赤毛の紀行家   作:水晶水

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 私は気づきました。Ysの真面目な二次小説も、ギャグ風味の二次小説も、甘々でラブラブな二次小説も、えっちな二次小説も、どえらいえっちな二次小説も、全部自分で書けばいいんだってことを。
 ということで、外章やら別作品やらを含めて、現在色々と構想を練っている有翼人です。私が需要にして供給源だ(全然Ysの二次小説が増えなくて色々と拗らせた顔)。


B.The Foliage Ocean in CELCETA

Main Character:アドル=クリスティン

Location:辺境都市キャスナン

 

 

 

「いやぁ、2人とも助かったよ! おかげでもう村に帰れそうだ!」

 

 にこにこと上機嫌なフレア先生の横には、プランターに移し替えられたセルセタの花の原種が幾らかまとまった量あるのが窺える。恐らくエステリアまで持って帰って栽培するのだろう。

 

「しかし、樹海に入って割とすぐに見つかったな。何というか、拍子抜けだったぜ」

 

 ドギさんの言う通り、セルセタの花は樹海に入るとそこら中に生えているような代物だった。イースの本にも、魔物の侵攻以前はエステリアでもそこら中に生えている物だったと記述されていたので、名前の由来になっている場所ならこれも当然の結果と言えなくもないが。

 

「目的も達成できたし、僕たちはこれで退散することにするよ。アドル君も気をつけてね」

 

「じゃあなアドル。怪我して帰ってくるとまた嫁さんに泣かれるぜ?」

 

 事前の予想に反して、1日とかけずに樹海遠征が幕を閉じる。大荷物を抱えて酒場から出ていく2人を手を振って見送ると、再び僕は空き時間に頭を悩ませることになった。

 

 

 

「ねえ君、樹海から帰ってきたって本当?」

 

 とりあえず腹拵えをしようと思い至り、幾つか注文した物を食べていると、突然背後から女性の声が飛んでくる。口に含んでいたものを飲み込んでから振り返ると、そこには若干露出過多な女の人が立っていた。

 

「はい。まあ、すぐに目的は達成したのでほとんど奥には進んでませんけどね」

 

「それでも、あの帰らずの樹海から帰ってきたんだから凄いと思うわよ?」

 

 そういう風にこちらを煽てながら、女性が僕の対面の席を陣取る。ふむ、こういう場合は何が目的なのだろうか。

 

「ところであなたは?」

 

「あらごめんなさい、私は情報屋のルージュ。樹海から帰ってきたあなたから情報を買いに来たって訳よ」

 

 やや強引に話をぶった切って相手の素性を尋ねてみると、目の前の女性が情報屋であるということが分かった。なるほど、確かに数少ない樹海からの帰還者相手から得る情報なら、そういうものを生業にする者にとっては千金の価値になるのかもしれない。

 

「大したことは話せないと思いますよ?」

 

「大したことかどうかは私が判断するからいいのよ。ささ、早く早く♪」

 

 

 

 結局あの後は前のめりになって話を急かすルージュさんに負けて、樹海の様子やセルセタの花について話すことになった。情報代は先ほど酒場で注文していた分を払ってもらえれば個人的には十分だったので、それで手打ちにするとルージュさんが異様に喜んでいたのが少し印象的だった。

 情報の売買を終えた後に明日からもまた樹海に行くことを話すと、また情報を売ってくれと言われ、それを二つ返事で了承すると、何やら周りで悔しがる人が数名見受けられたが、あれは何だったのだろうか。ひょっとしたら他にも情報屋がいたのかもしれない。

 酒場を後にして宿屋に戻り、ベッドに倒れ込みながら僕は思考に耽る。未知の樹海に挑むことに冒険心を燻られ、今日は想定よりも早く帰ってきたせいでかなり消化不良だが、明日以降の探索でそれも解消しようと心に決めた。約束の日まではまだあと1週間もあるので、満足がいくかどうかはさておき、ある程度はこの心のざわつきも落ち着けることは出来るだろう。ついでにキャスナンには売っていなかった地図なんかを描いてみるのもいいかもしれない。

 エステリア渡航以来の冒険だが、そう思うと久しぶりにわくわくしてきた。この1週間で白地図をどれだけ埋められるか挑戦してみよう。

 そうと決まれば、少し早いが明日に備えて身体を万全の状態にするために寝ることにしよう。楽しみすぎて寝不足になりましたでは笑い話にもなりやしない。

 

 

 

Location:暁の森

 

 

 

 翌朝、モーニングコールでどうにかこうにか起きることができ、重たい瞼に抵抗しながら身支度を済ませ、日が昇りきらないうちに樹海の入口へとリターンの魔法で転移した。転移の光から解放され、視界一面が陽の光を拒むように鬱蒼とした森林が広がるのを見て、魔法が成功したことをしかと確認する。

 

(いやはや、未踏の地を進んでいくこの感じ、パイオニアでなければ味わえないこの感覚は何ものにも替えられませんね)

 

