青春memory 作:N"our"vice
よろしくお願いします。
あの勉強会から数日後のことだった。創と彩のうどん蕎麦戦争もあったが、平和に集結しあとは勉強合宿を待つのみとなった俺達は、日々の授業に励んでいた。
だが、俺の調子はすこぶる不調であった。
「高道」
外をボケっと眺めて気の抜けた顔をしている俺は永斗達からも心配されてしまう始末だ。
「高道ー」
そう、あの勉強会を思い出す度に彩の姿がチラつくようになったのだ。
「高道くーん?」
お陰で小テストもすこぶる悪い結果だった。完全に俺に非があるはずなのだが、原因が分からないためこうして考え事にふけっているわけである。
「たーかーみーちーくーん?」
まるで訳が分からんぞ。何故こんなことになってしまったのか。こればかりは詠斗も創も実音も教えてくれない。果たして、誰に相談すればいいのやら……。
「ねぇ、高道くん……! 当てられてるよ……?」
「ん……?」
隣の女子から声をかけられたことで俺ははっと意識を取り戻す。顔を上げると、そこには困り顔の北条 夏子先生がいた。
「高道くん? なんか最近変よ?」
「い、いえ……大丈夫です」
嘘だ。全然大丈夫なんかじゃない。その証拠に、最近みかんが全くうまく感じられない。静岡県産の新鮮なみかんなはずなのに……。
とにかくだ。このままではいけない! 何とかしなければ……。俺はそう思い、気合を入れ直してその後の授業に望むこととした。
だが、そんな気持ちとは裏腹に、どうしても彩のことを考えてしまい授業に全く集中出来なかった。
とまぁ、そんな授業も終えてもう放課後だ。
いつもなら詠斗達と帰るとこなのだが、悲しいかな、全員用事があるそうなので帰れないらしい。彩達1年生も放課後に学年集会があるので一緒に帰るには時間がズレてしまう。さて、どうしようかと思った時、ふと肩に手を置かれたのを感じた。はて、誰だろうかと後ろを振り返ると、うちのクラスの男子の数少ない良心がそこにいた。
「海斗、お前今暇?」
「暇だけど? 春希?」
春希の説明は前にしてるからいいよね。どうせほかの人がやってくれてるだろうし。あれ、こんなこと四月にもあったような……。ま、いっか。
「ま、ちょっと話しようか」
どこか危ない誘いのような雰囲気があるけれど、まぁ春希なら大丈夫だろう。詠斗とか実音はともかくとしてもね。
まぁ、そんなこんなで俺と春希は1年生を待つべく、1年生の教室の前へと移動することとする。どうせ1回教室へと戻ってくるだろうしここで待っておけばすれ違うこともないだろう。
「なぁ、海斗」
「んー?」
っと、突然春希から声をかけられた。その顔はどことなく優しい感じをまとっていた。そこがモテる理由なんだろうなぁ。
「お前、彩と何かあったろ?」
そして、この鋭さである。え、今回のは誰でもわかる? ……そんなことないはず……。
「まぁ、そうだよ。あいつの姿が事ある度にチラついて集中出来るものもできやしねぇ。全く……いい加減にして欲しいものだよ」
しかもそれが笑顔でこちらを見ているようなものだから余計にタチが悪い。何故か愛おしく感じてしまうこの感覚は早く捨ててしまいたい。あいつにはこんな感情は向けていけない。そう思っているはずなのに……。
「でも、本心ではそれが嬉しいんだろ? お前、授業中に悟りでも開いたかのような顔してるからな。詠斗達は気味悪がっていたぞ」
「えぇ……」
詠斗達に気味悪がられるとかそれホントにやばいじゃん。特に実音にそう思われてるのは実際ヤバい。
「でも、彩はお前には懐いてるからいいんじゃないか?」
「懐いていたらあんなにどつかれないよ」
「ここがダメなんだよなぁ」
一体どこがダメなんだろ、そう思った時だった。ふと、体育館に通じる廊下からトタトタという音が聞こえた。音からして1年生の女子だろうか、そして、今このタイミングで現れると言ったら……
「春希……!」
そう言って、彼女は春希に抱きついていった。
「あいも変わらずお似合いカップルで」
「――いたんですか、邪魔なんで帰っていいですよ海斗先輩」
「それは酷いんじゃないかな、凪咲」
「春希さえいればそれでいいんで」
もう分かってると思うけど、凪咲の説明も省く。こんな子でも彩と健誠とは仲がいいんだから不思議なもんだ。
「そう言えば、凪咲。もう集会は終わったのか?」
「終わった、私は春希と早く会いたいから走ってきた」
「そうかそうか」
そう言って、春希は凪咲の頭をなでなでする。こういうのは見てて微笑ましいなぁ。創とか詠斗とか実音が見たらキレそうではある。
「凪咲、彩は?」
俺もここぞとばかりに聞いておくこととする。
「彩は健誠と一緒。そろそろ戻ってくる」
それは安心だ。俺は凪咲にありがとうと声をかけると、壁に寄りかかり彩が戻ってくるのを待つこととする。
その間は春希達の会話を聞いておくこととする。
「春希は何を話してたの?」
「ん? 彩と海斗のことについて」
「知ってた。春希と私は一心同体だから」
そうか、俺がお前でお前が俺でってやつか。あれ、この2人ゲーム得意だったっけ?
