オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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ロードオブダンジョンが面白すぎて筆が進まない件


ネムの一日 ダンジョンへ潜ろう

時間はちょうど昼前。

「お姉ちゃんのばかーーー!」

ガゼフ邸前の通りにネムの絶叫が響き渡る。

「こら、ネム! 待ちなさい!」

通りを行きかう人々が姉妹のやり取りに眉を顰め何事かと振り向く。

ネムはエンリの手を振り払うと人々の間をすり抜け通りを走り去っていった。

それを見送るしかなかったエンリは小さくため息をつくと行きかう人々に軽く頭を下げ館へと戻る。

玄関すぐの所に昼食を取りに戻ってきていたガゼフがいた。

「今度は何の喧嘩だ?」

「例のお友達について聞き出そうとするとコレです……」

「ああ、王都のどこを探しても見当たらないお友達とやらか。君たちの保護者になった以上気にはなるな」

「でも、どれだけ言っても教えてくれなくて……。先日後を追ってみたのですが見失い、今日は追いかける以前に見失いました」

王都での新しい生活が始まってすぐ、ネムは年齢ゆえの適応性の高さでなのか早速『お友達』をつくるとちょくちょく出かけるようになった。最近では2,3日外泊することもありどんな相手なのか気になった。お礼に行かねばと思ったのだがネムは秘密にしたまま。

追いかけては見失い、ひょんなことで知り合った『蒼の薔薇』のティアに尾行を頼んでも撒かれた。現状本人から聞き出す以外に手は無くなっていたのだ。

「はぁ……今日は大事な話をしようと思っていたのに」

「何かあったか?」

「一度村に戻って両親に報告してこようと思っています。ここでの生活の事や、村を出てからの事、これからの事、それから……お、お義父さんの事も」

「そ、そうか。前にも言ったが無理にそう呼ぶ必要は無いのだぞ?」

ガゼフはエンリとネムの保護者となることにした。それにあたって王国での立場があるガゼフにとっては色々とめんどくさいハードルが存在した。

それらを普段使ったこともない幾何かの権力をフルに用いエンリ達はガゼフの養子という事になった。かなりグレーなこともやらかしており貴族連中に悟られると非常に面倒なことになるがそのリスクもガゼフは甘受する事に決める。覚悟の表れだった。

「無理はしていませんよ。今はまだ家族になって間もないからそうみられるかもしれませんが」

「それならいいのだが。遠出はどれくらいの期間で考えている?」

「オラサーダルクがのんびり飛べば片道2日くらいだそうです。ですから往復で4日、村で1日。天候やらを考慮して最長1週間くらいで考えています」

「なら色々と必要な物が増えるな。ちょうどいいタイミングだ。例のモノが完成したと報告を受けている。夕方には届くそうだ」

「変な目で見られませんでしたか?」

「大き目の馬用として発注したから大丈夫だろう」

例のモノとは行商人が馬や牛に背負わせる鞍と背負子を改造したものだ。発案者はオラサーダルク。エンリやネムを乗せて飛ぶ際、気を使って本来のスピードが出せないので安定して乗っていられるものを用意しろと。ついでに遠出する場合に便利だからと色々持ち運べるようにアタッチメントも。

「装着ベルトはかなり余裕を持たせてあるはずだがドラゴンのサイズに合わせてくれなんて言えなかったからな。そこだけは実際付けてみて調整するしかないぞ」

「ありがとうございます。じゃあ、あとはネムに話をするだけですね」

「いつもの外泊なら今日明日は帰って来ないか」

「本当にどこの誰なんでしょうか……?」

そもそもネムは王都にいるのだろうか?

一瞬そんな気がした。

 

ところ変わって大空の彼方。

ネムはキーリストランの背で昼寝しながら高速移動中。

実際エンリの予感は正しくネムは王都から出ていた。

目的地はナザリック大地下墳墓。

『生まれながらの異能』を詳しく知りたいアインズと交わした約束を守るためネムは数日に一度王都からナザリックに通っている。

実験はちょっと怖いが、アインズ様は優しいし、実験の後に食べさせてもらえるご飯はおいしいしお友達はいっぱいいるといいいことだらけだ。

ナザリックの者たちも最初こそ人間がナザリックにいる事に嫌悪感を見せていたが、アインズがそれを認めていることとネムが自ら進んで実験に協力していることから態度はほんの少し軟化しているようだ。

 

