艦隊これくしょん ‐NextArea‐   作:セルラ

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二十一話です。

今回は長いし、艦娘は出てきません。

それでもいい方は読んで行ってくださいね~


第二十一話  (怪物)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督「・・・ンァ?ここは・・・」

 

 

提督は身に覚えのない空間にいた。先ほどまで確か艦娘たちに囲まれていた気がする…だがこの空間には何もない。さらに誰一人いない。文字通り、『何もない空間』だ。

 

 

提督「俺は…そうだ!吹雪は!?」

 

 

意識が無くなる前に思い出した少女の名前を呼んだ。返事は来ない。

 

 

提督「何で俺はここに…?俺は鎮守府に戻ってきたはずだ…」

 

 

提督の頭は強く打ったかのように鈍い痛みと同時にノイズが走っているような気がしている。その場に立ってみると立ち眩みのようなものが起きて顔を少し歪めてしまった。

 

 

提督「・・・とりあえず…進む…しかないよな?」

 

 

提督は少しずつだが歩を進めた。何もない空間の中を当てもなく歩いている。どこまで進んだのかすらわからない。自分がどっちから来たのか分からない。無事に帰れないかもしれない。そんな不安が頭の中を過った。

その時、何処からともなく声が聞こえた。幼い少女と少年のような声。

 

 

提督「ッ……」

 

 

提督は少しの間動きを止めた。なぜならその声を聴いたとき少しノイズが晴れたのだ。だが、それと同時に自身の頭が危険を知らせたのだ。これ以上知ってはならないと…

 

 

提督「進むしか…ないよな…」

 

 

結局好奇心の方が勝ってしまった。提督は好奇心につられて進んでいった。前進するたびにその声は大きくなっていく…声が大きくなるたびにノイズはどんどん晴れていく。ノイズが晴れ記憶が思い出され始めた。

憎い…艦娘が憎い…何故だ…?何故憎いのだ…?人間の敵は深海棲艦だろう…?

 

 

 

提督「…どう…なっているんだ…?」

 

 

 

そんなことを呟きながら進んでいく…だがいつの間にか何か壁のようなものに引っかかっていた。

 

 

??「ようこそお越しくださいました。マスター」

 

 

暗闇の中から誰かの声が聞こえる。その声に聞き覚えはない。

 

 

提督「だ、誰だ!?」

 

 

提督が尋ねる。だがその声はまるでその質問をされることが分かっていたかのように答えた

 

 

??「自分の名前はヤスデ。以後お見知りおきを。提督さん?いえ…マスター」

 

 

ヤスデはそう言った。少し目を凝らしてみるとヤスデの姿が見えるようになっていった。そして見る事が出来た少女の姿は…彼には見覚えがあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督「…えっ…ふ…ぶき?」

 

 

 

ヤスデ「…あぁ、吹雪様の事でしょうか?お姿をお借りしているだけですよ」

 

 

ヤスデはそう答えた。姿こそ吹雪だが髪の色はこの空間に目立ちすぎるほどに真っ白だった。

 

 

提督「………えっと…ヤスデ?でいいんだよね?俺は何でこんなところに…?」

 

 

提督は自分の疑問を尋ねてみた。きっと答えは返ってこないのだろう。そんなことを考えながら彼女の返答を待った。だが意外にあっさり彼女は答えた。

 

 

ヤスデ「ここは貴方様の精神世界です。貴方様の精神は今、ギリギリ保たれているんですよ?

   通常、ここまで真っ黒くなることはあり得ないのです。ですが貴方様の精神は黒い。

   つまり・・・」

 

 

提督「分かった。もういい。ありがとう」

 

 

提督はヤスデの話を聞くたびに背筋が凍っていくのを感じていた。だから彼女の話を遮ったのだ。

 

 

ヤスデ「そうですか。分かりました。」

 

 

彼女は短くそう返すと机と椅子をどこからともなく準備して提督に座るよう指示した。提督はその一瞬の行動に目を見張ったが座るように指示されたので座ることにした。

 

 

提督「何でお前は俺の精神世界?にいるんだ?」

 

 

ヤスデ「自分たちが貴方様の精神にしか存在していないからです。いわば自分達は貴方様の思念体と思っていただければ幸いです。」

 

 