「多分、彩なら大丈夫」
「ん? なんで?」
なんか凪咲が気になることを言っていた。俺は気づけばそれに反応していた。
それがかなり重要な事だとは気づかずに。
「だって彩、海斗先輩のこと好きですよ? 私と春希みたいな関係になりたいと思ってるはずです」
「……は?」
なんかすげぇこと告げられたなぁと俺は思考を停止しざるを得なかった。
☆☆☆
「やっと終わったなぁ」
「そうねー、うーん……!」
私達1年生は気だるげな学年集会を切り抜け、各々が放課後何するだとか部活だとか言ってる中、私は健誠くんの隣でぐびーと背伸びをしていた。以前これを詠斗の前でやった時には、胸がないから色気がないなとか言われた。当然腕十字固めを決めておいた。
凪咲は終わったと同時にどこかへ消えてしまった。多分、春希先輩の所だろう。
「そう言えば、海斗が最近不調らしいな」
健誠くんが話題を振ってくる。そう、最近海斗が不調なのだ。事ある度に意識がそっぽを向いてしまいあまり集中出来ていないようだった。
「そうなのよ、何か原因が分かればいいんだけど」
「……はあ……よ」
「え? 何か言った?」
「うん? 何でもないぞ?」
健誠くんが何か言っていたが何も無いならいいや。しかも、不調なだけではなく何処と無く私と距離を置いているように感じる。詠斗の家でも出来事がなにか釈に触ったか。いや、でも海斗はそれぐらいじゃ怒らないし……。うーん、わかんないや。
「ともかく、疲れた」
もう、先生の話がだるいのなんの。私って基本的にいい子で見られちゃうからこういう所でも先生の目は向いちゃってるんだよねぇ……。ほんっとうめんどくさいこと。
「そうだなー。帰るときに何か奢ろっか?」
「あれ? 部活は?」
「休み。テストとかそういうの近いし」
「そう? ならコンビニでケーキでも奢ってもらおうかしらね」
「お手柔らかに」
その時は海斗も誘って……どうせなら凪咲と春希先輩も呼んでもいいかもしれないわね。
そんなことを考えながら私たちの教室へも近づいていた。そして、廊下を曲がるとそこには海斗と春希先輩と凪咲がいた。声をかけようとした時、凪咲がある発言をもたらした。
それは海斗と私の関係を大きく左右することとなる。
「だって彩、海斗先輩のこと好きですよ? 私と春希みたいな関係になりたいと思ってるはずです」
────え?
もう隠せはできない。そう悟った瞬間だった。
☆☆☆
「海斗……!」
「彩……」
最悪なタイミングで彩が登場した。何もそこまでピッタリに登場しなくてもいいだろうに。
「あー……、修羅場?」
健誠が的を得たかのような発言をしたがそれは違う。修羅場だったらどんなに楽だったか。
「凪咲……」
「あれ? 春希、私何かした?」
あぁしたさとは言えない。この子はどこか素直な所もあるからとても言えるわけない。
「えっとそのぉ……海斗?」
「う、うん?」
彩が緊張した様子でこちらに問いかけてきた。あれ、何これ彩ってこんなに可愛かったっけ……。
「私の事好き……?」
「好き……かな、多分」
この気持ちは本物なのか。これは恋心なのか。分からない。
「多分って……じゃあ付き合ってくれる……?」
恥じらいを持ちながらもこちらに問いかけてくる彩。付き合う、いくら俺でもこれくらいはわかる。男女の付き合い。今から受験やなんやと忙しい時期にこの告白。彩だってその事は分かっているはずだ。でも、こいつは告白してきた。きっと凪咲の一言がこいつの気持ちを後押ししたのだろう。
「付き合う……うん、付き合おう。俺はお前が好きだ彩」
ならば俺もこれに答えなくてはならない。今は好きになれなくてもこれから好きになればいい。ゆっくりでもいいんだ。
「そう……ありがとっ! 大好きよ、海斗!」
太陽すら霞むような笑顔でそんなことを言ってくる彩。こうして、俺と彩の関係は1歩前進したのだった。
その後の帰り道は二人で帰った。春希、凪咲、健誠は先に帰ってたみたいだ。その道中、彩がずっと俺の腕に抱きつきっぱなしだった。可愛すぎじゃないかな?
そして、次の日。ガラッと教室のドアを開けた時、どことなく怪しげな雰囲気を感じた。それは俺の後ろから迫っていた。
「異端者発見、処罰を開始する」
『了解』
「うわ、お前らなんだなにを……ってぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
この後、20連パイルドライバーやられかけた時は死ぬかと思いましたはい。
次回は夏風 櫂さんによる投稿の予定です。
次回もよろしくお願いします