日が暮れ始めたころ一度地上に降りネムはポシェットにいれてきていたパンをかじる。

夕食には物足りないがあとの事を考えると少々お腹が空いているくらいが丁度いい。

「キーリ、あとどれくらい?」

「そうね、月が真上に来るまでには着くと思うわ」

「じゃあ、もうすこし寝るね」

キーリストランはネムを乗せていてもエンリを乗せたオラサーダルクより早く飛べる。その理由はキーリストランが使用できる信仰系魔法に由来する。ネムに『低位風耐性付与』を使う事で高速飛行に伴う風圧の影響を無効化してやるのだ。後はネムが落ちないようにロープで体を固定すればいい。

とはいえ、飛行中に寝るなど怖くないのか不思議に思う。

ネムは手慣れた手つきでロープを結びつけると抱き着く様に体を委ねた。

数分後には本当に寝息を立てているのだから驚きだった。風圧を軽減しているとはいえ高速で飛行しているので振動も激しく寝心地は良くないだろうに。いっそのことオラサーダルクみたいに鞍でも用意してもらうか。

そんなことを考えつつキーリストランは翼を打つ。

 

時間は真夜中。人の目にはまだ遠いがキーリストランの目には普段とは違った光景が見えてきた。巧妙に隠されているはずの墳墓入り口からさほど遠くない位置に焚火の光が見える。目を凝らせば複数のテントも立てられ宿営地となっているらしかった。点在する気配は人間のモノ。

たまたまこの地に宿営地を築くにしては街道から離れていて不自然。つまり、あの人間達はナザリックに与する者かあるいは身の程をわきまえずに踏み込もうとしている愚か者か。

そのどちらかだろうと推測する。

だが、どちらにせよ自分が不用意に姿を見せるべきではないだろう。

それならばいつも通りに行動するだけだ。姿を消したままゆっくりと中央の霊廟横へ降りる。そこで待機していれば中から迎えが来る。おそらく上空に来た時点で察知されているのだろう。今日もそのはずと翼をたたむが誰も出てこない。

「キーリ、ついたの?」

「ええ。でも、おかしいわ。誰も迎えに来ない」

「んー、じゃあ中に入る?」

「え?」

ネムはこのナザリック大地下墳墓の一部を自由に行き来する許可を得ているらしい。キーリストランは第6階層、地下とは思えないほど広大な空間か地上で待機するのが常だ。

とはいえ、許可があるのは深部の階層だったはずだ。地上から、全部で10階層あるらしいこの魔境を抜けることが難しいからこそ迎えが来るのだろう。

そこへ平然と入るという。霊廟内はそこら中からアンデッドの臭いがする。おそらくネムの力が効く相手はいないだろう。階層守護者なる最高位の者に会うことができればおそらく無事に行けるだろうが。

「ネム、この中にはアンデッドの臭いしかしない。入るのは危険で―」

「知ってるー。だって、アインズ様のお城だよ?」

アインズとはこの地の支配者。見た目は骨だが秘めたる力は想像すらできない。それこそ神にも等しい存在。そんな場所だからこそ当たり前だと。

止める間もなく飛び降りるネム。慌てて摘まみ上げると背に戻す。

中に入ることが確定事項ならせめて安全な場所にいてもらわないと困る。何しろ支配者アインズ・ウール・ゴウンから直々にネムの護衛を仰せつかっているのだから。

アインズに直接生み出されたアンデッドならネムを認識してくれるかもしれないが死の澱みから自然発生したアンデッドまでそうとは限らない。万が一の可能性がある以上はいらずに待つのが最上なのだが。

「歩くよ?」

「黙ってそこにいなさい」

適当に中を歩いていれば監視者が気づいてくれるだろう可能性にかけキーリストランは霊廟に踏み込んだ。

 

ナザリック内某所。

侵入者の監視をしていた彼女は想定外の侵入者に眉を顰める。

アインズにその利用価値を見出された人間。アインズになれなれしくまとわりつく子供。

目障りだが表立って始末することはできない。

なら、事故で勝手に消えてくれる分にはいいのでは?

にやりと暗い笑みが浮かぶ。

すっと、手が動きネムの姿を映していた監視の目が閉ざされた。

 

「おかしいなぁ……今日はアインズ様にお呼ばれした日なのに」

「何か手違いがあったのかしら?」

やはり入るべきではなかった。仄暗い通路を進み始めて数分、どこからともなく湧きだしたスケルトンの集団に襲われた。通路はキーリストランが這って歩いても問題ないだけの高さと広さがあったため問題なく撃退することができた。数がいたので力ある者の気を引くためにも派手に暴れてみたが誰かが様子を見に来る気配もない。