ヤスデはそう淡々と答える。まるでその事が聞かれるかのような答え方だった。

 

 

提督「吹雪や夕立、他の艦娘たちは?」

 

 

ヤスデは少し驚いたような表情をしていた。だが、それもすぐに元の表情に戻して…少し間を開けて話し始めた

 

 

ヤスデ「…マスターは今何処まで記憶を取り戻していらっしゃっているのですか?・・・・・・いえ、答えなくても結構です。貴方様の表情を見ている限り、吹雪様のこと以外にも最近の事なら思い出せているようですが…昔の事は都合よく覚えてないのですね。」

 

 

 

ヤスデはそう告げた。提督にとっては何を言っているのか理解が出来ない、といった表情だった。

 

 

ヤスデ「貴方様の質問に答えましょう。彼女達は今現在は無事です。『今現在』は、ですけれども」

 

 

提督「・・・今現在っていうのは…?」

 

 

ヤスデ「簡単な話、貴方様の鎮守府は数時間後に壊滅すると考えられますよ。」

 

 

ヤスデは一言、そう告げた。彼女の目を見る限り、嘘偽りはないと考えられる。

 

 

 

提督「…何故そんなことがわかるのかい?」

 

 

ヤスデ「自分達はもう既にこちらの世界から貴方様の世界へと危険を知らせに行っております。今回は二人、向かわせております。もう直に帰ってくると…言ったそばから帰ってきたみたいです。」

 

 

ヤスデは自身の後ろにいつの間にかあったドアを開けた。するとその扉から二人の少女が現れた。提督はそのあまりに非現実な光景を目にして驚きを隠せなかった。

 

 

??「…いきなり…撃たれた…痛い」

 

 

??「まあまあ、そんなこと言わずにさ」

 

 

??「陽彩はいいよね…会話…出来たんでしょ?」

 

 

陽彩「ええ、確か…金剛って人に危険を知らせたよ。敵意がないことを伝える事が出来てよかったわ。そういう白風は誰に撃たれたの?」

 

 

白風「えっと…白い髪の駆逐艦…かな。四人一組で行動してて…響…さんって言ってた」

 

 

そんな二人の少女の会話が聞こえる。提督はただただ驚くことしかできなかった。

 

 

ヤスデ「…二人とも、マスターがお見えになっています。私語を慎みなさい。」

 

 

ヤスデがそう告げると二人は一言も発さなくなった。ただこちらを見つめている。

 

 

陽彩「ご命令を。」

 

 

そう言って陽彩はこちらに命令を求めている。

 

 

ヤスデ「自分達は貴方様の思念体。貴方様からの命令であればどのような事でも終わらせるする所存です。」

 

 

提督はただこの状況を見て停止していた。不可解なことが多すぎる。

 

 

提督「…とりあえず…自己紹介でもお願いしようかな?あと無理して敬語じゃなくていいから」

 

 

提督がそう言うと三人は態度を改めて自己紹介を始めた

 

 

陽彩「私の名前は陽彩。主に艦載機運用をしているわ。艦の種類で言うならばそうね…装甲空母っていう種類が一番近いわ!さっきまでは金剛…戦艦に接触してたのよ」

 

 

陽彩と名乗った少女は肩に飛行甲板を、背中には艦載機が収納されているのだろうと思われる小さな倉庫を装備していた。まじまじと見てしまっていたのだろうか。陽彩から声を掛けられた。

 

 

陽彩「あのぉ…マスター、そんなに飛行甲板を見られると…恥ずかしいわ…」

 

 

提督は少し不思議に思っていた。この飛行甲板の形…何処かで見たことがあるような気がする…

 

 

白風「あの…私…自己紹介していい…?」

 

 

提督「ああ、ゴメンな。よろしく頼む」

 

 

白風「私…白風(しらかぜ)って言います…基本的には酸素魚雷を扱ってます…艦で言うなら軽巡です…よろしく…お願いします…」

 

 

白風はオドオドしたような様子で自己紹介した。腰と足のあたりに魚雷管が、両腕には主砲を装備していた。気は弱そうだったが、その少女の目には確かに強い意志があった。

 

 

提督「よろしくな。白風」

 

 

提督が白風を呼ぶと一瞬嬉しそうな顔を見せたがすぐに表情を戻してしまった。

 

 

