えっと、非常に今更なのですが頂いた感想に返信できると知りました。
ここまで話数増えて何を言っているのか。遅すぎますよね。
誤字報告に関してもです。使える機能は使えよという話。
メンボクナイ…
というわけで、この場を借りて感謝を。
お話はまだ続きます。よろしければごゆるりと、最後までお付き合いください。
触れれば張り裂けそうな空気の中先に口を開いたのはアインズだった。
「お前は何者か。返答次第では相応の対応を取らせてもらう」
「ぷるぷる、ボクは悪いスライムじゃないよ」
「……ゴブリンに見えるが」
アインズから放たれるどす黒いオーラの量が増す。ジュゲムは肩をすくめ真面目な表情を作った。
「どちらも雑魚扱いされる点では似たようなものだろう。とまあ、小粋な現代人トークで場を和ますことに失敗したらしいので本題に入ろう。最初に言っておくが敵対しに来たわけじゃない。話し合いに来たんだよ。だからそこのダークエルフを止めてくれ。荒事は得意じゃない」
「マーレ、アウラ。よせ。何を隠しているかわからん。下手な手出しは禁ずる」
二人は明らかに納得していないようだが一応武器を下ろしてくれた。
「よし、ではどこか外部と遮断できる場所にプレイヤーを全員集めてくれ。NPCは同席不可だ。……そう殺気立つな。信じがたいのは分かるが敵対しに来たわけじゃないんだから。そうさな……気になるならネムとエンリを人質にしておいてくれ。キーリもおまけで付ける。ネム、おとなしく待てるか?」
「うん。でも、お姉ちゃん大丈夫なの?」
「手足の怪我なら治せるから安心しろ。今はちょっと眠っているだけだから」
「じゃあ、狼さん達と待ってる」
「いいこだ。しかし、ここまで強い効果だとは思わなかったな……」
強さはピンキリだが上は90近いレベルの魔獣までネムと戯れている。中級のドラゴンに効果があったことでも十分驚いたのだが、目の前の光景はそれを軽く凌駕する。
「場所を用意した。ついて来い」
「さすがギルド長、判断が早い」
アインズが『転移門』を開きジュゲムもそれについていく。
移動した先は執務室のようだった。
「十重二十重に防諜を施した。気になるなら調べるがいい」
「別にそれはいいんだが……他のプレイヤーは来ないのか?」
「……ああ、私一人だ」
どうも触れない方がいい話題らしい。明らかに空気が重くなる。
「そうか、ユグドラシル最後の瞬間に立ち会ったギルメンはお前さんだけという事か」
「そうだ。私だけだった。……やはりそれが転移のきっかけなのか?」
「過去こちらに来たプレイヤーの共通点といえばそれくらいなんでな。断言なんて出来ないが集めた情報によるとそういう事になるだろう。この転移がどこかにいるかもしれないカミサマとやらの気まぐれか、世界のルールなのかわからないしわかりたくもないが……。と、そういえばまだ名乗ってなかったな。俺はジュゲム・ジュゲーム。それなりに有名なつもりだったが思い過ごしかな」
「……『ザ・クリエイター』か」
「ご名答。さて、いかなる質問にも答えよう。君の質問に9割程度なら答えられると思う」
「では、まず……ゴホン」
アインズは咳ばらいを一つ。
「すみません、口調崩させてもらいます」
「なんだ、やっぱり支配者ロールかい」
「ええ、その通りですよ。NPC達が望む姿になりきるのはしんどいですけど失望もさせたくないんです」
「ほどほどにな。その体はアンデッドでも中身は人間だろう? 無理すると潰れるぞ」
「中身、人間なんですかね? ここへきてから何人も人間を殺しました。残酷な実験も平気でやってきたし泣き叫ぶ女の子の四肢切断なんてことも。そんなことやっても何とも思わないんですよ?」
「殺した相手ややってきた事をわざわざ憶えているようならまだ人間だろう。って、そんなことはどうでもいいんだ。本題に入るぞ」
ジュゲムが取り出したのは会議なんかで使われるホワイトボード。手にはそれ用のマジックペン。
キュキュキュと文字を書く。
『ジュゲム先生の異世界講座 一限目 歴史』
「先生」
骸骨が手を上げる。
「はい、モモンガ君。なんだね?」
「字が読めません」
授業の最初から致命的だった。
「ん? 日本語が良かったか。王国語はまだ読めんか」
書き直し。今度は日本語で。
「読み書きできるんですね、こっちの言語も」
