赤毛の紀行家   作:水晶水

50 / 68
 目覚めなかった期間と動き回れなかった期間を合わせて、アドル君は1ヶ月ぐらい横になってました。


A.健やかなる一日

Main Character:アドル=クリスティン

Location:ゼピック村

 

 

 

 外に出て、自分が出てきた建物を見上げる。いつ見ても立派な外観​──もちろん内装も立派である──だが、これは僕が寝たきりの状態だった時に、ゼピック村の人たちが建ててくれたものらしい。フィーナさん曰く、エステリアを救ってくれたお礼と結婚祝いを兼ねた物だとか何とか。

 流石に家を贈られる経験はなかったので、最初は断ろうと思ったのだが、フィーナさんの鶴の一声で承認することになった。今は乗り込んできたレアさんも含め、3人で暮らしている。

 

「ようアドル! 久しぶりだなぁ!」

 

「ドギさん、こんにちは」

 

 家を見上げながら感慨に耽っていると、ドギさんが山道の方から降りてきた。最近はエステリアの復興のためだとかで彼方此方駆けずり回っているそうだが、今日は纏う雰囲気から察するに休息日らしい。

 

「リハビリか?」

 

「まあ、そんな感じです。そろそろ鍛錬も再開しようかなと思いまして」

 

 筋肉も結構落ちちゃいましたから、と身振りも交えてアピールすると、ドギさんは自身の顎に手をやって何事かを考え始めた。

 

「銀の剣は確か今折れてるんだっけか?」

 

「ああ、はい、ダームと相打ちになる形で折れてしまったみたいで」

 

 そう、ドギさんの言う通り、今クレリアの剣は折れてしまっているので鍛冶屋に預けているのだ。怪我が治ってから呼び戻した時に、刀身が半ばからポッキリと折れた剣が手元に現れて、思わず絶叫してしまったのも記憶に新しい。

 

「アドル、お前さん、格闘技には興味はねぇか?」

 

「格闘技ですか? 興味が無いと言えば嘘になりますが……」

 

「おぉ、それなら今日はちょっとばかしやってみようぜ」

 

 このドギ様が特別にレクチャーしてやるぜ、とドギさんが自身の厚い胸板を叩きながら主張してくる。

 いや、確かに男として産まれてきた以上、己の身一つで闘う格闘技に興味はあるのだが、如何せん体格に恵まれていないこの身体では何というか、カッコがつかないというか。ドギさんのように背が高く、ガッチリした体型ならそれはもう映えるだろうが、どうにも僕がそういう風なことをやっているイメージが湧いてこない。

 

「じゃあ、お願いしてもいいですか?」

 

「おうよ! 任せとけ!」

 

 しかし、色々とネガティブな思考が回ったものの、それでドギさんの厚意を無碍にするのはちょっと違うだろう。まあ、せっかくの機会なので軽い気持ちでやってみるのも悪くは無いかもしれない。

 

 

 

「なかなか筋はいいじゃねぇか」

 

 まだ激しく動けるレベルまで回復してないのが残念だ、と豪快に笑いながらドギさんが水分補給用の水を煽る。一方、僕は久しぶりの運動だったのもあって、肩で呼吸をしてその場にへたりこんでいた。

 意外というのは失礼だが、何処か大雑把なイメージがあったドギさんの指導は的確で分かりやすいものだった。ドギさんは僕達が住んでいる家を建てるのにも協力してくれたそうなので、見た目の割に色々と器用なのかもしれない。

 

「今日はありがとうございました」

 

「また時間がある時に見てやるからよ。じゃあまたな!」

 

 汗を拭ってからドギさんにお礼を言うと、彼はこれまた豪快に笑いながら山道の方へと帰って行った。 

 しかし、実際に動いてみると楽しかった。これを上手く応用できれば、他の武器戦闘の時にも色々と役に立つだろう。しばらくは旅に出る予定もないので、これを機に素手での戦い方を修得するのもいいかもしれない。

 

(おっと、もう日が沈みますね)

 

 太陽が真上にある時間から始めて、もうこんなに時間が経っていたらしい。運動と執筆だけで1日が終わってしまったが、フィーナさんに夕飯までに帰るよう言われているので、今日は素直に帰るとしよう。

 

 

 

「お帰りなさい、アドル」

 

「ただいまです、レアさん」

 

 真っ直ぐ帰宅して玄関を開けると、椅子に座って本を読むレアさんが迎えてくれた。台所の方からいい匂いがするので、フィーナさんは恐らくそっちの方にいるのだろう。

 

「むぅ、レアさんじゃなくて、お義姉ちゃんって呼んでって言ってるじゃない」

 

 そう言って、わざとらしい膨れっ面になりながらレア────義姉さんが本から目線を外してこちらを見てきた。フィーナさんにプロポーズをしたことがバレて以来、レア義姉さんは僕にそういう呼び方を強要するようになったのだ。同時に、僕に対する態度も弟に対するソレへと変化した。

 

「あはは、まだ慣れてなくてですね……」

 

「もう! そのちょっと距離を置いた話し方もダメ!」

 

「これはもう癖ですので」

 

 義弟(おとうと)が懐いてくれなくてお義姉ちゃん悲しい、とテーブルの上に倒れるようにして義姉さんは姿勢を崩した。呼び方はともかくとして、話し方については本当に染み付いた癖なので勘弁して欲しいところではある。

 

「でも、フィーナとベッ痛いッ!?」

 

 何事かを口走ろうとしたその時、台所の方から何かが飛来し、それはレア義姉さんの頭に直撃した。そして、奥の部屋からゆらりとフィーナさんが現れる。

 

「姉さん?」

 

「ごめんなさい……」

 

 フィーナさんの凄みに圧されてレア義姉さんがしゅんとする。これではどちらが姉なのか分かったものではない。いや、まあ、双子なのでその辺りの判定もそもそも曖昧なような気もするが。

 

「お帰りなさいアドルさん」

 

「はい、ただいま戻りました」

 

「すぐできるので、かけて待っていてくださいね」

 

 今日はピッカードのお肉を分けてもらったんですよ、と言いながら、フィーナさんは再び台所の方へと消えていった。撃沈したレア義姉さんを一瞥し、とりあえず僕も座って待つことにする。今日はたくさん動いたのでお腹も減っている。待ちきれない想いを抑えつつ、フィーナさんの手料理に思いを馳せるのであった。




 レア様がお義姉ちゃんって何かイケない感じがしません?(何が?)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。