赤毛の紀行家   作:水晶水

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 ちょっと場面のカットの思い切りの良さが凄まじい気がしてきた今日この頃。

 如月遥さん、Danさん、しうきちさん、評価ありがとうございます!


C.樹上集落コモド

Main Character:アドル=クリスティン

Location:ギドナの大穴

 

 

 

 ロダの苗木の言う通りに進んで行くと、木々に囲われた薄暗い空間から解放されて開けた場所に出ることが出来た。中心部に地面を抉りとったような大穴が空いていて、そこをぐるりと1周するように足場が残った変わった地形で、何となくバギュ=バデット周辺を思い出させる様な場所である。

 北の方へ視線を向けると、大樹までは目と鼻の先のようで、少しぼやけて見えていた姿も今でははっきりとこの目で見ることができる。よく見ると、大樹の周囲に何やら人工物のような物も見えるので、苗木の言う通り人の集落があるようだ。地図を描きながらの探索だったので遅めの進行であったが、何とか昼の時間の間には辿り着けそうである。

 

 

 

 少し勾配が急な坂道を登っていくと、やがて木と動物の骨で組まれた門らしき物が見えるようになってきた。その向こうには木を加工して作られた足場が大樹に寄り添う様に組み上げられていて、その上に人が住まう住居のような物がいくつか存在しているのを見て、少数民族のようだが、想定よりも立派な集落があることを認識する。

 

(眺めるのもいいですが、とりあえず入れてもらえるかどうかを​──────ッ!!)

 

 キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、突然僕の耳が風切り音を捉えた。それと同時に背中に悪寒が走り、勘に従って振り向くのと同時に腰からクレリアの剣を抜剣してこれを一気に振り抜くと、金属と金属がぶつかる甲高い音が鳴って軽い何かが弾き飛ばされる。一瞬だけ飛ばされた物に目を向けると、それは鉄製のナイフだった。

 ナイフが飛んできた方向とは逆の方に大きく飛び退きながら全身に全開で魔力を巡らせる。翼が背中から顕現するが、攻撃をされるまで気づけないぐらい気と身体の扱いに長けた何かが敵意を持って襲いかかってきている以上、決して出し惜しみはしていられない。

 

(しかし、武器を扱うほどの知性がある獣ですか……! 流石は魔境と呼ばれるだけのことはありま……す……ね……?)

 

 襲いかかってきた敵の正体を視界に捉えるべく、思考を巡らせながら顔を上げると、そこには口元に手を当てて目を見開いた少女が立っていた。獣などではなく、人間の少女だ。お互いに思考がフリーズしたのか、僕も少女もお互いを見据えたまま、その場を静寂が支配した。

 

 

 

Location:樹上集落コモド

 

 

 

「ほんっとうにごめん!」

 

「大事には至らなかったので気にしないでください」

 

 あの静寂の後、僕は少女とその一行に連れられてコモドの集落まで案内されて、今はその入口で心底申し訳ないという顔をした少女が謝罪の言葉を口にするのを、僕は何でもない風に受け入れているところだ。本当は死ぬほど驚いたのだが、表情に出さなければバレはしまい。

 

 

「いやはや、姉のカーナがいきなり失礼なことをしてスミマセン」

 

 集落の入口で合流した、カーナさんと同じ橙色の髪をした少年​──レムノスさんが軽い調子でそう口にした。

 

「獣だと思ったら身体が動いてたって言うけど、動くものを見たら咄嗟に攻撃するなんて、これじゃどっちが獣か分かんないよな」

 

「あはは……」

 

「わ、悪かったわよ……いきなり狩ろうとして」

 

 カーナさんをここぞとばかりにからかう口調のレムノスさんに苦笑していると、横合いからカーナさんが拗ね気味に口を尖らせる。気を悪くした様子はないようなので、これが2人なりのコミュニケーションの形と言ったところだろうか。

 

 

 

「ふむ、お前が樹海の外からやってきた者か」

 

 コモドの人に遠巻きに見られながら3人で話していると、威厳たっぷりの声が頭上から降ってきた。視線を上げると、集落の方からガタイのいい壮年の男が歩いてくるのが見える。カーナさんとレムノスさんと同じ髪色だが、ひょっとすると彼女たちの父親なのかもしれない。

 

「はい、アドル=クリスティンと申します」

 

