間違って消去して……
ともかく長らく時間がかかってしまいました。m(_ _)m
次はもっと早く投稿するぞ(フラグ)
僕は今日恐るべきことを知ってしまったよ。
ああ!今でも思い返すと寒気がするよ。
話をしよっか。あれは今から7時間いや2時間前だったかな。まあいいや。僕にとっては今さっきのことだけど君にとっては多分…………10分後に知る話であり、1時間前には知ってる事実だよ。
いいかな?ありのまま今日起こったことを話すね。
僕は昼休み終了間際にトイレに行った。誰かが掃除をしたのか下は水浸しだった。僕はその時点で気付くべきだったんだよ、あの恐るべき現象に。
ほどなくして僕は教室に向かって歩いていたんだ。するとふぁり、体が宙に浮きあがったんだ!そして次に目を覚ました時には保健室ベッドの中にいたんだよ!
さらにそれだけじゃないよ。本当に恐ろしいのはここからなんだよ。
なんと学校の授業が終わっていたんだよ!!
催眠術だとか超スピードだとかそんなちゃちなもんじゃ断じてないよ。もっと恐ろしいもの片りんを味わったんだよ!
つまりさ
「空間移動と時間操作できるちゃったんだけど威呼くんどう思う?」
「センターってバカなんだろ」
なんとも率直な意見に惚れ惚れするよ。僕だったら煮え切らない曖昧な相づち打ってなんとなく話を合わせてるだろうからね。
「やーだなー威呼くん。今まで僕が一瞬たりとも天才になった時なんてないじゃないか」
「そこは嘘でもバカじゃないって否定しろ」
「だって僕は嘘つきにはなりたくないから丁重にお断りするよ」
嘘のようで本当のことなんだけどね、実は今まで嘘を一度もついたことがないだよ。だからこれからも嘘をつかないことにしてるんだよね。ほらよく言うでしょ?嘘つきは政治家のはじまりって。……何か違うような違わないような。まあいいか。
「ああ!寒気が止まらないよ!」
「今まで温かい布団に包まって寝てりゃそら寒いだろ!」
寒い寒い。せっかくいい感じに寝てたのに外気にさらされたお陰ですっかり目が覚めちゃったじゃないか。早く二度寝したいところだけど生憎、掛布団は威呼くんの手の中なんだよね。寝てる人を乱暴に起こすなんてそれが人のやることですかね。って寝込み?
「威呼くん」
「なんだセンター」
「寝込みを夜襲する趣味がおありで?」
「センターなんかほっといても死ぬだろ」
「そんな、人を、人の命を、威呼くんはいったいなんだと思ってるのさ」
「人に変な趣味を疑う奴に言われる義理はないからな?」
無理やり起こしていいのは近所の幼馴染と目覚まし時計だけに許された特権で、それ以外は他人の睡眠を妨害するのは例え神様であっても万死に値する罪だって威呼くんは知らないのかな。
「いいから起きろ。もう放課後だぞ」
「仕方ないね。起きるよーでももうちょっと起こし方なんとかならなかったのかな?」
二度寝したいけど二度寝できない。そんな僕の限りなく八つ当たりに近い鬱憤が威呼くんを襲う。
「俺の女子声真似の幼馴染風ボイスでそんなに起きたかったのかよ変態め」
僕そこまで言ってないよね。むしろ罰ゲームっぽいし、どっちが罰受けてるのか分からないけど。それとしっかり幼馴染をチョイスしてくるあたり狡いよね。
「威呼くん」
「なんだセンター」
「そんなところに力を入れるならリアル女子高生を連れてきて欲しかったよ」
「あぁん!!俺に画面越し以外の女子に話しかけろってか!ふざけんな、あんなのの前に立ったら恥ずかしいだろ」
なんとなく言った冗談の一つのせいで自称エロ大魔王の意外な弱点露呈したのでした。
僕は荷物を教室に取りに行くから威呼くんには校門に先に行ってるようにお願いした。
「じゃ後で」
「あ、待って威呼くん」
僕は靴を履き終えて顔を少し伸ばして威呼くんと視線を合わせて言いそびれたものを忘れないうちに済ませることにした。
「起こしてくれてありがとう」
「おうよ」
威呼くんは返事は短く切ってすぐ出て行ってしまった。
当然でしょ?放課後に保健室まで起こしに来てくれた友達なんだよ?感謝しないとね。
「でも5月なのに未だに帰宅部って威呼くん暇人だよね。ほかのみんなはそれぞれ部活入ってるのに、変わってるね」
完全に「お前がいうな」な発言であったが生憎この場にはそれに齟齬を感じる者も反論する相手も不在であり、そんなのは夕日に焼かれて燃え落ちていった。
