赤毛の紀行家   作:水晶水

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 某柑橘系ソフトのエロゲやってたり、英雄伝説に浮気してたりしたらもうこんなに時が経っていました。

 キリ_さん、むつきさん、keraさん、ゴレムさん、評価ありがとうございます!


K.鉱山の魔物

Main Character:アドル=クリスティン

Location:辺境都市キャスナン

 

 

 

 客も疎らで閑古鳥が鳴いていた酒場が瞬く間に喧騒に染められていく。ゴールドラッシュで沸き立つ最中、最も重要になる坑道から魔物が現れたせいだ。何でも、古代の遺跡に行き着き、そこから眠っていた魔物が目を覚まして活動を再開させたらしい。

 その騒ぎを耳に入れたアドルは、考える間もなく酒場から飛び出して件の坑道へと駆けつけるべく足を動かした。同席していたデュレンは慌てて呼び止めようとするが、聞く耳を持たずにあっという間に出ていってしまったアドルを見て、一つ大きく溜息を吐きつつもすぐに彼を追いかける。

 

 野次馬を辿るようにして坑道前まで辿り着くと、そこには頭や腕から血を流し、ロムンの衛生兵から治療を受ける大勢の鉱夫たちの姿があった。幸い命に別状のある者はいないが、坑道内に残された人がいるらしく、予断は許さない状況のようだ。

 

「あまり状況は良くないみたいですね」

「みたいだな」

 

 そう言いながらアドルとデュレンが見るのは、ロムン兵に縋り付きながら懇願する鉱夫と、それを渋い顔で応対するロムン兵の姿だ。彼らの長がまだ坑道の最奥に取り残されているらしく、それを助けて欲しいということなのだが、タイミング悪く、ただでさえ少ない本国から来た兵が今は遠征で出払っているようで、ここにいるロムン兵は皆キャスナンで徴兵された練度の低い兵士なので、魔獣ならいざ知らず、魔物を相手にするとなると無駄な犠牲を生むだけになりかねないとのことらしい。

 

「デュレンさん、僕は坑道に入って救助に行きますがどうします?」

「どうしますってお前さん、さっきまでボロボロだったのに首突っ込むってのか?」

 

 度を越えたお人好し発言を放つアドルに向かって、デュレンは思わず目を剥いて言葉を返すが、それに対してアドルの意思は固そうだった。真っすぐに揺らぐことのない彼の瞳の輝きがそれを如実に示している。

 

「……止めたって行くって顔してるな?」

「はい」

「はぁぁぁぁ……わぁったよ。しかし、俺も着いて行くからな。怪我でもされて倒れられたんじゃたまったもんじゃない」

 

 デュレンは肩を竦めてそう言ってみせるが、人命を見捨てること自体は彼自身も忌避していることだ。今は優先するべきことがあるのでこのような態度を取っているが、心の奥底ではこっそりと安堵の息を吐いていた。尤も、目の前にいる赤毛の男にはそれを察されているのだが。

 

「では行きましょう」

「おうよ」

 

 そうして、誰もが手をこまねいている中、アドルとデュレンは迷わず魔物が蔓延る坑道へと飛び込んでいった。

 

 

 

Location:キャスニア鉱山

 

 

 

 ランプの明かりで照らされる仄暗い坑道を二人は進んで行く。道中何度も魔物と遭遇することになったが、エステリアとイースを平定するために死地を潜ったアドルはもちろんのこと、立派に鍛え上げられた肉体を持つデュレンも復活したばかりの魔物相手に後れを取るようなことはなかった。

 

「流石にこれだけ魔物がいたら鉱山長たちも奥から動いてないみたいですね」

「賢明な判断だろうよ。こっちとしても下手に動かれるよりかはいいしな」

 

 要救助者を探しながら奥へ奥へと進み続け、残りは最奥部のみとなった状況で、その最奥部へと続くであろう道の前で一度休憩すべくアドルとデュレンは足を止める。道中の小物たちならいざ知らず、奥から強大な気配を漂わせている魔物相手には万全な状態で挑むべきだと判断したからだ。

 

「デュレンさん、準備は良いですか?」

「おう、というか俺としてはアドルの方が心配なんだがな」

「それならこの通り」

 

 決戦前なので緊張感は保ったまま、アドルは心配するデュレンに対して少しだけ大げさに動いておどけてみせる。何やってんだかと、わざとらしい溜息をデュレンは吐くが、これで彼の中の懸念は無くなった。

 こうして、お互いに準備万端であることを確認すると、二人はどちらともなく鉱山奥の遺跡へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

「こいつはまた……随分とデカいこって」

「言ってる場合じゃないですよ。来ます!」

 

 明かりもないのに照らされる不思議な通路を抜け、広間のような空間に抜けた時、それは二人の目に入った。

 三角形の頂点となるように配置された小さな三つ目で侵入者である二人を見つめてくる巨大な魔獣の名はアルドヴォス。青白い甲殻と鉱石でその身を覆っており、その身に刃を通すのは至難の業だろう。また、全体的に丸みを帯びたフォルムをしているのと、鞭のようにしなった動きをする腕をしているせいで、甲殻の隙間を縫って切断するということも難しそうだ。

 しかし、防御面では優秀であるが、それがアルドヴォスの身体を鈍重にしており、発達した上半身に比べて、甲殻に覆われているとはいえ下半身は貧弱そのものなので、速さで攪乱すれば勝機を見出すのは難しいことではないかもしれない。

 

「ヴォオォォォォォォォ!!!」

 

 眠りに就いていた所を無理矢理起こされたせいで機嫌の悪いアルドヴォスは、地の底に響くような咆哮を上げながら自身の屈強な腕を何度も何度も叩き付け、その度に地は揺るぎ、抉れていく。

 そして、アルドヴォスの鉱石のような瞳とアドルとデュレンの瞳が交差した時、決戦の幕は上がった。




 後章-赤毛の軌跡-で割と普通にネタバレしていくスタイル。あ、別作品になってますので、そちらの方もよろしくお願いします(露骨な宣伝)。

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