 正確には昨日3人でここは通ったのだが、それを言うのは野暮というものだ。要らぬ思考は頭の隅の方に追いやりつつ、僕は通算2回目になる樹海突入を敢行した。

 

「あっ、お兄ちゃん! また会ったねぇ!」

 

 樹海に足を踏み入れると、どこからとも無く幼い子供のような声が聞こえてくる。

 

「あれ? 今日は1人なんだね」

 

「はい、2人は昨日のうちに帰ってしまいましたので」

 

「そっかぁ」

 

 僕はそれに動じることなく、声の主である1本の苗木(・・)の前で腰を落として話しかけた。本人曰くこの苗木はロダの樹の苗木らしい。恐らく、僕はエステリアでロダの種を食べた影響で苗木の声を聞けるのだろう。その証拠に、同行していたドギさんとフレアさんはこの子の声を聞くことはできなかったようだ。

 

「今日はどうしたの?」

 

「今日はちょっと奥の方まで行くつもりでして」

 

「そうなの? なら兄弟たちにもよろしくね!」

 

 ぼんやりとした光を放つ苗木から楽しそうな声が返ってくる。兄弟ということは、他にも苗木がこの樹海に植えられているということなのだろう。

 

「今日は休憩していくの?」

 

「いえ、早いうちにあなたの兄弟たちのところへ行ってみようと思います」

 

「そっか! 気をつけてね!」

 

 ばいばーい、と幼い声に送られながらその場を後にする。ロダの苗木が言っていたことなのだが、苗木の周りはエステリアのロダの樹の周辺のように聖なる気が巡っていて、獣が寄り付かないようになっているらしい。まだ苗木故に、ロダの樹ほどの効果範囲はないものの、安心して休める空間としては十分すぎる力を発揮してくれるので、野営のためにも日が暮れる前に次の苗木を見つけておきたいところだ。

 

(まずは…………あの大樹の方へ進んでみますか)

 

 樹海の入口から北西の方に見えた、ロダの樹にも劣らないほどの大きさの樹のことを思い出す。ランドマークとして目立つというのもあるが、単純に興味を刺激する大樹を間近で見てみたいという気持ちが強かったため、第1の目的地として掲げることにした。己の心に従って進むことも大切なのだ。

 

(飛ぶのは流石に風情が無さすぎますし、地図も描けませんからね、歩いて行きましょう)

 

 頭上を覆う木々の葉からの木漏れ日を浴びながら歩いていると、奥へと続く道が2つに分かれている地点まで辿り着いた。

 

(右は大樹のルートから外れますし、行くなら左ですかね)

 

 前方の巨大な湖の向こうも気になるが、まずは歩いて行ける場所から踏破していくことにしよう。そう思いながら、僕は左方へと足を進めた。

 

 

 

(おや、これは……?)

 

 たまに襲いかかってくる樹海の獣を退けつつ進んでいると、何やら魔力の気配を感じ取った。魔物が放つ黒い雰囲気ではなく、寧ろ聖なる気の流れであるが、これはもしやさっき苗木が言っていた兄弟だろうか。

 しばらく魔力の流れを辿るように歩いて行くと、予想した通り、ぼんやりと光を放つ苗木が地面から顔を出している場所へと辿り着いた。

 

「こんにちは」

 

「わあびっくりしたぁ!」

 

 苗木に声をかけると、苗木は心底驚いたような声を上げる。本当に子供のような反応なので、少し微笑ましく思えてくるようだ。

 

「あれ? お兄さんはコモドの人じゃないね」

 

「コモド? 人の集落がここの近くにあるんですか?」

 

「そうだよ! お兄さんが来た方の道を南の方に道なりに進んで行くと明るいところに出るから、そこから大樹の方に向かってみて! それとあっちの方に行くと迷いの森に出ちゃうから間違えちゃダメだよ!」

 

 そう言いながら、苗木が僕が来た道とは反対の方向を指し示した​────ような気がした。苗木が言う迷いの森というのも気になるが、今はそれより人の集落だ。まさか目指してきた地点にそんなものがあるとは思いもしなかったが、これは嬉しい誤算である。ハイランドではないみたいだが、これでより樹海のことについて分かるというものだ。

 ふと、視線を上に送って空を見上げる。空の様子から察するに時刻はまだ昼のようで、休むにはまだまだ早すぎるだろう。

 

「ここからコモドへの距離はどのぐらいでしょうか」

 

「そんなにかからないよ! さっきお昼になったばっかりだし、お昼の間には着けると思うよ!」

 

 そういうことならば、ここを野営予定地として、先にコモドまで行くというのも、選択としては十分ありだろうか。少しの間思考に没し、僕は今日中にコモドまで行ってみることに決めた。

 

「では、コモドまで行ってみることにします」

 

「分かった! 気をつけてね!」

 

 本日2度目の見送りを背に受けながら、僕は樹海の人里へと向けて出発した。




 Ysはモブキャラにもちゃんと一人一人名前がついてるから、二次創作的には意外と助かる場面が多いです。

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