ヤスデ「改めまして、自分はヤスデといいます。艦種としては、駆逐艦が最も近いかと考えられます。」

 

 

ヤスデは何も装備をしていない。この場所に残っていたからだろう。

 

 

提督「よろしくな。ヤスデ。ところで二人は何処に行っていたんだ?」

 

 

ヤスデ「そうですね…二人とも、マスターに報告しなさい。」

 

 

陽彩「私達はマスターの鎮守府に行ってきました。そしてそこにいた戦艦『金剛』へ鎮守府に近づく危険を知らせました。ですが彼女達だけでは守りきることなど出来ないと思います。ましてやマスター…もとい司令官がいないので作戦が崩壊する可能性もあります。長く持って夜戦までかと。」

 

 

陽彩は素早く手短にヤスデに報告を行っていた。その報告に嘘はないと考えられる。提督はそのことを聞いて一言も話さなくなった。

 

 

ヤスデ「そうですか…では敵性勢力の方はどうでしょうか?」

 

 

白風「えっと…軽く見積もって…10隻はいました。現在は…どうやら艦娘を助けている深海棲艦と共に戦闘中のようです…さらに…数キロ先でしたが増援が…向かってきていることを確認しました。その数がおよそ50隻以上は…いるかと…到着予測としてはやはり夜戦の時に合流してしまうかも知れません…」

 

 

 

ヤスデ「フム…なるほど。二人とも、報告ありがとうございました。」

 

 

ヤスデは少し考え始めた。どうあがいても絶望的状況だ。打破することは出来ないだろう。そもそも何故あんな機能し始めて一か月も経過していない小さな鎮守府を狙うのだろうか。そんなに大量の戦力なのに横須賀や佐世保などの大きな鎮守府は狙わないのだ?…奴らの考えが読めない…ここから近い海域は…確か鉄底海峡…ん?待てよ…鉄底海峡?まさかとは思うが…

 

 

ヤスデ「…マスター一つ質問をしてもよろしいでしょうか?鉄底海峡は…深海棲艦に再び奪われましたか?」

 

 

提督「・・・いや、そんな事は…大本営の報告にはなかったはずだ…」

 

 

やはりか。やはり大本営は…そのことを知っての配属か。余程マスターを使いたいのか?本当に…反吐が出る。これだから人間は嫌いだ。まあ今はそんな事はどうでもいいか…一つだけなら方法はあるが…使いたくない。

 

 

ヤスデ「・・・・・・・・・一つだけなら…方法があります」

 

 

提督「………その方法とは?」

 

 

ヤスデの一言に提督は反応した。その声に反応すると同時に何か…黒い感情が込み上げて来るのを感じた。

 

 

ヤスデ「…これに関してはマスター自身が判断してください。自分達はマスターの判断に任せます。」

 

 

陽彩「ヤスデ…まさか…アレを?」

 

 

白風「マスター…精神が持つの?」

 

 

提督「一体どういうことだ?精神が持つって?」

 

 

ヤスデ「これは一つの賭けです。マスターが精神を保つ事が出来れば確実に勝利出来ます。ですが保てない場合は・・・今は話していても無駄かと。ついてきてください。案内します。」

 

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ヤスデを先頭に、提督は進んでいった。辺りは真っ暗なのにヤスデはまるで道を知っているかのような足取りだった。提督には道らしきものなど何も見えていない。しばらくの沈黙の後…不意にヤスデの足が止まった。

 

 

ヤスデ「すいませんが…自分が案内できるのはここまでです。この扉の先には貴方様一人で行ってください。」

 

 

そう言い残し、ヤスデは去って行ってしまった。その場には提督一人だけしかいない。提督は言われたままに目の前にある扉らしきものを開けた。ギィィィィと鈍い音と同時に冷たい風が提督に吹いてきた。そこにいたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ黒な体をした自分だった。怪物のような姿なのに妙に親近感がある。

 

 

怪物「やァっと来たか。遅ぇよ。兄貴」

 

 

その声には聞き覚えがあった…兄貴という言葉にもだ。

 

 

怪物「オメエノ考えてることは分かる。喋らなくていい。」

 

 

目の前の怪物はそう告げた。一般人なら恐れて逃げ出しているだろう。それほどの迫力があった

 

 

