サイタマなしのワンパンマン 作:黒だんご
それに合わせて一話を若干変更しました。
ワンパンマンの敵は強すぎる。基本的にサイタマがいなければ何度も滅亡していたかもしれないくらい、ヒーローと怪人に力の差があるんだ。ワクチンマン、巨人弟、隕石、ボロス、覚醒ガロウ、怪人王、神。
特にボロス戦で地球が終わる。あいつの必殺技で地球の表面が吹っ飛ぶ。それを防ぐためには、大急ぎで効率的にヒーロー側を強くしなければならないんだ。
ボロス程の相手では戦えるメンバーは限られている。覚醒ガロウ、タツマキ、ブラスト。特に原作者曰く覚醒ガロウはボロスと互角のようだし、ブラストはサイタマっぽい雰囲気があるので楽勝の可能性さえある。しかし、勝てると確信できるわけではないし、何よりあの必殺技が出てしまったら止められないのだ。その場に戦士がいなければ。
一番使えそうなのは、たぶんガロウだ。あいつは本音ではヒーローになりたいのだから、ボロスが無差別殺人していることを知らせて、ついでに子どもの死体写真でも見せれば、飛んでくるだろう。問題は覚醒のタイミングか。できるだけ早い方がいい。俺も襲われる可能性はあるし、ヒーローが全滅する可能性はあるが、結局あいつは1人も殺さないからな。そんなに怖がる必要はない。
次に使えそうなのはタツマキ。あいつは基本的に暇で人助けが好きだからな。連絡すればくるだろう。問題はボロス相手にどこまで戦えるかだ。
最後にブラスト。強さは一番かもしれないが、連絡の取りようがないのが問題だ。
あと、俺もひょっとしたらサポートくらいはできるかもしれない。現在、試合ではガロウに勝てないが、実践ではいい勝負だと思う。俺はガロウの攻撃でほとんどダメージを受けないし、四足移動術は使ってないからな。
俺が四足を極めると、サイタマのハゲ、クロビカリの筋肉、タツマキのチビさ、番犬マンの四足というワンパンマンの4大ギャグ補正を手に入れることができるのだ。その上で流水岩砕拳の達人となればS級ヒーローでもかなり上位になるだろう。
とりあえず、ガロウの覚醒を早めるのを最優先にしつつ、タツマキをいつでも呼び出せるようにヒーロー協会やフブキともコネを作っておく。俺自身のトレーニングもできるだけ頑張る。こんな感じでいいだろう。
ガロウ覚醒の条件だが、おそらくヒーロー狩りは必須だ。サイタマがヒーローごっこを始めたように、ガロウも怪人ごっこを始めたのが強くなる契機のように、サイタマが語っていた。その上で不細工なガキを助けるパターンがあればいいな。これは運が必要だが。
ヒーロー狩りのためには、道場を辞めてもらわないといけない。道場を辞める条件は、ガロウが流水岩砕拳をマスターし修行は意味がないと思い込むこと。それとバングがヒーロー活動を増やして道場を空け始めること。
おそらく今のガロウは俺の影響で原作よりも強くなっている。だからふつうに行けば原作よりも早く辞める。ただ、俺がライバルになってしまっているために、道場に残る理由となって暴走が遅くなるかもしれない。それはよくない。だから俺も、バング以上にヒーロー活動に精を出して、わざとガロウを無視しようと思う。女遊びにうつつを抜かしたりして。それでガロウは幻滅し、道場を辞めるはずだ。すまんなガロウ。
よし、こんな感じでいけるはず。
というわけで、俺は「就職活動を優先したいので」と言って、道場を休みがちになった。本当の目的は就職活動ではなくガロウ無視だがそれを口にすることはできない。
俺の就職予定はヒーローだ。金払いがいいし、モテるし、S級くらいになれば召集を無視しても許されてるからな。せっかくこの世界に来たのだからこういう仕事がいい。ヒーロー協会が潰れたら格闘家になればいいだろう。
というわけで、受験に向けて勉強を頑張る。修行はもちろん継続。筋トレと『四足歩行と流水岩砕拳を組み合わせる練習』を中心に頑張る。
そして数ヵ月後。記念すべき第一回ヒーロー試験が始まる。
第一回ということもあり、会場はとんでもない数の受験者でごった返していた。とりあえずアマイマスク、クロビカリ、プリズナーは見つけた。目立っていたからな。他にもいるだろうが、人が多すぎて見つけにくい。
試験はまず体力試験から。
反復横とび、1500m走、砲丸投げ、重量挙げ、もぐら叩き。
俺は全て常人を遥かに超える数値を叩き出した。いつしか俺やクロビカリの周りに人が集まり、見世物のようになっていた。
試験官に聞いた所、俺は砲丸投げだけ一位で、他は二位だそうだ。重量挙げはクロビカリに負けたのだと思うが、スピード系でも負けたのは意外だった。アマイマスクが一位か?
