Re:ゼロから始める千翼の苦難 【完結】   作:寝坊助

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第2章 ロズワール邸 魔獣編
6話 目覚めた場所は


さっきまで命だったものが、辺り地面に転がる地獄絵図。

無数の屍が横たわるその光景の中、その真ん中に千翼が立っていた。虚ろな瞳で辺りを見渡すも、何もない。そこにあるのは命の抜けた、抜け殻のみ。

 

「見つけたぜ、オリジナル」

 

数歩歩いたらその先には、自分に銃口を向けている4Cが並んでいた。その先頭に立っているのは、黒崎。

 

「イィ〜ユゥ〜」

 

「ッ!?」

 

気怠そうな声で呼ばれた少女。人形としか思えない無機質で無表情のその表情。

 

「イ、イユ!待っーーー!」

 

「ターゲット、確認」

 

最後の最後まで護ろうとした彼女は、カラスアマゾンへと変身して千翼へと飛び掛る。容赦無く襲い来る攻撃に、千翼は見苦しくも地べたを這いながら逃げようとするも、

 

「アマゾン」

 

背後からは、常に圧倒的な力で自分を追い詰めた『水澤 悠』ーーーアマゾンオメガが立ちはだかる。

 

「千翼」

 

そして極め付けに、4Cを引き連れた『橘 雄悟』と『加納 省吾』が、逃げ道を塞ぐように現れる。

 

「言ったはずです、千翼君。我々の要求に応えなければどうなるか」

 

機械のような淡々とした声を発する加納。その隣に立つ橘はギロリと鋭い眼光を光らせる。

 

「君は、唯一の………そして極めて危険なアマゾンだ!!!」

 

ドサリと、自分の目の前に何かが倒れかかる。そこには、腕輪を中心に身体がボロボロと朽ち果てていくイユの姿が。

 

「イユ!?イユゥ!」

 

抱き抱える千翼だったが、手が触れた箇所からイユの身体は崩れ始め、無数の黒い羽となって辺りに散らばった。

 

「イ…………ュ」

 

風に乗って散らばる羽を掴もうと手を伸ばす千翼だが、その羽の通った先にはーーー

 

「………父…さん」

 

「千翼……

 

 

 

 

 

      お前を殺しに来た」

 

 

 

 

 

 

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

とんでもない悪夢に、千翼は飛び起きる。

心臓がバクバクと鳴り響き、頭の中は夢の光景をはっきり覚えている。

何度も呼吸し、場を見渡せるようになった千翼は初めてここは何処なのかと疑問に感じる。

 

「ここ………何処だ?」

 

ゴリラアマゾンによって付けられた傷は完治してはいるが、いかんせん身体に力が入らずロクに歩く事も出来ない。ヨロヨロと壁に寄りかかりながら部屋を出る千翼。

 

何もかもが理解不能、意味不明なものばかりで何処を歩いていいのか分からない。

あの戦闘では、途中から意識を持っていかれてしまい後半は何があったか全く覚えていない。

 

(………長い)

 

ずるずると歩き続けて数分。一向にアクシデントが無い。更には同じ場所をグルグルと回っている感じだ。

 

何処でもいい、誰でもいい。何か変化を求める千翼は一番近くにあった部屋のドアに手をかけ、倒れながら開いた。

腹を床で滑らせながら入ると、そこには.....。

 

「なんて、心の底から腹の立つ奴なのかしら」

 

金髪の髪をドリルのように巻いた幼女がいた。その部屋は、まさしく書庫だと一目見ればわかるような場所だった。

たくさんの本が置かれている。

 

「えっと………」

 

ペコリと会釈する千翼。

 

「......そんなバカ真面目に謝罪されても困るなのよ。そんな事より、さっさと出て行って欲しいのかしら。獣と血生臭い匂いが不快に感じるなのよ」

 

幼女の言葉に怒気を抱いた千翼だったが、一瞬にして目の前に移動した幼女が千翼の胸に手を置く。

 

「ガッーーーーー!!?」

 

その瞬間、身体に激痛が迸り千翼は意識を失った。

 

 

   ▼▼▼

 

 

「…………」

 

また同じ部屋で目を覚ます。幸いな事にあの悪夢は見なかったが、身体がさっきより更に重く感じる。何とか上半身を起こす千翼の瞳に映ったのは金髪ドリルの幼女ではなく、ピンクと青の髪の2人のメイドだった。

 

「あら、目覚めましたね、姉様」

 

「そうね、目覚めたわね、レム」

 

「………………………………?」

 

勿論、冥土は知っているがメイドという物を知らない千翼はどういった反応をしていいか分からず、固まって2人を見つめるしかなかった。

 

「大変ですよ。今お客様の獣のような瞳にロックオンされています、姉様が」

 

「大変だわ。今お客様の頭の中は、ダイブするかしないか迷っているんだわ、レムに」

 

「いや、違………っ」

 

訳のわからない事を言い出す姉妹。否定しようとしたものの、足に力が入らず床に顔が激突してしまう。

 

「「ぷっ」」

 

どんな状況か知り得ないが、2人の姉妹が間抜けに床に激突した自分に対して笑いを堪えているのは理解できた。

 

