赤毛の紀行家   作:水晶水

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 エルディール様は原作ではどうか知りませんが、今作では設定上シリーズ通して最強格のお人です。IIラスト時ならともかく、現時点において1人ではどう足掻いても勝てません。

 濡れ書生さん、ナゾノ・ヒデヨシさん、評価ありがとうございます!


J.謎の男

Main Character:アドル=クリスティン

Location:獣宴の平原

 

 

 

「うっ……?」

 

 沈んでいた意識がゆっくりと浮上し、自分の身体が定期的に揺れていることに気づくと、次いで誰かが僕のことを背負って移動していることに気が付いた。恐らく大河沿いの何処かに流れ着いた僕を見つけてくれたのだろう。未だに身体の感覚はないがとにかく助かったようだと、ぼんやりとする頭で思考する。

 

「お、気が付いたみたいだな」

 

 動くこともままならないのでとりあえず大人しく運ばれておこうかと考えていると、先ほど僕が発した呻き声が聞こえたのか、僕を運んでいた銀髪の偉丈夫が語り掛けてきた。

 

「す、いま、せん……一度、降ろしては、くれませ、んか……?」

 

「おいおい、そんな傷で何言ってんだ。一先ずキャスナンの病院まで連れてってやるからそれまで大人しくしとけ」

 

「それには、及び、ません……治す、手立てが、既に、ここにあり、ますから……」

 

 重傷を負った僕の無茶な願いを男は一蹴するが、続く僕の言葉に一瞬訝しんだものの、一度大きくため息を吐いてから、手頃な木陰で僕を降ろしてくれた。

 上手く動かない腕を腰のポーチに突っ込み、中を漁るふりをして異空間へと接続する。目の前の人に恩があるのは事実だが、だからと言って無暗に魔法の力を晒すべきではないと判断したからだ。

 じくじくと感じ始めた痛みに耐えつつ目的の物を取り出すと、僕はその瓶の蓋を開けてから半分ほどを一気に飲み干して、残りを勢いよく頭から被った。

 ボロボロになった身体を以前フレア先生に貰ったセルセタの秘薬がみるみるうちに治療していく。これがあったのであの自爆特攻紛いの戦術を取れたわけだ。しかし、あらゆる傷を治すと聞いてはいたが、実際にその効能を身を以て経験するとその凄まじさたるや、あっという間に多少の火傷跡を残しつつも、僕の身体は黒いエルディールさんに襲われる前の状態とほぼ同等のレベルまで回復した。

 

「それは……セルセタの花で作った薬か?」

 

「ええ、たまたま知り合いの医師が調合した物を持っていまして」

 

「なるほど……しかし、あの爆発の中でよく瓶が無事だったな。運が良いのか悪いのか……」

 

 ふむ、随分とこの薬に詳しいようだが、帰還者の人だろうか。ロムンには薬の材料として幾らか流通していたようだがもしかしてこの人が持ち帰って────────

 

「今何と?」

 

「やっべ……!」

 

 男が己の失態に気づいて慌てて口をふさぐが、流石に今のを聞き逃すほど間抜けではない。どうやらこの男は始原の地での出来事を見ていたようだ。

 

「待て待て待て! 俺は敵じゃねえっての!」

 

 思わず鋭い視線を浴びせると、男は慌てふためきながら敵意がないことを示してくる。僕を助けようとしていた以上その言葉に嘘はないのだろうが、ハイランドの街では1度も見たことがないこの男、その正体は暴かなくてはなるまい。

 

「……わぁったよ、知ってる事は全部話す。だからその疑いの目を向けるのは止めてくれ」

 

 しばらく睨み合いが続くと、やがて男は観念したかのように両手を肩の高さまで上げてそう口にした。

 

「俺の名はデュレン。アドル=クリスティン、一先ずキャスナンまで戻ろう。話はそれからだ」

 

 大きく肩を竦めて男──デュレンさんは自身の名を名乗り、そう僕へと提案する。こちらとしてもそれを断る理由はないので首肯で以て肯定の意を示すと、どちらからともなく僕たちは立ち上がり、キャスナンの方へと移動を始めた。

 

 

 

Location:辺境都市キャスナン

 

 

 

「さて、と……まずは何から聞きたい?」

 

 酒場の隅の方でドカッと椅子に座ったデュレンさんが僕にそう投げかけてくる。ふむ、聞きたいことは山ほどあるが……。

 

「では、まずあなたのことを」

 

「まあ、そうなるよな」

 