筆記試験も終わり、しばらくすると、結果の封筒が届けられる。俺はもちろん合格だ。成績は体力が50点、筆記が47点。ヒーロークラスはAだ。まだこの頃はSがない。Aでも一番上だな。
その後、合格者は講習に呼ばれた。
「君達ヒーローはA級、B級、C級に別けられ、激しい競争にさらされることになる。ランキングは毎週更新される。今C級の者には最短2週間でA級になるチャンスがある。逆にA級の者もサボっていれば最短2週間でC級になる可能性があり、さらに1週間で首になる可能性もあるのだ。怠けないように。ヒーローとしての得点は、怪人等討伐の実績、戦闘能力、人助け等の社会的貢献度、を主な基準とする」
サイタマが合格した頃よりランキングに対する煽りが強いように感じた。数字で大衆の目を引きつつ、ヒーローの積極的な活動を煽るのが狙いだろう。
そして、講習終了。しかし第一回だけあってここからも長い。ヒーローと職員全員で記念撮影。マスコミ相手のインタビュー。子ども達との触れ合い。得意技のパフォーマンス。クロビカリなら重量挙げ、イナズマックスなら
回転蹴りだ。俺は巨大な岩を高く投げて受け止めるパフォーマンスをやった。
そんなこんなでヒーローとしての一日目終了。精神的に疲れた。
翌日は久しぶりにバングの道場に向かった。ガロウ無視のためにはできるだけ会わない方がいいが、さすがに就職報告はきちんとした方がいいと思ったのでね。
ヒーロー合格は、俺の前に先輩がバングに伝えていた。しかし俺が改めて合格を伝えると、バングはどこか寂しそうに「そうか。おめでとう」と言った。今日の夕飯はバングの驕りですき焼きのようだ。
久しぶりの修行。型の練習をこなしていると、ガロウから視線を感じた。俺はチラッと見てみる。彼は俺の方を見ながら親指を立てて、道場の外を指す。
闘おうぜ。久しぶりに。
そう言っているようだ。彼も競う相手がいなくて寂しかったのだろう。しかし、ここで応じてしまえば、わざとストレスを与えていたのが無駄になってしまう。
型の稽古の後、俺はガロウに近づいていく。
「すみません。受験なまりで心技体が万全じゃないんです。先輩の相手は務まりません」
「チッ。ふざけやがって。何がヒーローだ」
ガロウはイライラを隠さず一人でランニングに出かけた。すまんなガロウ。だが、これでいいんだ。たぶんな。
全ての稽古が終わり、すきやきパーティの時間となる。俺以外にも就職が決まった弟子がいて、全体で就職祝いの宴会みたいな感じだ。肉が焼けた頃にはガロウもランニングから帰ってきた。
「しかし、チバよ。何故ヒーローのような楽な業界に逃げたのだ? お前ならば格闘家としても十分やっていけるのに。スーパーファイトでも優勝してたじゃないか」
年長の先輩がふと聞いてきた。他の弟子達も急に静かになって聞き耳を立てていた。
ここでモテたいなどと言うと顰蹙を買うからな。適当にいいことを言ってやろう。
「私は、せっかく強くなったので、それを人の役に立てたいと思いまして。ヒーローはちょうどいいかなあと」
「武道家のようにただ強さを求めるだけではダメか?」
「ダメとは言いませんよ。ただ、私にとっては、強さを求めるよりも人の役に立つことの方が重要に思えるのです」
「こいつめ、そういうのは武を極めてから言うんだな。まあお前より弱い俺が言っても説得力はないがな。ははははは」
