復讐者-Avenger- 正義を憎み、人間を恨んだ男 作:ゔりこんどりふぁ
そんで過去編
過去と経緯と誕生と
いつからだっただろうか、正義を憎むようになったのは。
いつからだっただろうか、人を恨むようになったのは。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その時は、母親と商店街から買い物を終え、帰路につこうとしていた。全ての落ち込んだ気持ちを晴らしてくれると思える。それほどに雲ひとつない晴天の日だった。
「帰りましょうか」
「うん!」
そして母親が俺の手を引こうとした瞬間、
ドガンッ!!!!!!!!!
遠くで鳴り響いた激しい爆発音のあと、猛烈な熱風と高速で飛翔する細やかな破片が俺達を襲った。
「危ない!」
元ヒーローであった母親は、咄嗟の判断で俺を庇うように抱き抱えた。
「痛っ!」
苦痛に歪めた母親の頬には、一筋の切り傷と鮮血が滴っていた。
「母さん!血が!」
「大丈夫よ、貴方が居ればすぐ治るわ」
その言葉通り、淡いエメラルド色が母親の傷口を包み、それが消えた後には、元の絹のような肌が覗いていた。母親の個性、『慈愛』は誰かを愛おしく思えば、自らの傷を癒すことが可能で、誰かが彼女を愛おしく思えば、その対象の傷が癒える。
「さ、早く逃げるわよ」
俺に有無を言わせず、俺を抱えたまま走り出そうとした時
「おっと?そいつぁ、ちと困るなぁ?」
今回の元凶であろう、
「爆発だけじゃ物足りなくてなぁ。やっぱりやるのは人だろ?」
同意と共にそいつは俺達の命を要求してきた。
「下衆が」
蔑みを込めた目で母親は睨みつける。
「るせぇ、クソアマ!!!」
逆上したそいつは、左腕の穴から白い粉が、右腕の穴から炎を噴き出す。そこから導き出されるのは一つ。
「吹き飛べ!!!!!」
『粉塵爆発』
ドガンッ!!!!!!!!!
先程と同じ爆発音、しかし距離はほぼゼロ。その威力は計り知れない。
「あぐっ、がっ、うっ」
母親は俺を抱えたまま商店街の入り口近くまでゴロゴロと転がる。
「大丈夫……?……怪我は?」
こんな時でも、自分の身より先に俺を心配する母親。
「大丈夫だよ!それより母さんが!」
俺は必死に母親に怪我を治すように訴える。
「焦んなくたって大丈夫。もうすぐ大通りに出られるし、そろそろヒーローが着く頃だわ」
再び淡いエメラルド色に包まれるが、明らかにさっきとは治癒速度が違う。まるで治る気配が無い。
「あら……、ヒーロー辞めてから鈍ったかしら……、こんな傷に時間かかるなんて」
「無様だなぁ、クソアマァ!!!!」
怒り狂い、顔色を憤怒に染めたあいつが俺達に迫る。
「そこまでだ
「あぁ!?」
間一髪といったところで、ヒーローが駆けつけた。そのヒーローは決してランキング上位ではないが、最近になって検挙率がぐんぐんと伸びてきたことと、自己犠牲の精神が強いことで注目を浴びているヒーローだった。
「関係の無い市民を巻き込み、街を破壊するその行為見逃すわけにはいかない!」
まさに正義の味方らしい口上を述べるヒーロー。その言葉に反応して周りの野次馬が沸き立つ。
「いいぞヒーロー!」
「お前を待ってたんだ!」
「そんな気味悪いイボイボ野郎ぶっ飛ばしちまえ!」
「黙れゴミ共!!!!!!」
ドンッ!!!!!!
