赤毛の紀行家   作:水晶水

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 VIIIのDLCに水着があったので水着回です。ポロリはありません。

 K.Kさん、評価ありがとうございます!


D.エステリアの白き角

Main Character:アドル=クリスティン

Location:ゼピック村

 

 

 

「アドルさん、今日はミネアまで買い物に行きませんか?」

 

 書き物でもしようかなと、朝食を終えて自分の部屋に入ろうとしたところで、フィーナさんが後ろから僕を呼び止めてきた。

 

「何か欲しい物でもあるんですか?」

 

「実は……」

 

 フィーナさんによると、嵐の結界が解除されてエステリアと大陸との貿易が復活した影響で、ミネアで何やら変わったものが輸入されてきたのだそうだ。

 

「昨日ミネアから帰ってきた村の人から聞いたんですけど、海に入るために着る専用の衣装なんだそうですよ」

 

「…………ひょっとして、水着のことですかね?」

 

「みずぎ?」

 

 聞き慣れていないのか、少したどたどしい口調でフィーナさんの言葉が帰ってくる。

 

「アドルさんは知っているんですか?」

 

「ああ、はい、ここに来る以前はポピュラーなものでしたので」

 

 ここに来る以前というのは前世のことなのだが、それは言う必要はあるまい。しかし、この世界でまた水着のことを聞くことになるとは思わなかった。文化の発展具合から海水浴が行われているとは思っていなかったし、何より、この時代の人は​──少なくともエウロペでは──むやみに肌を晒すのを嫌う傾向にあったと思うのだが。

 

「結構露出が激しいと思いますが、大丈夫ですか?」

 

「ええと……とりあえず見てから考えてもいいですか?」

 

 露出のフレーズに少し悩んだものの、買い物に行くのは決定事項らしい。まあ、それ自体は全然構わないのだが。

 

「構いませんよ。何時頃出発します?」

 

「あ、えっと、姉さんも誘ってくるので少し待っててもらえますか?」

 

 そう言い残してから、ぱたぱたと義姉さんの部屋の方へとフィーナさんが走っていった。

 

 

 

「お、お待たせしました」

 

 何故か顔を真っ赤に染めたフィーナさんが戻ってきた。後ろにレア義姉さんの姿が見当たらないが、何かあったのだろうか。

 

「義姉さんは何と?」

 

「今日は用事があるみたいです」

 

 珍しいこともあるものだ。レア義姉さんなら、こういったイベントなら先約の予定を廃してでもついて来そうだと思っていたが、よほど大事な用事があるらしい。

 

「それなら仕方ないですね。2人で行きましょうか」

 

「はい!」

 

 目に見えて上機嫌になるフィーナさんを微笑ましく思いつつ、異空間からリターンの杖を取り出す。発動対象は僕とフィーナさん、転移座標は……ミネアの市壁の上にでもしておこう。転移に必要な条件を設定してから杖に魔力を流すと、僕たちの身体を光が包み込み、その場から姿を消した。

 

 

 

Location:城塞都市ミネア

 

 

 

 市壁の上で光が収束して四散すると、2人の人間が姿を現した。言うまでもなく僕たちである。突然現れたことに、市壁でぼーっとしていた人が驚いていたが、正体が僕であることが分かると、納得した顔で会釈をしてきたので、こちらも軽く会釈を返しておく。

 

「フィーナさん、お店の場所は分かりますか?」

 

「あ、はい、水着のことを教えて貰った時にだいたいの場所も聞きましたので」

 

「では、案内はお願いしても?」

 

「任せてください!」

 

 はぐれないように手を繋ぎましょう、と言いながらにこにこと左手を差し出してきたので、その手に絡めるようにして右手で握ると、満足気な顔になったフィーナさんがゆっくりと進み出した。始まったばかりであるが、楽しそうで何よりである。

 

 

 

「あわわ……本当に露出が凄いですね……!」

 

 目的の店にたどり着き、早速色々と見て回っているが、ふとフィーナさんの方へと視線を遣ると、ビキニタイプの水着の前で顔を真っ赤にして目を回しているのが見えた。それを着ている姿が気にならないと言えば嘘になるが、フィーナさんはそういう系統の水着を着るタイプではないだろう。

 

「フィーナさん、こっちのなんかはどうでしょう」

「で……れで……ルさ……悩殺でき…………」

「フィーナさん?」

 

「えっ、あっ、はい! 何でしょう!?」

 

