青春memory 作:N"our"vice
初めまして!現在、ラブライブサンシャインで2作、バンドリで1作の小説を投稿してます。へびーと申します
今回の話はギャグ系。──を、目指したつもりなんですけど、小説でこういった話を書くというのは初めてで…
至らぬ点も多々あるかと思いますが、読んでいただけたら嬉しいです。ではどうぞ!
うちは一応老舗な蕎麦屋だ。名前は“さんじゃ”。働いてるのはうちの両親
そこら辺のファミレスみたいに大きい訳でも、数人しか入れない!みたいな特集を組まれるように小さい訳でもない至って普通の店舗だが、意外と人は来る。……まあ、殆ど常連さんで固定化されてるような気もするが、お客さんに変わりは無いしそれはいいだろう
というか、なんだかんだ言って俺もこの店好きだし。だから時々バイトしてって言われるときはできるだけしてるんだけど……
「おはよ~…ねむ」
「あ、創おはよ、ゴホゴホッ」
「風邪?」
「かも…これじゃお客さんの前に立てないからお母さん今日は寝てるね。早く治すようにするから」
「あー……うん。お大事に」
朝から母親が風邪でダウン。この瞬間、俺のバイトが確定した。折角の休日なのになぁ、ま、仕方ないか
父さんはまだ仕込みをしているらしい。随分時間かかってるんだな、いつもならこの時間なら居間にいるってのに
そんな事を思っていると、電話の音が鳴り響いて俺の思考を断った。これは店用の電話だ、両親がいないとなると俺が取るのか……ううっ、こればっかりは慣れないんだよなぁ
「……、はい、こちらさんじゃです」
『あ、すみません、予約のお願いをしたいんですけども。今日の13時から。18人で』
「きっ、今日ですか?! ……少々お待ちください」
電話を待機モードにし、父親の所に行って事情を説明する。母さんがダウンした事、今日の予約を受けてもいいのかという事────
正直、俺としては断っても良いような気がするんだけど。母さんがいないって事は戦力はガタ落ちだし、俺と父さんだけじゃそれを満足に裁ききる事は難しいだろうし
ただ、父さんから返ってきた返事は「勿論やる」という即答だった。職人気質の父さんの事だ、そもそも店を休みにするという選択肢は無かったんだろう。速攻で電話口に戻って了解を告げてきた
さて、問題は空いたデカイ穴をどう埋めるかだ。そうだな、仕事量的に2人くらい必要だろう。そして今日暇そうにしてるやつ……
「いやー2人が暇してて助かった!」
「なんで俺が呼ばれた……?」
「それは海斗が暇そうにしてたからでしょ? よかったじゃないやることができて」
「彩も来てくれてありがと。華やかさ担当として女子も誘おうと思ってたんだ、海斗と一緒にいてくれて一発で済んだよ」
「……っ! きっ、今日はたまたま偶然で一緒だっただけなんだから!」
少し顔を赤くして反論しているが、少なくとも俺の中でこの2人はセット扱いだ。海斗に連絡したのも若干ここが狙いだったり
事前に用意しておいた予備のエプロンと制服を渡すと、海斗は渋々、彩は制服を「可愛い」と言って奪うように持っていった
因みに2人へのバイト代は1日1杯1週間蕎麦無理というものだ。……まだ相談はしてないんだけどね
制服に着替えて出てきた2人は中々様になってる
「良いね。似合ってる」
「でしょ? ほらどう海斗?」
「うん、動きやすいし良い感じだな。普段着にできそうだ」
「はぁ……ソウデスネー」
「なんか、彩も大変そうだな」
小声で言うと彩はゆっくり大きく頷いてるし、海斗はこっち見て不思議そうな表情を浮かべている。心の中で少し同情するぞ……彩
「っておい創。こんな所で遊んでていいのか? 忙しくなるから呼ばれたんじゃねぇの? 俺たち」
「そうだっ! 俺たちは油売ってらんないんだよ! 全く、海斗がふざけるからだぞ」
「俺かっ?! 悪いの俺かっ?!」
「だろうよ。普通さ、女子に服がどうかってのを聞かれたらそれなりの返しがあるだろうに」
俺は世間に疎い面がある。あんまりニュースとか見ないし、そんなに興味ないし
ただ、それでも海斗のさっきの返事は違うって事くらいは簡単に分かるぞ
「はぁー? ちょっと彩もなんか言ってくれよ! 創に────」
「それはもういいっ! 悪いのは海斗! ほら、創くん! 私たちは何すれば良いの? 時間そんなにないんでしょ?」