「姉貴の百発百中の投げナイフを剣で弾き返すほどの凄腕の剣士だそうだ」

 

「ほう、年齢の割になかなかの修羅場を潜ってきた、というわけか」

 

 レムノスさんの補足説明に、2人の父親​──アサドさんは驚いた様子で僕の身体を足先から頭の天辺までじっくりと眺めてくる。森の戦士という言葉が似合うアサドさんにそうされると威圧感が凄まじいが、別に見られて困るものでもないので、見られるがままにされておく。

 

「そういえばアドル、さっきまであった翼はどこにいったの?」

 

 気になったので聞いてみた、という風な表情でカーナさんがそう口にすると、アサドさんとレムノスさんの表情が変化した。こちらとしてはできれば黙って欲しかったが​────いや、そもそもカーナさん以外にも見られていた以上、話が伝わるのも時間の問題だったか。まあ、樹海の外に話が漏れることは恐らく無いと考えていいので、ここは翼を見せることで得られる最大限のメリットを取りに行くのが正解だろう。

 

「これは……」

 

「翼が生えた人間……か。樹海の外から人がやって来ることだけでも珍しいが、まさかこれほどの珍客とはな」

 

 魔力を流して翼を編むと、集落中にどよめきが走る。アサドさんはそれほど驚いたようには見えないが、他の面々​──特にレムノスさんはその表情を大きく驚愕の色に染めた。先程までの飄々とした様子がまるで嘘のようだ。

 

「僕がセルセタの樹海までやって来たのは僕と同じ翼が生えた人を探すためなんです。何かご存知ないですか?」

 

「…………セルセタ王国に縁のある遺跡に翼の生えた人間の像が祀られているが、それと関係があったりはするのか?」

 

「セルセタ王国?」

 

 レムノスさんの口から興味深いワードが飛び出してくる。

 

「ああ、約800年前にセルセタの地で栄華を誇ったとされる国の名前だ。資料もほとんど残ってないんで、時間がある時に遺跡なんかに行ったりして色々と調べてるんだが……」

 

 いやあ、これは思わぬ進展かもしれないな、とレムノスさんが居ても立ってもいられないような雰囲気を醸し出し始めた。

 しかし、800年前となると、レア義姉さんが言っていた2人が故郷からエステリアまで流れ着いた時期と一致するが、ひょっとすると、件の有翼人もその時期にセルセタの地にやって来たのかもしれない。

 

「なあアドル、オレの家でその話詳しく聞かせてくれないか?」

 

「僕は是非ともそうしたいところですが……」

 

 面白いものを目の前にした幼子のように目を輝かせるレムノスさんの言葉に個人的には乗っかりたい気持ちではあるが、レムノスさんの家にお邪魔するということは、コモドの集落に、そしてカーナさんとアサドさんの家にお邪魔するということである。流石にそれを僕の一存で決めるわけにはいけないので、2人に視線を送ってみると、嫌な感情は抱かれていないようだった。

 

「色々と変わってはいるが折角の外からの客人だ。コモドの族長としてはアドルを歓迎しよう」

 

 娘が迷惑をかけたからというのもあるがな、とアサドさんは威厳増し増しで頷いて肯定の意を示してくれる。今更彼が族長ということが発覚したが、まあそうだろうなという感じはしていた。

 

「じゃあさ、その話が終わったら私と勝負してみない?」

 

 今度はどっちが強いか正々堂々戦ってみましょう、とポニーテールを揺らしながら、カーナさんはにこにこと僕に近寄りながら話しかけてくる。カーナさんの中では、もう既に僕を招き入れるつもりだったらしい。

 

「えっと、では少しの間お世話になります」

 

「よっし、じゃあ早いところ語り明かすとしようか!」

 

「おっと……!」

 

「あっ! 2人とも待ちなさい!」

 

 言い終わるが早いか、僕は食い気味のレムノスさんにぐいと手を引かれ、集落の人々の波を掻き分けるようにしてコモドの集落を上へ上へと連れていかれる。その後ろを何やら素手がどうやら武器がどうやら騒ぎ立てながら、カーナさんが追い掛けてくるようだ。どうやら予定よりも滞在期間が延びそうだと僕は心の中で独りごちた。




 全然関係ない話なんですけど、フィーナ様と身長、バスト、ヒップのサイズが一致していたので私は実質的にフィーナ様ということで間違いないでしょうか。

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