「ところでさっきの話なんだけどね」
僕は摩訶不思議な現象について下校しながら威呼くんに再度話題を上げた。が、
「あ?センターが昼休みに階段から落ちて放課後まで気絶してたことか」
なんだか夢のない現実の話になって帰ってきた。ジャックのお爺さんもこんな感じだったのかな。ジャックが
「夢がないね」
「二次元を三次元へ変換する装置が生まれない限りこの世に夢はない」
厳しいのか厳しくないのか分からない条件が提示されてちゃったよ。
「あーあせっかく特別な力を得たと思ったに」
「だから思い過ごしだろうが」
某学園都市ではそういう思い込みが超能力を引き出す的なことを幼女先生が解説していたような気がするけど。
「そんなに特別な何かが欲しいのかよ」
「え、いらないけど」
「……俺、ときどきお前と同じ日本語の文法を使ってるか心配になる時があるわ」
そんなの僕なんて威呼くんの話聞いてる間はずっと思ってるけどね。ロリとか○○〇とか○○〇○○〇○○〇とか横文字ばっかり使ってさ(よく覚えてない)。
「だって僕だよ?僕なんかがそんなの使いこなせるわけないじゃないか」
「そりゃそうか」
あっさり納得されちゃった。なんだろ、この、のび太だから仕方ないみたいなのは。
「『静かに生存する』!それだけ……それだけが満足感よ!」
「急に、過程や方法などどうでもいいのだ、とか言いそうな吸血鬼ネタぶっこんでくるのやめろ」
怒られた。ラスボス感だそうとして失敗した例だね。ラスボスにしては迫力ないかな。でもその次の章の殺人鬼はそんな感じだったよね。
なんて話しを意味なくしてるとついに終わりがやってきた。田舎でも三車線あるくらい広い通りにはいくらか車の音がするものです。ここが僕らの分岐点。僕は近所だからこの辺りで威呼くんと別れることになる。
「じゃあな」
「うんまた明日ね」
僕は引き返すか突き進むか考える。引き返せば確実に家にたどり着く。突き進むば家との最短距離を発見できるかもしれない。
「おいセンター」
別れのあいさつはしたから今日はもう話し終わったのかと思ったから威呼くんの不意の呼びかけに僕は少し驚いた。
「なにかな」
「今日は、いやこの放課後はよくしゃべるのな、なんかあったのか?」
何もない。何もなかった。いつも通りだった。僕は普通通りだった。それなりの失敗があり、そこそこの成功のある僕の日常そのものだった。
だけど、確かに今の僕は思い返せば、そうだねよく話していたように思う。いつもより話していたように思う。いつも通りじゃなかったように思う。だからいつも通りじゃなかった。
「さあどうだろ。階段で頭を打ったのかもね」
「いや大丈夫かよそれ」
「大丈夫!そんな壊れて不味いものは
「大丈夫の理由なってないぞそれ。センターは相変わらず柔軟な鉄人だな」
「柔軟と鉄人って矛盾してるんじゃないかなー」
威呼くんは笑っていたけどいつもと違って少し演技臭い気がした。
別に誤魔化しているんじゃないよ。僕にだって分からないから曖昧にしかできないだけでさ。嘘つきたくないから余計なことを言わないように濁しただけでさ。
威呼くんは気を使ったのかそれ以上は踏み込んではこず背を向けて去っていった。いつも通りに。
「…………じゃ真っ直ぐ帰ろっと」
探索する気分じゃないや。
スッと体をひねって半回転して後ろを向こうとしたら案の定こけた。あんまりにも滑らかなこけざまに僕は地面にぶつかって痛みを感じるまでこけたとは気付けなかった。
多分、滑らかなのは関係なくてただ僕の反応がとてつもなく鈍くてついそう感じただけなんだろうけど。
「バランス崩したのにそれに気付かないで手も付けないまま無防備に倒れるなんて僕には本当に反射神経が備わってるのかな」
自分のダメさ加減に僕が人間か疑わしくなってきたよ。
だけど1人になって緊張が緩んだせいか、こけて少し変になったのか、威呼くんが変なことを確かめてきたせいか。「体を半回転させる」たったそれすら為せない恐ろしいまで不器用ぶりに僕が僕であるという実感がどことなく湧いてきた。うん大丈夫、いつも通りだね。
「くふ。くふふふふ」
続けて不意に口元が緩んできちゃった。
なんでか
さらには身も振るえているみたいだ。いや、さっきのこけた痛みで足に上手く力が入らないとかそんな理由かもしれなけどね。
