「これはまた……随分と怪人らしくなったな」
山の中を駆け巡り、破壊音と絶叫を辿って千翼の下に到着した士。
目の前には魔獣の死体、死体、死体……で、あろう肉団子が転がっている。その中心には6本の腕を生やし、赤い瞳を輝かせる怪物が一体。
正面、こちらに視線を向けている千翼の瞳には、ひたすらに漆黒の殺意それのみだ。とてもではないが、会話が成立する精神状態にあるようには見えない。
「変身」
-KAMEN RIDE・DECADE-
ディケイドドライバーにカードを差し込み、マゼンダの色を特徴とした戦士『仮面ライダーディケイド』に変身する。
「ア゛ーーーーーーァァァア!!!」
士がディケイドへと変身した瞬間、殺意と敵意を爆発させて突進してくる千翼。予想通りの行動で、ディケイドはライドブッカーですれ違いざまに一閃。
しかし、ライドブッカーの刃は千翼の肉こそ斬り裂いたが、直ぐに再生してしまった。
背を向けながらも、千翼の触手は的確にディケイドを八方から襲い巻き付ける。四肢と首を絞められてもがくディケイド。
「くそッ!化けモンが!!!」
-FINAL ATTACK RIDE・DDDDECADE!-
カードをドライバーに無理やり投げ入れる。
ホログラム状のカードが触手を斬り裂き、解放されると共にそれらをくぐり抜けて千翼に『ディメンションキック』を叩き込んだ。
「やっぱすぐに再生するか………!」
しかし、数多の敵を倒してきた技でも千翼を倒す事は敵わなかった。
衝撃で触手と共に数十メートル吹き飛ぶものの、傷は既に再生しむくりと起き上がる。
普通ならその姿に気力を削がれるであろう。
「おい!そこにいるんだろ、千翼!!」
呼びかけるも、返ってきたのは咆哮と突進。
「お前の事じゃねぇ!」と叫びながら避けるディケイドはライドブッカーをガンモードにして距離を保ちながら光弾を放つ。
「そこにいるんだろ!化けモンの中に!千翼が!」
叫ぶディケイドは、目の前の千翼に言っているのではなく、怪物の中にいる千翼に向かって叫んでいるのだ。
「いつまでもジメジメと……これだからガキは嫌いなんだ!」
-ATTACK RIDE・BLUST-
悪態をつきながら、『ディケイドブラスト』を放つ。
「お前はお前のやりたいように!やればいいだろ!世界が何と言おうとーーー」
-ATTACK RIDE・ILLUSION-
『ディケイドブラスト』により怯んだ千翼。
その隙を逃さずイリュージョンにより2人に分身したディケイドは飛び上がる。
「足掻き続けろぉ!」
-FINAL ATTACK RIDE・DDDDECADE!-
放たれた『多重ディメンションキック』が千翼を吹き飛ばした。先程より2倍の威力のキックに流石の千翼も倒れこむ。
「俺は破壊者だの悪魔だの言われても、足掻き続けたぞ………だからお前も足掻け」
「ッ………ヴゥ……オォ」
ディケイドが何かを取り出す。それは新品に直されたネオアマゾンズドライバーだった。
これを着ければ千翼の暴走は止まる。弱った千翼に向けて取り付けようとした、その時だった。
「おい」
「ッ!?」
突如、出現にした時空の歪みにより現れたフードの男がディケイドの前に現れたのだ。
「邪魔しないでくれるか?今、こいつは本当の意味でアマゾンになろうとしてるんだ」
枯れたような声で放つその声圧は、どこか不気味な圧力が感じられる。しかも時空の歪みから現れたという事実にディケイドは警戒心を高める。
「邪魔はお前だ。千翼を人間に返す為のな」
「こいつが、人間とな……寝惚けた事言うなよ。アマゾンはアマゾン……人間とは相容れないんだよ」
その時、ディケイドは息を飲む。
鱗のような模様をあしらったコートをめくり、そこから現れたよは千翼と同じネオアマゾンズドライバー。
差異があるなら、色彩が銀色でレジスターの差し込み部分が左右逆な所だ。
「俺は同族としての善意で、こいつの野生を解放してやりたいだけなんだよーーーアマゾン」
-
レジスターを差し込み、紫に光る瞳。そして全身から放たれる紫色の熱風。辺りの草木を吹き飛ばし、火の海を作る。
「フヴゥゥーーーー………」
熱風が晴れたその中心には、銀色の装甲に紫色の体色のアマゾン、
ーーー『仮面ライダーアマゾンファング』
「消えろーーーお前、邪魔なんだよな」
「チッ、本当に面倒クセェ」
▼▼▼
「ガ…………アァ…ウ」
