青春memory   作:N"our"vice

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今回はへびーさんによる執筆です!
よろしくお願いします!


蕎麦とうどんの戦争

 

 

「絶対蕎麦だろ! ここは蕎麦だし!」

 

「いーや、うどん。何と言おうとうどんの方が上よ。でしょう? 海斗」

 

「いやー…その、おい創…一旦折れろよ」

 

「断る」

 

「おいぃ!」

 

 

 蕎麦派かうどん派か。いつかは起こる対立だと思っていた。これは最早きのこ派とたけのこ派、カップ麺しょうゆ派とシーフード派に匹敵するレベルの避けられない戦争だ。蕎麦屋の息子として、蕎麦派を応援する者として、この勝負負ける訳にはいかない…っ!

 

 横では海斗がうな垂れてる。よし、ならまずは冷静になるためにこうなった経緯を整理してみよう

 

 

 

 

 今日は学校で海斗と彩をうちに誘って──

 

 

 

 

 

「海斗ー、お、相変わらず彩もいるじゃん。手っ取り早くて助かる」

 

「どしたの? あー、もしかして…明日発売のCDを既にフラゲしていて貸してくれるとか──」

 

「2人とも今日放課後用事ある? 無いならうち来ない? 母さんがこの前のお礼がしたいって」

 

 

 海斗のボケみたいなものをあえてスルーして普通に話を進めてみる。勢い余って横でこけてるし、哀れな海斗…

 

 そんな海斗を手助けしながら、彩は困惑するように言う

 

 

「この前…? あぁ! 手伝ったときの。でも私たちお蕎麦ちゃんと貰ったよ」

 

「あれはまあ、俺からのお礼的な面があったから。で、今回は母さんからのってこと」

 

「はいはいそういうことね。じゃ、行くわ。彩も大丈夫だろ? なんだかんだ創の家の蕎麦うまいからな」

 

「もうっ…ご厚意で頂けるんだからがっつかないでよ。まあでも、それは私も同じかな。大丈夫、行くね」

 

「はーい、お待ちしてます」 

 

 放課後になると、俺は一足早くお店に戻ってこの要件を伝えた。両親とも了解とのことだ。まあ、さっき見た限りお客さんもいなかったし、タイミング的にも丁度良かったのかも

 少し洗い物を手伝っている時、扉が開く音が向こう側から聞こえてきた。声からして間違いない、海斗と彩が来たんだろう。

 

 

「やっと来たな、いらっしゃいませ」

 

「おう。えっと、どこ座ればいい?」

 

「どこでもいいよ。今は誰もいないし」

 

「じゃあここでいいんじゃない? 海斗ほら、座って座って~」

 

「はいはい、急かせるなよ全く」

 

 

 予め用意しておいたお冷やを二人の前に出すと、海斗は一気飲みで飲み干してしまった。まあ、もう外も暑いから丁度良かったんだろう。こういうとき、うちが机の上にウォーターピッチャーのある店で良かったと心から思う。いちいち呼ばれて水注いで戻ってくるのなんて──正直面倒くさいし

 

 

「さーて、何食べるかな。創、おすすめは?」

 

「お前うちが何屋だと思ってんの?蕎麦だろ」

 

「じゃあ私はかけうどんで!」

 

「……は?」

 

「いや、かけうどん。あるよね?書いてあるんだし」

 

「いやあるけど蕎麦のが──」

 

「だってうどんのがおいしいよ」

 

「いや、絶対蕎麦だって!」

 

「うどん!」

 

「蕎麦!」

 

 

 そうだ、こうして戦争は起こってしまったんだ。席的に、俺と彩の間にいる海斗は途中まではメニューを見ながら聞いていたようだが、いい加減イラついてきたんだろう、バンッと大きな音を立てながらメニューを閉じて俺たちを交互に見た

 

 

「お前らさ、その水掛け論いつになったら終わる訳? まずお互いの長所を理解するとか、そういうことから始めればいいじゃん」

 

「長所?」

 

「ふ~ん、創くんは蕎麦の長所も説明できないの?私はできるよ。うどんの長所」

 

「ふっ、ふん! じゃあ先攻は譲ってやろう。別に考えが出ない訳じゃ無いけどな」

 

 

 敵の出方を見るのも戦術の内。うどん派の考えを聞いておこう

 

 

「まず、うどんっていうのは消化に良いの。風邪の時なんかにも良いって言うわね」

 

「へぇ~」

 

「ま、まあ? 海斗が風邪引いたら…その…作ってあげても…いいよ?」

 

「マジで? じゃあ覚えておこ。ありがと」

 

「おーい、息をするようにイチャつくなー」

 

「い、イチャついてなんかないもん!」

 

 

 いや、否定するだけ無駄でしょうよ、それ。もうここまで来たら海斗からも何かすればいいと思うんだが…それは余計なお世話なのかな

 

 

「と、とにかく!他にも長所はあるの!日本中で愛されてるんだから!」

 

「というと?」

 

「まず、讃岐うどんでしょ、伊勢うどん稲庭うどん。エトセトラエトセトラ…」

 