「ふふっふ、へへへ、あははははは」
急に笑い出して僕はどうしたんだろうかな。
深く考えようとしたけど閉ざす気が特にない口は開く一方。つられて笑い声も露わになってきた。どうも考えるには煩い。だけどまあせっかく1人で人気のない帰り道だし誰かに聞かれることもないはず。んじゃ笑えてるんだしここは素直に笑っておこっと。
「はははっははっはあっはっはあは-----------」
なんでもない平凡。そんな中に生きる彼はなんの理由なくただ楽しそうに笑った。彼のことだからきっと本当に理由などないのだろう。なんとなく笑えたから笑ってるだけ。促進するでも衰退させるでも抑制するでも強制するでもなく。ただありのまましたいように、なるように受け止めただけ。
嬉しいわけでもなく
悲しいわけでもなく
痛いわけでもなく
辛いわけでもなく
楽しいわけでもなく
苦しいわけでもなく
それとなく、なんとなく。
そう彼はいつでもいつまででも笑い続けるだろう。
自分の周囲がいつも通りだと思い続ける限りいつまでも
そんなありふれた幸せが尽きるまで
残りあと7分。
周知のように僕の家は学校からかなり近い場所にある。それから学校から見ればこの大通りと家との方向はほとんど変わらない。
だけど密集する住宅、真っ直ぐだけど直線でない道、方向感覚を揺さぶる120度くらいの微妙な曲がり角、唐突な行き止まり、回避経路が用意されていない壁。そんな住宅街特有の入り組んだ立地のせいで家の方角に向かってなんとなく進んでるつもりなのにどうにもたどり着けないみたい。地図が手元にないこともあってこの町は「空間が歪んでる」なんてトンデモ発言されてもそれが有名な学者さんとかに力説されると信じてしまいそうになるくらいには入りんでいる。
そんな街と僕のダメダメさの相性というか相乗効果は凄まじいものがあるみたいで今まで1時間以上彷徨っても未だにこの大通りから家にたどり着いたことがないんだよね。ここだけは僕には珍しく自信を持って断言できるよ。
「なんだって昨日も迷ったし間違えようがないからね!」
先週も3回は迷ったし。いくらちょーっと忘れっぽい僕でもこれだけ同じ失敗すれば簡単には忘れないよ。ただし同じ過ちを繰り返さないとは限らないけど。
それにしても通算で今どれ位かなー?迷ってあっちこっち歩き回ったお陰でここ1、2ヵ月で隣町も含めてこの近辺には詳しくなってきたはずなんだけどね。
「それでも僕が迷わず家にたどり着ける日はまだまだ遠そうだねー」
僕のやることなすことの大半はどうしてかどれもこれもどうにもこうにも上手くいかないんだよね。
道さえ間違えなければどうということない住宅路。僕はその中をのんびりと歩く。ほらただでさえ僕が急ぐとロクなことは起こらないから。本当は朝だって急ぎたくはないんだけどいつの間にか毎日、走らないといけない時間になってるんだよねーフシギダネー。
急がないからか僕は辺りをぼんやりとだけ見渡す。引っ越してきた時は何か思ったろうけど毎日通うから今ではすっかりもの珍しさもなくなってしまった僕の通学路。
今にも崩れそうなボロ屋敷だったり、ボコボコに凹んだ塀だったり、黒野良猫が横切ったり、血で染めたみたいに赤黒っぽいペイントがあったりするだけで珍しくもないただの喉かな田舎道。
強いて不思議なこと挙げるなら
「まだこの辺りで人に出会ったことがないねーってくらいかな」
そういえばそうだね。近所でも通学路でも誰ともすれ違ったこともないかも。そもそも住宅街なのに人の住んでる感じがしない気がする。夜散歩にでかけてもどこも暗いし……。みんな朝が早いのかな田舎だし。
まあ目撃されないでいいけれどさ。
偶然か必然か。それとも僕はよそ者扱いで避けられてるとか?小さい町だしそれだけ地域ぐるみの繋がりも強いのかも。ま、多分その内会えるよ。
まだ見ぬ他人のかるーく流して、そろそろ家も近い。今日は学校で寝たし家では何時間くらい寝ようかなー。
なんて考えていると噂をすればなんとやら。
「おおい、そこの、坊ちゃん。ちょっと、ええかね」
そんなしがれた声が後ろから聞こえたね。くりっと今度はこけることなく半回転に成功した僕の前にはよぼよぼのおじいさんがゆ~っくり動いていました。
ほら、人発見。
