赤毛の紀行家   作:水晶水

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 最近、レア様を筆頭にキャラクターが勝手に動いているので、第三章と同時進行で書いているのですが、間章は意外とスラスラ進めることが出来ております。


C.2本の杖

Main Character:アドル=クリスティン

Location:ゼピック村

 

 

 

「そういえばアドルさん、先日いただいた杖は使ってみないのですか?」

 

 そう言いながら、フィーナさんは僕の部屋の壁に立てかけてある2本の杖に視線を送る。これは先日レグ殿が神殿で発見した物で、使い手が僕しかいないということで譲ってもらった物だ。

 

「まだ使う必要はないかなと思ってましたが……見たいですか?」

 

「はい!」

 

 平和な日常を謳歌している今、急いでこれらの魔法を使ってみる必要性はないと思っていたが、あそこまでキラキラと期待に輝く瞳を向けられては、それに応えねばならないという使命感が湧いてくるというものだ。

 

「では、外に出ましょうか」

 

 

 

Location:ゼピック村の外れ

 

 

 

 貰った杖を持ち出して、僕たちは数日前に飛行訓練を行った場所まで来ていた。何が起きるか分からないのでフィーナさんに少し離れてもらいながら、まずは杖の先端に8の字のオブジェが取り付けられた杖を手に取る。

 

「では始めますよ」

 

 フィーナさんが首肯したのを見てから魔力を杖に流し込み始めると、すぐに魔法が発動する兆候が表れ、そして世界が動きを止めた。

 

(これは時を止める魔法……?)

 

 視界に映る世界から色が失われ、フィーナさんだけでなく、風で揺れていた足元の草や木々の枝葉など、僕以外のあらゆるものが微動だにしなくなっている。杖に流している魔力も急速で失われていくあたり、このように非常に強い力を発揮する魔法なのだろう。

 

(あまり多用はできなさそうですね)

 

 魔力の消費量の観点から、戦闘で使うとなると使い所を選びそうな魔法だと思う。万全な状態での初撃の奇襲か、緊急を要する場合以外はあまり使えないと考えていいだろう。

 

「あら? アドルさん? どこへいひゃぁんっ!!?」

 

 2本目の魔法もあるので、一先ずフィーナさんの背後に回って魔法を解除すると、彼女が突然視界から消えた僕を慌てた様子で探し始める。そして、隙だらけなフィーナさんの背中に指を走らせると、仕掛けたこっちの方がびっくりするような声を出しながら、その場にへたりこんでしまった。

 

「ア、アドルさん! ダメですよこんなところで!!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 フィーナさんが座ったまま振り返ってきて、顔を朱に染めて目をぐるぐるさせたまま、注意を飛ばしてくる。僕としてもあそこまで反応がいいとは思わなかったので、ここは素直に怒られておいた。あれは淑女が外で出していい声ではない。

「そ……うのは……ドの…………」

「フィーナさん?」

 

「!? ご、ごほん、何でもないです!」

 

 正座で怒られていると、途中でぶつぶつとフィーナさんが呟き出した。呼びかけるとわざとらしい咳払いとともに元の状態に戻ったので結局何かは分からなかったが。

 

「アドルさんが今使った魔法は、時の神官メサが操る、あらゆる時間の流れを凍らせることができるタイムストップの魔法です」

 

 非常に強力な分魔力の消費も激しいですけどね、とフィーナさんによる魔法の解説が始まる。やはり、さっき見た通り時間を止める魔法だったらしい。

 

「そうなると、こちらの魔法は心の神官ファクトが扱う、心で構築した障壁を物理的な障壁として現実に呼び出すシールドの魔法になりますね」

 

 使ってみてください、と先の方に鈴のような風鈴のような何かが2つ垂れ下がる杖を手渡してくる。言われた通りに魔法を発動させてみると、バチッという音とともに僕の身体を中心とした球状の障壁が発現した。

 

「それでこの魔法はですね……えいっ」

 

 可愛らしい掛け声とともに、フィーナさんが僕に向けて拳大の石を放り投げてくる。それは放物線を描きながら障壁に衝突すると、激しい音を立ててあらぬ方向へと弾き飛ばされていった。

 

「どうでした? 魔力がぐっと減りませんでしたか?」

 

「あぁ、はい、そう言われると確かに」

 

 発動している間にもじわじわと魔力は減っていたが、石を弾いた時に一気に持っていかれる感覚があったような気がする。

 

「さっきの石程度ではそれほどでしょうけど、巨大な獣を相手にする時なんかは、魔力の減りに気を付けるようにしてくださいね」

 

「はい」

 

 障壁を解除して身体から力を抜いた。飛翔魔法で慣れたつもりだったが、やはり常時発動型の魔法は神経を使うようだ。

 

「あら? そういえば今日は翼が出てないんですね」

 

 そう言いながら、障壁を解いた僕に抱きつきながら、フィーナさんが僕の背中を両手で触ってくる。手つきから察するに、どさくさに紛れて甘えたいようだ。あざとい。

 

「はい、魔力の使い方も少しは慣れてきたので」

 

 そう、飛翔魔法を毎日練習した甲斐があったのか、少し魔力を使ったり、普通に杖を媒介する魔法を使ったりする程度なら、いちいち翼を展開しなくても使えるようになったのだ。戦闘においては不用意に的になる部分が減るので、もっとしっかりと魔力のコントロールを身につけていきたいところである。

 

「えへへ……もっと……♪」

 

 考え事をしながらついついフィーナさんの頭を撫でると、蕩けた声と表情のまま僕の胸元に沈んでいった。

 

「さ、家に帰りましょうか」

 

「はぁい♪」

 

 満面の笑みでバッと胸から離れるフィーナさん(甘え上手)の手を引いて、僕たちは帰路についた。後々聞いた話だが、これを偶然見かけたルタさんとゴーバンさんが苦い物を求めて村を彷徨ったのだとか何とか。




 活動報告の方に質問が来ないので、読んでくださっている皆さんはあの拙い説明で全部理解してくださったんだなとポジティブに捉えていきます。

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