ファンタジーライフ ~転生先は異世界でした~   作:篠崎零花

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シリアスもどきがあります。

何故もどきと言うのかは…読んでからのお楽しみです。

ネタ、稚拙な文などが苦手な方は回れ右をオススメしています。

※サブタイトルを分りやすくしてみました。


第15話 季節は夏です。別れも突然です

――優季(ゆうき)視点

 

風呂を上がる頃には棚にリーシャの分が入ったかごが置いてあった。

お互い、なんとも言いがたい雰囲気(ふんいき)で体や頭を拭き始めた。

 

けど、男である俺の方が拭くものが短かったりざっと拭けたりとで先に終わった。

そのまま白いTシャツ、カーキのハーフズボンに着替え、脱衣所から出る時に脱いでおいた靴を履いてから俺は十中八九元凶である誠也(せいや)を探し始めた。

 

 

 

 

 

探していた相手は探さなくともすぐに見つかった。

なにせ脱衣所から出て少し歩いたリビングにいたのだから。

 

「ここにいたか、誠也。さて、さっき脱衣所の扉の前になにをしたのか白状してもらおうかー…」

そういってソファーに座っていた誠也の背後に立つ。

 

「さてはて。なんのことやら。俺は知らないなぁ」

 

「知らないじゃないぞ、こいつ~。もう少しで俺が社会的に死んでたかもしれないんだぞー」

 

おふざけなので、かなり手加減をしながら誠也の左肩、右脇の辺りでホールドしている。

まあ、誠也も自衛が出来ないような奴じゃないし、おふざけ程度なら抜け出せるんだろうけどね。

 

「そりゃー悪かったー。まさかそうなるとは思わなかったんだー」

と棒読みでいってきた。

 

それに俺がつっこもうとしたが、それよりも先に背後から

 

「へぇ、そうなんだ。ちゃんとした理由とかを言ってくれたら私、なにもしないであげるんだけど…なにか言うこと、ない?」

 

という声がした。

 

俺達はその体勢のまま、振り向く。

ワンピースタイプのネグリジェを着たリーシャが笑顔で立っていた。

目だけが笑ってないけど。

 

「な、なにをするっていうのかな?リーシャさん?」

 

「冷気でも起こしてこの部屋を寒くするつもりだけど?」

 

「「いや、むしろしてください!」」

とほぼ同時に叫んだ。

 

「……えっ」

あっけにとられた顔になるリーシャ。

そりゃそうだよ。

まだ暑い日が続くと言うのにそれを言えばこうなる。

一応窓は開けてるんだけどね。

 

んんっ、と持ち直したのか半目で俺達(多分誠也を見てるんだと思う)を再度見てきた。

 

「とりあえず、驚いた…とだけ言っておくからね。あんまりしないでよ?」

 

「違うのならするなっ」

とイタズラっぽく笑った誠也を俺はおふざけで揺らした。

 

「お前なぁ~」

 

そうやっている(さま)を見てなのか、クスッと笑う声がした。

それにつられて俺達も笑い出す。

 

平和だな…と、そう思った。

 

だけど、そう思ったすぐあとに玄関の扉が開く音がした。

閉まる音がする前に男の人が入ってきた。

 

その姿は所々服が破れていて、破れた箇所からは怪我が見え、着ている服には赤い液体がちらほらと見える。

 

「ふ、封印されてたはずの魔王が…!魔王が魔物を…!魔物を引き連れて(ここ)を襲いにきた…っ!」

 

と急に叫んだ。

俺達は顔を見合わせるもリーシャはどこか不安げに瞳を揺らし、誠也も不安そうだったが、なにをするかを普通に考えられそうなくらい、冷静に見えた。

 

俺も少し不安だけど、どうにかしなきゃまず駄目だと思った。

 

そう考えるのとほぼ同時に玄関が再び開き、そこから両親の姿が見えた。

 

「悪い!今はなにも聞かず母さんと逃げてくれ!悠希、お前はお前の部屋にある剣を持っていけ!あれはある物作りや改造が大好きなドワーフが作ったものだからしばらくは持つはずだ!誠也、お前には短剣を同じ人に作ってもらっているからそれを持っていけ!リーシャ、悪いがお前にはそのドワーフがいる洞窟までの地図を持っていってもらう。あと母さんも出来れば守って欲しい」

