青春memory   作:N"our"vice

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今回らイチゴ侍さんによる投稿です!
よろしくお願いします!


砂糖大さじ2杯の甘さ

──暇だ。

 

 自室のテーブルの上に積まれたラノベを眺めぼーっとする俺。先程まで読んでいたバトル物がまだ頭に残っているせいか、突然血なまぐさい戦いに巻き込まれないか……なんて物騒な考えまで思い浮かぶ始末。

 

 しかしそんな事を考えてるのは俺だけのようで、俺のお隣に座る彼女は黙々とラノベの世界に没頭していた。

 

 

 「なぁ、凪咲? ずっと読んでて飽きないのか?」

 「……」

 

 挿絵間近の所で邪魔を入れてしまったようだ。凪咲はバンっと本を強めに閉じると、ジト目でこちらを見ていた。

 

 

 「飽きない」

 「そ、そうか……あの、ごめんなさい」

 「許す」

 

 

 …………。

 

 俺と凪咲の間にはちょっとしたルールがある。

 

 “凪咲が本を読んでいる時にはあまり邪魔をしない”

 このルールについては以前、俺をアニキと慕ってくれる同い年の天谷健誠がやらかした事がある。

 その時は、凪咲の怒りを静めるのに数時間撫でる事になった。

 

 

 「ねぇ、春希? 甘いのと辛いのどっちが好き?」

 「んー、凪咲が好き」

 「……」

 

 あ、めちゃくちゃ照れてる。なんかこうしてるとバカップルしてるな〜って気がする。

 

 

 「真面目に答えてよ……」

 

 流石に2度も同じことやると凪咲が不機嫌になりかねないので、きちんと答えることにした。

 

 

 「どうせなら甘い方が好きだな」

 「……そう」

 

 すると凪咲はまた読書に戻った。……えっ? 何も無いの? てっきり俺は「甘いのが好きなら甘々な私でもいい?」とか言ってくれる展開だと思ってたんだが、ただ聞いただけらしい。

 

 

 「……」

 「…………」

 

 しっかし凪咲の横顔綺麗だな。文学少女ってよく美人が多いって聞くけど凪咲がいい例になってると思う。まぁ、少し彼氏目線も混じってるけどな。読書中に告白してくる輩が多いのも頷ける。

 先日もまた命知らずの先輩が、凪咲の読書中に告白しに来ていた。結果は言うまでもないけど、今思えばまるで磁石みたいだな〜なんて思ったり。

 

 

 「春希は今日どこにも行かないの?」

 「いや、行かせまいとする彼女さんはどこの誰ですかね」

 「私です」

 「正直でよろしい。まぁ、行く宛がないってだけなんだけど」

 

 最近つるんでるみんなは、どこかに行ってるらしい。どうせなら誘って欲しかったが、凪咲が絶対面倒くさがるだろうからもし誘われてたとしても行かなかっただろう。

 凪咲を一人にする? そんな危ないこと出来るわけないだろ。

 

 

 「ニート……」

 「ほとんど同じような奴に言われたくないですね」

 「私はちゃんと動いたから」

 「お隣の家からわざわざありがとうございます」

 

 てかそれを動いたとは言わない、と付け加える。

 

 

 「私……ちゃんと動いた」

 「よーしよしえらいえらい!」

 「ん」

 

 自分が子供扱いされてるとは知らず、頭を撫でられて上機嫌の凪咲。毒姫は意外とチョロいぞ〜なんて広めたとして信じるのなんて俺たちの仲を知ってる詠斗達くらいじゃないか? だからって広めるつもりはない。

 

 

 頭を撫でてからしばらく経ち、横顔を眺めていた俺は少しの変化を見つけた。何故か熱心に同じページを読んでいるのだ。

 どこを読んでいるのか確かめるために、横からチラッと覗くとそのシーンは、兄妹のラブラブシーンだった。バトル物と言ったら主人公ハーレム、その中に必ずいる妹。うちの凪咲、今度はその妹にハマったご様子。

 

 

 「兄妹とカップルのイチャイチャって何が違うの?」

 

 ほら来たよ。絶対来ると思ったよその質問! ……とまぁ、想像はしてたがどう答えていいか正解が見つからない俺だった。

 違いってなんだ? 血が繋がってるか他人かの違いだよな……いやいやこれじゃ全く納得してくれないよな。

 

 

 「うーん……」

 

 お互いを知ろうと試行錯誤するカップルのイチャイチャと、お互いを詳しく知っていて不安を感じない兄妹のイチャイチャ。でも結局兄妹であれ最終的にはカップルになる訳だし違いってあまり無いのかもしれない。

 やっぱり手っ取り早いのは体験してみることではなかろうか?

