オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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新年あけましておめでとうございます。もう、20日終わっちゃいましたが。
当方、転職に伴う環境の変化でしばらく余裕がありませんでした。
お待たせして申し訳ない。

そして、その新年一発目のタイトルがこれでいいのかと思わなくもないですが、気にしたら負けです。





ネムの一日 道を尋ねて黒棺

「ここに散らばっていたスケルトンの残骸はこいつの仕業か……よかった、雑魚とは言えあの数は骨が折れるからな」

「っ……私の骨も何本か折れていそうだけどね」

拘束が緩まり地上に飛び降りた女エルフは痛みに顔をしかめ、ちょっと高価なポーションの栓を開け飲み干す。即座に全快とはいかなかったが行動に支障はなさそうだ。

仲間の無事に安堵した3人だったが通路を抜けてきたゾンビの群れを目の当たりにする。

「チッ!」

すぐさま迎撃すべく軽戦士の男が飛び出した。

「アインズ様に怒られちゃうかもだけど……この人たちとお話ししたいからキーリ、お願い」

「仕方ないわね……」

キーリストランの口元から冷気が零れ落ちる。いち早く反応できたのはドラゴンを観察していた魔法詠唱者だった。

「――ヘッケラン、下がって!」

アイスブレスがゾンビの群れに炸裂した。あと2歩踏み込んでいれば軽戦士も巻き込まれていただろう。ちょっと、前髪の先が白くなっていた。

「ははっ、これはやばい」

全て凍り付くゾンビの群れを目の当たりにしそれ以上の言葉が出てこなかった。

「キーリ、アンデッドの気配はどう?」

「濃すぎて断言はできないけど、襲ってきそうな距離にいるものはいないわ」

「じゃあ、一安心だね」

そういうとネムは4人に向き直る。

「お兄さん達、どうしてこんなところにいるの? ここはアインズ様のお城だよ?」

正確には城ではないのだがネムのイメージではそうなっているらしい。

一方4人はこの少女から墳墓についての情報が得られると判断、互いの視線だけで方針を決め頷きあう。一歩進み出たのはリーダーでもある軽戦士の男。

「俺はヘッケラン。冒険者チーム『フォーサイト』のリーダーをしている。この場所には依頼を受けて調査に来たんだ」

本当は冒険者ではなく、冒険者という枠に嫌気がさして離れたワーカーという者達。だが、子供相手に正直に話すこともないという判断。

「イミーナよ」

「ロバーデイクです」

「――アルシェ」

女エルフ、神官、魔法詠唱者がそれぞれ追従する。

「こっちのドラゴンはキーリ。お友達だよ」

「お友達って……このドラゴン、お嬢ちゃんが手なずけているのかい?」

「アインズ様が言うには『生まれながらの異能』なんだって。色んな子と友達になれるんだよ!」

「ネム、軽々しく広めていい事ではないわ。至高の御方も仰っていたでしょう」

「あっと、そうだった。秘密なんだった」

今更口を押える少女に苦笑しつつ、さらに情報を引き出すため今度はアルシェが前に出る。

「貴女も『生まれながらの異能』を持っているのね。私も……本当は秘密にしているけど『生まれながらの異能』を持っている」

驚いたように目を見開くネムとは別にドラゴンから妙な視線を感じる。

「お姉ちゃんもなんだ!」

秘密の共有ということが琴線に触れたらしい。別に『生まれながらの異能』を持っているだけならそこまで珍しいわけでもない。活用できている者が珍しいだけで。実際側にいるイミーナも微妙な『生まれながらの異能』を持っている。

だが、自分の力も知らずに農村という狭い環境で育った少女はそんなことも知識に無く目を輝かせていた。

「ネムはこの墳墓――お城の主と知り合いなの?」

「うん。アインズ様に実験や研究のお手伝いをしてくれって頼まれたから。そのご褒美に食べさせてもらえるご飯がすごくおいしいの!」

「そのアインズ様は魔法詠唱者?」

「んー、たぶん? この前はすごい鎧を着て大きな剣を振っていたけど普段はすごそうな杖をもってるよ?」

望んでいた情報がどんどん出てくる。しかし、同時に謎も増えていく。

こんな場所にこれだけの場所を作り隠れ潜んでいた墳墓の主。それがただの人間だとは思えないのだが目の前にいる少女自身はただの人間にしか見えない。たとえ『生まれながらの異能』を持っていてもアンデッドの跋扈するこの墳墓にはあまりに似つかわしくない。

