青春memory   作:N"our"vice

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今回から二週目の投稿となります。
先頭に帰って今回は私、さとそんが書かせていただきました!
それではよろしくお願いします!!



オタクたちの日常

 

 

ピピピピピ……

 

昨日寝る前にセットした目覚まし時計がけたたましく鳴り響く。

電子音が僕の脳を直接刺激し、それによって僕は夢の世界から一気に現実へと引き戻される。

こんなに嫌な音を鳴らす物体を毎晩セットするなんて人類皆ドMなんだろうか……?

そんなことを考えながら諸悪の根源へと手を伸ばす。

 

「──バンッ!」

 

目覚まし時計の電子音と、それを止めるときの自分の手と目覚まし時計がぶつかる音がとても不愉快なハーモニーが奏でる。

あぁっ、くそ!なんで僕はこんな早朝に起きることになったんだ!?

自分が伸ばした手の先をみると、そこでは短針が数字の「5」を指し、長針は真っ直ぐ空に向かって伸びていた。

 

ふあぁ……眠い。眠いけど、僕にはやらなければならない事があるんだ。

そう自分に言い聞かせて、重い腰を上げて部屋を出てリビングへと向かう──。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

日比谷 実音の朝は早い。

今日はいつもより早く起きていたが普段もだいたい六時前には起きている。

 

そして彼の普段の行動はいつも決まっていて何時に起きて、なにをし、どこへ向かい、何時に帰ってきて、何時に寝る。日々の生活がルーティンとなり、彼を支えているのである。

そのせいか、中学生時代では

「実音を見てるといま何時かわかりやすいよね〜。時計みたいww」

などと言われたことさえある。バカにしてんのか。

 

ただ僕は現状維持って言葉が大好きなだけだ。僕は日常に変化を求めていない。何が起こるかわからないって言うのはやっぱり怖いというか不安というか……。

だから僕は今が続いてくれることを切に願っている。今が大好きだから。

 

しかし困ったことに高校に入学してから出会った彼らは彼らは僕の日常に変化をもたらした。

 

 

「おっ、実音来たな!遅いぞー!」

「詠斗……お前はなんでこういう日だけ時間通りに来るんだ?」

 

わかっていたとは思うが彼らとは、秋原 詠斗とその仲間達である。まぁ今回は用事が用事なのでいるのは詠斗のみであるが。

 

「そんなの当たり前だろ?なんたって今日は同人誌の即売会なんだからな!!」

 

「詠斗のそういう欲望に忠実なところは尊敬に値するよね……」

 

そう、今日は僕と詠斗が好きな……いや好きどころではないな、崇拝してるいっても過言ではないほどの同人サークルの販売会があるのだ。

場所は幕張メッセ。場所がだいぶ離れているため、こうして早朝に集まったのだ。

 

「いや〜、それにしてもホントに創と海斗はつれないヤツらだよな」

 

「仕方ないんじゃない?興味ない人からしたら、あそこはただの臭くて蒸し暑い場所なんだし」

 

「あぁ、納得。たしかにそうかもな〜」

 

そんな他愛もない会話をしながら、幕張行きのJRに乗るために僕達2人は駅へと向かうのであった。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

コミケ。人はそれを戦場と呼ぶ。

数々の同人誌サークルが火花を散らして自分たちの作成したマンガを、より多くの人々に読んでもらうために大声で呼び込みをしたり、奇抜なファッションやコスプレで人目を引こうと躍起になっている。

 

そしてそれに呼応するかのようにオタク達も物凄い盛り上がりを見せる。

自分の好きなサークルの同人誌を巡って闘争を繰り広げ、好みの作品のコスプレイヤーさんを見つけようと情報網を張り巡らしては、その網にひっかかった獲物を撮って、撮って、撮りまくる!!

 

そんな会場の様子は確かに戦場にしかみえない。

 

 

 

そんな戦場の中心で僕達は既に戦いを始めていた──!

 

 

「すいません!これと、これとぉ〜、これ!1冊ずつください!!」

 

「あいよぉ!!これでこの作品は残り1冊だよ、さぁ買った買った!!」

 

「俺によこせ!」

 

「いや、俺だ!!」

 

僕達が狙っていたサークルはとても人気なようで、僕達が来た時には既に人がアリのように集まっていて激闘を繰り広げていた。

 

その渦の中に僕と詠斗も決死の覚悟で突撃した……のだが、いつも教室の隅っこで読書してる系男子、通称「ネクラ」の僕にとってその場所は死地であり、あえなく敗退したため遠くからまだ闘っている戦友を見守っているのだ。

 

「その本はぁ……俺のもんじゃぁぁぁあーっ!!」

 

「うおっ、なんだこいつ!?」

 

「くっ、また強敵が現れたか……!」

 