「おっと、そうだった。じゃあ説明するから着いてきて」
店内の構造。注文の受け方、渡し方、支払い、それに挨拶の仕方────
なんだかんだ言ってもやることはしっかり覚えてくれる2人に感謝しつつ、そのまま店は開店の時間を迎えた
迎えたんだが……
「お客さん来ないじゃん!」
「海斗お前、ここが開店と同時に人がなだれ込むような店に見えるのか?」
「いやそれをお前が言うなよ」
「だって事実だし。ま、後で忙しくなるから大丈夫」
「な、なんか意味深で怖いんだけど……あ、いらっしゃいませー! 私、初仕事行ってくるね」
こんな早い時間に来るのはいつも来てくれる人か、偶然通りかかった通行人か。今回は前者だった
ほぼ毎日見るおじさんは彩の接客をニコニコしながら聞いている。どうやら彩は心配なさそうだな
「ほぉー、彩凄いな。初めてでしょ? 初体験でしょ?」
「感心してるとこ悪いがお前もやるんだから。じゃ、俺も行きますかね。健闘を祈る!」
「ちょっ! 置いてくのかよ?!」
午前中は客足も疎らだしほっといて大丈夫でしょ。ほら、自立って大事だし
それにしても3人で働いてるとホント楽だな、いつもの運動量の半分位で済んでる気がする。いっそこの2人マジで入ってくれないかね
さて、時計はもうすぐ13時。団体様のご到着が迫っている
ただならぬ緊張感は2人も巻き込んで高まってきて、自然と背筋を伸ばしてくれた
「もうすぐだよな」
「うん。18人。今日イチの大波が」
「あっ、外見て! 来たんじゃない?」
小さめのバスが1台に駐車場入ってきた。そしてそこからゾロゾロと人が
開かれる扉の音は俺たちの開戦の合図でもあった
「すみませーん、予約していた者ですが」
「はいっ、いらっしゃいませお待ちしてました。こちらへどうぞ~」
そこからは怒濤の展開だった。注文を受けて厨房の父さんに伝え、完成したそばを運び、食べ終わった皿を片付ける────これの繰り返し。……お客さんに捕まって会話を振られている彩を何度か助けたり、席が分からなくなっている海斗を助けたりしたけど
このビックウェーブは2時間程続いた。全員が帰った時には流石に俺もヘトヘトで、勿論2人も同様だ
お客さんは店内にいない。机をキレイにしながらだが少し休憩ができそうだ
「いやぁーハードだった。めちゃくちゃハードだった」
「海斗の言うとおりね。すっごい運動したみたいな感じ」
「あはは、ほんとにね。2人に手伝ってもらえなかったら死んでたよ。ありがと」
「あ、水もらっていい?」
「勿論」
海斗は厨房からコップを3つ持ってくると、机に備え付けられているウォーターピッチャーからそれに水を注いだ。海斗は1人で3つのコップを使って飲むような変人じゃない。用意されたこれは俺と彩の分らしく、俺もちゃんとご厚意に甘えることにした
喉を冷たい水が通過していくのが分かるのは相当動いていて、喉も渇いてた証拠。この気配りは流石だと思う。彩も満足そうだ
「体の疲れが取れた気がするよ。流石うちの水」
「そんなの関係あんのかよ?」
「そうじゃなくても……海斗が入れてくれた水だから美味しいよ……?」
「そりゃどうも。さて創、まだ人来るんでしょ?」
「当然。と言っても午前中より少ないだろうし、2人はもう終わっても大丈夫だけど」
「いやいや、ここまできたなら最後までやるって!」
「そう?助かる。なら後1時間位頑張ろうか」
その後も何人かお客さんは来たが、あの荒波を制覇した俺たちの相手ではなかった。まあお客さんが来なくなるのは閉店時間が近いってのもあるんだろうけど
5時を迎えるとうちは閉店だ。春の空はもう暗くなっていて、若干肌寒い風が木を揺らしている
海斗と彩は制服とエプロンから私服に着替えて疲れ切った足取りで帰って行った。今日の疲労具合を考えるに、1週間そば無料制は妥当なバイト代になった気がするな
自分の部屋に戻ってベッドに倒れ込むと、俺にもドッと疲れが押し寄せてきた。瞼が重い。
なんというか……高校生という限りある時間なのに……
「俺は……これでいいんだろうか?」
答える相手なんて存在しない質問は天井に向かって飛んで消えていく。もう考えは放棄して、俺はベッドと睡魔に身を委ねることにした
次回の投稿は5代目の鍵人さんです!
次回もよろしくお願いします!