アルシェはヘッケランの方をちらりと見る。一瞬悩んだようだがさらに情報を引き出すように指示が出た。

「アインズ様はすごい人なのね。魔法詠唱者なのに剣も扱えるなんて」

「違うよ? アインズ様は骸骨さんだよ?」

屈託のない笑顔でこの少女はとんでもない情報をもたらす。

墓所の主はエルダーリッチ。しかも、よほど研鑽を積んだのか武器を扱う術も持つという。

どう考えても危険極まりない存在だった。そして、それに平然と協力しているというこの少女も常軌を逸している。

もし、敵対すればどうなるかわからない。

「そのアインズ様は思慮深い御方かな? 俺達は支配者のいる場所だと知らずに無許可でここまで踏み込んでしまっている」

「たぶん、ちゃんと謝れば許してくれるとおもうよ? アインズ様は優しいから」

優しいアンデッドなど想像できない。しかし、強大な力を持つアンデッドはある程度理性を持ち交渉可能とも聞く。魔法も武器も扱うほどのアンデッドならあるいは。

「そうか、なら一旦外に出て調査の許可を得―」

「直接言えばいいよ。今からアインズ様の所に行くから一緒にいこ?」

少女の誘いは危険な賭けだ。ネムが間に入ってとりなしてくれるなら無事に済むかもしれない。一方で支配地に踏み込んだ賊として扱われ処断されるとしたら断頭台に自ら首を乗せに行くようなもの。

一瞬の思考。実入りのいい依頼だと喜んでいたが今は違う。いかに生きて帰るかが問題だ。この際手に入れた宝石類なども全て返却し墳墓の主に跪いてでもパーティーメンバーが全員無事に帰る方法を模索しないとならない。すべては命あっての物種。

ヘッケランが悩んだのはほんの一瞬だった。

しかし―

「じゃ、キーリ。この人たちも乗らせてね」

ネムの決断の方が早かった。

キーリストランとしてはヘッケラン達をこのまま帰すつもりなどなかった。調査のためなのかもしれないがそれぞれが盗んだ宝を隠し持っている。ドラゴンの嗅覚がそれを捉えていた。

知らなかったとはいえ許可なくこの地に踏み込み剰え宝を持ち去るなどを見逃したらどんな処断を受けるか想像もしたくない。ゆえに、ネムの言葉と同時にキーリストランは尻尾を伸ばす。微妙に力加減をしつつも4人纏めて巻き取った。

「ネム以外の人間を乗せるつもりはないわ。これで十分よ」

「そういえばお姉ちゃんも乗せたことなかったね。……お兄さんたち、大丈夫?」

「苦しくはないが……どうにかならないかい?」

「うーん、ごめんなさい。すぐに着くから我慢してね」

もがいたところで締め付ける力は緩まない。一応手加減されているようで痛みは無いが生きた心地はしない。ドラゴンの機嫌を損ねて手加減が無くなれば死ぬ。

「もう、なるようにしかならんなこれは」

「――同意。生きているならどうにかできるチャンスがあるかもしれない」

「だな。しかし、こんな経験したくてもできないぞ」

ヘッケランの力ないぼやきに残る三人も頷くしかなかった。

 

「で、ネム。どうやってアインズ様の所に行くつもり?」

「近くに話が通じる人がいるのを思い出したの。そこの角を右に曲がって」

ネムの指示に従いキーリストランが通路を進む。道中何度かアンデッドの群れに遭遇したがキーリストランは歯牙にもかけず踏み荒らして進んだ。

「次の角を左に。奥に見える箱が見えるでしょ?」

通路の行き止まりに鎮座する古びたチェスト。隙間から見え隠れする宝の煌きはあからさますぎる罠に見える。

「罠じゃないの?」

「あれは本物だよ。神経をすり減らして警戒しつつ入ってきて箱を開け、安全を確認して入ってきたと思い込んでいる帰り道こそが罠なんだって。キーリ、箱の前まで進んでからここまで戻って」

ネムは罠と明言しているのに進めという。わざわざやれというのだから危険はない罠なのだろうか?

キーリストランは全身の神経を尖らせつつ通路を進みまた戻る。

「特に何もないようだけど―」

罠は先ほど立ち止まっていた位置、T字路にあった。足元に魔法陣が浮き出しなんともいえぬ浮遊感を味わう。

着地と同時にこそばゆいような感触が体中にはしった。

そこは真っ暗だったが、ドラゴンの眼は暗闇でも見える。正直見たくなかったが。

「っ――」

前住んでいた巣でもちらほら見かけた蟲だ。黒光りする体躯をもつ小さな蟲。保存しておいた食料に集っていた時はイラっとしたものだが基本的に無害であり気にするほどの存在でもない。

