赤毛の紀行家   作:水晶水

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 褐色肌の若き族長には申し訳ないことをしたと思っています。


G.叡智の街ハイランド

Main Character:アドル=クリスティン

Location:叡智の街ハイランド

 

 

 

「到着しました。ここが私たちが暮らす街、ハイランドですわ」

 

 超特急な空の旅を終えてリーザさんと共にソルの腕から地面に着地すると、彼女が街の方に手を遣ってそう言葉を紡いだ。

 ハイランドの街は今まで見てきた他の都市と比べると、街の規模自体は小さいが随分と進んだ造りをしているようだ。特に目を引くのは、この時代ではまだ見たことがない街のあちこちに設置された風車の存在だろうか。他にもロムンの主要都市ぐらいでしか見たことがないような街灯もかなりの数設置してあるようだ。樹海の奥という僻地にある街だが流石は他者に知恵を授けているというだけはある。

 

「アドルさん、まずハイランド滞在の間に過ごしていただく屋敷に案内しますので着いてきてください」

 

 目新しい物ばかりで視線が右往左往する僕にリーザさんが微笑みながら、先導して街で1番大きな建物の方へ歩き始めた。置いていかれるわけにはいかないので慌てて追いかけると、僕に気がついた街の人たちが挨拶をしてくれる。1つ1つ返しながら小走りでリーザさんの後を着いていくと、程なくして屋敷の前に辿り着いた。

 

「ただいま戻りました」

 

「あ、リーザ姉さんお帰りなさい」

 

 両開きの扉を潜ると、中には桃色の髪をした少女が椅子に座りながら本を読んでいるのが目に入る。その少女は僕たちに気がつくと本を机の上に置き、立ち上がってこちらの方までやって来た。リーザさんのことを姉さんと呼んでいるが姉妹なのだろうか。

 

「カンリリカ、町長様は今どちらに?」

 

「おじいちゃんは今は少し外に出てますが……そちらのお方は?」

 

「こちらはアドル=クリスティンさん。エステリアからいらっしゃったのよ」

 

「エステリアってあの『悪魔の塔』の!?」

 

 リーザさんによる僕の紹介を聞いて桃色の髪の少女──カンリリカさんはその顔を驚愕の色に染めた。

 

「最近訪れた旅行者が解放したって、エルディール様が言ってましたけど……もしかして……?」

 

「ふふ、確か会いたがっていましたよね?」

 

 投げかけられるリーザさんの言葉でカンリリカさんが俄かに慌てる素振りを見せ始める。まあ、本人の目の前でそういうことをばらされたら焦りもするか。

 

「べ、別にそんなこと……! だ、だいたい、わたしはエルディール様が勇者とか言うから、もっと長身のたくましい人だって……」

 

 慌てた様子のカンリリカさんの口から綴られる言葉に内心ダメージを受けるが、僕の背が低いことは自他ともに認める純然たる事実であるので、とりあえずそれに関しては受け流しておく。

 

「それに、まさかわたしと同い年ぐらいの人が未曽有の危機を救っただなんて……」

 

「あはは……成長が遅いだけで、僕はもう18歳ですよ」

 

「えっ!?」

 

「リーザ姉さんよりも歳上!?」

 

 続くカンリリカさんの言葉に、これだけは真実を伝えたかったとばかりに口を開くと、カンリリカさんだけでなくリーザさんからも驚愕の声が上がる。知らされていなかったのか……。

 

「わ、若作りの天才……?」

 

「羨ましい……!」

 

 純粋に体質の問題である。

 

「え、えっと……?」

 

「ご、ごめんなさい、つい取り乱してしまいましたわ」

 

 空気が止まったことに困惑していると、固まっていたリーザさんが硬直状態から回復して1つ咳払いをする。それと同時にどこからか鐘の音が響いてきた。ここに来る途中に見かけた教会のものだろうか。

 

「あら、もうこんな時間に……申し訳ありませんアドルさん。私は今からエルディール様に、アドルさんが後日会っていただくことになるお方の所に報告に行かねばなりません」

 

 鐘の音を聞いたリーザさんが僕の方に向き直ってそう言葉にする。

 

「私はしばらく戻りませんので先に幾つか説明させていただきますが、アドルさんはこの屋敷で寝泊りをしてください。基本的に滞在中はハイランドから出なければ何をして過ごしていただいても構いませんが……」

 

「どうかしましたか?」

 

 リーザさんが不自然に言葉を切って視線を泳がせるのを僕は訝しむと、彼女は少し言いにくそうにその言葉の続きを綴った。

 

「その、ここハイランドでは外からの情報は集まるのですが、実際に出かけることはほとんどできないんです。ですので、よかったらカンリリカに色々と話を聞かせてあげてはくれませんか?」

 

「リーザ姉さん……」

 

 なるほど、リーザさんが言いにくそうにしていたのは街での僕の自由を縛ることになるのを憂慮してくれていたわけだ。しかし、そういう風に言われてはこちらとしてもその期待に応えてみせようと思うわけで。

 

「はい、構いませんよ。読書も好きみたいですし、よろしければ外の世界の書籍もお見せしますが」

 

「本当ですか!?」

 

 快諾する僕の言葉を聞いてカンリリカさんの瞳の輝きが増したような気がする。尻尾が生えていたら左右に激しく揺れていそうだ。

 

「ふふ、ありがとうございますアドルさん」

 

 それでは後はよろしくお願いしますね、と恭しくお辞儀をしてから、リーザさんは屋敷の外へと歩いていった。それをしっかり見届けてからカンリリカさんの方へ視線を戻すと、彼女はもう待ちきれないといった様子で僕の言葉を待っていた。

 

「あはは、どこにも逃げませんから安心してください」

 

「む、あ、あんまり子ども扱いしないでください」

 

 宥めるような僕の言葉にカンリリカさんは仄かに頬を染めてそっぽ向いてしまった。自分でも子供っぽかったと分かっているが故のささやかな反抗であろう。

 

「では、何から話しましょうか……」

 

「あっ、その前にもうお昼時ですし何か食べに行きませんか?」

 

 そう言われると少しお腹が減っているような気がしてくる。ああ、さっきの鐘は正午を知らせる鐘だったのか。

 

「そうしましょうか。案内はお願いできますか?」

 

「はい! 着いてきてください!」

 

 パタパタとカンリリカさんが屋敷の外へと出ていくのを、僕は微笑ましいものを見る目で眺めながらその後を追う。ハイランド滞在は退屈することはなさそうだ。




 全然関係無い話なんですけど、メモリアルブックのVIIIの所に載ってる没キャラのロムン帝国の刺客ちゃんがめちゃんこ可愛かったです。

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