先輩は自嘲するように笑った。そしてさりげなくバングの方を見た。バングは寂しそうだった。今の所、道場の二番弟子の俺。ガロウと共に道場を盛り上げるはずだった。しかし、俺がヒーロー側に興味を持ち、ガロウとの間の軋轢が増しつつある。その軋轢は俺がわざと広げているわけだがな。
バングは俺に何か声をかけようとして迷っている風だった。その時、俺の携帯電話が鳴った。ヒーロー協会からだった。
「チバくんか。S市に災害レベル鬼の怪人が出現だ。現地のヒーローが応戦中だが長くは持たない。早速向かって欲しい」
「はい、分かりました」
携帯をつけたまま、バングの方へ向き直る。
「すみませんバング先生。ヒーロー協会から緊急呼び出しです。人の命が関わることなのですぐさま駆けつけなければなりません」
「うん、そうか。行って来い。達者でな」
バングは急に武人っぽい顔になって俺を送り出した。ここで引き止めるほど狭量ではない。
しかしガロウは、あからさまに不機嫌になった。ライバルが道場よりもヒーロー活動を優先する。これはガロウ覚醒にとっていい不満になるだろう。
さて、災害レベル鬼との戦いは俺も初めてだ。正直恐怖も感じる。相性次第では殺されるかもしれない。
敵はビルをドミノのように倒して遊んでいる巨大なおっさんらしい。名前はピタゴラのおっさん。身長は30mくらい。マルゴリに比べたら大したことない。
「ピタゴラスイッチ! ピタゴラスイッチ! お父さんスイッチ『ド』! ドミノ倒し!」
現場につくと、バーコードハゲでスーツのおっさんがいた。おっさんは前世の教育番組っぽい言葉を口にしながらビルを並べ、倒して遊んでいた。
見た感じ動きは鈍い。メタボ腹で体力もなさそう。足腰も弱そう。しかもドミノ倒しに夢中でヒーローとかそういうのは全く気にしてない。
「だったら!」
四足で建物の瓦礫を潜り抜けるように駆け、おっさんに接近。真後ろに来てもおっさんは気付かない。
「ピタゴラスイッチ」
ビルを持ち、ドミノを作るおっさん。俺は後ろでジャンプし、おっさんの膝裏目掛けて飛び蹴りを放つ。
「うわっ!?」
決まった。膝かっくんの要領でおっさんは倒れ、勢いよく後頭部を打つ。
「ううっ、いたたっ」
さすがにこれでは死なないか。というかこいつ、殺さないといけないのか? 悪の心とかは感じないが。ビルをドミノにして遊んでいるだけみたいだし。まあそれで一般人は死ぬから殺さないといけないかもしれないが。
おっさんが苦しんでいる間に、俺はおっさんの顔をよじ登る。
これだけの巨体。殺すなら弱点をつくしかない。
「な、なんだあ? ハエか?」
おっさんは顔についた俺を振り払おうとする。
しかしそれよりも前に、俺はおっさんの目蓋に到達。すぐそこには眼球。急所だ。
「気持ち悪いが、今の俺の実力ではな」
俺は眼球目掛けて、勢いよく拳を振りぬく。一度ではなく何度でも。
ぶちゃっ。ぶちゃっ。ぐちゃっ。眼球の残骸、粘液の混ざった血が飛び散っていく。
「んぎゃあああああああああああ!」
おっさんは悲鳴を上げて暴れ回る。俺もおっさんの手に振り払われ、3キロくらい吹っ飛ばされてしまった。着地の時に瓦礫が体に当たり、複数の切り傷ができてしまった。道場の修業で若干皮膚が堅くなったが、まだ斬撃に対する耐性は弱い。
おっさんはしばらく暴れまわっていたが、不意に泡を吹いて動かなくなった。その後ヒーロー協会の科学班みたいな連中がやってきて、気絶しているおっさんの口に毒を流し込んでいた。えぐい。