戦友こと秋原 詠斗という名の男はひ弱な僕と違って、多くの人波を押しのけて奥へ奥へとどんどん進んでいく。

 

「うっしゃぁ!もう、少し……どけぇ!」

 

「きゃあっ」

 

詠斗がもう少しでお目当ての同人誌に手が届くその瞬間、なぜか聞きなれた声が僕の耳に届いた。本人もそれに気づいたようで声がした方へと振り向く。

そこにいたのは──

 

「「ど、ど……毒姫ぇっ!?」」

 

「ちっ、なんでこんなところにいるのよ……」

 

僕達の通う高校で一番美人であると謳われている、蒼井 凪咲さん、通称『毒姫』その人だったのだ。

 

 

『毒姫』

 

 

うちの高校の生徒でこの名を知らない人はほとんどいないだろう。

入学式のときに、新入生でとても美人の娘がいるだとかなんとかで有名になり、その後は告白したがこっぴどく振られた人が続出したことで学園中の話題となっていたのだ。

いまでも面白半分で告白を試みる生徒もいるらしい。

 

が、しかし。

その裏の顔は非常になんというか……こう、残念である意味僕達の中では有名である。

彼氏である大矢根 春希の前では常にデレデレ、春希さえいればそれでいいみたいな思考回路の持ち主であり、更にはオタク。それもディープな。

いわゆる俺TUEEEE小説が好みで、1度だけ毒姫がオタクかもしれないという情報を手に入れた詠斗が声をかけに行って絶句して帰ってくるという珍事件が起きたことがある。

まぁ、その事件をキッカケに春希や凪咲と話すような仲になったのは別の話だ。

 

と、まぁこんな感じでそれなりに話す仲ではあるのだが、実際に僕と凪咲の仲ははっきりいって良くない。

というのも、1度だけ僕が彼女に

「ねぇ、今日のパンツは……そうだな、俺の予想だとランジェリーだと思うんだけどあってる?」

と、聞いたところ、ぶん殴られたという苦い思い出があるのだ。

僕のその時の予想は当たってたみたいで、更には隣に彼氏である春希がいたため、余計に強く警戒されているのだ。

 

「ねぇちょっと、こっち見ないでくれない? 貴方の視線、不愉快なんだけど」

 

と、まぁこんな感じだ。とにかく俺のなすこと全てに対してこうして文句をつけてくる。先に言っておこう、この娘はツンデレではない。つまり僕への暴言は全て本音なのだ。めっちゃ悲しい。

だが伊達に僕も真性Mなどとあだ名を付けられてるわけじゃない。こっちにだってそれなりのプライドはあるのだ。

 

「ははは、そんなに僕に見られるのが嫌なのか。じゃあ更に!舐めまわすように!観察してあげるよ!!」

 

「実音、その辺にしておけ。周囲の人たちが携帯を準備してる」

 

「おっと、いいところだったんだけどなぁ……って詠斗、ようやく買えたか」

 

戻ってきてから毒姫と僕の言い争いを仲裁した詠斗の手にはお目当てだった同人誌が3冊ほど握られている。

 

「おう、なんかあそこの人たちが俺をライバルと認めてくれたようでな。店員さんも俺のガッツに感動したとかなんとかで1冊オマケにくれたんだ。つーわけで、これ凪咲にやるよ」

 

そういった詠斗の手には僕達が買おうとしていた同人誌と同じものが握られている。

 

「いっ、いいわよ!自分の糧くらい自分で手に入れるわ」

 

「まぁまぁそう言うなって。さっきは少しだけアンタのこと押しのけちまったみたいだしな、そのお詫びだ」

 

「そ、それなら仕方ないわね。せっかくのお詫びなんだしいただくわ。ありがとう」

 

少しだけ上から目線でものを言う毒姫の顔は、言葉とは真逆にちょっとだけ照れくさいようで赤くなっている。

 

「よしっ、じゃあ早速みんなで読んで感想でも語り合おうぜ!」

 

「そうね、ここのシーンの主人公のセリフは私好みでいいわね」

 

「「読むの早っ!?」」

 

僕達まだ開いてすらいないんだけど……。毒姫めちゃくちゃ楽しんでるじゃん。

 

まぁ、こうやってみんなとくだらない時間を過ごすっていうのも悪くない。

楽しい「いま」が続いてくれるといいな……。

 

そんなことを考えながら再び語り出した毒姫と詠斗の談笑に混ざるために同人誌へと目を落とした。

 

うん、やっぱりこの先生の同人誌は面白い……!

 

 

 

 

 




次回の話は雪桜(希う者)さんの予定です。
次回からはリアルの方での予定などもあり、投稿者の予定が変わることもあるのでご了承ください。

次回もよろしくお願いします!

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