オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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序章 最初で最後の日

 

 

西暦2138年。

 

12年続いた伝説級のゲームがあった。

DMMORPG「ユグドラシル」。

感覚の一部を投影できる疑似体感型大規模多人数同時参加型オンラインゲームとして一世を風靡した人気タイトルだったが時代の流れとともに現れた新しいタイトルにプレイヤーを奪われていく。

今となっては全盛期の面影はない。

 

しかし、今日という日は違っていた。サービス最終日。

つまり、このユグドラシルというゲームは今日終わる。

数多のプレイヤー達が積み上げてきたものもすべて電子の海に消える日だった。

 

ここは始まりの町と呼ばれている。ユグドラシルを始めるプレイヤーが最初に必ず立ち寄る町。とんでもない自由度を売りにしていたこのゲーム。選べる種族は多岐にわたり人間種から天使や悪魔、妖精、ゴブリン、粘体種と何でもあり。さらにはクラスもこれまた多くサービス終了を迎えてなお見つかっていないものもあるらしい。

そんなわけで新規プレイヤーが途絶えて久しく、閑散としていた町はサービス最終日なんだから記念に、あるいは最後だからハデに散ってやろう的な何かをたくらむプレイヤーでごった返していた。

 

実際町のあちこちでド派手な魔法エフェクトが光を放つ。

PVP、決闘の始まりだ。

周辺のプレイヤーはどっちが勝つか賭けを始める。

あるプレイヤーはそれを肴にギルドメンバーと酒場で語らう。

あるプレイヤーはその酒場に笑いながら特大の魔法を叩き込む。

やったほうもやられた方も楽しそうに。

最終日だから何でもアリ。一種のお祭り気分だったのだろう。

そのせいもあって普段あり得ないことも平気で行われていた。

 

広場の一角、数人のプレイヤーがずらりと武具を並べ、声を張り上げる。

どれもこれも一目見てわかるほどに強力な武具だった。

「さぁさ、寄っといで! ここに並んだものはどれでも全部金貨一枚! 自慢じゃーないが一級品と自負している! どうせもうすぐ消えてなくなるんだ、ほしけりゃもってけドロボー!」

商売、というわけでもなく収集品の自慢そんなところだろう。実際彼らはギルドランキング上位のギルドに所属するプレイヤーで並んでいる品々はゲームが続くならだれもがほしがるであろうもの。

だが、だれも手を出さない。確かに一級品だ。だが、数分もしないうちにそれらは消えてなくなるのだ。物珍し気に眺めはするがそれだけだ。

買ったところで意味などない。

自分のものにしたところで意味などない。

 

23:50

 

祭りの様相も盛り上がりを潜め多くの者が粛々とその時を待つ。

 

「よう、ここにあるもの全部売ってくれ」

あと数分ですべて消えてなくなるというのに。

「なんだお前さんかわってんな。って、有名人じゃないか?」

「見たところ自分の作品も混ざっていたからな。過去の栄光も地べたに転がったままじゃ収まりつかんだろうさ」

そのプレイヤーは手にした剣をじっくりと眺める。

「使われなくなっても誰かの手に渡り語り継がれてこそ名剣、宝具といえよう」

それはロールプレイの一種なのか芝居がかった口調で。

「あんたやっぱり面白いな。気に入った。ここにあるもの全部。ついでにとっておきもくれてやる」

店を開いていたプレイヤーはありとあらゆるものを取引にのせ手続きを踏む。

「ちょ、おい……こいつは」

リストを眺めていた買い手が顔色を変えた。

「いいんだよ、どうせ使い道なんてもうないんだから。20だろうが200だろうが誰かさんの渾身の一振りも同じだろう?」

何か言いたそうな買い手だったが空に上がった花火に気を取られ口を閉じる。

 

23:59

 

いたるところでカウントダウンの声が上がる。

 

買い手も売り手もその声に唱和する。

 

00:00

 

世界は暗転した。

 

 

―ハズだった―

 

 

目を開ける。視界に入るのはベッドの天蓋。細工の限りを尽くされたきらびやかな部屋。

手を上に伸ばす。節くれだった指、尖った爪、茶緑色の皮膚、引き締まった筋肉。

起き上がる。人間の子供より一回り大きいくらいの体躯。人とは違う醜悪な顔。

少しでもファンタジー系ゲームをかじったことがあればその姿を見てこういうだろう。

ゴブリンだ、と。

「そろそろ時期だとは思うが、今度はどんな奴が来るかねぇ……」

ゴブリンは一人呟き伸びをした。そのまま一通り体をほぐすと枕もとのハンドベルを鳴らす。

「おはようございます、陛下」

臣下の礼を取りつつ入ってきたのもゴブリンだった。仔細は違うだろうが一般的にメイド服と呼ばれる服を着こんだゴブリン。声音と格好から見るに雌のゴブリンだ。

「あー、おはよう」

メイドゴブリンは一礼すると手にしていた服を全裸で仁王立ちのゴブリンに着せていく。

「今日のご予定はどうなさいますか?」

「でかけ……いや、ないな。いつも通り工房に籠っていると思う」

「では、こちらで組ませていただきます。仔細は後程に」

「ああ、任せる」

着替えつつのいつものやり取り。長い時間繰り返してきた彼らの日常だった。

 

メイドゴブリンは着替えが終わると部屋を辞した。

残されたゴブリンは羽ペンと羊皮紙を取り出すと何かを書き付ける。

「よし、これでいいだろう」

さっと書き上げると中空に手を伸ばす。その手は何もないところに飲み込まれて消える。

再び現れた手には何やら鎖のようなものが握られている。

ゴブリンは慣れた手つきで左腕に巻き付ける。

 

そしてそこには誰もいなくなった。

 

 




こういう場所への投稿は初めてですのでイマイチつかめておりません。
改善点、追加すべきタグなどありましたら投げていただけると幸いです。

それなりのストックが書きあがっているので推敲できしだい気まぐれに投稿する予定です。

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