赤毛の紀行家   作:水晶水

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 話はゆっくり進みます。



B.イースの本

Main Character:アドル=クリスティン

Location:サラの家

 

 

 

 サラさんの家は雰囲気のある、いかにも占い師の館という風な内装をしていた。

 仕事場だと思われる場所を通り抜け、生活スペースに通され、サラさんと僕はテーブルを挟んで向かい合わせで椅子に座った。

 

「ごめんなさいね、突然こんな」

 

「いえ、大丈夫ですよ。それで話とは?」

 

「……私が占い師であるという話は既にしましたね?」

 

 和やかな雰囲気がサラさんの真剣な顔つきで一蹴された。突然の変化に驚きつつも、僕は首肯でそれに応える。

 

「嵐の結界がこのエステリアを覆ってから、私は世界の滅びの未来を占いで見ました。詳しい原因は分かりませんでしたが、このままではそう遠くない未来に魔物の手によって、人の営みが蹂躙されてしまうでしょう」

 

 思いの外深刻な事態に僕は言葉を失うが、サラさんは嘘を言ったような様子でもない。信じ難いところもあるが、とりあえず無言で話の続きを促した。

 

「剣士殿は『イースの本』をご存知でしょうか」

 

 僕は首を横に振る。

 

「『イース』とははるか昔、エステリアの地にあった国の名前です。そしてその本はイースの歴史を示した物。そして、イースが滅びた時、6冊あったイースの本も同時に闇に消えたと言われています。」

 

「その本が予言と関係が?」

 

「恐らくは。占いでは魔物達がイースの本を集めている光景が見えました。しかし、今分かっている本の在処はミネアから北にあるラスティン鉱山の廃坑と、バギュ=バデットに遺棄されたサルモン神殿の2つです。剣士殿、魔物の手に全ての本が集まる前に、どうか本を取り戻してはくれないでしょうか。」

 

「…………分かりました。その話、引き受けましょう」

 

 話を聞いていくうちに、やはりサラさんの話が嘘とは思えなくなり、世界の危機であるというのであれば自分に関係がない話ではなくなってくるわけで、占い師であるサラさんが僕に頼んだということは、少なくとも僕を選んだ理由があると思い、少し時間を要したものの、総合的に判断して僕はその依頼を受けることにした。

 

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

 サラさんは僕の手を握り満面の笑みをこちらに向けてくる。余談だが女性特有の柔らかい感触が伝わってきて少しドキドキした。

 

「では、まずは北の道沿いに進んでいった先にあるゼピック村に向かって、私の叔母のジェバに会ってください。これを見せれば神殿を開く鍵を彼女から受け取れるはずです」

 

 そう言って、サラさんは僕にクリスタルを渡してきた。占い師であるサラさんらしい身分証明の仕方なのだろうか。

 

「最後に、まだ剣士殿の名前を聞いていませんでしたね。教えていただけないでしょうか?」

 

「僕はアドル。アドル=クリスティンといいます」

 

「アドル……良い名ですね。ではアドルさん、よろしく頼みます」

 

「はい、任されました」

 

 お互いに無言で深くお辞儀をし合う。予想だにしなかった形で僕の冒険は幕を開けそうだ。

 

「ところでアドルさん」

 

「なんでしょう」

 

 張り詰めた空気が弛緩し、再び和やかな雰囲気に戻る。

 

「今日の宿はもう取っているのですか?」

 

「それが、もう部屋が全部埋まっててですね……。仕方が無いので今から出発しようかと思ってます」

 

 僕はわざとらしくガックリと肩を落とすが、サラさんは何故か楽しそうにニコニコと笑みをこちらに向けている。

 

「あら、それならここで1泊して行きますか?」

 

「い、いや、それは流石に……」

 

「流石に?」

 

「ま、不味いのでは?」

 

「アドルさんは何か不味いことをなさるお方で?」

 

「勘弁してください……」

 

 先程までの真面目な雰囲気は何処吹く風。サラさんはサラさんの攻勢に狼狽える僕をそれはそれは楽しそうにいじり倒してくる。

 

「ふふ、冗談ですよ。あ、泊まっていってもらいたいのは本当ですが。できるだけ万全な状態で旅立ってもらいたいですし」

 

「………………はぁ。えっと、じゃあ部屋の隅の方を寝床として貸してもらえればありがたいです」

 

「ベッドでもよろしいのですよ?」

 

「お断りします!」

 

 深く、深くため息を吐いてジト目でサラさんを見やるが、サラさんは笑顔でこれを受け流す。

 女性経験の無さがこんな所で発揮されるとは思いもしなかったが、とりあえず今日の寝床の確保ができたので良しとする。……良しとする。

 

 その後、手料理をご馳走になり、軽く水浴びもさせてもらってから、完全に夜も更けてしまったので寝ることにした。異空間からこっそり毛布を取り出して寝る準備をする。

 

「では、お休みなさいアドルさん」

 

「はい、お休みなさい」

 

 ふっ、と部屋をやんわりと照らしていたロウソクをサラさんが吹き消した。

 寝れるかどうか少し不安だったが、何だかんだで疲れが溜まっていたのですぐに意識がぼんやりとしてくる。

 

「アド……んの……じ…し……」

 

 サラさんがぼそっと何かを呟いたようだったが、僕はそのまま眠りの世界に誘われた。

 

 




 ここで裏話なのですが、神々の娯楽としてこの世界にぶち込まれたアドルくん。担当の神が女神なので、何やらこっそりともう1つ加護を付与されている模様。
 全然関係ない話ですが、女の人って色恋の話って好きな人が多いですよね。キャラ改変タグはご入用か?

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