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「ブルルェアアーーー!!!」
直後、ファングはクラッシャーを大きく開け、口内から赤紫色の炎を吐き出した。その炎は自分と千翼から他者を遠ざけるように広がり、ディケイド達に襲い掛かる。
「さて、やっと2人きりになれたな千翼」
炎の檻がファングと千翼以外の者を遮断した。
心置き無く対話ができるファングは荒い息を吐き威嚇する千翼を見据える。
「いい加減に素直になれ。お前はこっち側の存在だ。人間が食いたいんだろう?」
まるで麻薬のように、千翼の欲求を的確に突いてくるファング。
それを聞くたびに千翼は頭をブンブン振り、理性と野生の間で自分を制御しようとしている。
「お前を慕う奴なんて誰もいない。助けたガキも、確かに最初はお前に友好的になるやもしれん。しかし、大人になるにつれて分かってくるよさ………お前の危険性に」
「ヴッ……ヴオ゛オ゛オ゛オ゛ォォ……!!」
雄叫びを上げる千翼。遂に野生の自分を受け入れる気になったのか、そんな千翼を見て口角を釣り上げるファング。
「さて、じゃあ最初にあいつらを………」
「千翼くん!」
▼▼▼
赤紫色の炎の中、こいつは俺に言った。
「いい加減に素直になれ。お前はこっち側の存在だ。人間が食いたいんだろう?」
ーーー違う!違う!
そう自分に言い聞かせてと、奴は俺の欲求を的確に突いてくる。
ーーー確かに人は食いたい。だけど、食べたくない………母さん…を食べたみたいに…
「お前を慕う奴なんて誰もいない。助けたガキも、確かに最初はお前に有効的になるやもしれん。しかし、大人になるにつれて分かってくるよさ………お前の危険性に」
ーーーだったらこいつを殺して、俺も死のう
ーーーどうせ、必要とされない命だ……
「ヴッ……ヴオ゛オ゛オ゛オ゛ォォ……!!」
ーーーこの野生に身を任せ、受け入れた。この体が朽ち果てようと、その力が必要で、人を喰わずに死ねるなら……我慢しよう。
「千翼くん!」
奴の首を跳ばそうとしたその時、あいつがそこにいた。
またあいつだ、そんなに俺が憎いか?殺したいか?だったら少し待ってくれ……直ぐに死んでやるから。
「鬼が………いい加減ウザくなってきたな」
奴が動く。奴がレムを殺す前に、その前に俺が奴の首を掴もうと手を伸ばした。
ーーー?
「もう……やめて!」
レムは泣きながら千翼の胸に飛び込んだ。何をやっているのか?と、千翼とファングは理解に苦しむ。
体液に触れれば、それだけでアマゾンと化してしまう。それなのに……
「ォ……れオ……殺…そうと、しァ……クセに…」
「はい、アマゾンだから憎くて恨めしくて……虫がいいかもしれないけれど……」
ガチャリ……と、音がした。
レムの持っていたひび割れたネオアマゾンズドライバーが、千翼の腰に付けられていた。
「レムは、千翼くんを守りたいです」
「……………………」
「レムは」
「おい、茶番はもういいか?」
レムが続きを話そうとした時だった。先ほどその場に立ち尽くしていたファングが腕を振り上げて目の前に立っていた。
「レ………ム…!今すぐ逃げ……え?」
レムの頭になにか光っているものが見えた。角みたいなものが生えているのが視認できるが、千翼の声もその光にかき消されているかのように、レムに千翼の声が届いてないように思えた。
「レム…?」
「千翼くん…は私が守ります…」
それだけ述べると、レムはファングの元へ既に移動していた。
ーーーダメだ……
「そんなに死にたいなら殺してやるよ」
ーーーダメだ……
「千翼くん……」
ーーーダメだ……
「生きて」
▼▼▼
鬼化してファングに立ち向かうレム。しかし、振り上げた拳はファングの装甲に傷1つつけられず、氷の魔法は直ぐに砕かれた。武器があっても、特に結果は変わらなかっただろう。
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「死ね」
ファングのアームズカッターがレム目掛けて振り下ろされる。
右肩から左脇腹へ……即死。
死を直感したレムは、ゆっくり目を閉じる。この一瞬、走馬灯のように頭に浮かぶ今までの人生。
ーーーあの時、もっと千翼くんを理解していれば、こんな事にはならなかったのかな?
「終わら………せない…!」
「え?」
目を開けると、そこには人の姿へ戻った千翼が、目の前でファングの腹に拳を突き立てていた。
「俺たちは………まだ何も始めてない!!!」
「ゴハァッ!!?」
青い血管が浮き出るその拳が振り抜かれ、ファングは数メートル吹き飛んだ。
「千翼くん……なんで…」
明らかに疲労しきっているその体を見て、レムは涙声を上げる。振り向いた千翼の顔………そこには、どこか嬉しげに笑みを浮かべている千翼の顔だった。
「始めて言われた…………そんな言葉」
『生きて』ーーーたったその一言が、千翼にとって何よりの宝だった。
2人を包む静寂、そんな雰囲気をぶち壊してファングは立ち上がった。
「千翼ぉ……お前ぇ!」
バキャリ!と鈍い音がなる。
なんと、ファングは自分で自分のドライバーを砕き割ったのだ。
「そんなに人として……死にたいのかぁ!!」
その瞬間、ファングから熱風が放たれた。蒸気と熱気を纏い、そこに立っていたのはゴツゴツとした鱗に銀色の牙、そして巨大な尻尾と翼。
その姿こそまさに、
「ドラ…………ゴン…!?」
レムが『ドラゴンアマゾン』と化したファングに絶句した。途轍もないプレッシャーの嵐に足に力が入らずその場に倒れる。
そんなレムを優しく撫でて、千翼はドラゴンアマゾンと向き合う。
「生きたいさ…………人として」
『お前はお前のやりたいように!やればいいだろ!世界が何と言おうと、足掻き続けろぉ!』
脳に焼き付いたディケイドの言葉。その言葉に思わず笑みがこぼれる。
「俺も…………いいのかな?」
「当たり前だろ」
いつの間にか、炎が消え千翼の向いたその先には士が立っていた。ラムが急いでレムを保護しエミリアも千翼に笑みを向ける。
「千翼…私も、千翼には生きていてほしい」
「お前の生き方はお前で決めろ」
ディケイドが旅した世界ではかつて、怪人であっても人間として生きようとした仮面ライダーがいた。
「お前も、そいつのように生きればいいーーーーー仮面ライダーとして」
「仮面……ライダー…?」
聞きなれない単語に千翼は首を傾ける。
「バカな!」
そんな言葉を遮り、ドラゴンアマゾンは大口を開けて叫ぶ。
「そいつは、人をアマゾンへ変える!そんな奴を助けるのが、仮面ライダーの正義かぁ!!」
「ある人が言った」
ーーー俺たちは、正義の為に戦うんじゃない
「俺たちは、人間の自由のために戦うんだと」
「何なんだ………何なんだお前たちはぁ!!!」
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ…………変身」
-KAMEN RIDE・DECADE-
士がディケイドへと変身し、千翼もドライバーを腰に巻きつける。
「アマゾ………いや、違うかもな」
仮面ライダーならこう言うだろう。
「変身!!!」
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