―――――――――うん?後ろって。ここしばらくには分岐も身が隠れられる場所もないのにね。あのゆ~っくり度で僕を追いかけて来たには少々現実味がないよ。なら、この老人はいったい
さっき僕がこの老人を追い抜いたってことなのかな。でも人は見なかったような気がするし、でも現に目の前にいるし。僕の思い過ごしかな。この辺で人を見ることがなかったから同然いないものとして思い込んでしまっただけかも。
それとも置物とかと見間違えてたーとか、まっさかぁ~いくら僕でも………………ありそうで怖いなぁ。
「はい、僕なんかになんの用ですか」
何はともあれ無視する訳にもいかないし疑問は適当にまいっか、と区切りをつけて僕は傍まで駆けよる。
「そお、大通りに、行きたいんじゃが、迷ってしまっての、案内して貰えんかねえ。ついでに荷物も、持ってくれると、助かるんじゃがあ」
ああなるほど。そりゃそうだよね。こんな田舎の住宅地をうろつくのは住人か訳有りか迷い人くらいだもんね。特にこの辺りは
なんでか複雑にできてるんだよねーこの町不思議だねー。
「いいですよ。どの荷物ですか?それとどこに行きたいとかってありますか?」
完全に道を網羅してるとはお世辞にも言えないから「どこ」についてはあんまり正確に指定されちゃったらかなり大回りなルートを案内することになるかもなー。
ともあれ困っている老人を無碍にはできないからね。背伸びすればなんとか家の屋根が見えるんじゃない?と感じるほど自宅まであと少しとなかなか歯がゆい場所で道案内の頼まれだけど、こんな場所に放置するなんて常識人として恥だからね。
「これを。それと、あっ、ちの方になる、んじゃ、が」
老人がゆっくり降ろされた荷物は ゴンとなかなかの重音を響かせました。幸い僕はリュックなので両手は空いてるけど。
…………持てるかな。僕、力には自信ないんだよね。ほかに自信あるものなんてのもないけどさ。
と、とりあえずはチャレンジ精神で試してみよっか。それと、えっとあっちの方、ね。ああ、あっちね。そこは前も行ったことあるから道はなんとかなるかな。覚え間違いしてなきゃいいけど……。
「さてっと」
「あっち」側に体を向けながらいったん脱力~そして全身に活を入れて僕は荷物の持ち上げにとりかかります。
あれ?意外と、うんん拍子抜けってくらい軽い。
音が大きく響いたただけあって想像の重さとの差に驚きを隠せないよ。
「思っていたより全然軽いですね。これならよゆ……グッ!? 」
うだね、と最後の三文字を言え終わらないうちに突然リュック越しに伝わる何かがぶつかったような衝撃に自然と僕の体が前へと飛び出る。
荷物に気を取られていて急な変化に体がついていけない。そのままバランスが崩れていっちゃう。危ないと思っても体がついてこない。文句の言葉も追いつかない。それに倒れる方をありのまま眺めれば-------
(そっかまた階段か)
ああ平面が遠いね。僕の眼下には今日転んだ家や学校の階段より比較にならない程に長く固い石畳の階段が整っていた。
そして、家や学校のものと比較にならないくらい痛んだろうねーそうだねー。今日は階段に愛されてるなあ。
遠い目でぼやいてみても僕はすでに空中。残念なことに空中コンボや空中受け身は未実装な
「そうだ。あっちの方にある。――――――地獄までちょっと俺様にツきアってくれや少年」
そんな幻聴が聞こえたような聞こえなかったような。聞こえなかったことにしておきたいです。
でもこんなことできるのって、人の骨が砕けないくらいの程よい速さと、超精密なコントロールと、人のバランスを乱す程度の威力しか保持してない超小粒隕石が僕の背中に降ってきたー
とかじゃない限り確率的におじいさんしか犯人いないですよねー。嫌だなぁ見てもないし証拠もないのに人を疑うようなことはしたくないんだけどね。
あ、そっか。こんな町にいるんだから住人じゃないなら迷い人だってほぼ確実に訳有りに分類されるよね。
そーゆーの手遅れになってから、遅まきながらその辺に気付くあたりなんとも僕らしいよね。
それにしても人間はいったい何歳の時に飛べないものだという残酷な現実に気が付いたのだろうか……。多分落ちるってことを知った時だろうな~と僕は思いましたまる(現実逃避気味に)
でも実は僕の体は保健室のベッドの中で、これは全部夢なんだよ!
