですか……はぁ、そのおススメとやらは誰ですか?」
「うちのガキ3人。教育の結果がどう出ているか数字ではっきり見てみたいんだ。俺の城にも拠点効果はあるんだがギルド拠点として作ったわけじゃないしそもそもこっちに来てから作った物だからなのかマスターソースを見るなんてできねぇんだわ」
「なるほど。ではすぐに連れてきますか?」
アインズの言にゴブリンはニヤリと悪そうな笑みを浮かべ首を振る。
「――普通に連れてきてもつまらんだろう?」
「何を企んでいるのです?」
「ちょっとバカ息子たちの実力を測ってみたいだけだ。今となっては同格やそれ以上の相手なんて思いつかないからな。親としては気になるところだ。そこで、そちらのコキュートスをぶつけたい」
「ほう……詳しく聞きましょう」
顔を近づけごしょごしょとやり取りをするゴブリンとオーバーロード。
とてつもなく怪しい雰囲気を醸し出していた。
※レベルやクラス云々は二次創作にありがちな独自設定となっております悪しからず