Re:ゼロから始める千翼の苦難 【完結】   作:寝坊助

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3話 盗品蔵の怪盗

盗品蔵の中に招き入れられた千翼達は、入ってすぐのカウンターの席に座り、カイトーはロムと名乗った老人とカウンターの向こう側に座った。

 

「さぁ、要件を話したまえ」

 

物凄い偉そうで上から目線のカイトー。千翼はその物言いに顔を引きつらせ、ロム爺に関しては眉間をヒクつかせて棍棒を手に取ろうとしている。

 

「居候の分際で何偉そうにしてるんじゃお前は」

 

「その居候のお陰で、商売は今までより繁盛しているじゃないか?フェルトも、僕の窃盗術を教えた事で、前以上に面倒ごとは起こさないようになっただろう?」

 

「今、面倒ごとが起きとるじゃろが!」

 

「まだまだフェルトは僕には及ばないという事さ」

 

ロム爺の怒りに対して全く反省の色が見られないカイトーは懐からあるものを取り出し、ロム爺の顔に投げつける。

それを見た瞬間、千翼はガタリと立ち上がった。

 

「それ……」

 

「む、これか?悪いな小僧、このツマミはわしのもんじゃ。やりゃせんぞ?」

 

投げつけ付けられたロム爺がツマミと言った物……それは『コンソメスナック』と書いてある、千翼のものいた世界のものだった。

 

「おや?君はこれをご存知かな?」

 

酒のツマミとしてパリパリ口へ放り込むロム爺のスナックに目を奪われる千翼に、カイトーはニヤリと笑う。

 

「いや…………その、貴方は……」

 

「って、こんなことしてる場合じゃないの!」

 

少女のその声で、本来の目的を思い出した。

 

 

   ▼▼▼

 

 

「成る程、盗んだ物を返して欲しいと」

 

「そうなの、あれは本当に大事なもので…」

 

一通りの説明を済ませ、少女は盗まれた物を返して貰えないかカイトーと交渉している。

ここからは少女の問題で千翼は部外者な為、少し離れた所で盗品を見て回っている。しかしやはり少女の事が気になるのか、チラチラソワソワして落ち着きがなかった。

 

「ちょっとは落ち着こうよ千翼さぁ〜」

 

同じく見守っているパックは、見兼ねて千翼のそばに寄って来る。

 

「エミリアが気になるのはしょうがないけど、こればっかりは彼女の問題だよ?」

 

「エミリアって言うの?あの娘」

 

「おっと、そう言えば名前まだ教えてなかったね」

 

(まぁ、エミリアは『サテラ』の名前を使うだろうけど……ま、いいか)

 

「食べる?とっても美味しいよ?」

 

パックもハマったのか、その手にはスナックが握られており、千翼に渡そうとする。

千翼は「いや、いらない」と答え、パックは不思議そうに表情を浮かべサクサクとスナックを口にする。

 

「返せないってどう言う意味!?」

 

バンッ!と両手をカウンターのテーブルに叩きつけているエミリアに、全員の視線がエミリアに集まる。

 

「当然だろう?盗まれたのは君が不用心だから。しかも、そんなに大事なものならなお渡したくない」

 

半分無茶苦茶な道理を突きつけるカイトーに、エミリアは青筋を立てる。

 

「それに、君の大切なものとやらを盗ったのはフェルトだ。返すか返さないかはフェルトが決める事だよ」

 

「おい、そうじゃなかろう」

 

「ま、そんなに価値のあるものなら僕が逆に盗むけど」と、真っ黒い思考を考えているカイトーに、ロム爺が交渉に口を挟む。

 

「カイトーの言い分は、『半分』最もじゃ」

 

半分と言う言葉を強調しながらカイトーを睨むロム爺。

 

「じゃがお前さんがそれを買い取れるかはまた別の話じゃぞ」

 

「結局どの道、タダじゃ返せないって事?」

 

「そうなるねマフラー君」

 

外見的特徴で最も目立っている千翼のマフラーをあだ名として使うカイトー。お気楽な表情だが、エミリアに取っては笑えないものだ。どうしたものかと千翼とパックも考え込んだその時だった。独特の符丁で盗品蔵の戸が叩かれ、音に反応したロム爺が扉の方へと向かう。

ロム爺の巨躯と比較するとやたら小さく見える扉に耳を押し当て、ロム爺は神妙な顔つきで戸の向こうをうかがい、

 

「大ネズミに」

 

「毒」

 

「スケルトンに」

 

「落とし穴」

 

「我らが貴きドラゴン様に」

 

「クソったれ」

 

「何あれ?」

 

「合言葉」

 

短い問いに間髪入れずに差し込まれる返答に微妙な顔をする千翼に、カイトーが面白いものを見る目で答えた。

満足げに戸の鍵を外すロム爺。

 

「――待たせちまったな、ロム爺。意外としつっこい相手でさ。完全にまくのに時間かかっちま……」

 

親しげに、己の戦果を誇るように、金髪の少女がロム爺の隣を抜けて蔵に入ってくる。が、その表情はエミリア見た瞬間に崩れ去った。

 

「やっと見つけた」

 

踏み込んできたエミリアの姿に、フェルトが声もなく後ずさる。下がる彼女の表情は悔しげで、忌々しさに唇を歪めながら、

 

「ホントに、しつっこい女だな、アンタ」

 

