赤毛の紀行家   作:水晶水

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 最近話の進みが遅いことに気がついてやべぇなってなってます。本編が始まる頃にはアルファベット半分ぐらいまで進んでそうで怖いです。


F.灰色の気配

Main Character:アドル=クリスティン

Location:樹上集落コモド

 

 

 

「ではな、気を付けて行くといい」

 

「ありがとうございます。お世話になりました」

 

 見送りに来たコモドの人たちに頭を下げると、それぞれが思い思いの反応を示してくれた。にこやかに手を振ってくれる人もいれば、道場の挨拶のように少々堅苦しく頭を下げてくれる人なんかもいるようだ。

 コモドで過ごした4日の間で、集落の人とはだいぶ仲良くなれたとは思う。想定外の滞在だったが、こういう繋がりができるのもまた旅の醍醐味である。

 

「何か分かったら教えてくれよな」

 

「はい、帰りにまた寄らせていただくと思いますのでその時に」

 

「ホント!? じゃあその間に強くなってリベンジしないと!」

 

 セルセタ王国についての話を期待するレムノスさんと、また模擬戦をしようと張り切るカーナさんを見て、こうも双子で興味の方向性が違うものかと苦笑しながら、僕は手を振ってコモドの集落を後にするのだった。

 

 

 

Location:暁の森

 

 

 

 出発してから大穴を大樹に沿って迂回するように進んでいると、また森林部へと戻ることになった。コモドの1番高い所から観察して西の方角の方に大河があることは確認しているので、この森を抜ければレムノスさんが言っていた大河の集落に辿り着くことができるだろう。

 

(……? 鳥が一斉に────ッ!!)

 

 森の中を歩いていると突然木々に止まっていた野鳥たちが飛び立っていった。何事かと訝しむのも一瞬、樹海を言い知れぬ何かの圧力が支配する。ビリビリと肌を物理的に刺激するほどの魔力の塊が上空から迫ってくるのを察知して視線を上へ向けると、巨大な何かがこちらへ猛スピードで迫ってきていた。

 すぐさま戦闘態勢に切り替えて謎の襲来者に対して身構えると、それはほとんど間を置かずに僕の目の前に着地した。見上げなければ顔も見えないほどの巨体が突如として現れ、僕とそいつの間で緊張が走る。ミネアの市壁と同じ──いや、それ以上の大きさだが果たして勝てるかどうか。

 

「駄目ですよソル、この方は敵ではありません」

 

 この場に似つかわしくない女性の声が響いたかと思うのと同時に、ソルと呼ばれた巨大な生物はしゅんとしたような仕草をしながらその身体から魔力を放出するのを止めた。雰囲気が弛緩していく中、ソルが胸の前で交差していた鋭い爪が伸びる手のひらの中から金髪の少女が跳び降りてくる。

 

「驚かせてしまって申し訳ありません。あなたがアドル=クリスティンさんですね?」

 

「はい、そうですが……あなたはいったい?」

 

「これは失礼を。私の名前はリーザ。ハイランドよりあなたのことを迎えに参りました」

 

 何故自分の名前を知っているのかと思ったが、うっすらと予想していた通りこの人が例の手紙にあった僕をキャスナンまで迎えに来る人だったようだ。まだ予定より早い迎えのようだが何かあったのだろうか。

 

「まだ約束の日まで数日ありますが、何かあったのでしょうか?」

 

「いえ、キャスナンに滞在している者よりあなたが樹海入りしたという話を聞きまして、それとその話を聞いてこの子が早く迎えに上がりたいと言ったものですから、少し予定を繰り上げさせていただきました」

 

 何か問題が起きたわけではなかったようだが、それはそれで悪いことをしてしまったかもしれない。一応期日までには戻るつもりではあったが、それも伝わらなければ意味はあるまい。

 

「お気になさらなくて大丈夫ですわ。どちらにせよハイランドにしばらく滞在していただく予定でしたので。アドルさんがよろしければ少し滞在期間が延びることになりますが今からハイランドにお連れします。もちろん、まだ樹海を探索していきたいのであれば約束の日に改めて迎えに参りますが」

 

 考えていたことが顔に出ていたのか、リーザさんからフォローの言葉が入る。そういうことなら厚意に甘えることにしよう。大河の集落に行けなかったのは残念だが、そちらは用事が終わってから寄っても遅くはないはずだ。

 

「ではよろしくお願いしますリーザさん」

 

「ふふ、承りましたわ」

 

 ではこちらへどうぞ、という言葉とともにリーザさんは上りやすいように地面に降ろされたソルの手のひらに再び乗り込み、こちらを振り返ってにこやかに笑う。巨大生物に乗って移動するのは何とも浪漫溢れる話だが、よもやこんなところでそれを経験するとは思わなかった。おっかなびっくりではあるが言われた通りに手のひらの上に跳び乗ると、ソルは1つ大きな咆哮を上げて空の彼方へ飛び去っていった。

 

「きゃっ!?」

 

「おっと、大丈夫ですか?」

 

「え、あ、ありがとうございます」

 

 急発進するソルの勢いに負けたリーザさんの身体がふらつくのを支えた拍子に僕とリーザさんの手が強く握り合う形になり、リーザさんの顔が林檎のように真っ赤に染め上がる。手が触れ合うだけでこのような反応をされるとは思いもしなかったが、恐らく僕よりも年下のリーザさんは花も恥じらう純真な──これ以上はただの下衆の勘繰りなので止めよう。

 実際問題飛べる僕はともかくとして、ただの人間であるリーザさんが空から真っ逆さまという事態になるのは流石によろしくないどころの話ではないので、必要なことだったということで大目に見てもらえると助かる。

 

「い、いつもはこんなことはないんですけど……張り切っているのでしょうか」

 

 顔に赤みが差したままのリーザさんの口からそんな言葉が零れてきたが、普段の彼を知っているわけでもないので何とも返しようがない。とりあえず曖昧に笑っておこう。

 

「この調子だとハイランドにはすぐに着きますので、少しの間空の旅をご堪能ください」

 

 柔らかい笑顔を向けてくるリーザさんに頷いて返答をして、僕は目まぐるしく変わる眼下の景色を捉えながら今後のことを夢想した。




 どうせなら原作とは思いっきり違う動きをさせてみようという試み。

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