赤毛の紀行家   作:水晶水

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 所謂冒険と冒険の間の物語です。フィーナ様とアドル君のイチャイチャ祭りとも言います。

 くろいひとさん、べるさんさん、アオモさん、評価ありがとうございます!


間章 第二の故郷で
プロローグ -The Dawn of Ys-


Main Character:アドル=クリスティン

Location:ゼピック村

 

 

 

「よし……やっと書き上がりました……!」

 

 手にしていたペンを机の上に置き、長時間書き作業を続けたせいで凝り固まった筋肉を解すために身体をたっぷり10秒伸ばした。身体の節々から音が鳴り、心地良さが全身に伝わっていく。

 

「アドルさん、ここ最近ずっとそうしてましたけど、何を書いてたんですか?」

 

 僕の声が聞こえたのか、隣の部屋にいたフィーナさんが部屋の入口から顔を覗かせていた。その視線は机の上に置いてある2冊の本に注がれている。

 

「今回のことを本にしてたんですよ」

 

 ほら、元々僕は紀行家ですし、と言うと、目を輝かせたフィーナさんが部屋に入ってきた。

 

「読んでみてもいいですか?」

 

「はい、読者第1号はフィーナさんにお願いしますね」

 

 やった、と小さな仕草で喜びを示し、フィーナさんは本を持って部屋に備え付けられたベッドに腰掛けて本を読み始めた。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 足をパタパタさせながら静かに本を読んでいたフィーナさんが、一息吐いてから本をベッドの上に置いた。

 

「何というか、自分も冒険してるような気持ちになれたので、とても読んでて楽しかったです」

 

「それは良かったです」

 

 何と言われるかドキドキしながら見守っていたが、フィーナさんの好意的な反応に思わずほっと胸を撫で下ろす。実際に本にしたためるのは初めての試みだったので、とりあえず上手くいったようで良かった。

 

「でも、翼のことは書かなかったんですね」

 

「あはは、何というか、自分でも未だに実感湧いてきませんから……」

 

 前世を含めて、数十年間完全に何の変哲もない人間として生きてきたので、最近は全然翼を外に出していないのもあって、口にした通りに自分が有翼人であるという実感がないのだ。

 

「アドルさんは翼で飛んだりもしませんしね」

 

「あ、この翼ってやっぱり飛ぶのに使えるんですか?」

 

「はい、そうですよ。……そうだ! 今度時間を作って空を飛ぶ練習をしてみませんか?」

 

 名案です、といった風にフィーナさんが自身の胸の前で両手を打ち合わせた。満面の笑みが少し眩しい。

 

「どうしたの? 大きな声を出して」

 

 フィーナさんの声に反応して、別室にいたレアさんも僕の部屋に入ってきた。

 

「姉さん、今度アドルさんに空の飛び方を教えましょう!」

 

「あら、楽しそうね。いいわよ、いつにするの?」

 

 入ってきたレアさんにフィーナさんが跳びついて、そのまま楽しそうに話しながら部屋から出ていってしまう。恐らく別室で案を考えるのだろう。一気に部屋が寂しくなってしまったが、まあ、姉妹仲が良いのは良いことだ。

 

(さて、では何をしましょうか)

 

 ベッドの上の本を机の上に戻すと完全に手持ち無沙汰になってしまった。

 

(最近篭りきりでしたし、久しぶりに外出しますか)

 

 窓から外を見てみると、太陽が元気よく照っているのが目に入る。怪我のせいもあってしばらく鍛錬を休んでいたので、そろそろ再開してもいい頃合かもしれない。

 

「久しぶりに外に出てきます!」

 

「はーい! 夕飯までには帰ってきてくださいね!」

 

 玄関の扉に手をかけながら、奥の部屋にいるフィーナさんに声をかけると、いつもより気待ち弾んだ声色で返事が返ってきた。計画は楽しく練られているようである。

 玄関を出ると、快晴の空から陽光が降り注いでくる。今日もエステリアは平和だ。




 私の中の悪魔がR-18版を書けと囁きかけてきます。それはさておき、早速序章・第一章の振り返りが出来ましたので、見たい方は活動報告の方をご覧ください。

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