怪物「オメエよぉ、『思い出せた』か?・・・・・・やっぱりダメか。分かってたがな…チッ…あの野郎…」

 

 

 

怪物は腕組をしながらそう告げる。提督は何を言っているのかが理解できなかった。しばらくうなり声を上げた後に怪物は思い出したかのように言った。

 

 

 

怪物「アア、確か要件は力を貸せだったか?答えはNoだ。何故お前を手伝う必要がある?オメエにとっては利益があるかも知れんが俺にとっての得は何だ?ないよなぁ?俺はオメエの精神が壊れるのを待ってるんだよ。俺がお前を助けたらオメエは精神が壊れるか?違うよなぁ?」

 

 

怪物は独り言のようにこちらの返事も聞かずに話している。だが彼は提督の考えている事に対して全て答えている。やはり彼は提督の考えを読んでいるのだろう。

 

 

提督「待て…精神を壊す…だと?どういう事だ!?」

 

 

怪物「…言ってなかったか…?まあいい…すぐにお前自身が分かる。で、どうするんだ?俺はオメエに協力するつもりはない。オメエは俺をどう説得するつもりだ?それとも諦めるか?俺はオメエが…」

 

 

提督には何故か怪物の思考が少しわかるようになっていた。それは彼と同じ原理なのだろうか。それでも不思議と不信感はない。彼の今の質問に対する最もベストな答えを提督は知る事が出来た。

 

 

提督「なら俺の体を対価にしよう。何が犠牲になるかは知らないけどな。俺くらいの体であいつらを救えるなら安いもんだ。それがお前の最も求める要求ならな。」

 

 

怪物「…ケッ、気付くのが早えな…さすがは兄貴だ。もう少し時間がかかると思っていたんだがな…」

 

 

提督「気づかなかったらこの場で取り込むつもりだったんだろう?恐ろしい事を考えるね。気づかなかったことを考えるだけでゾッとするよ。」

 

 

怪物「…ハハハ…そこまでバレてたか…じゃあ、兄貴は覚悟がある。その認識でいいな?契約は絶対だ。これは俺もお前も抗うことなど出来ねぇ。俺の考えを少しだけ読めている兄貴なら問題はないと思うが…まあどのみち精神を壊させてもらうがな」

 

 

提督「構わないよ。それであいつらが本当に救えるならね」

 

 

提督は無表情でそう言った。こういう場合は笑顔で言うのだろうか?だが精神が壊されると言われて笑顔でいられる方がおかしい。

 

 

怪物「ジャアヨォ…俺の体に触れ。そして願え。」

 

 

提督は怪物の言われた通りに彼の体に触り、自身の願いを考えた。だが考えるよりも早くおぞましいほどの憎しみ、絶望、狂気…何も言うことのできない感情が提督に流れ込んできた。提督はそんな感情を無理やり抑えながらも言われた通り願い続けた。数分間にも及ぶ願いを思い続けていたが…願いよりも先に自身の殺欲が芽生えてきた。

 

 

 

怪物「…サア、惨殺してこい。兄貴のその欲望を満たしてこい。目の前の扉をくぐれば兄貴は戻れる。行ってこい。そして…悪夢を見せてこい。」

 

 

 

提督?「…アア。敵ノ深海棲艦デモ叩キ潰シテクル。ヒャハハハハハ」

 

 

 

…もうそこには以前の提督はいなかった。今の提督は己の欲望に忠実な化物だ。彼は笑った後その扉の先へと進んでいった。彼の心は一つだった。何でもいい…殺したい。壊したい。相手の肉でも喰らって自身の欲望を満たしたい。右手に握っている日本刀のようなもので切り刻みたい…。だがそんな豹変してしまった提督だが一つだけ確かに覚えていることがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

                     『艦娘達を助ける』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼はその一つの思いだけを覚え…夜の海へと降り立った。

 

 

 

怪物「ヒャハハ…ここまで計画が順調だと笑えて来るぜ。アイツがどんな風に壊れていくかが楽しみだ。」 

 

 

 

 

 

 

提督?「サア…アクムノハジマリダ。ヒャハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

                           ~続く~

 


















次回、夜戦に突入します。


壊れゆく提督、そして味方してくれた深海棲艦。大量の深海棲艦…


鎮守府はどうなってしまうのか。彼女達の起こした行動とは。


次回もお楽しみに。



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