が、キーリストランの体が半分埋まるほどの量が蠢いているとなれば話は別だった。

「ネ、ネム。ここ、は?」

「きょーふこうのお部屋だね」

聞いた事のない名前だったが、ネムがこの様子なら危険は無いのだろう。きょーふこうとやらはネムの力が届く相手なのだろうから。

「アルシェ、明かり出せるか?」

「ん、ちょっと待って」

4人の位置はキーリストランが尻尾で持ち上げているためそれなりに高い位置にある。

そこに魔法の明かりが灯された。

光に照らされる部屋を埋め尽くす蟲の群。

「ひっ……!」

「――っ!」

それが何か気づいてしまった女性二人は即座に意識を手放した。たぶん、正解である。

「俺は何も見ていない、俺は何も見ていない!」

ヘッケランは目を閉じ現実逃避。

「こ、これはまたすさまじい罠ですね……」

意識を手放したかったが持ち前の胆力でそうはならなかったロバーデイク。

何よりも一番恐ろしいのはこの場所を罠と知りつつも飛び込んだ少女だった。

「きょーふこう、いますか?」

呼びかけに応じ蟲の群をかき分けるように姿を見せたのは部屋を埋め尽くす蟲と同じ姿をしつつも常軌を逸している存在。体長は30cmほど二足歩行し深紅のマントを羽織り手には王笏、直立歩行にもかかわらずなぜかこちらを向いている頭には煌びやかな王冠をちょこんと乗せている。

彼こそがナザリック五大最悪の一人『住居最悪』第2階層領域守護者。

名を『恐怖公』という。眷属はいわゆるGでありナザリックに所属する女性陣でさえも恐れる黒棺の支配者。だが、彼自身のカルマはほぼ中立でありナザリック内では数少ない常識人でもある。

「これはこれはネム殿。ここへ来るのは侵入者だけかと思っておりましたぞ」

「ごめんね、驚かして。あ、みんな。キーリが嫌がってるから離れてくれる?」

ネムが声をかけると足の踏み場もなく蠢いていた蟲達が潮のように引いていく。まだ消えない明かりの下に広がる光景。ロバーデイクは背筋を寒くした。やはり一番の脅威はドラゴンでもなく、部屋を埋め尽くす蟲でもなくそれを一声で操ってしまう少女だ。

蟲が壁際まで去り床に空白ができる。そこには見知った鎧と奇妙なまでに真っ白な人骨が二組転がっていた。

一つ間違えればああなるのだろう。肉片一つ残さず蟲の群にしゃぶりつくされる。

もしこの少女が自分達に敵意を持ってしまったなら、彼女の一言でドラゴンが拘束を緩めれば……。意識せず息を呑んだ。

ネムはドラゴンの背から飛び降りると恐怖公とやらと何か言葉を交わしている。

「なるほど、そういう事でしたか。アインズ様の所へ行くのなら妙案がございますぞ」

恐怖公が王笏で床を打つ。それに合わせて這いだしてきたのは銀色に輝く体躯を持つ蟲。

姿形は部屋にいるものと同等だが大きさや雰囲気が明らかに別物。銀色の蟲は恐怖公の横に来るとその眼に当たる部分を光らせた。部屋が一気に明るくなる。同時に見たくない物が見える範囲も広がった。

恐怖公はその明かりの下、ネムの前に羊皮紙を広げる。そばには墨壺、手にはどうやって持っているのか羽根ペンが。さらさらと書きつけるのは地図のようだ。

「黒棺を出てこの順に通路をお進みなさい。しからば6階層へ飛ばす強制転移の罠がございます。ちょうど今アインズ様は6階層におられるとか」

「きょうふこう、ありがとう」

「しかし、不思議ですな……」

何故、だれもネムに気づいていないのか。今回の作戦概要は周知されている。侵入者は常に監視されているはずだ。侵入者とネムの接触を防ぐことは可能だったはずだし、阻止しそびれたとしてもネムが同行していたのなら気づかれないはずがない。その事実は関係者全員に周知されるはずだ。何しろこの少女は人間でありつつも至高の御方が価値を見出した稀有な存在だ。蔑ろにしていいわけがない。

至高の御方に何か意図があるのか、あるいは別の意図が絡んでいるのか。

「???」

「いや、何でもありませぬぞ」

恐怖公の呟きに首をかしげる少女。恐怖公は何かしらの意図があるなら自分ごときが口をはさむことではないと判断する。

「じゃあ、行くね。また遊びに来るから」

「ほっほっほ、お待ちしておりますぞ」

どう考えても気軽に遊びに来る場所ではない気がするがネムにとってはそうでもないらしい。元からそうだったのか、能力がそうさせているのか本人もわかっていないだろうが。

 

 

 




Falloutという洋ゲーがありましてな。
そこには恐怖公サイズやそれを上回るサイズのGがエネミーとしてわさわさ出てきます。
面白いゲームなのにその点がいまだに慣れない……

何が言いたいかというと、本文書いている時に想像して寒気がしました。以上!

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