オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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最早忘れられていそうですが続投であります。
MHWも一区切りついたので続きですよ!


ネムの一日 闘技場での一幕

恐怖公の地図に沿って進み途中何度かアンデッドの群を踏み荒らしながら通路を行く。

「うーん、この辺だと思うけど……」

どれどれとキーリストランが地図をのぞき込む。そのまま距離を測り2歩ほど前に。

直後視界が青白い光に包まれた。

「……正確な地図だったみたいね」

「ここどこだろう? きょうふこうは第6階層に行くって言ってたけど」

周囲は巨人も歩けそうな広さを持つ石造りの通路。等間隔で松明が燃えている。

「あっちが明るいから外だね。キーリあっちに」

進む先には格子戸。

「鬼が出るか蛇が出るか……」

「どちらも出ないことを願う他無いでしょう」

キーリストランに捕まっている以上フォーサイトにできることは何もないのだ。

 

通路を出る。

「夜空……外に転移したのか!?」

「しかし、あの少女は第6階層と言っていた気がします」

「……やっぱりここは触れていい場所じゃなかったんだな」

「依頼者はどこまで知っていたのでしょうね」

もっと情報が開示されていたのならあるいはここへ来なかったかもしれない。

「今更言っても仕方がないだろ」

「そうですね、申し訳ない」

軽いやり取りのあと二人は周囲を観察する。

帝国にある闘技場と比べて遜色ない立派な場所。さらに客席には数えるのもばかばかしくなるほどのゴーレムが並ぶ。

ゴーレムは弱い物でも高価でありこれだけの数が並ぶ光景は異常ともいえた。

「とあ!」

声のした方を見ると小さな影が貴賓席と思われる場所から跳躍し闘技場中央付近に軽やかに着地する。

現れたのはネムとそう変わらない年齢に見える少年。よく見るとダークエルフだった。

顔には太陽のような満面の笑みを浮かべ――すぐに困惑に曇った。

「――なんで、ネムがいるのよ?」

手にした棒が音を増幅させているのか思わずこぼれた言葉も闘技場に響く。

「アウラ様、こんばんは!」

「あ、うん、こんばんは。じゃなくて!」

想定外の出来事にアウラは戸惑った。侵入者が転送されてくるとだけ聞いていた。だが、現れたのはネムで侵入者はネムのドラゴンに拘束されている。状況がよくわからない。が、とりあえず、予定通りに事を進めるとする。

「こほん。挑戦者はナザリック大地下墳墓に侵入した命知らずの愚か者4人! 「ネムもいるよ?」―あんたは黙ってなさい! そして、それに対するのはナザリック大地下墳墓の支配者にして偉大なる死の王、アインズ・ウール・ゴウン様!」