そんな声援をかき消す程の爆発音で
「どいつもこいつもぉ!!!!!!!」
先程までとは違う、指向性を持たせた粉の振り撒き方ではなく、全方位に、辺り一帯を吹き飛ばすかの如く。
「さあ、クソアマも、やかましい野次馬もヒーローも!こいつでみんなおさらばだ!!!!」
「させない!!!」
ヒーローは爆発させようと炎が吹き出る直前の右腕にしがみつく。噂通りの自分の身を顧みない行動だ。だが、それにより噴出するはずだったの炎が体内に逆流する。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
身体の内側から焼け焦げる痛みに耐え切れず、
「「「「「「うおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
「やっぱあんた最高だぜ!!」
「さすがだ!」
「あんなこと普通のやつならできねぇよ!!!」
そんな賞賛の声が次々に彼に降り注ぐ。そして間もなく救急車や消防隊が到着し、俺と母親は念の為に病院で検査を受けた。
◇◇◇◇◇◇
数日後、学校の用事で少し帰るのが遅れていた俺は暗くなる前に帰ろうと、普段は使わない裏道を通っていた。
「…………た」
ふと、聞き覚えのある声がした。
「……も…た」
それが、あの時のヒーローの声だと気づくのにそう時間はかからなかった。どうやら誰かと話しているらしい。
「あなたのおかげで、注目度もうなぎ登りだ。全くもって人間ってやつは単純だ。目の前の事しか見ようとしないんだから」
あの時のヒーローからは想像のつかない冷たく感じる言葉だった。
「ヒーローとは思えない発言だな。まあこんなことしてる時点でヒーローなんかじゃないんだがな」
「おいおい、そう言うなよ。お前ら
「しかも、命令した奴にはヒーローが来ることを教えないから、芝居くささなんて微塵も出ない」
驚きと困惑、そして怒り。様々な感情がごちゃ混ぜになりながら、なにかが奥底からせり上がってくるのを感じた。
「おい!」
「「あ?」」
その全てを吐き出すように俺は叫ぶ。
「お前たちのせいで母さんが傷ついた!お前たちみたいなゴミのせいで!!」
「おい、ガキにバレちまったじゃねえか」
「まあ、ガキの戯言で片づけられるだろうが、万が一だ。殺そう」
2人が俺に迫る。
「何が殺すだ!自分だけじゃまともに
その言葉がヒーローの琴線に触れたのだろう。
「黙れクソガキ!!てめぇに何がわかる!個性は痛覚無効なんていう戦闘向きじゃねえ個性!ここまで来るのだって必死だったんだ!だから、」
ヒーローが言葉を紡ぐ度に体が熱くなる。少しずつ少しずつ、まるで燃えるように。
「
限界だった。
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
黒い炎が俺から溢れ出す。母親の個性とは真逆の、人を傷つける為のもの。個性 『憎悪』が発現した瞬間だった。
「その楽のためだったら、誰が傷ついても良いのか!」
「俺だって苦しんだんだよ!それにてめえの母親は生きてるじゃねえか!死ななきゃいいだろ!」
これ以上こいつの言葉は聞きたくない。そこで俺が選んだ選択肢は自分の耳を塞ぐことじゃなかった。
「だまれ」
小さな黒い炎がヒーローの足首へ引火した。
「ハッ!聞いてなかったのか?俺の個性は痛覚無効!こんなチンケな炎で俺を……」
ヒーローの口が止まる。
「どうした?もしかして炎が消えない事に気づいたの?」
「ガキィ!てめぇ何しやがった!」
「どうしたも何もこれが俺の個性みたいだ。決して消えない黒い憎しみの炎」
次々に燃え移り、下半身は黒い炎に包まれきっていた。
「分かった!この事からはもう足を洗う!だから頼む!」
「たのむって何を?」
「俺を見逃してくれ!」
ヒーロー、いや男は無様に幼い俺に向かい頭を地面にこすりつける。
「この通りだ!!!だから!!」
「いやだ」
「へ?」
男の表情が固まり、絶望へと染まっていく。
「だから、いやだってば。痛覚無効で良かったじゃん。あぁ、でもそれはそれで気持ち悪いのかもね。生きたままからだが腐ってくみたいな感じで」
「い、いやだ、いやだ、死にたくない、消してくれ、消してくれよ!」
男は、まるで俺ぐらいの歳でするようなぐちゃぐちゃな泣き顔で懇願する。
「仕方ないなぁ、はい」
パチンッと指を鳴らすと炎は消えた。
「よくもてめぇ!!!!」
水を得た魚のように男は掴みかかろうとするがそれは無理な話だった。
「あ?俺の足?」
それもそうだ。何故なら
「ああ、気づかなかったみたいだね。ざーんねーん」
そして、視線を
「ひっ」
目の前の出来事に怯えきってしまったそいつは、すんなりと話を聞いてくれそうだった。
「ねぇねぇ、他にも
あえての言い方だったが伝わったようで、この近辺から少し離れたところまで、うじゃうじゃと契約者がいるようだった。
「ふーん、じゃあまとめて呼んでおいてね」
翌日、ヒーロー大量虐殺事件が記事の一面を飾った。
でもまだ終わっていなかったんだ。
子供っぽさを出すためにわざとひらがなにしてる部分があります。
最後の言葉通り過去編があと1話続きます
イボのやつはフジツボがウネウネしてると思ってもらえれば。キモッ