「チヒロ、目が覚め……何この状況?」

 

トントンと開いた扉を内側からノックして、入るエミリアは、顔面から床に激突している千翼と、それを必死に笑いを堪えようとしている双子の光景に頭を抑えた。

 

「聞いてください、エミリア様。あの方に酷い辱めを受けました、姉様が」

 

「聞いてちょうだい、エミリア様。あの方に監禁凌辱されたのよ、レムが」

 

「してない」

 

身に覚えのない罪を付けられた千翼は顔を怒りでひくつかせ、壁に寄りかかりながら立ち上がる。

 

「ラムもレムも、病み上がり相手に遊び過ぎないの」

 

「はい、エミリア様。姉様も反省していますわ」

 

「はい、エミリア様。レムも反省しているわ」

 

ラムとレム、と名前を呼ばれた二人は反省の欠片も見えない反省を宣言。そんな彼女らの態度に慣れているのか、エミリアはさして気にする様子もな千翼を見やり、

 

「それで体の調子は大丈夫?どこか変だったりしない?」

 

「身体が重い以外は特に……何というか、ありがとう」

 

「お礼を言うのは私の方。あの場所で、私のことを命懸けで助けてくれたじゃない。ケガの治療なんて当たり前よ……と言うかここに連れてきた時点で殆ど治ってたけど」

 

後半、殆ど聞き取れなかったが、取り敢えずお互いプラマイゼロという事らしい。

そこからはレムとラムは仕事に戻り、今度はちゃんと果てがある廊下を通り抜けて、千翼は案内された屋敷の庭へと降り立っていた。

屋敷もそうだが、庭というより原っぱだ。その広大さに、千翼の胸にある詰まりが少しは楽になった感じがした。

 

「……やがて、星が降る〜、星が降る頃〜、心〜、ときめいて〜、ときめいてぇ〜、来る〜」

 

「へぇ、それ何て歌?」

 

あまりの開放感に口ずさんだ歌につられて、後ろからエミリアが現れる。恥ずかしい所を見られた千翼は赤くなった顔をマフラーで隠す。

 

「千翼ってかなりいい家柄の出でしょう?」

 

と、エミリアは千翼の両手を掴み取ってきた。

 

「この指もそうだけど、肌とか髪の見た目が理由。庶民とは暮らしが違いすぎる手よ。筋肉のつきかたも仕事でついた感じじゃないし……」

 

ふにふにと掌を弄ばれて、千翼は困った表情を浮かべる。その間にもエミリアは、

 

「黒髪黒瞳。南方の流民に多い特徴だけど、ルグニカでその状態でしょう。見当たらなかったけど、従者とかもいたんじゃないの?あの衣装だって、見たことない材質だったもの……どう、当たりでしょ」

 

勝ち誇るようなエミリアの微笑み。その美しい見た目相応に妖艶な感じにそそられるものを感じつつ、内容を吟味して千翼は厳かに頷き、

 

「……………そんなんじゃない」

 

事実、千翼の人生はエミリアの想像とは全くの正反対のようなものである。気まずい表情の千翼を見てエミリアも気まずく手を離す。

 

「違うなら違うではっきり言ってくれなきゃ、私が恥かくだけじゃないっ。まあ、事情があるなら詮索なんてしないけどね」

 

エミリアは「さて」と一言残し、懐から緑色の結晶を取り出した。

 

「それって」

 

「精霊が身を宿す精霊石よ。パックのことは、知ってたわよね」

 

エルザとアマゾン迎撃の戦いの最中、姿を消した精霊の寄り代だ。

その緑の結晶が輝き出し、結晶から漏れ出した光が結集して、次第に小さな輪郭を作り出す。

頭部が生まれ、胴体が現れ出し、四肢が備わると体毛に覆われる。と、数秒後にはエミリアの掌に小型の二足歩行猫が出現していた。

 

「や。おはよう、チヒロ。いい朝だね」

 

ニャン♪という擬音と共に挨拶をするパックだが、身体が重くて思うように動かない千翼にとってあまりいい朝ではない。

 

「おはよう、パック。昨日は無理させてごめんね」

 

「おはよう、リア。でも、昨日のことはボクの方が悪いと思うよ。危うく君を失うところだ。チヒロには感謝してもし足りないくらいだね」

 

パックはその丸い瞳で千翼を見上げ、小さな首を傾げて、

 

「お礼をしなきゃいけないね。なにかしてほしいこととかあれば言ってみるといいよ。大抵のことはできるから」

 

「………いや、いい」

 

「ちょ、もうちょっと考えてもいいんじゃない?こんな小さくて弱そうな見た目だけど、パックの力は本当にすごいのよ?」

 

「少し引っかかるけど、そうだよ。こう見えて、ボクはけっこう偉い精霊なんだ。だから欲張っても構わないんだけど」

 

「…………物欲ないから」

 

すると屋敷から楚々とした仕草で出てきたのは、レムとラム。彼女たちはどこか落ち着いた佇まいで腰を折り、

 

「「当主、ロズワール様がお戻りになられました。どうかお屋敷へ」」

 

と、告げた。


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