そんな
「う、ぐぐぅ」
どうなったんだろか。体は動いてないからもう下まで辿り着いたみたいだけど立ち上がって確認もできないや。痛くて。
あれもこれもそれもどれも痛いばっかりで動させない。それ以外は何も分からない。
----死ぬのかな。
答えはでない。ぼんやりと鈍重な霧がかった僕の頭じゃ現実が理解できるほど察せない。悲観に浸って諦めるべきなのか、温情の入り込む猶予があるのか、生存を夢見ていいのかどうかも分からないや。
頭の中で生死や思い出や痛覚や感情が渦巻いて僕にだって何がなんやら。思考がまとまらない。自問や疑念が湧いて湧いて。でもそれに答える余力もなくて、何もかもが空回りして言葉にならない。
でもそのお陰なのかな、死ぬかもしれないけど怖く感じないや。
|「死ぬかもしれない」と「死なないかもしれない」《はっきりしないふたつ》が天秤に乗って上へ下へ右へ左へ世話しなく躍動してる。そんな決める気がない判定に、行く末を見守るのもどうでもよくなってきた。
痛い。つまり生きてる。
まるで「それで十分だろ」とでも言いたげに簡潔にまとまった1文が脳裏に響く。
さすが僕というか。ぐうの音も出ないというか。そうだね。
そんなのを素直に肯定して満足して納得してめでたしめでたしと全てを終わらせてしまう。そんなおめでたいのはお前の頭の中の方だと怒られそうだけど、それが僕だからね。
そんな安心感もさっきの老人が階段を下って僕の視界へ映るまでの僅かなものだった。
老人の陰に見えた物が、老人に見える影へ
老人に見える影が、人に見える影へ
人に見える影が、人型に見える影へ
人型に見える影が、人型をした影へ
人型をした影が、型をなした闇へ
どんどん
どんどん
濃く悪く黒くなりながら近づいてくる。それはさながら「地獄の使者」なんて安直でファンタジーに片足埋まった者として僕には見える。
月並みに怖いとか恐ろしいとか叫んでしまいそうだけど
異常が来る。逃げたい。異質が来る。避けたい。関わりたくないと必死になるけど
----でもできない。
動けない僕にには何も許されていない。
だから僕のことであっても僕なんかにできることは何一つたりともなくて
ああ、
「ィツモでぉれd」
あはは、喉も傷ついたみたいでしっかり発音もできたない。締まらないや。でもここで死んでも仕方ないよね。だって僕は普通の男の子なんだから。
そして僕は気を失った。いつも通りに。
老人の姿を辞めた俺様は動きやすい体に変質させた。階段を降り切った俺様は先に転がって血まみれになった少年を見下ろす。
「やべっ。ついツきオとしちまったぜ」
でも少年が悪りぃんだぜ?こんな人通りもねぇ場所でお人好しに人助けしようと無防備な背中を見せるから。
「だからついコロしたくなっちまったじゃねぇか」
お前さえいなけりゃ俺様はこんなことしなくたってすんだっつうのによぉ。
「ああ、くそったれ」
こちとら新しい器探しに忙しいつぅのになんだぁこの町。全然人がいねぇじゃねえか。
「この際ついでだ。
転がる少年を見るにどぉ見ても普通そうでつまらねぇ。まあ人助けするくれぇだ、敵とか刺客とかじゃねえだろ。そう考えれば身を潜ませるにはこれ以上なく相応しいのかもしんねぇがな。
「ぃっう」
ちくしょぉ、頭が痛てぇ。そろそろ限界かよクソが。
「しゃーぁねぇこれで勘弁してやるぜ」
だから、俺様は、今だけは、こいつに賭けよう。
俺様は魂を賭けよう。誰でもない俺様のためになぁ。
「だからちゃあ~んと俺様をイかしてくれよ、少年?」
俺様はまだ生きてぇんだ。俺様はまだ憎んでいてぇんだ。俺様はまだ世界に歯向かっていてぇんだ。
だから、才能を経験を技術を能力を威厳を意思を努力を精神を肉体を意地を何もかもを
テメエの全てを俺様に寄こせ。俺様が骨の髄まで使い込んでやるからよぉ。
途端、俺様の体に亀裂が走る。その合間からはどろどろとゲル状の黒い何かが零れて漏れて、やがて体に見えたものさえそのゲルに変化してく。
どろどろと液体状に崩れる俺様は保てなくなり切り離されていく
まるで巣穴に帰る大群の蟻のように。
そんな柄にもなく自分以外の他人に微量であれ、期待をいだく彼であったが、
彼はまだ知らない
自分の器に選んだ者がそんなプラスで利点で旨味で構成されているような優等生などではなく
嫌になるほど否定的で、何も害せないほど無力で、どうしようもなく凡庸で、とてつもなく中途半端な、弱者でしかないことを、
彼はまだ知らない。