 神妙な顔で白ビキニを見つめるフィーナさんに声をかけると、慌てた様子でこちらに反応を返してきた。

 

「ほら、あれなら上に何か羽織れば露出もほとんど気にならなくなると思いますが」

 

 そう言って、下半身をロングパレオで隠す黒の水着を指さすと、フィーナさんがそれを手に取って具合を確かめ始める。

 

「確かにこれなら……でも、黒って私に似合いますか?」

 

 やはり白の方が……、とフィーナさんは先ほど眺めていたビキニの方へと視線を泳がした。そんなに気に入ったのだろうか。

 

「ああ、白い水着は止めた方がいいですよ。濡れると下まで透けるので」

 

「す、透け……っ!?」

 

 僕の言葉にぼふっとフィーナさんの顔が真っ赤に染まるだけでなく、ババッと男女問わず店中の視線が突き刺さる。何だろう、これは詳しく説明しないといけない流れなのか。

 

「布地が薄くて白い服を着てる時に水がかかったら、服が張り付くだけじゃなくて、肌が透けて見えることがあるでしょう? あれと同じですよ。普通はそれを防ぐために下に別のそれ用の水着を重ね着するのですが」

 

 前世では白い水着の中にインナーを着たりアンダーショーツを履いたりすることで、普通に白い水着でも海水浴やらを楽しむことは出来ていたが、白ビキニが平気で単体で売られている時点で何となく察していた通り、水着が開発したてらしいこっちの文化では、まだそういう概念がないようだ。

 身振りを交えた追加の説明を聞いた店の面々が、彼方此方で色んな感情を交錯させている。騒がしい。

 

「それに、フィーナさんは白だけじゃなくて黒も似合うと思いますよ? 僕が保証します」

 

「はへ、は、はい、ありがとうございます!?」

 

 まだ混乱から脱し切れていないフィーナさんがあわあわとお礼を言ってくる。積極的な面が強い印象だが、実は意外と押しには弱いのであった。

 

 

 

Location:ホワイトフォーンの砂浜

 

 

 

 あの後は流れで買い物を済ませ、僕たちはミネアから出て、バルバドから更に南の方にある砂浜まで来ていた。

 真珠貝の欠片を敷き詰めたように真っ白で美しい浜辺で、現地の人たちからはホワイトフォーンの砂浜と呼ばれているらしい。他でもない、僕が漂着した場所でもある。

 普段から観光スポットではあるらしいが、水着が入荷したことで海水浴が流行り出したのか、僕たち以外にも水着を着た人たちがそれなりにこの浜辺に足を運んでいるようだ。それを見越してか、浜辺の入口付近に特設の簡易的な更衣室のようなものも設置してある。

 

「ア、アドルさん、お待たせしました」

 

 着替えのために別れて、先に着替え終えたので海を眺めて待っていると、控えめな呼び掛けとともにフィーナさんがやって来た。

 黒を基調として上下で揃えられた水着が、深いスリットが入ったグラデーションになっているロングパレオや、羽織っている白のラッシュガード​──のような上着からちらりと見える様はなかなかにそそるものがある。また、黒という色が白エメラスの肌を引き立たせているようで、フィーナさん自身もいつもとは違った雰囲気を漂わせているような気がする。

 

「あ、あの……?」

 

「ああ、すいません、つい見とれてしまって。よく似合ってますよ」

 

 思ったことを素直に口にすると、フィーナさんは耳まで赤くしたのを見えなくするために、被っていた麦わら帽子で顔を覆い隠してしまった。

 

「フィーナさん」

 

「あ、は、はい!」

 

 名前を呼び、来た時とは逆に今度はこちらから手を差し出すと、フィーナさんが慌ててそれを掴んできた。

 手を引いてゆっくり歩きながら周りを見渡してみると、他の海水浴の客たちはほとんどが海に入って存分に泳ぎを楽しんでいるのが目に入る。空を見上げてみると、太陽は燦々と照っているようだ。あの様子だと、照り返しの分も含めて日に焼けて地獄を見ることになりそうである。

 

(砂浜も白いのでどちらにいても大差は無いような気はしますけどね)

 

「アドルさんアドルさん」

 

 何をするべきかと頭をひねっていると、フィーナさんが繋いでいない方の手でくいくいと僕の上着を控えめに引っ張ってくる。

 

「どうしました?」

 

「あの、海ではどういう遊びをするものなのでしょうか?」

 

