赤毛の紀行家   作:水晶水

9 / 68
 ロムン(ローマ)の繁栄ぶりから考えると、やっぱり8世紀説の方が正しいような気もしてきました。


F.神殿の守護者

Main Character:アドル=クリスティン

Location:サルモンの神殿

 

 

 

「転移したのでしょうか……?」

 

 一瞬の内に視界に映る景色が切り替わり、若干どころではない動揺が僕を襲った。これはいったいどういう技術なのだろうか。

 転移する直前にウエストポーチの中から光が溢れたことを思い出し、荷物の中からクリスタルを取り出して見てみると、力を発揮した際に発した光がまだ薄く残っているのが見て取れた。なるほど、ジェバさんが言っていたクリスタルで神殿の奥に進めるというのはこういう事か。

 気を取り直しつつ、僕は辺りを見回してみると、今度はちゃんと道があるのが確認できた。分かれ道もあるので隈無く探してみるとしよう。

 

 

 

 迷うこと数分、特に本らしきものは見当たらなかったが、怪しそうな扉を見つけ、僕は今その扉の目の前まで来ていた。

 重要な物をしまってそうな仰々しい雰囲気を感じるが、今の今まで結局魔物を確認出来ていないので、気を引き締めつつ僕は扉に触れた。

 鍵穴や取っ手のようなものも見当たらなかったのでどうしようかと思ったが、扉は赤い光を放つと初めからその場になかったかのように消滅してしまった。

 

 不思議に思いつつも、とりあえず先に進めそうなので部屋に足を踏み入れると、左右の壁際に竜の顔を象った置物があるのと、床に何かの紋章が刻まれているのが目に入った。儀式に使う部屋か何かだろうか。

 しかし、それ以上の物は見当たらなかったので、部屋の奥にある扉へ向かおうと足を更に1歩踏み出した瞬間、突如場の空気が重々しいものへと変貌した。

 

 部屋の中央、ちょうど紋章の真上で紫炎が湧き上がり、徐々に人の形を成していく。

 数秒もすると完全に顕現したようで、突然現れたそれは酷くボロボロのローブを着た幽鬼のような存在だった。隙間から見える朽ち果てた身体は既に人のそれとは判別できないぐらい変色していて、僕は直感的にこいつが魔物であると悟った。

 

 僕は反射的に抜剣し、油断なく構える。次の瞬間、ローブの魔物が腕を掲げたかと思うと、それと同時に左右の竜の置物が激しく炎を吹き出し始めた。慌ててその場から跳び退くと、僕が先程までいた場所に炎の塊が着弾する。石造りの床を容易く焦がしてしまうことから、かなりの火力を持っているようだと予想する。

 後ろの扉もいつの間にか閉じられていて、ここから出るにはヤツを倒す他なさそうである。

 

 色々と考えているうちに第2射が飛んでくる。今度は余裕を持って横方向に回避し、着弾と同時に魔物の方へ駆け出した。僕は走りながら剣を構え、

 

「せいっ────!!」

 

魔物が間合いに入った瞬間勢いよく剣を振り抜いた。

 声を発する器官が無いのか、腕を斬り飛ばされた魔物は声一つ上げることなくその場で身悶える。

 僕はこの隙にすかさず2撃目を叩き込んだ。真一文字に振るわれた剣はあっさりと魔物の身体を2つに裂き、別れた上半身と下半身はそれぞれ地面へと倒れ伏した。

 

 完全に動かなくなった魔物と石像を見やり、僕はふっと息を吐く。今回は今までの魔物とは一味違った。

 一応無傷で切り抜けられたが、もしあの炎をまともに食らっていたら危なかったと、遅ればせながら背中を冷や汗が伝う。

 

 緊張で乾いた喉を潤すために水を飲んでいると、ガコンッという大きな音とともに僕が入ってきた扉と部屋の奥にあった扉が同時に開いた。

 イースの本はこの奥だろうか。更なる探索のために、僕は暗闇を火で照らしながら扉の奥の階段を降りていった。

 

 

 

 階段を降りた先の扉を開けると、そこには予想に反して光に照らされた迷路のような複雑な空間が広がっていた。

 松明の火を消して異空間にしまい、代わりに僕は大きめの紙と画板を取り出した。こういうところは自分でマッピングしながら進むに限る。とりあえず簡易的なものでいいので、迷わないために周りに注意しながら描いていこう。

 

 

 

「ふぅ……魔物に気を配りながらだとなかなか探索も進みませんね……」

 

 僕は今しがた襲いかかってきた、首だけになってもなお動こうとする骨の魔物の頭蓋骨を踏み砕きながら愚痴をこぼした。サラサラと骨が灰になって消滅するのを確認してから僕は自分が作った地図を覗き込む。

 

(更に下の階に行く階段も見つけましたし、この階でやることは…………こっちの道を埋めればもう終わりでいいでしょう)

 

 指でまだ描けていない部分を軽く叩いてから、僕は来た道を引き返し始めた。出会った魔物は全部始末したので、戻る分には楽だと思う。

 

(しかし、これはいったい何なのでしょうか)

 

 僕はそう思いながら、道中で見つけた青白い仮面のようなものを手に取って眺めてみる。試しに被ってみたが、景色が灰色になるだけで、これといって役に立つような代物ではないように思えた。しかし、こんな所にわざわざあったのだし、心なしか不思議な力を感じるような気もするので一応持ってきたのだ。異空間があるので荷物が嵩張るような心配もない。

 

 そんなことを考えているうちに、未踏破地点まで戻ってきたので、マッピングを再開する。少し進んでいくと、牢屋のようなものが並ぶ通路に到達した。

 

(神殿に牢? 何というか、似つかわしくないような……)

 

 魔物が住み着いている時点で神聖さも何もあったものでは無いが、それでも神殿と牢獄というものが結びつかずに困惑する。

 それでも一応見てみることにし、牢屋の中を覗き込むと、暗がりの奥の方に何かがいるのが辛うじて分かった。目を凝らして更に注意深く見てみると、そこにいたのは倒れ伏した人間だった。




 何が足りてないのかなと考えて、アドルの心情というか、何かそういうのが足りてないなと気づいた9話目。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。