 最初に何を聞かれていたか予想していたようで、デュレンさんは1度頷いてから自身の正体について話し始めた。

 

「俺たちは始原の地の奥にあるダナンっていう集落に住む人間で、今回はアドル、お前さんを監視するためにハイランドの方まで出張ってたんだ」

 

「監視……いったい何のために?」

 

 想定していたよりも物騒な単語がデュレンさんの口から飛び出してきた。見張られるようなことをした覚えはないが、何が原因だろうか。

 

「あぁ、正確に言うと、最近様子がおかしかったエルディール様が招致した人間だからってのが理由だがな」

 

 心当たりがあるだろう? と聞かれて、脳裏に黒い翼のエルディールさんが思い浮かぶ。

 

「つまり、エルディールさんがああなった理由を知っているので?」

 

「いや、理由はすまないが分からん。が、ああなったエルディール様が何を引き起こすかは知っている」

 

 返ってきた言葉に少し肩を透かされた気分になったが、続くデュレンさんの言葉に気を引き締める。

 

「セルセタ王国は知っているか?」

 

「?? はい、800年ほど前に滅びた国ですよね」

 

 突然の話題転換に疑問符が頭に浮かぶが、背中に張り付いた嫌な予感はずっと蠢いたままで、やがて僕の頭の中で2つの話が点と点で繋がった。

 

「知ってるなら話は早い。そのセルセタ王国が滅びる原因となったのがあの黒いエルディール様で、その災いが800年ぶりに再びセルセタの地に甦ろうとしているってわけだ」

 

 直前で頭の中で出来上がった仮説とデュレンさんの口から語られる話が寸分の狂いもなく合致する。やはりあれはそういう類のものであったか。

 ふと、ここで太陽の仮面のことを思い出して荷物を探ってみたが、どこにも仮面は見当たらなかった。あれは何故か異空間の干渉を受け付けないので仕方なくポーチに入れたままにしておいたのだがと思ったところで、全身に悪寒が走った。

 

「デュレンさん、僕が流れ着いた場所に黄金の仮面がありませんでしたか?」

 

「黄金の……? ってことは太陽の仮面か? いや、あれは始原の地にいる俺の仲間が回収したはずだ」

 

 まだセルセタの地に異変が起きてない以上上手くいっているはずだが、というデュレンさんの言葉にほっと胸を撫でおろす。ここにあるのが一番良かったのだが、それでもあれがエルディールさんの手に渡っていないだけでもよしとしよう。

 

「まあとりあえずだ、まだ黒いエルディール様が目覚めたばかりで不安定な今のうちに事を収めないと手遅れになっちまう。そこでだアドル、本来部外者であるお前さんには悪いが、協力してくれないか?」

 

 頼む、と言って頭を下げてくるデュレンさんを見て僕は少しだけ思考する。前にもあったような話だが、このままこの一連の出来事を放置して帰ってしまうと、少なくともこのセルセタの樹海に何かしらの災厄が降りかかることになるだろう。そうなると、樹海にあるコモドやハイランドで仲良くなった人たちの身に不幸が訪れるわけで……。

 

「分かりました、一緒に行きましょう」

 

「……すまねぇ」

 

 そこまで思考が行きついて、それを見捨てるという選択だけは取れなかった。旅行が長くなってフィーナさんに怒られるだろうが……うむ、帰ったら目いっぱい構い倒そう。

 

「なら出発は明日からだ。まだ身体に疲労が残っているだろうが、あまり悠長に時を過ごしている余裕はない。悪いが1日で体調を整えてもらうぞ」

 

「はい、こう見えて丈夫なのが取り柄なので大丈……」

 

「大変だぁぁぁあ!!!」

 

 デュレンさんの言葉に承諾の意を返そうとしたその時、酒場に飛び込んできた男の声で場は不穏な空気に包まれる。まだ休めなさそうだと、静かに内心で独り言ちた。




 とりあえずネタ出しのために思いついた作品を1話だけ別名義で投稿(匿名投稿で書くことによって、まるで複数の人間が自分の需要を満たす作品を書いているかのように錯覚させる高等技術)したんですけど、この前文字数がどうこうの話をしたばかりなのに、そっちの文字数が1話8000文字越えしちゃって、やっぱり18禁の方が才能輝いてんじゃねぇかって1人で笑っていた有翼人です。
 ところで連載3本って滅茶苦茶キツイデスネ。今作がメインで他2作はほどほどに執筆していくつもりではありますが、そろそろ学校が始まるので前々から言っていた通り投稿ペースは落ちていくと思います。

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