ゴーレム達が一斉に拍手をする。万雷の拍手の中反対側の格子戸から姿を見せるアインズ。

ヘッケランが無意識に息を呑んだ。

あれが、ネムの言うアインズ様であり武器も使いこなす強大な力を持つエルダーリッチ。

一歩近づいてくるたびに本能が逃げろと警告してくる。体の震えが止まらない。

「アインズ様、こんばんは!」

ヘッケランをよそにネムは全く気にしていない様子でアインズに声をかける。

「ネム……? どういうことだ?」

ネムの存在はアインズにとっても想定外だったらしい。骸骨ゆえ表情こそないが困惑しているのが伝わってくる。

「今日は実験の日だったので来たのですがお迎えがなかったから入ってきちゃいました」

「……しまったな、今日だったか。すまない、ネム。私としたことが失念していたようだ。しかし、アルベド。ネムが侵入して来た時点で把握できなかったのか?」

アインズの後ろには絶世の美女がいた。ただ、頭部に生える角と腰のあたりから広がる翼が人間でないことを物語る。

「申し訳ありません。同時に把握する局面が多かったため連れてくる予定の侵入者周辺に関しては直接監視せず誘導の手順を自動化しておりました」

「それがたまたまネムと合流してしまったのか。まあ、無事にこれたのだから問題はないな。ネム、アンデッドに襲われただろうが怪我などは無いか?」

「はい。キーリとこの人達がいたから大丈夫です!」

本来アインズと相対するはずだった侵入者4人はキーリストランの尻尾にまとめて拘束されている。そのうち二人は意識がない様だ。

「ネム、私はその4人に用がある。4人を下ろしてこちらに来るのだ」

「はーい」

漸く4人の拘束が解かれ地に足がつく。しかし、安心できる要素はどこにもない。

「ロバー、二人は?」

「大丈夫です、怪我はありません。二人共、起きてください」

「ん……外……?」

「――想像しうる最大の悪夢を見た気がする」

ロバーデイクにゆすられて女性二人が目を覚ます。

「寝起きで悪いがいい状況じゃない。頭をしゃっきりさせてくれ」

軽く頭を振って悪夢を振りはらう。視界の端に明らかに強大な力を持ったアンデッドが見えた。

「――あれが、アインズ様?」

「そうらしい。で、恐らくこの状況は……処刑場だ」

「あながち間違いではないが……殺すなどという慈悲を与えるつもりはない。薄汚い盗人には相応の処置が待っている」

「お、お待ちください。アインズ・ウール・ゴウン殿! どうか、無断で貴殿の領域に踏み込んだことを謝罪させていただきたい!」

「謝罪一つで自分達の罪が許されるとでも思っているのか? このナザリックに、金銭欲などというくだらない理由で踏み込み荒らしたことが許されるとでも?」

アインズからどす黒いオーラが立ち昇る。

それだけでヘッケラン達は心臓を直に握られたような衝撃を受けた。立っていることすらつらい。何か言わなければならない。そう考えるが喉はひり付き声も出せない。

ヘッケラン達が動けない中ネムは平然とアインズの横へ。

「アインズ様、この人達は謝りたいっていうからネムについてきてもらったのに……ダメ?」

そのローブの袖を引き上目遣いに訴える。

威力は抜群だった。

何というか、耳元で発砲音を聞いた気がした。

「……ナザリックに土足で踏み込んだ事への相応の報いを与える前に、チャンスをやろう」

アインズがオーラを消しローブを脱ぎ捨てる。上半身は骨の体、腰から下にはズボンと足甲。同時に現れる黒い剣と黒い円盾。何やら貴賓席から黄色い悲鳴が上がったが重い打撃音に掻き消され一瞬だけだった。

「全力で相手をしろ。命を懸けた先にある一縷の可能性に賭けて挑んでくるといい」

 

「アルシェ、見えるか?」

問われたアルシェはただ首を横に振る。

「となると……ネムが勘違いしているだけなのか?」

「わからない。隣にいる女性も含めて魔力系魔法詠唱者はいない、と思う」

『生まれながらの異能』は裏切らない。常に相手の使える位階をアルシェに教えてきた。

だが、相手がエルダーリッチと聞いていたにもかかわらず何も見えないことが逆に不安を煽る。否、ネムは骸骨だといっただけでエルダーリッチだとは言っていない。どちらにせよ情報が足りなさすぎる。