 こういうのは初めてで……、と上目遣いに僕の方を見てくるフィーナさんはきっと僕のツボを心得ているのだろう。そんな視線を向けられれば、期待に応えずにはいられないわけである。

 

「そうですね……ああいう風に泳ぐのももちろん楽しみ方の1つなんですが……」

 

 水着はそもそもスイムウェアなので、海で泳ぐというのは大正解ではあるが、あいにくと僕はともかくとしてフィーナさんの格好は泳ぐのに向いていない。そして、この時代にビーチボールやバナナボートなんかはあるはずもなく、そうなるとかなり出来ることは限られてくるが……。

 

「フィーナさん、砂でお城を作ってみましょうか」

 

「砂でお城を?」

 

 異空間からバケツを出しながら放たれる僕の言葉に、フィーナさんがきょとんと首を傾げる。

 

「ええ、ミニチュアスケールの建物を砂を使って作る遊びがあるんですよ。やってみますか?」

 

「はい!」

 

 元気よく返事をするフィーナさんにもバケツを渡しつつ、波打ち際から少し離れた場所にあたりをつける。

 

「では、まずは土台をしっかりさせましょう。足で踏み固めてもらえますか?」

 

「えいっ……えいっ……」

 

 バシャッと砂浜に海水を撒き、そこをフィーナさんに足で何度も踏み固めてもらう。カーテシーのようにパレオを少し指でつまみ上げて、一所懸命足踏みをするフィーナさんが少女のようで可愛い。

 

「次に、この上に少し水を混ぜながら砂を盛っていきましょう。ホントに少しでいいですよ」

 

「このぐらいですか?」

 

「はい、そのぐらいで大丈夫です」

 

 砂場で山を作るように、交代でバケツに水を汲んできながら、ぺたぺたと仮の土台を2人がかりで作り上げていく。それなりの大きさのものを作るつもりなので、ここの作業は結構大事だ。

 

「フィーナさん、どんなのを作りたいですか?」

 

「そうですね……。あ、女神の王宮なんかは作れたりしますか?」

 

 ある程度まで砂の土台を組み上げたところでフィーナさんにそう聞いてみると、自身がよく見慣れたであろう建造物の名を口にした。女神の居住地を女神自身が作るのも何だか変な話だが、パッと見はそこまで難しい造形はしていなかったので、初めて取り組むには丁度いいかもしれない。

 

「できますよ。あ、でもフィーナさんの方が形は詳しいと思いますので、指示の方はお願いしてもいいですか?」

 

「任されました!」

 

 

 

「はい、これで完成です!」

 

 昼過ぎぐらいに始めた作業は、日が傾き始めた頃にようやく終わりを告げた。フィーナさんが初めてなのもあるが、細部までそれなりにこだわったせいだろう。主に、大事な思い出の場所なので、と僕がプロポーズをしたバルコニー作りに時間をかけたせいであるが、サンドアートは20年以上も前にやったきりだったが、意外と身体が覚えているものである。

 すっかり王宮建築に熱中していた僕たちは、気がついたら素肌も水着も砂まみれになっていた。後で一緒にお風呂に入りましょうね、と耳元でお誘いを頂いたのは今日のハイライトと言っても過言ではないかもしれない。

 

「どうです? 楽しかったですか?」

 

「久しぶりに童心に帰ったような気がして、とても楽しかったですよ」

 

 完成した王宮を見に来た観光客や海水浴客を遠巻きに眺めながら、2人で今日のことを振り返る。楽しんでいただけたのなら、提案した甲斐もあったというものだ。

 

「今度はレア義姉さんも誘って来ましょうか」

 

「はい!」

 

 地平線に浮かぶ夕陽に負けないぐらい輝かしい笑顔を浮かべて、フィーナさんが抱き着いてくる。いつもより薄い布地から伝わってくる感触は、いつもよりも柔らかかった。

 

「お腹も空きましたし、帰りましょうか」

 

「せっかくですし、今日は海の幸で何か作りましょう」

 

 1日中遊んでくたくただが、もう少しだけ仕事は残っている。今日は義姉さんにも手伝ってもらって色々作ろうかと話しながら、沈みゆく陽光に照らされるホワイトフォーンを後にした。




 女神時代はミニスカ履いたり極深スリットの服キメたり、結構イケイケだった双子の女神。公式イラストでミニスカチャイナ着たり巫女服着たりしてるから、コスプレも好きだったりするんですかね。

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