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 「と、言うわけで……妹物の作品を集めてみた!」

 

 自室の本棚にあったありとあらゆる妹作品を漁った。中にはもちろんアニメ化してる奴もあればマイナーなものまで揃ってる。

 てか、我ながらよくこんなに妹作品があったな……一人っ子の俺としてはやはり妹とか欲しくなったりするもんなんだよ。

 

 

 「あ、このキャラ……同人誌で見かけた。鬼畜系だったからすぐさま視界から外したけど」

 「こらこら、そういう生々しい事言わないの。それを楽しんでる人だっているんだからな(ごく一部だけど)」

 「この子も見た」

 「お前……一体夏コミで何を見てきた……」

 

 俺の知らぬ間に夏コミに行っていたらしく、行ったことに気づいたのは前に凪咲の家にお邪魔した時、でかい紙袋に入れられた同人誌だった。

 中にはごっそり薄い本が詰め込まれていて、まだ全て読み切れてないそうだ。それなのにうちで違う本読んでて良いのか? と言ったところ「それとこれとは別」などと、まるで女性のデザートは別腹、みたいなノリで返された。

 

 

 「どれから試してみる?」

 「無難にこれじゃないか?」

 

 表紙を捲り、俺たちは文を読み始めた。

 

 

 

 

 □ □ □

 

 

 

 

 

 「今日は楽しかったな凪咲」

 

 俺たちは落ち着いた雰囲気のカフェで今日一日を振り返っていた。

 可愛くオレンジジュースをストローで吸い上げる妹の凪咲に思わず頬が緩んでしまう。

 

 

 「お兄ちゃんと二人っきりでデートするのは、ずっと前から夢だったの。だから……」

 

 そう言うと凪咲は、テーブルを挟んだ向かいに座る俺の手を両手で包み、前かがみの姿勢で顔を近づけてきた。

 

 

 「一分一秒でもお兄ちゃんとの時間は無駄にしたくないの。私だけをちゃんと見てて……?」

 

 頬を染めて照れながらもハッキリと口にする凪咲に、内心俺はドキドキしていた。

 いつもは無邪気な妹が、今では一人の女性として意識してしまう。そう、俺たちは恋人同士なのだ。兄妹でありながら……。

 

 

 「これからは凪咲だけを見つめるよ。俺たち、やっと恋人の関係になれたんだからさ」

 「うん……お兄ちゃんはいつも鈍感で、もしかしたらずっと私の気持ちに気づいてくれないんじゃないかって心配だったんだよ?」

 「ごめんって……。でも、これからはずっと一緒なんだからさ、ゆっくりでもいいから凪咲の気持ちたくさん聞かせてくれないか?」

 「私のお兄ちゃんへの気持ちはいつだって溢れかえってるんだから! お兄ちゃんがもう無理……なんて言っても止まらないよ」

 

 今まで溜まっていた想いが溢れてきているのか、凪咲は止まることなく想いを口にしていたが、そこで喉が乾いたのか再びストローを口に持っていく。

 俺も同じようにコーヒーを飲み、どこか心地の良い沈黙が辺りを包んでいた。

 きっとこれが恋人同士の空気というものだろう。

 

 

 「所で凪咲」

 「ん?」

 「お前、いつから俺の事好きになってくれたんだ?」

 「それはね……えっと」

 

 凪咲は顔を真っ赤にして俯く。しかしすぐさま顔を上げて、

 

 

 「詳しくは覚えてない。でもずっと好きだった。ずっと……、だからきっと、初めて顔を合わせた時から春希の事が好きだったんだと思う」

 

 そんな真っ直ぐな答えを聞き、俺の顔がカッと熱くなるのが分かった。

 

 

 「春希はどうだったの?」

 「お、俺か……?」

 「春希は、いつ私の事好きになってくれたの?」

 

 その時、生まれて初めて言葉がスッと出ていく感覚を味わった気がする。

 

 

 「俺も詳しくは分からない。でも、自然と好きになってたんだと思う。……た、多分、凪咲から好きって気持ちが伝わってきたのかな……」

 

 最後に急いで付け足したが、イマイチかっこつかないな……。

 

 

 「そ、そう……」

 

 だが凪咲は何か言うこともなく、かああぁと顔を赤らめ髪をクルクルと指に巻いては戻し、巻いては戻すをモジモジしながら繰り返していた。

 

 

 「春希……」

 「ん? どした」

 

 

 「──大好き」

 

 

 気づいた時には俺と凪咲の唇は触れ合っていた。

 

 

 

 

 

 □ □ □

 

 

 

 

 

 「な、なぎ……さ?」

 「私の気持ち伝わった……?」

 

 その時、俺は本を読みあっていたのだと思い出す。今の凪咲の言葉、いや……途中から文の読み合いでは無かった。それまで兄妹という設定だったのが、終盤には“春希”と“凪咲”という2人に変わった。

 

 意識を取り戻した今も、先ほどの凪咲の言葉が頭を過ぎる。当の本人は今、俺の腕にしがみついて顔を伏せている。

 

 

 「十分伝わったよ」

 「……もっと撫でて?」

 「もしかしてこれが“甘いのと辛いのどっちが好き”っていう回答の結果だったりしてね〜」

 「…………」

 

 

 図星だったようだ。

 

 

 「あ〜長く喋ってたせいか喉乾いた……」

 「私が持ってくる。コーヒーでいい?」

 「おっけー。コーヒーの買い置き食器棚の下の……」

 「知ってるから大丈夫」

 

 凪咲は俺の腕から離れ部屋を出るとリビングがある下へと降りていった。

 

 その日飲んだコーヒーはとてつもなく甘くて、凪咲によると砂糖は入れてないらしい。

 

 その甘さは、砂糖大さじ2杯に匹敵する甘さだった。




次回の投稿はへびーさんの予定です!
次回もよろしくお願いします!

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