「不安だが選択肢は無さそうだな」

「やるしかなさそうね」

「まったくと言っていいほど勝てる気はしませんが」

「――このまま殺されるよりは……マシかもしれない」

そうと決まれば戦闘態勢へ即座に移行。暗黙内に陣形を組む。

「やる気になったようだな。せいぜい足掻いてくれ」

『フォーサイト』最大の戦闘が始まろうとした刹那。

くぅー、と。

静まり返った闘技場に音が響く。本当はそんなに大きい音ではなかったのだが、隣にいたアウラのマイクが偶然にもその音を拾ってしまった。

そして、戦闘を前に集中力を高めていた者達はその鋭敏な感覚で発生源を捉えてしまった。『フォーサイト』の面々もアインズも思わずそちらを見る。

「アインズ様……ゴメンなさい。ネムはお腹が減りました」

場を弛緩させる音の発生源。すなわち、さすがに恥ずかしかったのか耳まで赤くしたネムが。

集まる視線に耐えかねて頭を抱えしゃがみ込む。

戦闘前の緊張感はものの見事に霧散していた。

アインズは作り出した武器を消すとネムに向き直る。

「夕飯は摂っていないのか?」

「休まず飛んできたので途中パンを一欠けだけ食べました」

「……アルベド」

「はい、場を乱した愚か者の処分ですね」

「違う。ネムを食堂へ連れていけ。終わったらいつもの部屋で待機させておくように。後で向かう」

小さく舌打ちが聞こえたような気がしたがアインズは聞かなかったことにした。

「アインズ様! あのお姉ちゃん達も一緒にいいですか?」

「いや、待つのだネムよ。あの者たちはナザリックに土足で入り込んだ薄汚い盗賊共。その力に価値があるお前とは違いそのような対応をするわけにはいかんのだ」

「でもでも、アインズ様が前に言っていた『役に立つ人間』かもしれないです!」

「何……? 詳しく聞かせよ」

その場しのぎの嘘を言っているようには見えない。以前話していたこと言っているなら『生まれながらの異能』を持つ人間の事をそう呼んでいた。

「小さい方のお姉ちゃんはネムと同じなんだって! 『生まれながらの異能』を持ってるんだよ! まほうのいかいを見分けることができる、だっけ?」

「違う。魔法詠唱者の使える位階がわかる、が正しい」

思わずネムの言葉を訂正したアルシェだがアインズの視線にさらされるとそれ以上話せなくなった。絡みつく視線は実験動物に向けられるソレか。正直生きた心地がしない。

「なるほど。そのような『生まれながらの異能』もあるのか。面白いな。それが事実ならあっさり処分するにはもったいない。まずは見せてもらおう。……娘、貴様にその価値があるならば貴様の全てを差し出せ。そうすれば4人ともども存在価値を見出してやろう」

アインズが言葉と共に指輪を外す。同時にアルシェには理解不能な力が視えた。

神々しいまでのオーラを纏い告げられるのは選択肢の提示ではなく、絶対者の命令。

人間ごときが異を唱えることができるはずもないと一瞬で理解させられる。

アルシェは武器を投げ捨てるとその場に平伏した。目の前にいるのはただのアンデッドではない。神話に語られる存在だ。この場でとれる選択肢は全身全霊でもって服従する事、これ以外に無いと本能が叫ぶ。

常軌を逸した力に触れた体が拒絶反応を起こし喉元まで胃液が逆流してくるも粗相はできないと涙目になりつつ飲み下す。焼け付く喉の痛みをこらえ息を整える。そうして無理やり声を絞り出す。

「――どうか御心のままに」

アルシェの即断に面食らったものの他のメンバーも同じようなことを感じていた。3人ともアルシェ同様にすぐ平伏する。

「よかろう。これよりお前達はナザリックの備品となる。まず、魔法詠唱者の二人には我々の行う魔法研究の教材となってもらう。軽戦士は武技の解明に協力してもらおうか。エルフは……よし、戦士の男と子供を作れ。生まれた子供には何にも染まらぬうちからナザリックの技術を仕込み定着するか実験するとしよう。ちなみに、お前達には拒否権も無ければ人権などというモノもない。価値が無くなればただの資源として再利用する事になる。そのことを念頭に置いておけ」

はたしてこの選択は正しかったのだろうか。

四人の頭に疑問がよぎる。もし抵抗していればサクッと殺してもらえたかもしれない。ただ、アインズの言いようから死ぬことなく地獄の苦痛を味わう事になっていたかもしれない。今を生きることを選んだが……それが地獄の苦痛にならない保障もない。

「アウラ、第六階層にある森の中の小屋をこの者達に与える。食料や生活物資等最低限必要な物は用意してやれ。それ以降の事はお前に任せる」

「はい、アインズ様!」

魔獣と違い『人間の飼育』は気が進まないが『ナザリックの備品の管理』なら何の問題もない。与えられた仕事に尻尾があればちぎれんばかりに振っていた事だろう。

「ほら、いつまで這い蹲ってるの! 立って歩く!」

アウラに追い立てられていくフォーサイトのメンバー。

それを見送るネムは少々不満そうだった。

「一緒にご飯……」

「ネムよ、一人がつまらないのなら私が付き合おう」

「え、アインズ様が!? やった!」

アインズ自身この娘には甘いと自覚している。自覚していてもどうにもならないことはあるのだ。決してロリコンではない。

 

と、思いたい。

 

「アルベド、お前も同席せよ」

もう一つ弱いものがある。今も二人だけなんて許さないと目で訴えてくるアルベドだ。

人化の指輪の件を知られた翌日、押し倒されて指輪をはめられ肉体関係を持つに至る。トラウマものの初体験となるかと思ったが意外とそうはならず。それからというもの時々些細な要求をしてくるようになった。そう、今のように口には出さず。

アルベドもわかっているのでギリギリの所を狙ってくる節がある。

「よろしいのですか?」

聞いてくるものの腰の翼が喜びを隠しきれず動いている。普段もこれくらいわかりやすければいいのにと少しだけ思った。

「2度も言う必要があるか?」

「いえ。では直ちに用意させます」

「うむ。さて、食事の用意ができるまでの間今日の実験といこうか」

「はーい」

「まずはついて来い」

先ほど『フォーサイト』のメンバーに言った言葉で思いついたことがある。

アインズは『転移門』を開くとネムを連れだって玉座の間へ飛んだ。

 




ネムとの縁でフォーサイト生存ルートとあいなりました。
まあ、死んだ方がマシな目に会わないとも限りませんが命あっての物種でしょう。

たぶん。

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