「ネム、やはり引き返していつもの場所で待っていた方がいい。ネムがいても襲われるのだからよほどのことが起きていると考えるべきね」

「あ、まって。キーリ、話声が聞こえるよ」

アンデッドの臭いが濃すぎて気づくのが遅れた。すぐ近くの通路から人間の臭いが近づいてくる。数は4人。また背中から飛び降りたネムを摘み上げ隠密のアミュレットを起動する。今の所これを見破った人間は一人しかいない。

「このあたりだと思ったが……」

「戦闘音っていっても何もないじゃない」

スケルトンとの戦闘音を聞きつけてきたらしい人間は軽戦士風の男。続いて現れたのは弓を携えた女エルフ。

「いえ、足元をよく見てください。スケルトンの残骸があります」

「でもおかしい。巨大なものに踏まれたような壊され方をしてる」

目ざとく周辺を調査していたのは神官風の男と年若い魔法詠唱者。

「巨大なモノ……スケリトルドラゴンでもいるのか?」

「アンデッドは同士討ちしない、はず」

「どっちにしろわかる事はこの墳墓が尋常じゃない場所ってことだけだな。下級アンデッドしかいないが不自然なほどに多すぎる」

「同意します。付け加えると今来た通路からゾンビ系、この先の通路からはスケルトンの気配が多数来ています」

「どうするの?」

「一度戻って深部探索用に装備を整えなおすのもありかもしれないな。得体が知れなさすぎる」

「では、この襲撃を凌いだら一時撤退でいいのね?」

女エルフはそういうなり矢をつがえる。その鏃は先をつぶされていて刺突に耐性を持つスケルトンにも有効打を与えることができる。

「戦闘準備! 行くぞ!」

通路の奥から足音を立てて押し寄せてくるスケルトンの群れに向かってまず一射。あの数と距離なら外すような腕はしていない。

だが。

鏃は硬質な音と共に見えないか何かに阻まれ床に落ちる。

「何かいる!」

しかし、姿どころか気配すら一切ない。警戒レベルは一気に最高潮へ。

敵は見えない何かだけではなくアンデッドの群れも押し寄せてくる。

「ちっ!」

女エルフは即座に第2射を放つ。今度の矢は何かに阻まれぬよう願いつつ少し上を向け放物線を描きスケルトンに当たるように。しかし、今度の矢は明確な意思をもって何かにへし折られた。直後、女エルフが見えない何かに拘束され空中に。

「あがっ、ぐぎぃ」

骨が軋む。とてつもない力で締め付けられ抵抗らしい抵抗はさせてもらえない。

「イミーナ!」

軽戦士の男が即座に切りかかる。巨大な何かであるという事、矢を弾かれた位置から推測した的確な一撃。全力で放った一撃にもかかわらず金属を切ったような硬質な手ごたえしか返って来ない。手がしびれ剣を取り落としそうになった。

「キーリ、待って!」

緊迫した空気を壊したのは墳墓という場所におおよそ似つかわしくない少女。見えない何かから飛び降りてきたように、何もない場所から現れた。

「それ以上したら死んじゃう!」

「こいつはネムを狙った。殺すべきよ」

見えざる何かの殺意がこもった声。

2射目の矢は女エルフが意図せずともキーリストランの背にいたネムを射線上に捉えていた。本当にただの偶然だったのだがキーリストランの逆鱗に触れるには十分だった。

「貴女は何者?」

明らかに異質な存在に魔法詠唱者は杖を構えネムに向ける。その行動もキーリストランを苛立たせたが、尻尾に切りかかるスケルトンの存在が冷静さを取り戻させる。

尻尾を勢いよく振るとスケルトンの群れが砕けて飛び散った。

「ネム! ネム・エモ……じゃないや。今はネム・ストロノーフだよ」

「ストロノーフ? 王国の有名人と同じ名前」

「ガゼフさんの事ならお義父さんになってくれたの」

「父親に、なった?」

「えっと、ね――」

「おい、アルシェ! それどころじゃないだろ!」

「あ、そうだ。キーリ、女の人降ろしてあげて」

ネムと名乗った少女がとなりにいるらしい何かに声をかける。

そして、女エルフを拘束している何かが姿を見せた。

「は、ははっ……嘘だろおい」

「――ロバー、私の眼、おかしくなった? 目の前にドラゴンがいるように見える」

「見間違いであってほしいですね……。しかし、私の眼にも同じものが映っているようだ」

姿を見せたドラゴンは前肢で女エルフを拘束したまま後ろも振り返らずスケルトンの群れを尻尾で殲滅していた。

 




しばらく開いていましたが年内にもう一回くらい投稿できたら、と考えています

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