「伊達に数百年生きとらんよ。近隣なら王国語、帝国語、聖王国語やエルフ語、ゴブリン語、まあ大抵は覚えた。ただ、読みに関しては自信がない。気づいていると思うが音と口の動きがあっていない。どこかで自動的に翻訳されて会話している。お互いにな」
「確かに違和感はありましたが。それにしても長いのですね」
「実をいうと正確な年月はわからん。長い事地下に籠っていた時期があってな。ただ、最低でも600年以上はこっちにいる」
そこから語られるはこの世界の話。
100年ごとにユグドラシルからの来訪者が現れるらしい。来訪者の数も規模も毎回異なる。ただ、それがいつからなのかは不明。なぜ終了したゲームの世界からなのかも不明。
言えることはプレイヤーの来訪は小さくない波乱を世界に齎すという事。
「600年前のやつらは人間種だけを保護して国を作った。500年前の奴らは大戦争を巻き起こし暴れまくった。あいつら本当に面倒だったわ……。300年前はありゃ地味だったが些細なことで国一つ消したな。200年前はあちこちで活躍する勇者様御一行、と。ざっと羅列しただけでもなんとなくわかるだろう? この世界の個とユグドラシルプレイヤーの力の乖離が必ずと言ってもいいほど表面化する」
「私も初めての接触時、驚きましたよ。冒険者になって情報収集をしようとした時も周りが弱すぎてどうしたものかと」
「だろうな。この世界の一般人は基本的にレベル1だろう。街の衛士やちょっと体が鍛えられている農民、専門職にひたすら打ち込んだ者なんかでも2から5程度。鍛えられた職業兵士でも10前後、冒険者もピンキリだが最高位の冒険者や英雄と呼ばれるクラスでも25から30ほどか。例えをあげるなら王国最強の剣士といわれているガゼフという男がそれくらいだろうな。そんな世界にカンストプレイヤーが現れて力を振るってみろ……混乱しないわけがない」
「たしかに」
「まあ、もっと気になることはあるだろうから暇なときにこれを読んどいてくれ」
ジュゲムが取り出したのは分厚い本だった。
「これは何ですか?」
「テキスト、教科書だ。知っておくべきこの世界の情報が詰め込んである。どう活用するかはお前さん次第」
ユグドラシルにおいて情報とは武器であり秘匿されるモノ。それをあっさり投げ渡されてアインズは困惑気味。
そんなアインズをよそにジュゲムはホワイトボードの文字を一部消し書き直した。
『ジュゲムさんの異世界講座 二限目 地理』
「ではテキストの35ページを開いてくれ」
このノリで続けるらしい。
アインズがそのページを開くと周辺の地図が記載されていた。
だが、地名が読めない。
「……地名が現地語なんですが」
それ以前にテキスト内に書かれている文章も全て現地語であり。
「あ……」
「あ……って、なんですかそれ」
「細かいこと言うな。文字解読のアイテムくらい持ってるだろ、それ使ってくれ」
「はぁ……」
「ともかく! それはこの辺の地図だ。すでに持っている情報もあるだろうからここはサクッと流す。聞きたい点は後でまとめて聞いてくれ」
こうして、授業が進んでいく。
「と、まあ、こんなもんかな」
ホワイトボードには五限目の文字が。
本来は疲労無効のアインズがぐったりと机に突っ伏している。まともな教育すら受けてこなかったアインズにとっては少々負担が大きかったらしい。
「いやー、疲れた。以上の情報を踏まえたうえで聞きたいことがあるが……休憩しよう。しゃべりつかれた」
「そうですね……何か用意させますね」
「日本酒あるか?」
「しゃべり疲れたといって要求するのが酒ですか。喉焼きますよ? 酒自体はバーにありますが……まあ、いいでしょう」
「バーもあるのか。さすが41人で10大ギルドの一角になっただけはあるな」
まもなくメガネのメイドが日本酒とつまみ数点を持って現れる。
「こっちの酒はどれもうまみが少なくてなぁ……酒類の作成は料理人クラスのレベル2以降。唯一俺のビルドで失敗したと痛感した点だな」
スキルに無いものは作れない。転移してきた者にかかる不思議な縛り。錬金術や水薬作成媒体としてのアルコールは作れるが飲み物としてのアルコールは作ることができない。作った物は一応口にできなくもないが非常にまずい。
ジュゲムはコップに酒を注ごうとしてふと気づく。
「メイドさん、コップ一つしかないぞ?」
「はい。アインズ様よりコップは一つでよいと」