ディケイドとファングが戦っているその頃、千翼は身体を引きずりながら森を徘徊していた。傷は治せても、体力までは治せない故にやりようのない疲労と敵意を辺りに撒き散らす。
「千翼くん」
「ァ………」
正面から呼ばれるその声に反応し、顔を向ける。そこには痛々しく包帯を巻いたレムが立っていた。
ーーーまた俺を殺しに来たか
「ーーーーーーーーーー!!!」
声にならない叫びを上げ、千翼はレムに向かっていく。
「千翼くん…………止まってください」
千翼の剛腕がレムの体を豪打する。そのままレムは宙へ舞い、木々にぶつかり数度地面に転がって倒れた。
「……………止まって…ください」
骨が折れ、肉が潰れながらもレムは立ち上がる。
しあしそんなレムの言葉に聞く耳持たず、襲い掛かろうとする千翼………の腕が風の刃で吹き飛んだ。
「レム!?」
そこへ現れたのはラムと、その後に続いてエミリアとパック。
ラムは傷ついたレムを見て千翼に殺意を抱き、エミリアは変わり果てた姿の千翼に言葉を失う。
「殺すッ!!!」
「待って姉様!」
殺意全開のラムの手を、レムが掴んだ。
「レム…その手を離して!」
「ダメです姉様……千翼くんは……私が…」
その一瞬の動揺。千翼は茶番に付き合う気はなく、ラムとレムに同時に襲いかかる。
4本の剛腕と無数の触手と2人の間に銀の髪が割って入った。
「千翼ダメ!!!」
その銀髪に魅せられ、千翼の体が一瞬だけ止まる。その隙をついてパックの放った氷柱が千翼の土手っ腹に穴を開けながら吹き飛ばした。
「リア、正直言って千翼はもう……」
「パック、それでも私は……ッ」
エミリアが見たのは既に立ち上がっている千翼。
開いた穴は既に防ぎきっており、もはや生物なのかも疑わしい再生力にパックは瞳を光らせる。
「千翼くん………ダメです」
「レム!いい加減に!!」
立ち上がりまたしても千翼の元へ行こうとしているレムに、ラムは怒気を孕んだ叫びを上げる。
「お願い、千翼くん………レムのようにならないで。もちろん、レムの言えた事じゃないかもしれません……だけど、それでもレムは!」
「レム後ろ!!!」
その時、大木がレムの背後から体の中心目掛けて飛んできた。先は尖っており、明らかに攻撃的な目的のものだ。
いち早く気づいたラムが風の刃でそれを真っ二つにするも、飛んできた方向からくるプレッシャーにその表情には余裕がない。
「どいつもこいつも、俺たちの邪魔ばかり」
悪態を吐きながら現れたのは、ファング。怪物と化した千翼の姿を見て、ファングは「ふっ」と笑みを浮かべた。
「よしよし、いいぞ。それでこそアマゾンだ。いくら否定しようと、お前はアマゾンという鎖からは逃げられないんだよ」
「あなた、一体……」
「黙れ、俺たちにとってはただの食料でしかない下等生物が」
「その声……まさか…」
レムの問いに、口汚く吐き捨てたファング。それに対してラムはファングの声にある違和感を感じた。
「俺に滅ぼされた鬼か……こんな所で生き残りに会えるとはな。運命はやっぱり面白い」
それを聞いた瞬間、鬼化をしようとしたレムより先に動いた千翼が、ファングに飛びかかった。
「ッ……理性を失って敵も味方も分からなくなったか?まぁいい!」
-
ファングのアームズカッターが、千翼の胴を盾斜めに斬り裂いた。深く食い込んだその斬撃に傷からあたり一帯に血を撒き散らす千翼。
「グオッ!?」
激痛に苦しみながら、千翼は争い触手によってファングを押しのけた。
「なんてパワーだ……ますます欲しい!」
血反吐を吐きならも歓喜に満ちた声を上げるファング。その声からは彼の異常性が伝わってくる。
「千翼!もうやめて!私の声を聞いて!」
いつでも氷柱を形成できるよう身構えているパックを背に千翼に呼びかけるエミリア。
頭を数度振り、エミリアの方向へ赤い瞳を向ける千翼だが…
「のけバカ!」
-ATTACK RIDE・SLASH-
ライドブッカーから放たれた斬撃により更に後ろへ吹き飛ばされた。
「あなた、士?」
「説明してる暇はない……あの野郎、マウントポジションでタコ殴りにしやがって」
至る所に殴り跡をつけられているディケイドはライドブッカーの刃を手で撫でる。
やはりというべきか、今の斬撃も全く聞いていない千翼に、ディケイドは悪態を吐く。
「今まで色んな怪人を相手にしてきたが、お前みたいにタフな奴は初めてかもな」
「流石は悪魔と呼ばれるだけあるな。さて、この乱戦…どう切り抜けようか?」
役者は揃う。