「盗人猛々しいとはこのことね。けど神妙にすれば、痛い思いはしなくて済むわ」

 

エミリアの周りに浮く6本の氷柱。

歯ぎしりしそうなフェルトに対し、エミリアの声の温度はひどく冷たい。

カイトーとの交渉で、流石のエミリアも強硬手段に出るくらい気が立ってるらしい。

 

「私からの要求はひとつ、徽章を返して。あれは大切なものなの」

 

「大切なもの程、怪盗にとって格好の餌食だよ」

 

その言葉と共に、放たれた光弾が氷柱を撃ち抜いた。

カウンターの椅子でカイトーはこんな状況でもまだ偉そうに座っており、片手には銃の様な物が握られている。

 

「助かったぜししょー!」

 

まさかの反撃に動揺するエミリア。その隙にフェルトとロム爺はカイトーの背後に避難する。

 

「ふぅ、厄介事を厄介な相手ごと持ち込んでくれたもんじゃな、フェルト」

 

「まぁ、そう言うなよ。ししょーがいれば百人力だぜ?」

 

相当慕われているのか、フェルト忌々しい表情はなくなり、逆に勝機に満ちた表情に変わっている。

それに反して、ロム爺は顔を渋らせていた。

 

「お嬢ちゃん……あんた、エルフじゃろう」

 

「正しくは違う。私がエルフなのは、半分だけだから」

 

「ハーフエルフ……それも銀髪!?まさか……」

 

「他人の空似よ!……私だって、迷惑してる」

 

なにやら千翼とカイトーにはわからないやり取りだったが、それがどれほどエミリアにとって不本意なやり取りなのかはいくらか伝わって来た。

それからは会話と殺気の応酬。

エミリアが返して欲しいと発言し、強硬手段に出ようとするもカイトーによって防がれる。フェルトはエミリアがハーフエルフと知った所為で警戒を強くし、エミリアの要求を頑なに拒む。カイトーも威嚇射撃を行うも、パックによる支援に寄って防がれ更に緊迫した状況になってしまう。

そんなイタチごっこのような状況に1人残された千翼がエミリアに視線を向けたその時だ。

滑るように黒い影がそっと、エミリアの背後へと忍び寄っていた。

 

「パック!!!」

 

いち早く気づいた千翼は、距離的に間に合わないと一瞬で悟り最もエミリアを守れるパックの名を叫ぶ。

 

わずかに身を伏せるエミリアの後頭部、そこに淡く青に輝く魔法陣が展開。

それが叩きつけられる刃を正面から受け止め、凶刃からエミリアを完全に守り通していた。

 

「間一髪だったね、まさに」

 

ピンクの鼻を得意げにふふんと鳴らし、パックはその黒い瞳でちらりと千翼を見ると、

 

「なかなかどうして、紙一重のタイミングだったね。助かったよ」

 

親指を立てるような仕草に対して、千翼は警戒を怠らない。

 

「精霊、精霊ね。ふふふ、素敵。精霊はまだ、殺したことがなかったから」

 

ククリナイフを顔の前に持ち上げて、恍惚を浮かべるのは黒髪を怪しく揺らす妖艶な美女。

その唐突な出現に警戒する一同。しかし、彼女に対してアクションを起こしたのはどちらでもなかった。

 

「おい、どーいうことだよ!」

 

カイトーより少し前に踏み出して怒声を張り上げるのはフェルトだ。

彼女は女に指を突きつけて、自分の持つ徽章を懐から取り出すと、

 

「徽章を買い取るのがアンタの仕事だったはずだ。ここを血の海にしようってんなら、話が違うじゃねーか!」

 

「盗んだ徽章を、買い取るのがお仕事。持ち主まで持ってこられては商談なんてとてもとても。だから予定を変更することにしたのよ」

 

怒りに顔を赤くしていたフェルトが、その殺意に濡れた瞳に見つめられて思わず下がる。そんなフェルトの恐怖を、エルザは愛おしげに見下して、

 

「この場にいる、関係者は皆殺し。徽章はその上で回収することにするわ」

 

慈母の微笑みのまま、酷薄に告げて彼女は首を傾け、

 

「あなたは仕事をまっとうできなかった。切り捨てられても仕方がない」

 

「ーーーッ」

 

フェルトの表情が苦痛に歪んだのは、恐怖ではない別の感情に見えた。しかし、

 

「仕方なくないよ」

 

そんな場の空気を読まないのがこの男。

カイトーは女が話の通じない相手だと理解し、光弾を問答無用で撃ち抜いた。

 

「盗んだ物は、盗んだ本人の物。お宝は僕が盗めば僕の物。君に所有権はない」

 

「あら素敵、なぁに?その魔道具」

 

あっさりと光弾をククリナイフで弾く女は、うっとりとした表情でカイトーを見据える。

 

「魔道具……君達にとってそう見えるようだね。まぁ、別にいいけど」

 

直後、全方位からの氷柱による砲撃が女の全身に叩きつけられた。

 

「ナイス、猫君」

 

「君ってかなり性格ねじ曲がってるだろ?」

 

いつの間に打ち合わせをしたのか抜群のタイミングの2人。

初めて会った時から性格的に相性が良かったのだろうか。お互い、嫌な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度、その頃。盗品蔵に向けて3人の影が真っ直ぐ此方に向かっていた。




次回、本格的に物語が進みます

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