「いやいや、二人分いるだろ。あ、まさか未成年?」
お酒は二十歳になってから。
元の世界でもそのルールは生きていた。
無論、守っているものは少なかったし、恐らく企業も意図的にアルコール類を流していた。
「いや、違いますよ。この体はアンデッドです。見ての通り骨なので飲食は無理ですよ。口に入れても下に落ちるだけです」
「あー、なるほどなるほど。確かに肉無いもんな」
ジュゲムは一息にコップを干すとアインズを上から下までなめるように。
「下のモノも未使用で消失か」
「ちょ!? なぜ、それを!?」
「くくく、カマかけただけだぞ?」
「うぐ……」
「まあ、それも含めてごまかしようならあるだろ」
もう一杯無遠慮に飲み干す。
「えっ?」
「なんだその反応。まさか、本当に気づいてないのか? アレ使えば飲食どころか女も抱けるだろうに。しかも、お前さんの立場なら美女がより取り見取りだ」
ピクリとメイドが反応した。だが、それもほんの一瞬だけで。
それに気づいたジュゲムはちらりとそちらを見るがメイドの表情は変わらない。
仕方なく話を続ける。
「さっき冒険者になって情報収集って言ってたからな。てっきり使っていたのかと思ったぞ」
「それとどういう関係が……?」
「ほれ、人化の指輪だ」
「あれは人間種の街に入るためのキーアイテムみたいなモノで弱体化と引き換えに外装を人間種にするだけじゃないですか?」
「ユグドラシルではそうだったな。質は低いがあの町でしか手に入らない素材もあったから異形種プレイヤーも一つはもっているアイテムだろ。……こっちきてから使ってみたか?」
アインズの反応から聞かずともわかってはいたが。
アインズは指輪を取り出すと恐る恐る装備する。
「俺の時もそうだったが……どうやってリアルの姿を反映させているんだろうな」
骸骨改め黒髪の日本人青年になったアインズは自分の頬をつついてみた。
「ちゃんとした肉の感触だ……にもかかわらずちゃんと玉の気配もここにある」
ローブの隙間から見えるのはそれほど鍛えられていない胸板。
骸骨姿の時はここにあるアイテムが埋まっていた。見えないがちゃんとそこにあるらしい。
そして、ジュゲムに背を向けるとドキドキしながら重要な部分を確認する。
「……あった……おかえり息子よ……」
キラキラと後光がさして見えた。
「うん、なんというかそこまで感動されるとは思わなかったわ。それがあればだれとでも子作りできるな」
「ああ、その通り。だがその前に食事だ。ユリ、コップをもう一つと何か軽食を二人分。大至急だ」
「はい、すぐにお持ちします」
メイドが部屋を出ていくとジュゲムは3杯目を空けアインズに向き直る。
「口止めしておかなくてよかったのか?」
「え、ユリを呼んだのは授業が終わってからでしたよね?」
「そうだな。気づいてないなら別にかまわんか」
「なんの話ですか?」
「何の話かって……ナニの話だろう。骨だったから難しいと思われていたことが解決するんだぞ? 俺が誰とでも子作りできるなと問い、お前さんはその通りと応じた。……覚悟決めといたほうがいいんじゃないか?」
数秒の間。
漸く理解したのかアインズの顔色が青くなったり白くなったり。
「お前さんの立場上、取って喰われたりはしないだろうが寵姫にしろだとか正妻は誰だとかその手の問題が出てくるだろう。どう扱うかはしったこっちゃないが」
「ど、どうしましょう!? そのテの経験はゼロですよ!」
「誰か一人を正妻にするとまずいなら全員側室にしてしまえ。で、毎晩相手を変えて抱けばいい。ハーレムだぞ、容易には叶わない男の夢だ。やったな」
「そんな無茶な!?」
「無茶なもんか。経験者の言葉は重要だぞ」
気まぐれで抱いた側室が先に身籠り酷いことになった。正妻は笑顔で迫り同じく身籠るまで文字通り放してもらえなかった。苦い思い出だ。
「ちなみに『寝技』は教えてやれん。場数踏んで慣れろ」
突き放されたアインズは何か言いたげに口をパクパクさせている。
「失礼いたします」
まもなくメガネのメイドが料理を携えて戻ってくる。
とっさに支配者モードに立ち戻ったアインズはすかさず切り出した。
「あー、ユリ。先ほどの話だが他言無用で頼む」
「……」
返事がない。目が泳いでいる。どう見ても手遅れだった。
そして、メガネのメイドはものすごい勢いで土下座した。