 

一気にそれらを言うと最後に

 

「……一応、足は荷物輸送所から持っていくといい。緊急事態だからと2頭から4頭まで使う馬車なら渡してくれるだろうからね。あとはリーシャ、お前に俺の家族とその友達を任せた。ついでになってしまって悪いんだが…ドワーフの洞窟でなにか聞かれたら村野優真(むらのゆうま)って名前でも出しておけ。じゃあな…俺は足止めでもしてくるよ」

 

といった。

 

「それって…待てよ、俺だって…!」

 

なにも出来ないわけじゃない。

そう言いたかったのだけど。

 

「……お前がいると足手まといになってたまらん。だからさっさといけ」

 

とピシャリと言われ。

 

「そこまで言うのは酷いと思うわよ?」

 

「いいや。ここまで言わないと馬鹿は分からないみたいだからな。じゃあ、いってくる。…案内してくれ」

そういうと玄関に置いた剣(普段俺が使っているもの)を手にして軽い怪我をした男の人についていった。

 

「……とりあえず、行きましょう。悠希、誠也。貴方達は1回部屋に行って。言われたものはそこのベッドの下に隠されているから探してみるといいわ。リーシャさんは…精霊との契約、まだなのよね?」

 

「は、はい。まだしていないです」

 

「分かったわ。なら―――」

 

そう会話しているのを尻目に俺は自室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧喜(たまき)視点

 

それから急いで私達は逃げる用意をした。

再度の着替えや簡単な荷造り。

手伝ったのはいいけど、少々雑になってしまった。

それらを4人で分担して持つ。

 

「玄関から出るわよ。ついてきて」

そう言われ、開きっぱなしの扉から出ていく。

 

順番は悠希の母親、悠希、誠也、私。

 

(ちな)みに悠希の右腰には剣の入った(さや)が、誠也(せいや)の左腰には短剣の入った鞘が(たずさ)えられている。

 

 

 

 

それから早足で歩いてしばらくしたあと。

こっちにはまだ魔物とやらが来ていないらしい。

でも、そのわりには荷物輸送所の周りに人はあまり見えなかった。

 

どうしたんだろうか…と考えようとしたら

 

「…この状況だ。もしかしたら、自分で持っていく人の方が多いんだろうな」

 

と誠也が呟いた。

 

「ええ、そうでしょうね。危険が迫っていると言うのにここまできて、馬車を借りるって選択肢まではなかなか出にくいでしょうし。今ここにいるのはきっと、それが出てきた少数派でしょうね」

 

「なるほどな…。それであまりいないわけなのか」

と納得したように返している。

 

「あー、いいかな?私、まだ2頭のしかやったことないんだけど、大丈夫?」

かなり近づいたところで聞く私。

 

「大丈夫よ。とにかく事情を話して貸してもらいましょう」

そう悠希の母親に言われ、ついていく。

 

「それと私のことは沙恵(さえ)って呼んでいいわ。ただ、呼び捨ては緊急時のみよ?」

とその間に言われ、私と誠也は頷いた。

悠希は表情が見えづらく、頷いたのかさえ分からなかったけど。

 

 

 

 

 

 

中に入るなり、かなり短いとんがった耳を持つ青年に

 

「無事でしたか。上司から緊急事態が起きたと聞いたので、皆さんのことが心配になり、つい来てしまいました。それと今のところ、この町で被害を受けているのは町の入口周辺だそうです」

 

といきなり声をかけられた。

 

「……真叶(まなと)さんか。それで、こっちに人があまり見えないのは何故か分かる?」

 

「はい。(おそ)らくは周知されていなかったのが原因かと。そうすればこうはならなかったと思われるのですが…。今回のことを機にもう一度上司に話しておくのでどうにかなるかと」

 

なるほど、一部の人しかその事を知らなかったのね。

無事に逃げられるといいんだけど…。

 