「なるほど。でも広く伝わってるって面は蕎麦も同じだ」

 

 

 こっちのターンになったら言えばいいだろうけど、蕎麦だって沢山種類がある。日本中に広まってるからこそ、戦争も終わらない…

 

 

「後はね、えっと、女子力が上がるとか上がらないとか」

 

「そんな不確かな?!」

 

「だって誰かが言ってたよ? 海斗知ってる?」

 

「俺も何かで見たような…見てないような…でもそもそも女子力って何基準?」

 

「いやそれはその…女子力は女子の力なのよ!」

 

「いや説明になってないし…それ」

 

「まあなんだ、それは置いておいて彩の説明も終わったみたいだし俺のターンにしてもいいか?」

 

「ふふっ、良いわよ。聞いてあげる」

 

 

 手を前で組んで迎え撃つ気満々って感じですか。でもあの態度、俺の切り札を食らったらどうなるのか…楽しみだ

 

 

「まずさっきの話からしようか。種類のやつ。蕎麦も沢山種類があるんだよ。更科蕎麦、十割蕎麦とかね」

 

「ふぅん、ならそこは互角って事でいいわ」

 

「でも他に特出して言える事はあんまり無いんだよね。消化もあんまり良くないし、その謎のパラメータも上がらないし」

 

「それは蕎麦の負けを認めると言う訳で──」

 

「でもそれは違うぞっ!」

 

 

 何か白黒の熊が出てそうなゲームのようなセリフが出た。カットインとか入ればいいのに。あと銃声

 それはともかく、突然俺が大きな声を上げたから彩が驚いている。隙を見せたな?ここで切り込む!

 

 

「俺には関係無いが、彩には大切かもしれない。……蕎麦はダイエットに活用する事ができる」

 

「なっ…?!」

 

「確かカロリー量で言うとうどんのが低いんだ。でも栄養素とか、その他諸々の点を見ると蕎麦の方がダイエットになる」

 

「創…女子にダイエットという単語をぶつけるとは…中々に鬼畜な事すんのな」

 

「勝つためには手段選んでられないんだ…」

 

「そんな気迫迫る感じで言われるとこっちも困るんだけど…」

 

 

 後一押しって所かな。そもそも、ここが蕎麦屋で俺が蕎麦派な時点でこっちの勝ちは決まってたような感じなんだけど。出来レースなんだよこれ

 

 

「簡単にダイエット。多分女子の夢だろう。なら女子力もついでにつく! …かも」

 

「いやぁ!もう辞めて!」 

 

「ふっ…勝った…」

 

「…お前らバカなの?」 

 

「勝ったのに辛辣?!」

 

 

 耳を塞いだ彩と、ヒートアップしてる俺。端から見たら海斗のツッコミは正しいんだろうけど…気にしたら負けか

 彩は俯いたまま、再度メニューを開いた

 

 

「そういうことなら…私、蕎麦でいいわ。ざる蕎麦1つお願い」

 

「あ、じゃあ俺がかけうどんで」

 

「海斗!話聞いてたでしょう?私たちは負けたの。蕎麦の方が優れてるわ」

 

「…いや、俺それ関係ないし。食べたいもの食べないとそれこそ健康に悪そうだと思うんだけど」

 

「そっか…! そういう考えもありなんだ」

 

「心変わりして蕎麦が良いならいいんだけどね。それに食べたいなら少し分けてあげるよ」

 

 

 それを聞いた瞬間、彩の顔が音を立てるように赤くなった。これ、多分考えて言ってるんじゃなくて自然と言ってるんだからすごいよなぁ、この天然ジゴロめ…主人公属性かよ。相手がいるってだけでも俺からしてみれば羨ましいのになぁ

 

 

「ありがと……」

 

「ん。それじゃ、注文それで」

 

「はいはい、了解ですお客様」

 

 

 厨房に伝えると、半ば呆れられながら作ってくれた。ついでに俺の蕎麦まで。一緒に食べてこいとこのことらしい。こっちとしてはさっきの海斗の発言と彩の反応を見てただけで色々とお腹いっぱいです

 

 トレーに注文のやつと、取り分けるらしいからそのためのお皿も乗せて…っと

 

 

「はい、こちらかけうどんとざる蕎麦になります。あと俺も食べるから」

 

「おう! みんなで食べた方が美味いでしょ」

 

「そうだね。それじゃ、いただきます! う~ん、美味しい!」

 

「いただきます。っと、取り皿取り皿。はい、口着ける前によそっといたから」

 

「う、うん。ありがと…」

 

「実は口着けてからのが良かったり?」

 

「うるさい! 私はそんなに変態じゃない!」

 

「いったぁ?!お前、殴るなって!」

 

 

 

 

 

 

 

 そうして騒がしくも楽しい(?)食事の時間は終わった。蕎麦うどん戦争は…今日のところは引き分けにしておいてあげようかな、色々と考えさせられる事もあったし。でもまずは──

 

 

「母さんー、うどん一杯頂戴」

 

 

 うどん食べてから。かな




次回の投稿は5代目の鍵人さんによる執筆の予定です。
次回もよろしくお願いします!

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