「申し訳ありません! 皆が待ち望んだお世継ぎを創られると聞いて!」
即座に広めてしまったらしい。
「広まってしまったものは仕方あるまい。ユリ、顔を上げよ。だが、その話は私からしかるべきに時にする。皆にもそう伝えよ」
「はい」
「では、私は密談の続きに入る。呼ぶまで外で待機だ」
取り繕ってはいるが内心は大混乱だった。
「食べながら、続きでいいですか?」
「ここはお前さんの拠点だろう、わざわざ聞かんでいい。しかし、うまいなコレ」
そもそもジュゲムは出された食事に手を付けている。
「じゃあ、失礼して。こ、これはおいしい! コホン……先ほどの授業を踏まえて聞きたい事って何なのですか?」
「お前さんがこの後この世界でどうしていきたいか、だな」
食事を口に運んでいたアインズだが、真面目な表情を作る。
「世界征服、する事になっていました。この世界にきて間もなくうっかり口にした一言を真に受けてNPC達がどんどん話を進めていたんです。それを他人事のように見ていましたが……考えを改めます」
「ほうほう、どう変える?」
「私の意思で世界征服をして、アインズ・ウール・ゴウンの名の下にどの種族も統治して備えることにします。次の100年後に来るかもしれない仲間たちにすぐに気づいてもらえるように。もちろん、来るのは敵対ギルドかもしれない。それならば100年の間に絶対負けない力をつける。望む者が来ないなら次の100年を待つ。ダメならさらに100年。幸い寿命のない異形種ですので」
「気の長い事で。しかも、待ち望む誰かが来る可能性は限りなく低い」
「ええ。でもゼロだと断言もできない。だからこそ最初で躓く訳にはいかない。もし、敵対するなら―」
容赦はしない、と。指輪が外され本気が垣間見える。
「あのな、俺が正義の味方に見えるか?」
「違うのですか?」
悪のギルドの暴走を止めに来た、そう捉えていたが。
「自慢じゃないがカルマはマイナス傾いてるぞ。それに正義の味方が何も知らない娘を疑似餌にはしないだろう」
「……もしかしなくても、エンリという娘は人違い?」
「そ。だから、欠損の治療とお前さんがやった事への記憶処理、ついでに巻き込まれたドラゴンの復活はそっち持ちな」
「ドラゴンもなんですか?」
「アレは現地産だが妙に愛着が湧いていてな。昔見つけて以来、竜玉をちょくちょく与えている。多分、レベル40後半くらいはあるはず」
「竜玉って……ドラゴンのペット化ガチャのハズレアイテムですか?」
「そう。竜種専用経験値付与アイテム。上限レベルがある上に1個の効果が微々たるものとはいえ、軽く30万ほどぶん回しても目玉商品は出なかったからな。扱いに困るほど余っている。確か、目玉商品はレベル90くらいのドラゴンだったな。アトリエの看板に欲しかったんだが糞運営め、確率絞りすぎだろう」
「30万……」
大金を軽くなどと言われてしまい思わず面食らった。ジュゲムはリアルばれしているので納得できる額ではあるのだが。
「ああ、そうそう。ついでにくれてやれる情報は少ないがエンリの前の傾城傾国所持者はスレイン法国の関係者だ。だが、あの場所に来たのは恐らく亜人種狩りの為であってお前さん達と事を構えるつもりはなかったんだろう。不意遭遇戦だな」
それを聞くとアインズは黙り込んでしまった。なにか思うところがあったのだろう。
「しかし、本当に何が目的なのですか?」
情報をあまりにあっさりと渡してくるおかげで逆に真意が見えない。
だからこそ問いただす。
「この世界は気に入っている。だから壊れてほしくない。お前さんが地上の生物を滅ぼしてアンデッドの世界を作るなんてつもりだったら敵対したかもしれんが……そうでないなら好きにしてくれ。どの種族も等しく欠けることなく支配下に置くなら一強の支配もアリだな。むしろ、寿命のない異形種と裏切りの心配がない拠点NPCが配下にいるなんて好条件すぎるだろう。最初はうまくいかんだろうが時間はあるからいくらでも修正できるだろうさ。後は、そうだな……俺の国に不可侵ならそれでいい」
これまたあっさりと吐露された真意。思わず言葉に詰まる。
「……自分勝手な人だ」
「ああ、その通りだから何とでもいえ」
「話して気づいたんですが……私達似た者同士かもしれませんね」
二人はニヤリと笑いあいコップをぶつける。
「私もこうみえて我が儘なんですよ」