「あ、それと馬車って…」

 

「あ、馬車ですね。他の皆さんは今のところ2頭のを持っていく方が多いので今からでないとそろそろなくなってしまうかと…」

 

「ならその2頭の方をお願いします。でも、真叶さんはこのあと、どうするんですか?」

 

「4頭を使う馬車を借りられる方と一緒に行きます。他に残ってる人もそのためにいるようなものですから。気にせず使ってください」

 

「分かり、ました…」

そう言いながら頷いて半身だけ振り返る。

 

「こっちは大丈夫よ。ところでドワーフの洞窟の場所は知ってるかしら?」

 

私は首を横に振って

「……分からない、かな」

と答えた。

 

「なら、今から馬車に向かうから貴方達は後ろに乗ってちょうだい。こんなときまで盗賊は出ないでしょうし、一直線に行くわよ。悠希と誠也もいいわね?」

 

そう言うと悠希の母親は2人が頷くのを見る様子もなく真叶さんに教えてもらった方向へ向かい始めた。

私達も後を追って歩き出した。

 

本来は通れない場所を通ったので、最初に馬車に乗ったときより早く馬車についた。

 

 

 

 

「悠希、誠也。先に馬車に入ってもらってもいいかしら?ちょっとリーシャと話がしたいのよ」

と馬車の前でそう話してきた。

 

「理由は?」

 

「ないわよ。聞かれても困らないことだからいてもいいけども…」

とまでいって町の入口の方へ顔を向ける。

私もそっちへ顔を向けると煙があがっていたり、火が出ていたり、建物がかなり壊されていたりなどとひどい()(さま)になっていた。

 

「やっぱりやめるわ。貴方達、もう乗ってちょうだい。出るわよ」

そう言われ、悠希と私の背中を押して入るよう(うなが)してきた。

 

「…しょうがない。乗ろうぜ」

誠也はそういうとあっさり乗った。

私達は押されるがまま、乗ることに。

 

悠希の母親は御者台(ぎょしゃだい)に座るとそのまま、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「…えっと、悠希。大丈夫?」

 

やっぱりああいう風に言われて大丈夫なのか、心配になったのでそう聞いた。

 

「まぁ、な。でも、あれ…隠せてないんだよな。俺がある程度の嘘が分かるのを知っててわざとああいってきた。そこまで俺達家族を守りたいと思うならついてきてほしかったよ」

苛立(いらだ)ったような表情でいった。

 

「優しい嘘って言いたいの?」

 

と聞くと目の前に座った悠希は小さく頷いた。

 

「ああ…。まぁ、俺もある意味隠し事が父さんにバレてたのかもしれないな。それについては近いことをリーシャには前に言ったはずなんだけど、覚えてるかな?」

 

「この世界における貴重な情報源だとかだったはずだけど…」

 

「うん、それだよ。んだからこそ、守っておく必要がある。俺とリーシャにしかいいことはないだろうけどね」

 

「いや、あるだろ。エルフは長寿な分、若いうちから色々と教えてもらえるって俺の母さんが言ってたぞ」

 

「まじか」

 

「まじだ」

なんて片や驚いた顔、片や真顔で話している。

 

でも、悠希さんや。

あなた、私からそれに近いことを聞いているでしょうよ。

『言語を三つほど教えてもらった』と。

母国語となるエルフ語は別に数えるとして、古代エルフ語と精霊語と共通の日本語のようなもの。

 

「それはいいけどさ。さっきの雰囲気(ふんいき)はどこにいった!?」

 

「いつまでも引きずったら父さんに悪いだろうしね。あれでも町の中じゃ腕が立つって自称してたし」

 

「いや、それなりに剣術の腕はあったの、俺は見てるからな!?盗賊を追い払ったことがあるとかも聞いたことあるしさ!」

 

「あー、そうだったのかー。そりゃー知らなかったなー」

とあからさまに棒読みでいう悠希。

 

シリアスを返せ。

そう思った私は黙って前に座っている2人を半目で見ることにした。

つっこんでも余計にシリアスがなかったことになるだけだろうしね。

……なるのかさっぱり分からないけど。


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