赤毛の紀行家   作:水晶水

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 淡々と物事が進んでいく病気にかかっております。


D.ゼピック村にて

Main Character:アドル=クリスティン

Location:ゼピック村

 

 

 

 

 ロダの樹を過ぎてからは魔物に遭遇することもなく、無事にゼピック村まで辿り着けた。

 ゼピック村は青々とした木々に囲まれていて、直に自然の息吹を感じられる良い村だ。村の奥の方に湖も見えるので、水源の確保も容易で住みやすそうである。

 

 入口で大まかに村の様子を見渡してから村に足を踏み入れると、酷く落ち込んだ様子の初老の男性が目に入った。何かを焦るような心情も伝わってくるようだ。

 

「あの、どうかなさいましたか?」

 

「おお、お若いの、少し私の話を聞いてくれんかの?」

 

 僕は彼の近くまで歩いていって話しかけると、彼はゆっくりと疲れた表情をした顔をこちらに向けてそう言ってきた。

 

「はい、僕でよろしければ」

 

「うむ、これは村の者には内密にして欲しいのじゃが……この村はロダの樹の加護と銀の鈴という魔物を祓う力を持つ鈴によって守られておる」

 

 他の集落とは孤立するような立地で生き残っているゼピック村が何故今まで無事だったかが男の口から語られる。

 

「しかし、最近その銀の鈴が奪われてしまったのじゃ。今はまだ何とかなっておるが、いつまで村が無事でいられるかは分からん」

 

「鈴の在処に心当たりは?」

 

「恐らくは盗賊の仕業じゃろうて。やつらは北の山のダームの塔の入口にアジトを構えておる。お若いの、どうか鈴をヤツらの手から取り戻してはくれんか?」

 

「分かりました。任せてください」

 

 流石に村一つが滅びるかもしれない事態を見過ごすという選択肢は無かったので、迷わず僕はその話を引き受けた。

 

「厄介事を押し付けてしまってすまんの」

 

「いえ、気にしないでください。ではこれで」

 

 そう言って僕はこの場を離れようとしたが、寸前で一つ聞かなければならないことがあったことを思い出した。

 

「っと、すいません、ジェバさんという方が何処に住んでいるかご存知でしょうか?」

 

「ジェバ殿? ジェバ殿なら村の北の入口から一番近いところに住んでいらっしゃるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 それからすぐに僕は教えて貰った家まで向かった。失礼のないように、まずは扉をノックする。

 

「開いてるよ」

 

「失礼します」

 

 中からすぐに返事が返って来たので僕は扉を開けて中に入ると、編み物をしている年配の女性が迎えてくれた。恐らく彼女がジェバさんなのだろう。

 

「おや、見ない顔だね」

 

「はい、島の外から来ました。ここに来たのはサラさんにあなたの元を訪ねるようにと言われたので」

 

「ふむ」

 

 何やらじろじろと値踏みするような視線が向けられる。

 

「あと、これをジェバさんに見せろとも」

 

「……確かに、あの子の水晶みたいだね。若いの、名前は?」

 

「アドルと言います」

 

 僕がウエストポーチから取り出した​──ように見せかけて異空間から取り出した──水晶を見せられて納得したのか、ジェバさんはこちらを観察するのを止めて、椅子から立ち上がって部屋の奥の戸棚の中から何かを探し始めた。

 

「アドル、イースの本を探しに行くのじゃろう?」

 

「はい」

 

「なら、神殿の鍵を持っていきなさい」

 

 そう言いながら、彼女は持ち手に赤い宝石が1つ取り付けられた金色の鍵を手渡してきた。

 

「それとサラのクリスタルがあれば神殿の奥まで進めるじゃろうて」

 

「ありがとうございます。早速出発しますね」

 

「気をつけるんじゃぞ」

 

 ジェバさんに一礼して、僕は足早に彼女の家を後にした。

 

 

 

 村の北口まで向かいながら異空間にクリスタルと鍵をしまい込んでから空を見上げると、まだ日が沈む時間までかなり余裕があるように見える。

 一先ず盗賊のアジトまで行ってから神殿に向かおうと心の中で思いながら、僕はゼピック村から出発した。


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